StudyMed医師国家試験

鉄はあるのに使えない―ヘプシジンで読み解く慢性炎症の貧血

第104回医師国家試験 D問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第104回 D問題 第13問

慢性炎症による二次性貧血でみられるのはどれか。 MCV MCHC Fe TIBC フェリチン a 低 低 低 高 低 b 低~正常 低~正常 低 低 高 c 正常~高 低 高 低 高 d 低 低 高 低 高 e 正常~高 正常 高 低 高

  1. a.低低低高低
  2. b.低~正常低~正常低低高
  3. c.正常~高低高低高
  4. d.低低高低高
  5. e.正常~高正常高低高

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、慢性炎症に伴う貧血の検査パターンを選ぶ問題だ。赤血球指数と鉄関連の検査値が並んでいるけれど、全部を丸暗記する必要はない。病態を理解すれば、どの値が上がってどの値が下がるかは自然に導けるよ。まず、慢性炎症で貧血が起こる仕組みを知っているかな。
医学生医学生
炎症で骨髄の働きが落ちる、というくらいのイメージです。
ドクタードクター
それも一部は正しい。でも核心は「鉄はあるのに使えない」という点なんだ。関節リウマチなどの膠原病や結核などの慢性感染症、悪性腫瘍で炎症が続くと、IL-6などのサイトカインが増える。IL-6は肝臓に働いて、ヘプシジンという鉄調節ホルモンを増やすんだ。
医学生医学生
ヘプシジンは生化学の講義で名前だけ聞いた気がします。
ドクタードクター
ヘプシジンは、細胞から鉄を外へ送り出す唯一の輸送体であるフェロポーチンに結合して、これを分解させる。すると、マクロファージに取り込まれた鉄が血中に戻れず閉じ込められ、腸からの鉄吸収も抑えられる。体の鉄の総量は足りているのに、赤芽球には届かない状態になるわけだ。
医学生医学生
そうすると、血中の鉄は減るけれど、貯蔵鉄は減らないということですか。
ドクタードクター
その通り。だから血清鉄は低値になる。一方で貯蔵鉄を反映するフェリチンは正常から高値だ。しかもフェリチンは急性期蛋白でもあるから、炎症そのものでも上がる。この「血清鉄が低いのにフェリチンが高い」という一見ちぐはぐな組み合わせが、この貧血を見抜く最大の手がかりになる。
医学生医学生
TIBCはどうなりますか。鉄が足りないなら上がりそうに思えますけど。
ドクタードクター
そこが引っかけやすいところだね。TIBCは鉄を運ぶトランスフェリンの量を反映する。鉄欠乏ではトランスフェリンが増産されてTIBCが上がるけれど、トランスフェリンは炎症で産生が落ちる負の急性期蛋白なんだ。だから慢性炎症ではTIBCは低値から正常になる。
医学生医学生
なるほど、炎症が全部の値を動かしているんですね。赤血球の大きさはどうでしょう。
ドクタードクター
多くは正球性正色素性だよ。ただ、鉄の利用障害が長引くとヘム合成に使える鉄が足りなくなって、小球性低色素性に傾く。だからMCVとMCHCは「低から正常」と表現される。以上をまとめると、血清鉄が低く、TIBCが低く、フェリチンが高く、赤血球指数が低から正常のパターンが正解になる。
医学生医学生
鉄欠乏性貧血のパターンとは、TIBCとフェリチンが逆向きなんですね。
ドクタードクター
そう。鉄欠乏性貧血は小球性低色素性で、血清鉄が低いのは同じだけど、貯蔵鉄が枯渇するからフェリチンは低く、鉄を求めてトランスフェリンが増えるからTIBCは高い。慢性炎症とはこの2つで明確に区別できる。
医学生医学生
血清鉄もフェリチンも高くて、小球性低色素性というパターンもありました。これは何でしょう。
ドクタードクター
鉄は十分あるのにヘム合成そのものが障害されている状態で、鉄芽球性貧血などでみられるパターンだ。骨髄で環状鉄芽球が見つかるのが特徴だね。また、正球性から大球性で血清鉄とフェリチンが高く、TIBCが低いのは鉄過剰のパターンで、再生不良性貧血や骨髄異形成症候群のように赤血球産生が落ちて鉄が使われずに余る病態や、頻回輸血の後などでみられる。
医学生医学生
MCVが正常から高いのにMCHCだけ低い、という組み合わせもありましたが、ピンときませんでした。
ドクタードクター
それで正しい感覚だよ。小球性なら低色素、正球性や大球性ならMCHCは正常となるのが普通で、その組み合わせは一般的な分類には当てはまりにくい。しかも血清鉄が高い点で、鉄が血中に出てこない慢性炎症とは相容れない。血清鉄とフェリチンの2つだけで、選択肢は一つに絞れるんだ。
医学生医学生
臨床実習の膠原病内科で、関節リウマチの患者さんのヘモグロビンが10くらいで、指導医に「炎症のせいだから鉄剤は要らない」と言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにこの病態だね。貧血は軽度から中等度、ヘモグロビン8〜10 g/dL程度にとどまることが多い。鉄が吸収も利用もされにくい状態だから、鉄剤の効果は乏しく、フェリチンが高い状態で漫然と鉄を補充するのは勧められない。治療の基本は原疾患のコントロールだ。
医学生医学生
でも、炎症のある人が本当に鉄欠乏も合併していたら、見逃してしまいそうです。
ドクタードクター
いい疑問だ。炎症でフェリチンが押し上げられて、鉄欠乏が隠れることは実際にある。フェリチンが正常下限付近にとどまる、TIBCが下がらない、可溶性トランスフェリン受容体が上がる、といった所見が合併を疑う手がかりになる。消化管出血を起こしやすい薬を使っている患者さんでは特に注意したいね。また、サラセミアも小球性貧血だけれど、鉄関連検査は基本的に正常という点もあわせて押さえておこう。

まとめ

慢性炎症に伴う貧血は「鉄はあるが使えない」貧血で、IL-6によって誘導されたヘプシジンがフェロポーチンを分解し、鉄をマクロファージ内に閉じ込め、腸からの吸収も抑えることで生じます。その結果、血清鉄は低値、フェリチンは正常〜高値、TIBCは低値〜正常となり、赤血球は正球性正色素性が多いものの長期化すると小球性低色素性に傾きます。鉄欠乏性貧血(TIBC高値・フェリチン低値)や、鉄芽球性貧血・鉄過剰状態(血清鉄高値)とは、血清鉄とフェリチンの組み合わせで明確に区別できます。治療は原疾患のコントロールが基本で、鉄剤の効果は乏しく、炎症に隠れた鉄欠乏の合併にも注意が必要です。病態から検査値を導く考え方は、貧血の鑑別全般に応用できる重要な土台になります。

解答・解説

正解はbです

本問は、慢性炎症に伴う貧血(anemia of chronic disease:ACD、近年は anemia of inflammation とも呼ばれる)の鉄関連検査のパターンを選ばせる問題である。

病態の核心:鉄はあるのに使えない

関節リウマチなどの膠原病、結核などの慢性感染症、悪性腫瘍などで炎症が続くと、インターロイキン-6(IL-6)などの炎症性サイトカインが増える。IL-6 は肝臓に働いて、鉄調節ホルモンであるヘプシジンの産生を増やす。ヘプシジンは、細胞から鉄を外へ送り出す唯一の輸送体であるフェロポーチンに結合し、これを分解させる。その結果、 ・マクロファージ(網内系)に取り込まれた鉄が血中へ戻れず、貯蔵鉄として閉じ込められる ・十二指腸からの鉄吸収も抑えられる という状態になる。体内の鉄の総量は十分なのに、赤芽球へ届けられる鉄が不足する「鉄の利用障害」である。

検査値への反映

・血清鉄(Fe):血中へ鉄が放出されないので低値。 ・フェリチン:貯蔵鉄を反映し、しかも急性期蛋白として炎症でも上昇するため、正常〜高値。 ・総鉄結合能(TIBC):血中の鉄運搬蛋白トランスフェリンの量を反映する。トランスフェリンは炎症で産生が低下する(負の急性期蛋白)ため、TIBC は低値〜正常。 ・赤血球指数:多くは正球性正色素性であるが、経過が長くなりヘム合成に使える鉄の不足が続くと小球性低色素性に傾く。したがって MCV(平均赤血球容積)・MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)は「低〜正常」と表現される。

解き方

鑑別の要は「血清鉄 低値+フェリチン 高値」という、一見ちぐはぐな組み合わせである。鉄欠乏なら両者とも低く、鉄過剰なら両者とも高い。この二つの値だけで選択肢は一つに絞れ、さらに TIBC 低値、MCV・MCHC 低〜正常という点も矛盾しないことを確認すればよい。

選択肢考察

  1. ×a.  低低低高低

    小球性低色素性で、血清鉄低値・TIBC 高値・フェリチン低値という組み合わせは鉄欠乏性貧血の典型である。貯蔵鉄が枯渇するためフェリチンが下がり、鉄を求めて肝臓がトランスフェリンを増産するため TIBC が上昇する。慢性炎症ではフェリチンは高く、TIBC は低いので合致しない。

  2. ○b.  低~正常低~正常低低高

    慢性炎症に伴う貧血の所見である。ヘプシジン増加によって鉄がマクロファージ内に閉じ込められるため、血清鉄は低値、貯蔵鉄を反映するフェリチンは高値(炎症自体でも上昇)となる。トランスフェリンは炎症で産生が落ちるため TIBC は低値となる。赤血球は正球性正色素性のことが多いが、鉄利用障害が長引くと小球性低色素性になるので、MCV・MCHC は低〜正常と表される。

  3. ×c.  正常~高低高低高

    MCV が正常〜高値でありながら MCHC だけが低いという赤血球指数の組み合わせは、通常の貧血の分類では一般的でない(小球性であれば低色素、大球性・正球性であれば MCHC は正常となるのが普通である)。また血清鉄が高値である点も、鉄が血中に出てこない慢性炎症の病態とは相容れない。

  4. ×d.  低低高低高

    小球性低色素性でありながら血清鉄・フェリチンが高く TIBC が低いのは、鉄は十分あるのにヘム合成そのものが障害されている状態を示し、鉄芽球性貧血などでみられるパターンである。輸血を繰り返して鉄過剰になった場合にも血清鉄・フェリチンは高値となる。慢性炎症では血清鉄は低値となるので誤りである。

  5. ×e.  正常~高正常高低高

    正球性〜大球性で、血清鉄・フェリチン高値、TIBC 低値という鉄過剰のパターンである。再生不良性貧血や骨髄異形成症候群など赤血球産生が低下・無効化している病態(鉄が消費されず余る)や、頻回輸血後などでみられる。慢性炎症では血清鉄が低値となるので合致しない。

小球性〜正球性貧血の鉄関連検査の比較

・鉄欠乏性貧血:血清鉄 低、TIBC 高、フェリチン 低。不飽和鉄結合能(UIBC)も高値。 ・慢性炎症に伴う貧血:血清鉄 低、TIBC 低〜正常、フェリチン 正常〜高。 ・鉄芽球性貧血:血清鉄 高、TIBC 低〜正常、フェリチン 高。骨髄に環状鉄芽球を認める。 ・サラセミア:鉄関連検査は基本的に正常(鉄は足りている)。小球性の程度に比べて貧血が軽く、赤血球数が保たれることが多い。

慢性炎症に伴う貧血の要点

・原因:関節リウマチ・全身性エリテマトーデスなどの膠原病、結核・感染性心内膜炎・骨髄炎などの慢性感染症、悪性腫瘍、慢性腎臓病など。 ・機序:(1) IL-6→ヘプシジン増加→フェロポーチン分解による鉄の網内系への閉じ込めと吸収低下、(2) 炎症性サイトカインによるエリスロポエチン(EPO)産生と、EPO に対する骨髄の反応の低下、(3) 赤血球寿命の軽度短縮、が重なって生じる。 ・貧血の程度:多くは軽度〜中等度で、ヘモグロビン 8〜10 g/dL 程度にとどまることが多い。 ・治療:原疾患の治療が基本である。鉄剤は吸収・利用が妨げられているため効果が乏しく、フェリチンが高い状態での漫然とした鉄補充は勧められない。

鉄欠乏との合併の見分け方

慢性炎症と鉄欠乏が併存すると、フェリチンが炎症で押し上げられて鉄欠乏が隠れることがある。この場合は、フェリチンが正常下限付近にとどまる、TIBC が低下しない、可溶性トランスフェリン受容体が上昇する、などが手がかりになる。

POINT

・慢性炎症に伴う貧血は「鉄はあるが使えない」貧血であり、血清鉄 低・フェリチン 高・TIBC 低が特徴である。 ・鍵となる分子はヘプシジン(IL-6 で誘導され、フェロポーチンを分解して鉄の放出を止める)。 ・赤血球は正球性正色素性が多く、長期化すると小球性低色素性になる。 ・鉄欠乏性貧血(TIBC 高・フェリチン 低)との対比で覚える。 ・鉄剤の効果は乏しく、原疾患の治療が基本である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。