人工関節を入れていい膝、入れてはいけない膝―「破壊」と「感染」と「感覚」で見極めるTKAの適応
第104回医師国家試験 G問題 第30問
国試問題にチャレンジ
人工膝関節置換術の適応となるのはどれか。3つ選べ。
- a.関節リウマチ
- b.化膿性関節炎
- c.特発性膝骨壊死
- d.血友病性関節症
- e.神経病性関節症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
人工膝関節置換術は、保存療法で改善しない高度の関節破壊に対し、除痛と歩行機能の回復を目的に行われます。変形性膝関節症のほか、関節リウマチ、進行した特発性膝骨壊死、凝固因子補充下の血友病性関節症が適応となります。一方、人工物は感染に弱くバイオフィルムを形成するため活動性の化膿性関節炎は禁忌であり、知覚障害で過負荷が続く神経病性関節症(Charcot関節)も緩み・破損を起こしやすく原則適応外で、関節固定術などが考慮されます。「関節破壊の程度」と「人工物を安全に長く使えるか」という2つの軸で考えると、適応の判断だけでなく術前の感染巣チェックや術後合併症への備えまで一貫して理解できます。
解答・解説
正解はa, c, dです
人工膝関節置換術(total knee arthroplasty:TKA)は、傷んだ膝関節の表面(大腿骨側・脛骨側、必要に応じて膝蓋骨側)を削り取り、金属とポリエチレンでできた人工の部品に置き換える手術である。主な目的は除痛と歩行機能の回復であり、保存療法(薬物療法、運動療法、装具など)で改善しない高度の関節破壊・変形がある場合に選択される。 適応を考えるうえでは、次の2点を押さえると判断しやすい。 1つ目は「関節軟骨・骨が高度に破壊され、疼痛や機能障害が強いこと」である。変形性膝関節症が最も多い適応で、ほかに関節リウマチ、特発性膝骨壊死、血友病性関節症などの末期関節破壊が含まれる。 2つ目は「人工物を安全に入れて長く使えること」である。人工関節は体内の異物であるため、細菌が付着すると抗菌薬が効きにくい(バイオフィルムの形成)。したがって活動性の感染がある関節には入れられない。また、痛覚や深部感覚(関節の位置や動きを感じる感覚)が失われた関節では、無理な負荷が繰り返しかかっても本人が気づかず、人工関節の緩み・破損・脱臼が起こりやすい。 この2つの観点から選択肢を見ると、関節破壊が主体の関節リウマチ、特発性膝骨壊死、血友病性関節症は適応となり、感染が問題となる化膿性関節炎と、感覚障害が問題となる神経病性関節症は原則として適応とならない。
選択肢考察
- ○a. 関節リウマチ
関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)は滑膜の慢性炎症によって軟骨と骨が侵食されていく自己免疫疾患である。治療の基本は抗リウマチ薬(メトトレキサートや生物学的製剤など)で炎症を抑え、関節破壊の進行を防ぐことである。しかし、すでに破壊が高度に進み、疼痛・変形・可動域制限で日常生活が妨げられている膝では、薬物療法だけでは機能を取り戻せないため、人工膝関節置換術のよい適応となる。RAでは両側膝や他関節も同時に侵されることが多く、手術によって歩行能力の改善が期待できる。
- ×b. 化膿性関節炎
化膿性関節炎は関節内に細菌(黄色ブドウ球菌が最多)が感染した状態であり、治療は抗菌薬の投与と、関節の洗浄・デブリドマン(壊死組織や膿の除去)・持続洗浄(灌流)などによる排膿が中心となる。活動性の感染巣に人工関節という異物を入れると、表面に細菌がバイオフィルムを形成して抗菌薬が届きにくくなり、感染が治りにくくなるため、人工膝関節置換術は適応とならない(活動性感染は禁忌)。感染後に関節破壊が残った場合は関節固定術が選ばれることがある。なお、感染が完全に鎮静化したと確認された後の遺残関節破壊に対しては、慎重に人工関節置換が検討されることもあるが、化膿性関節炎そのものを適応とはしない。
- ○c. 特発性膝骨壊死
特発性膝骨壊死は、明らかな原因なく大腿骨内側顆の荷重部などに骨壊死が生じる疾患で、中高年の女性に多く、突然の膝痛で発症するのが特徴である。壊死範囲が小さければ保存療法で経過をみるが、壊死部が大きくなると関節面が陥没して変形が進み、二次的に変形性膝関節症と同様の状態になる。このような進行例では、変形性膝関節症に準じて人工膝関節置換術(病変が内側に限局していれば単顆置換術も選択肢)や高位脛骨骨切り術が行われる。したがって適応となる。
- ○d. 血友病性関節症
血友病(凝固第VIII因子または第IX因子の欠乏)では、膝・肘・足関節などに関節内出血(関節血症)を繰り返す。血液中の鉄(ヘモジデリン)が滑膜に沈着して慢性滑膜炎を起こし、軟骨が破壊されて関節症へ進行する。治療の基本は凝固因子の補充による出血の予防・治療であるが、関節破壊が進んで疼痛や機能障害が強くなった場合には、凝固因子を十分に補充したうえで人工膝関節置換術や関節固定術が行われる。したがって適応となる。
- ×e. 神経病性関節症
神経病性関節症(Charcot関節)は、痛覚や深部感覚などの関節の知覚が障害されることで、関節を守る防御反応が働かず、微小な損傷が繰り返されて高度の関節破壊・不安定性が生じる疾患である。原因疾患として脊髄癆(神経梅毒)、糖尿病性神経障害、脊髄空洞症、先天性無痛無汗症などがあり、膝関節は脊髄癆で侵されやすい。疼痛が変形の程度に比べて軽いのが特徴である。この状態に人工関節を入れても、過大な負荷がかかり続けるため緩み・破損・脱臼が起こりやすく、長期成績が不良である。そのため原則として人工膝関節置換術の適応とはならず、装具療法や関節固定術が考慮される。
人工膝関節置換術の概要
・全置換術(TKA):大腿骨・脛骨の関節面全体を置換する。 ・単顆置換術(UKA):内側または外側の片側のみが傷んでいる場合に、その部分だけを置換する。 ・主な適応:変形性膝関節症(最多)、関節リウマチ、特発性膝骨壊死、血友病性関節症など、保存療法で改善しない高度の関節破壊。
適応とならない(禁忌・慎重)主な状態
・活動性の感染(化膿性関節炎、全身の感染巣):絶対的禁忌。 ・神経病性関節症(Charcot関節):知覚障害のため人工関節の緩み・破損が生じやすく、原則として適応外。 ・伸展機構(大腿四頭筋・膝蓋腱)の機能不全や高度の麻痺など、術後に膝を動かす力が得られない状態。
主な合併症
深部静脈血栓症・肺塞栓症、術後感染、人工関節の緩み、ポリエチレンの摩耗、周囲骨折など。
関節固定術との使い分け
感染後や神経病性関節症など、人工関節が不向きな関節破壊では、関節を動かなくする代わりに安定性と除痛を得る関節固定術が選ばれることがある。
POINT
・人工膝関節置換術は、高度の関節破壊による疼痛・機能障害が保存療法で改善しない場合に行う。 ・適応:変形性膝関節症、関節リウマチ、特発性膝骨壊死、血友病性関節症など。 ・活動性感染(化膿性関節炎)は禁忌:人工物は感染に弱い。 ・神経病性関節症(Charcot関節)は原則適応外:知覚障害により人工関節が緩む・壊れる。
