伸びない膝は「挟まっている」―ロッキングと膝くずれが示す半月板・前十字靱帯損傷の治療戦略
第119回医師国家試験 D問題 第41問
国試問題にチャレンジ
26歳の男性。右膝関節の可動域制限を主訴に来院した。3か月前にハンドボールの練習中に右膝を捻って痛みを感じたが,医療機関の受診はしなかった。約1週間で疼痛はなくなった。2か月前から身体の向きを変える時や,しゃがんだ状態から立ち上がる時などに右膝がガクッとして曲がったまま伸ばせないことが頻発するようになった。身長168cm,体重62kg。入室時の歩容は右膝軽度屈曲位で,跛行を認める。右膝関節に腫脹を認める。発赤と熱感はない。右膝関節外側に圧痛を認める。右膝関節可動域:伸展-30°,屈曲130°(健側は伸展0°,屈曲140°)。前方引き出しテスト陽性。右膝MRIの脂肪抑制T2*強調冠状断像(A)と脂肪抑制プロトン密度強調矢状断像(B)とを下に示す。 適切な治療はどれか。

- a.ギプス固定
- b.NSAID内服
- c.関節鏡下手術
- d.理学療法士による伸展訓練
- e.ヒアルロン酸ナトリウム製剤の関節内投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
膝が急に一定の屈曲角度で固まり伸ばせなくなるロッキングは、断裂した半月板(代表はバケツ柄断裂)が関節内に嵌頓して起こる機械的な症状です。一方、膝くずれと前方引き出しテスト・Lachmanテスト陽性は前十字靱帯損傷を示し、靱帯不全による不安定性のため半月板損傷が高率に合併します。機械的な伸展制限はNSAIDやヒアルロン酸注射、伸展訓練では解除できず、ギプス固定はむしろ拘縮を招くため、関節鏡下手術で半月板を整復・縫合(困難なら部分切除)し、若年スポーツ選手では前十字靱帯再建術を併せて行うのが標準的です。症状の「原因が痛みか、物理的な障害か」を見極める視点は、膝に限らず関節疾患の治療選択全般に役立ちます。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・26歳男性。3か月前、ハンドボールの練習中に右膝を捻って受傷した。ハンドボールは急な方向転換・ジャンプの着地・ストップ動作が多く、膝の前十字靱帯(ACL)損傷や半月板損傷が起こりやすい競技である。受診せず、痛みは約1週間で消失している。 ・2か月前から、方向転換時やしゃがみ位からの立ち上がりで「膝がガクッとして曲がったまま伸ばせない」ことを繰り返している。膝が急に一定の屈曲角度で動かなくなり、伸展できなくなる現象をロッキング(locking)と呼び、断裂した半月板の一部が大腿骨と脛骨の間(顆間部)に挟まり込む(嵌頓する)ことで生じる。なお「ガクッと膝が崩れる」膝くずれ(giving way)はACL不全による脛骨の前方への亜脱臼で起こる症状であり、本例の訴えには両者の要素が含まれている可能性がある。 ・入室時に右膝を軽度屈曲位にしたまま跛行しており、可動域は伸展-30°(健側0°)と伸展が強く制限されている。屈曲も130°(健側140°)とやや制限がある。関節腫脹(関節水腫)はあるが、発赤・熱感はなく、感染などの活動性炎症は考えにくい。 ・右膝関節外側に圧痛があり、外側半月板の病変が示唆される。 ・前方引き出しテスト陽性は、脛骨が大腿骨に対して前方へ過度に移動することを示し、ACL損傷を示唆する。 ・MRIでは外側半月板の断裂(断裂片が本来の位置からずれて顆間部側へ移動した、いわゆるバケツ柄断裂を疑う所見)と、ACLの連続性が不明瞭で膨化した所見を認め、ACL損傷を伴っている。
診断
スポーツ中の捻挫による、右外側半月板損傷(嵌頓によるロッキング)と右前十字靱帯損傷の合併である。ACL損傷では膝が不安定になり、受傷時やその後の膝くずれの際に半月板にも大きな力が加わるため、半月板損傷が高率に合併する。
設問の考え方
本例で伸展できない原因は、痛みや関節の拘縮ではなく、断裂した半月板が関節内に物理的に挟まっていることである。そのため薬物療法やリハビリテーションでは伸展制限は解消されない。挟まった半月板を元の位置に戻して縫合する(縫合が困難なら断裂部を切除する)ためには関節鏡下手術が必要である。また、ACLが機能しないままでは膝の不安定性が残り、膝くずれのたびに半月板損傷や軟骨損傷が進行するため、スポーツ活動を続ける若年者ではACL再建術も併せて行うのが標準的である。長期間嵌頓したままにすると半月板の変性が進んで縫合が難しくなったり、伸展制限が固定化したりするため、早期の手術が望ましい。
選択肢考察
- ×a. ギプス固定
ギプス固定は骨折や一部の靱帯損傷の急性期に安静を保つ目的で用いられるが、本例は受傷から3か月が経過した陳旧例である。嵌頓した半月板は固定によって整復されず、伸展制限の原因は残ったままになる。むしろ屈曲位のまま長期間固定すると関節拘縮や筋萎縮を招き、可動域制限を悪化させるおそれがある。不適切である。
- ×b. NSAID内服
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は痛みや炎症を和らげる対症療法である。本例の伸展制限は疼痛によるものではなく、断裂した半月板が関節内に挟まる機械的な原因によるものであり、NSAIDでは解決しない。またACL損傷による不安定性も改善しない。根本的な治療とならないため不適切である。
- ○c. 関節鏡下手術
関節鏡を用いれば小さな皮膚切開で関節内を直接観察し、嵌頓した半月板の断裂片を整復して縫合(半月板縫合術)できる。断裂部が血流に乏しい内側部(white zone)にある場合や損傷が高度な場合は、断裂部を切除する部分切除術を行う。半月板は荷重を分散し関節軟骨を保護する働きがあり、切除量が多いと将来の変形性膝関節症の危険が高まるため、若年者ではできる限り縫合して温存する方針がとられる。同時に、自家腱(半腱様筋腱や骨付き膝蓋腱など)を用いた関節鏡下ACL再建術を行い、膝の安定性を回復させることで、半月板の再損傷を防ぎ競技復帰を可能にする。機械的なロッキングが繰り返されている本例では、手術が最も適切な治療である。
- ×d. 理学療法士による伸展訓練
術前に可動域や筋力を維持するリハビリテーション、術後の可動域訓練・筋力訓練は重要であり、治療の一部として欠かせない。しかし本例では半月板が物理的に挟まって伸展を妨げているため、伸展訓練だけでは制限は改善しない。無理に伸展させようとすると、挟まった半月板や関節軟骨をさらに傷める危険もある。単独の治療としては不適切である。
- ×e. ヒアルロン酸ナトリウム製剤の関節内投与
ヒアルロン酸ナトリウムの関節内注射は、関節液の粘弾性を補い潤滑や軟骨保護に働くとされ、主に変形性膝関節症の疼痛軽減に用いられる。半月板損傷の保存療法として痛みの緩和を目的に使われることもあるが、嵌頓した半月板を整復することはできず、ACL不全による不安定性にも効果はない。本例には不適切である。
半月板損傷
・半月板は大腿骨と脛骨の間にある三日月状の線維軟骨で、内側と外側に一つずつある。荷重の分散、衝撃の吸収、関節の安定化に働く。 ・若年者ではスポーツ中の捻り動作で受傷することが多く、中高年では変性を基盤に軽微な外力で断裂する。 ・症状:関節裂隙の圧痛、関節水腫、引っかかり感(catching)、ロッキング(伸展不能)。 ・徒手検査:McMurrayテスト(膝を屈曲位から下腿を回旋させつつ伸展し、疼痛やクリックを確認)など。 ・断裂形態:縦断裂、水平断裂、横断裂(放射状断裂)、弁状断裂など。縦断裂が大きくなり断裂片が顆間部に転位したものをバケツ柄断裂と呼び、ロッキングの代表的な原因となる。 ・診断:MRIが有用。 ・治療:症状が軽い場合は保存療法(安静、NSAID、ヒアルロン酸注射、リハビリテーション)。ロッキングの持続・反復や保存療法で改善しない疼痛があれば、関節鏡下に半月板縫合術または部分切除術を行う。
前十字靱帯(ACL)損傷
・ACLは脛骨の前方移動と回旋を制御する靱帯である。ジャンプの着地や急停止・方向転換で膝が外反・回旋した際に、接触なしで断裂することが多い(非接触型損傷)。 ・受傷時に断裂音(popping)を自覚し、関節血腫を生じることが多い。急性期を過ぎると痛みが軽くなり、日常生活は可能になることが多いが、その後膝くずれを繰り返す。 ・徒手検査:Lachmanテスト(膝軽度屈曲位で脛骨を前方に引く。最も感度が高い)、前方引き出しテスト(膝90°屈曲位)、pivot shiftテスト(回旋不安定性)。 ・MRIでは靱帯の連続性の途絶や膨化、大腿骨外側顆と脛骨外側高原後方の骨挫傷が特徴的である。 ・ACLは自然治癒しにくく、スポーツ活動を続ける若年者では自家腱を用いた関節鏡下再建術が標準治療である。放置すると半月板損傷・軟骨損傷が二次的に進み、変形性膝関節症のリスクが高まる。
POINT
・膝が急に曲がったまま伸ばせなくなる「ロッキング」は、断裂した半月板の嵌頓による機械的な症状である(バケツ柄断裂が代表)。 ・膝くずれ(giving way)はACL損傷の典型症状。前方引き出しテスト・Lachmanテスト陽性で疑う。 ・ACL損傷には半月板損傷が高率に合併する。 ・嵌頓によるロッキングが反復・持続する場合は、関節鏡下手術(半月板縫合または部分切除)が適応。若年スポーツ選手のACL損傷には再建術を併せて行う。 ・ギプス固定は拘縮を招き、NSAID・ヒアルロン酸・伸展訓練では機械的な嵌頓は解除できない。
