「菌がいる」と「菌をまいている」は違う―結核の入院隔離を決める検査
第104回医師国家試験 D問題 第15問
国試問題にチャレンジ
入院隔離が必須な肺結核患者はどれか。
- a.喀痰塗抹染色陽性
- b.喀痰培養陽性
- c.培養コロニーPCR陽性
- d.ツベルクリン反応強陽性
- e.インターフェロンγ試験陽性
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
肺結核患者の入院隔離の要否は、周囲に結核菌をまき散らしているか、つまり排菌量に基づく感染性で判断します。その指標が喀痰塗抹検査で、顕微鏡で菌が見えるほど多量に排菌している塗抹陽性例は、感染症法に基づく入院勧告の対象となり、陰圧の結核病床に入院します。培養は高感度に菌の存在を示し、コロニーのPCRは菌種を同定する検査であって、いずれも排菌量の指標ではありません。ツベルクリン反応やインターフェロンγ遊離試験は感染歴を示すにとどまり、活動性や排菌の有無は判定できません。各検査が何を見ているかを区別して理解することは、結核の診断だけでなく、院内感染対策や接触者健診を適切に行ううえでも欠かせない知識です。
解答・解説
正解はaです
肺結核患者を入院させて隔離する必要があるかどうかは、「いま周囲へ結核菌をまき散らしているか(感染性があるか)」で決まる。本問は、各検査がそれぞれ何を意味するのかを区別できるかを問うている。
検査ごとの意味
・喀痰塗抹検査:痰をスライドガラスに塗って抗酸菌染色(チール・ネールゼン染色や蛍光染色)を行い、顕微鏡で直接菌を探す。菌が見えるのは痰の中に大量の菌が含まれている場合に限られるため、陽性であれば排菌量が多く、咳などを通じて空気感染(飛沫核感染)を起こしうることを意味する。 ・喀痰培養検査:わずかな菌でも増やして検出できる高感度の検査で、結果判明までに数週間かかる。菌の存在は示すが、排菌量の多さ=感染性の高さを直接示すものではない。 ・培養コロニーの PCR(核酸増幅法):培養で生えた抗酸菌が結核菌か非結核性抗酸菌かを同定する検査である。 ・ツベルクリン反応、インターフェロンγ遊離試験(IGRA):結核菌に対する免疫記憶(感染歴)を調べる検査で、排菌の有無はわからない。
入院の基準
結核は感染症法で二類感染症に位置づけられ、感染性の高い患者には入院勧告が行われる。その中心となる基準が「肺結核(咽頭・喉頭・気管支結核を含む)で喀痰塗抹検査が陽性」である。塗抹陰性であっても、培養や核酸増幅法で陽性となり、咳などの呼吸器症状があって感染のおそれがある場合などには入院の対象となりうるが、「必須」といえるのは塗抹陽性例である。
選択肢考察
- ○a. 喀痰塗抹染色陽性
塗抹検査は培養に比べて感度が低く、顕微鏡で菌が見つかるのは喀痰 1 mL あたり数千個以上の菌が含まれるときとされる。したがって陽性であれば大量に排菌しており、咳やくしゃみで生じる飛沫核を介して周囲に感染させる危険が高い。肺結核で喀痰塗抹陽性の患者は、感染症法に基づく入院勧告の対象となり、結核病床(陰圧の個室など)へ入院させて隔離する。
- ×b. 喀痰培養陽性
培養は少数の菌でも増殖させて検出できるため、培養陽性は結核菌(抗酸菌)の存在を示すが、排菌量が多いことは意味しない。塗抹陰性・培養陽性の患者は感染性が比較的低く、呼吸器症状などから感染のおそれがあると判断される場合を除き、外来での治療が可能である。さらに培養陽性だけでは結核菌と非結核性抗酸菌の区別もつかない。
- ×c. 培養コロニーPCR陽性
培養で得られたコロニーに対する PCR は、生えてきた抗酸菌が結核菌群なのか非結核性抗酸菌なのかを同定する目的で行う。結核の確定診断には重要であるが、排菌量や感染性の指標にはならないため、これだけでは入院隔離が必須とはいえない。
- ×d. ツベルクリン反応強陽性
ツベルクリン反応は結核菌の抗原に対する遅延型過敏反応をみる検査で、結核菌に感染したことがあるか(潜在性結核感染症を含む)を推定する材料になる。BCG 接種でも陽性となり、日本では BCG 接種者が多いため判定に限界がある。いずれにせよ排菌の有無はわからないので、隔離の基準にはならない。
- ×e. インターフェロンγ試験陽性
インターフェロンγ遊離試験(IGRA:クォンティフェロン、T-スポットなど)は、採血したリンパ球を結核菌特異抗原で刺激してインターフェロンγの産生をみる検査である。BCG に含まれない抗原を使うため BCG 接種の影響を受けにくいが、陽性は結核菌への感染歴を示すにとどまり、活動性結核と潜在性結核感染症の区別も、排菌の有無の判定もできない。したがって入院隔離の根拠にはならない。
結核の感染様式
結核菌は、患者の咳などで放出された飛沫の水分が蒸発した微小な粒子(飛沫核)に乗って空気中を漂い、それを吸い込むことで感染する空気感染(飛沫核感染)の病原体である。このため、排菌患者は陰圧管理された病室に収容し、医療従事者は N95 マスクを着用する。患者自身が病室外に出る際はサージカルマスクを着ける。
結核に関する法的な扱い
・結核予防法は 2007 年に廃止され、感染症法に統合された。結核は二類感染症である。 ・診断した医師は直ちに最寄りの保健所長へ届け出る(かつての結核予防法では 2 日以内とされていた)。 ・感染性の高い患者には入院勧告が行われ、医療費は公費負担の対象となる。
入院の基準(概要)
・肺結核などで喀痰塗抹検査陽性の場合。 ・喀痰塗抹陰性でも、培養・核酸増幅法で陽性であり、呼吸器症状があるなど感染のおそれがある場合など。
退院の目安(概要)
2 週間以上の標準的な化学療法が行われ、咳・発熱などの症状が改善し、異なる日に採取した喀痰の検査(塗抹または培養)で連続 3 回陰性が確認されれば、感染のおそれがないとして退院が可能となる。
検査の役割の整理
・感染性(排菌量)の評価:喀痰塗抹検査 ・菌の検出(高感度)と薬剤感受性試験:培養検査 ・菌種の迅速同定:核酸増幅法(PCR など) ・感染歴の評価:ツベルクリン反応、IGRA
POINT
・入院隔離の判断基準は「排菌量=感染性」であり、その指標は喀痰塗抹検査である。 ・肺結核で喀痰塗抹陽性なら入院勧告の対象となる。 ・培養・PCR は菌の存在・同定を示すが、排菌量の指標ではない。 ・ツベルクリン反応・IGRA は感染歴を示す検査で、活動性や排菌の有無はわからない。 ・結核は感染症法の二類感染症で、診断したら直ちに保健所へ届け出る。
