「かぜの後の耳痛」と保育園―小児急性中耳炎の基本を押さえる
第104回医師国家試験 D問題 第14問
国試問題にチャレンジ
小児急性中耳炎で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.感冒罹患に続発する。
- b.早期から抗菌薬を投与する。
- c.5歳以上の小児では難治化しやすい。
- d.最も多い起炎菌は黄色ブドウ球菌である。
- e.保育所などでの集団生活は危険因子である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
小児急性中耳炎は、かぜなどの上気道ウイルス感染に続いて、鼻咽腔の細菌が太く短く水平な小児の耳管を通って中耳に侵入することで発症します。三大起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスで、黄色ブドウ球菌は慢性化膿性中耳炎で問題となる菌です。治療は鼓膜所見と症状から重症度を判定して選び、軽症では抗菌薬なしで3日間経過観察し、中等症以上でアモキシシリンを用います。難治化・反復の危険因子は2歳未満、集団保育、きょうだい、受動喫煙、耐性菌の関与などです。発症機序と起炎菌、耐性菌を意識した抗菌薬の適正使用を結びつけて理解することが、日常診療で最も多い小児感染症の一つに適切に対応する基礎になります。
解答・解説
正解はa, eです
小児急性中耳炎の発症機序、起炎菌、治療方針、難治化の危険因子を問う問題である。
発症のしくみ
急性中耳炎は、上気道のウイルス感染(いわゆるかぜ)で鼻咽腔に炎症が起こり、そこに定着・増殖した細菌が耳管を通って中耳腔へ入ることで発症するのが典型である。乳幼児の耳管は成人に比べて太く・短く・水平に近いため、鼻咽腔の病原体が中耳へ到達しやすい。これが小児、とくに2歳未満の乳幼児に多い理由である。
起炎菌
肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)が三大起炎菌で、なかでも肺炎球菌とインフルエンザ菌の頻度が高い。いずれも鼻咽腔の常在・定着菌である。
治療方針
日本のガイドライン(小児急性中耳炎診療ガイドライン)では、年齢・耳痛・発熱・啼泣や不機嫌と、鼓膜所見(発赤・膨隆・耳漏)を点数化して重症度を判定し、それに応じて治療を選ぶ。軽症例は自然治癒が期待できるため、抗菌薬を投与せずに3日間経過観察し、改善がなければアモキシシリン(AMPC)を開始する。中等症以上では初めから AMPC などの抗菌薬を用い、重症例では鼓膜切開も考慮する。つまり「一律に早期から抗菌薬」ではない。
難治化・反復の危険因子
2歳未満の低年齢、保育所などでの集団保育、きょうだいの存在、受動喫煙、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)や β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)などの耐性菌の関与、などが知られる。 以上から、感冒に続発するという記述と、集団保育が危険因子であるという記述が正しい。
選択肢考察
- ○a. 感冒罹患に続発する。
かぜなどの上気道ウイルス感染で鼻咽腔の粘膜に炎症が起こると、耳管の機能が落ち、鼻咽腔で増えた細菌が耳管経由で中耳腔に侵入して急性中耳炎が生じる。小児の耳管は短く水平に近いため、この経耳管感染が起こりやすい。感冒に続発するのは小児急性中耳炎の典型的な経過である。
- ×b. 早期から抗菌薬を投与する。
すべての症例に早期から抗菌薬を使うわけではない。軽症例は自然軽快が多いため、まず抗菌薬なしで3日間経過をみて、改善しなければ抗菌薬を開始するのが推奨されている。不要な抗菌薬投与は耐性菌を増やし、かえって難治化を招く。一方、中等症・重症では初期から抗菌薬を投与するため、重症度に応じた使い分けが必要である。
- ×c. 5歳以上の小児では難治化しやすい。
難治化しやすいのは年長児ではなく低年齢児、とくに2歳未満の乳幼児である。低年齢児は免疫が未熟で耳管の構造的にも中耳へ細菌が入りやすく、集団保育などで耐性菌を保菌していることも多い。年齢が上がるにつれて耳管が発達し、急性中耳炎の頻度も難治化の傾向も低下する。
- ×d. 最も多い起炎菌は黄色ブドウ球菌である。
小児急性中耳炎の主な起炎菌は肺炎球菌とインフルエンザ菌で、これにモラクセラ・カタラーリスを加えて三大起炎菌とよぶ。いずれも鼻咽腔に定着しやすい菌であり、経耳管感染という発症機序と対応している。黄色ブドウ球菌は慢性化膿性中耳炎の耳漏から検出されることが多い菌であり、急性中耳炎の代表的起炎菌ではない。
- ○e. 保育所などでの集団生活は危険因子である。
集団保育では子ども同士でかぜなどの上気道感染を繰り返しやすく、また抗菌薬の使用歴がある子どもが多いため、PRSP や BLNAR などの耐性菌を鼻咽腔に保菌する機会が増える。このため急性中耳炎の発症・反復・難治化の危険因子とされる。
急性中耳炎の定義
急に発症した中耳の感染症で、耳痛、発熱、耳漏を伴うことがあるものをいう。鼓膜所見では、発赤、膨隆、光錐の消失、耳漏などがみられる。乳幼児は耳痛を訴えられないため、不機嫌、夜泣き、耳に手をやるしぐさなどが手がかりになる。
中耳炎の種類と関連する菌の整理
・急性中耳炎:肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス。 ・慢性化膿性中耳炎:黄色ブドウ球菌(MRSA を含む)、緑膿菌など。 ・滲出性中耳炎:中耳腔に液体が貯留するが、急性の炎症症状(耳痛・発熱)を欠く。急性中耳炎の後に続くことが多く、難聴の原因となる。
重症度に応じた治療の考え方
・軽症:抗菌薬を投与せず3日間経過観察。改善しなければ AMPC を開始する。 ・中等症:AMPC(高用量)を第一選択とし、改善が乏しければ β-ラクタマーゼ阻害薬配合剤(クラブラン酸・アモキシシリン)などへ変更する。 ・重症:抗菌薬に加えて鼓膜切開による排膿を考慮する。 ・経過中は鼓膜所見を再評価し、効果判定を行う。
難治化・反復の危険因子
2歳未満、集団保育、きょうだい、受動喫煙、おしゃぶりの使用、耐性菌の関与、など。予防には肺炎球菌ワクチン(結合型ワクチン)やインフルエンザ菌 b 型(Hib)ワクチンなどの定期接種、受動喫煙の回避が挙げられる。
POINT
・小児急性中耳炎は感冒に続発し、鼻咽腔の細菌が耳管経由で中耳へ入って発症する。 ・三大起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス(黄色ブドウ球菌は慢性中耳炎)。 ・軽症は抗菌薬なしで3日間経過観察し、中等症以上で抗菌薬(第一選択は AMPC)を用いる。 ・難治化しやすいのは2歳未満の低年齢児、集団保育児、耐性菌(PRSP、BLNAR)感染例である。
