「ぐらつく足首」を写し出す―ストレス撮影で読み解く足関節の不安定性
第116回医師国家試験 F問題 第52問
国試問題にチャレンジ
20歳の男性。右足関節の外側部痛を主訴に来院した。昨日,サッカーの練習中に右足関節を捻り受傷した。右足関節の外果周囲に皮下出血を伴う腫脹を認める。右足関節のエックス線写真(A)と受傷肢位を強制したストレスエックス線写真(B)とを下に示す。 右足関節の状態として適切なのはどれか。

- a.強直
- b.拘縮
- c.破壊
- d.変形
- e.不安定性
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
足関節の内がえし捻挫では外側靱帯、特に前距腓靱帯が最も損傷しやすく、単純エックス線写真で骨折を除外した後、ストレス撮影で靱帯損傷による不安定性を評価します。内反ストレス撮影で距骨傾斜角が増大し関節外側が開大していれば、外側靱帯の破綻による関節の不安定性と判断でき、評価は健側との左右差で行うのが基本です。関節の状態を表す用語として、強直は関節そのものの病変による癒着、拘縮は関節周囲の軟部組織による可動域制限、破壊は骨・軟骨の侵食、変形は恒常的な形や並びの異常を指し、それぞれ区別して理解しておく必要があります。新鮮な外側靱帯損傷は保存療法が原則ですが、不安定性を放置すると慢性足関節不安定症や変形性足関節症につながるため、ありふれた捻挫こそ丁寧に評価する姿勢が大切です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・20歳男性。サッカー中に右足関節を捻った翌日に来院し、外側部痛を訴えている。 ・外果(外くるぶし)の周囲が腫れており、皮下出血を伴う。靱帯が裂けて出血したことを示唆し、軽い捻挫よりも重い損傷を考える所見である。 ・単純エックス線写真(A)では、明らかな骨折や脱臼はない。 ・受傷したときの肢位(足関節の内返し=内反)を強制したストレスエックス線写真(B)では、距骨が脛骨の関節面(天蓋)に対して大きく傾き、関節の外側が開いている(距骨傾斜角が大きくなっている)。
診断
足関節を内側に捻る(内がえし・内反)ことで起こる外傷として最も多いのは、足関節外側靱帯の損傷である。外側靱帯には前距腓靱帯、踵腓靱帯、後距腓靱帯がある。普通に撮った写真では骨に異常がないのに、ストレスをかけると距骨が大きく傾く。これは、関節を外側から支える靱帯が切れている(あるいは機能していない)ことを示す。診断は足関節外側靱帯損傷(重い足関節捻挫)であり、前距腓靱帯だけでなく踵腓靱帯にも損傷が及んでいると考えられる。
設問へのアプローチ
選択肢は、関節の状態を表す整形外科の基本用語である。ストレス撮影は「正常な範囲を超えて動くかどうか」、つまり関節がぐらつくかどうかを調べる検査である。受傷直後の新しい外傷で骨や関節面に異常がないことを踏まえると、ここで言える関節の状態は不安定性である。
選択肢考察
- ×a. 強直
誤り。強直とは、関節を構成する骨・軟骨など関節そのものの病変によって、関節面どうしが癒着して動かなくなった状態である。骨でつながる骨性強直と、線維組織でつながる線維性強直がある。強直性脊椎炎や、化膿性関節炎・関節リウマチの末期などでみられる。本例は動かないのではなく逆に動きすぎる状態であり、受傷翌日の新しい外傷でもあるので当てはまらない。
- ×b. 拘縮
誤り。拘縮とは、関節のまわりの皮膚、筋、腱、関節包などの軟部組織が縮んだり癒着したりして、関節が動く範囲が狭くなった状態である。長いあいだ動かさなかった場合や、熱傷の瘢痕などで起こる。時間をかけて生じる変化であり、受傷翌日には起こらない。ストレス撮影で関節が大きく開いていることも、可動域が狭まる拘縮とは逆の所見である。
- ×c. 破壊
誤り。関節の破壊とは、関節リウマチ、化膿性関節炎、Charcot関節(神経障害性関節症)などで、骨や軟骨が侵食されて壊れていく状態をいう。エックス線写真では骨びらん、関節裂隙の狭小化・消失、骨の吸収などがみられる。本例のエックス線写真では、関節面や骨の構造は保たれており、破壊の所見はない。
- ×d. 変形
誤り。関節の変形とは、関節の形や骨の並び(アライメント)が恒常的に正常から外れた状態である。変形性関節症で骨棘ができたり関節裂隙が狭くなったりする場合や、骨折が変形した位置で治った場合などで起こる。本例は単純エックス線写真(A)で骨折・脱臼・骨棘はなく、ストレスをかけていない状態では関節の並びも正常である。ストレス時に距骨が傾くのは外力で一時的に起きる動揺であり、変形ではない。
- ○e. 不安定性
正しい。関節の不安定性とは、関節を支える靱帯や関節包が損傷したために、正常では起こらない方向や範囲まで関節が動いてしまう(ぐらつく)状態をいう。本例は内反ストレスをかけた写真で距骨が大きく傾き、関節の外側が開いている。前距腓靱帯や踵腓靱帯が破綻し、足関節に外側方向の不安定性が生じていると判断できる。きちんと治療しないと、捻挫を繰り返す慢性足関節不安定症に移行することがあり、長い目で見ると変形性足関節症の原因にもなる。
足関節外側靱帯
・前距腓靱帯(ATFL):足関節を底屈して内がえしすると緊張する。捻挫で最も損傷しやすい。 ・踵腓靱帯(CFL):足関節が中間位から背屈位のときの内反を制動する。ATFLに続いて損傷する。 ・後距腓靱帯(PTFL):最も強い靱帯で、損傷はまれである。
重症度分類(一般的な目安)
・Ⅰ度:靱帯が伸びた、またはごく一部が裂けた状態。不安定性はない。 ・Ⅱ度:靱帯の部分断裂(ATFLの断裂まで含める分類もある)。軽度の不安定性がある。 ・Ⅲ度:靱帯の完全断裂(ATFLとCFLが両方とも断裂した状態など)。明らかな不安定性がある。 分類の細かな定義は文献によって異なる。
ストレスエックス線撮影
・内反ストレス撮影(正面像):距骨傾斜角(脛骨の関節面と距骨上面のなす角)を測る。主にATFLとCFLを合わせた損傷、とくにCFLの損傷を反映する。 ・前方引き出しストレス撮影(側面像):脛骨に対して距骨が前方にずれる量を測る。主にATFLの損傷を反映する。 ・正常値には個人差があるため、健側と比べて左右差で評価するのが基本である。
治療
・急性期はRICE処置(Rest:安静、Ice:冷却、Compression:圧迫、Elevation:挙上)を行う。 ・新しい外側靱帯損傷は、Ⅲ度であっても装具やテーピングによる早期の機能的治療など保存療法が原則である。アスリートなどで不安定性が強い例や、保存療法の後も不安定性が残る例(慢性足関節不安定症)では、靱帯の修復術や再建術を考える。
関連用語の整理
・強直:関節そのものの病変で動かなくなった状態(骨性・線維性)。 ・拘縮:関節周囲の軟部組織が原因で可動域が狭くなった状態。 ・不安定性:支持組織が損傷して、関節が異常に動く状態。 ・動揺関節:不安定性が強く、関節が異常な可動性を示す状態。
POINT
・足関節の内がえし捻挫では、外側靱帯(とくに前距腓靱帯)が最も損傷しやすい。 ・単純エックス線写真で骨折を除外し、ストレス撮影で靱帯損傷による不安定性を評価する。 ・内反ストレス撮影=距骨傾斜角(CFL+ATFL)、前方引き出し撮影=距骨の前方移動量(ATFL)。左右差で判定する。 ・強直=関節そのものの病変で動かない、拘縮=関節周囲の軟部組織が原因で動かない、不安定性=靱帯損傷によるぐらつき。 ・新鮮な外側靱帯損傷は保存療法(機能的治療)が基本である。
