StudyMed医師国家試験

肉芽腫の「門番」を止めてはいけない―抗TNF-α製剤と結核の深い関係

第119回医師国家試験 D問題 第26問

国試問題にチャレンジ

第119回 D問題 第26問

66歳の女性。微熱および持続する咳嗽を主訴に来院した。1年前から間質性肺炎を伴う関節リウマチに対して抗TNF-α抗体製剤とNSAIDで治療されている。他に骨粗鬆症と逆流性食道炎でカルシウム製剤,活性型ビタミンD製剤およびプロトンポンプ阻害薬を内服している。精査の結果,間質性肺炎の増悪はなく,肺結核と診断された。  中止すべき薬剤はどれか。

  1. a.NSAID
  2. b.カルシウム製剤
  3. c.抗TNF-α抗体製剤
  4. d.プロトンポンプ阻害薬
  5. e.活性型ビタミンD製剤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、関節リウマチの治療中に肺結核を発症した患者さんで、どの薬を止めるべきかを考える問題だ。ポイントは、それぞれの薬が「結核の発症・進展に関わるかどうか」。そのためには、体が結核菌をどう抑え込んでいるかを理解しておく必要がある。
医学生医学生
結核菌は細胞内寄生菌なので、細胞性免疫が大事だったと思います。
ドクタードクター
その通り。結核菌はマクロファージの中で生き延びる菌で、宿主はマクロファージとT細胞を中心とした細胞性免疫で菌を肉芽腫の中に封じ込める。この肉芽腫をつくり、維持するのに欠かせないサイトカインがTNF-αなんだ。
医学生医学生
病理実習で乾酪壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫を見ました。あの構造をTNF-αが支えているんですね。
ドクタードクター
そう。だからTNF-αを阻害すると肉芽腫が崩れ、閉じ込められていた菌が再び暴れ出す。これが潜在性結核感染の内因性再燃だ。新たな感染が急速に進行しやすくなる面もある。ここまでくれば、止めるべき薬は見えてくるね。
医学生医学生
抗TNF-α抗体製剤ですね。でも、止めたらリウマチが悪化しませんか。
ドクタードクター
いい疑問だ。確かに関節症状の悪化は心配だけど、活動性結核は抗TNF-α製剤の禁忌に当たる。結核の治療を優先し、製剤は中止して標準的な抗結核薬治療を行う。関節症状は他の手段で和らげながら乗り切ることになる。
医学生医学生
ではNSAIDはどうでしょう。消炎鎮痛薬なので、免疫を抑えて感染を悪くしそうな気もします。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだね。NSAIDはCOXを阻害してプロスタグランジン産生を抑える対症療法薬で、細胞性免疫を抑える作用はほとんどない。結核のリスクは高めないし、抗TNF-α製剤を止めた後の関節痛を和らげるためにむしろ続ける意義がある。ただし消化性潰瘍や腎機能障害などの副作用には引き続き注意だ。
医学生医学生
免疫を抑えるのはステロイドで、NSAIDとは別物ということですね。プロトンポンプ阻害薬はNSAIDの潰瘍予防にもなっていそうです。
ドクタードクター
よく気づいたね。PPIも結核のリスクとは無関係で、逆流性食道炎の治療に加えて、NSAIDを続けるなら潰瘍予防の意味でも併用の価値がある。長期使用では鉄やビタミンB12、マグネシウムの吸収低下、骨折リスク、C. difficile感染症などが知られているから、漫然と続けない意識は必要だけど、今止める理由はない。
医学生医学生
カルシウム製剤と活性型ビタミンD製剤は骨粗鬆症の薬なので、免疫とは関係なさそうです。
ドクタードクター
その通りで、どちらも中止は不要だ。ただ一つ面白いつながりがある。結核やサルコイドーシスのような肉芽腫性疾患では、肉芽腫のマクロファージが1α-水酸化酵素で活性型ビタミンDを作り、高カルシウム血症を起こすことがあるんだ。
医学生医学生
内分泌の講義で、サルコイドーシスの高カルシウム血症として習いました。結核でも起こるんですね。
ドクタードクター
そう。この人はカルシウム製剤も活性型ビタミンDも飲んでいるから、血清カルシウム値は確認しておきたい。でもそれは中止の理由ではなく、モニタリングの話だ。それから、カルシウム製剤はキノロン系などとキレートを作るから、抗菌薬を併用するときの飲み合わせにも気を配ろう。
医学生医学生
結局、結核のリスクを上げているのは抗TNF-α製剤だけ、という整理ですね。
ドクタードクター
そうだ。発展として押さえてほしいのは、そもそも生物学的製剤を始める前のスクリーニングだね。問診で結核の既往や接触歴を確認し、胸部X線や必要に応じてCT、それにインターフェロンγ遊離試験かツベルクリン反応を行う。潜在性結核感染があれば、イソニアジドの予防内服を先に始めてから製剤を導入するのが原則だ。
医学生医学生
膠原病内科を回ったとき、生物学的製剤の導入前にIGRAを必ず出していた理由がわかりました。
ドクタードクター
臨床ではもう一つ注意点がある。抗TNF-α製剤使用中の結核は、肺外結核や粟粒結核の形をとりやすい。さらに関節リウマチの患者さんが熱や咳を訴えたら、間質性肺炎の増悪、薬剤性肺障害、そして結核、非結核性抗酸菌症、ニューモシスチス肺炎などの日和見感染症を幅広く鑑別する必要がある。B型肝炎ウイルスの再活性化にも注意が必要だ。

まとめ

TNF-αはマクロファージの活性化と、結核菌を封じ込める肉芽腫の形成・維持に欠かせないサイトカインであり、抗TNF-α製剤は潜在性結核感染の再燃をはじめとする結核発症のリスクを大きく高めます。そのため活動性結核と診断されたら抗TNF-α製剤を中止し、標準的な抗結核薬治療を行います。NSAID、PPI、カルシウム製剤、活性型ビタミンD製剤は結核のリスクとならず中止は不要ですが、肉芽腫性疾患では活性型ビタミンD産生による高カルシウム血症が起こりうるため、血清カルシウム値の確認は大切です。生物学的製剤の導入前には胸部画像とIGRAまたはツベルクリン反応でスクリーニングし、潜在性結核感染があればイソニアジドの予防内服を行います。免疫抑制治療中の患者さんの感染症を、薬の作用機序から理解しておくことは、膠原病や炎症性腸疾患など多くの診療科で役立ちます。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・66歳女性。微熱と持続する咳嗽で受診した。 ・間質性肺炎を合併した関節リウマチ(RA)に対し、1年前から抗TNF-α抗体製剤とNSAID(非ステロイド性抗炎症薬)で治療中である。 ・骨粗鬆症に対してカルシウム製剤と活性型ビタミンD製剤、逆流性食道炎に対してプロトンポンプ阻害薬(PPI)を内服している。 ・精査の結果、間質性肺炎の増悪ではなく、肺結核と診断された。

設問の考え方

本問は、服用中の薬剤のうち結核の発症・進展に関わり、活動性結核の診断時に中止すべきものを選ぶ問題である。 結核菌は細胞内寄生菌であり、宿主はマクロファージとT細胞を中心とする細胞性免疫によって菌を肉芽腫の中に封じ込める。TNF-α(腫瘍壊死因子α)はマクロファージの活性化と肉芽腫の形成・維持に欠かせないサイトカインである。そのためTNF-αを阻害すると、肉芽腫が崩れて潜在性結核感染(LTBI)が再燃(内因性再燃)したり、新たな感染が急速に進行したりしやすくなる。抗TNF-α製剤使用中の結核は、肺外結核や播種性(粟粒)結核の形をとりやすいことも知られている。 したがって、活動性結核と診断された時点で抗TNF-α抗体製剤は中止し、標準的な抗結核薬治療を行う。一方、NSAID、カルシウム製剤、活性型ビタミンD製剤、PPIはいずれも結核の発症リスクを高める薬剤ではなく、中止する必要はない。 なお、関節リウマチに対する生物学的製剤の導入前には、胸部X線(必要に応じてCT)とインターフェロンγ遊離試験(IGRA)またはツベルクリン反応で結核のスクリーニングを行い、潜在性結核感染があればイソニアジドの予防内服を行うことが原則である。

選択肢考察

  1. ×a.  NSAID

    NSAIDはシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害してプロスタグランジン産生を抑え、関節の痛みや炎症を和らげる対症療法薬である。細胞性免疫を抑える作用はほとんどなく、結核の発症・増悪リスクを高めることはない。抗TNF-α製剤を中止すると関節症状の悪化が予想されるため、症状緩和のためにむしろ継続する意義がある。ただし消化性潰瘍、腎機能障害、アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)、浮腫・高血圧などの副作用には引き続き注意する。

  2. ×b.  カルシウム製剤

    骨粗鬆症の治療・予防として用いられており、免疫機能への影響はなく結核のリスクとならない。中止の必要はない。副作用には高カルシウム血症、尿路結石、便秘などがあり、またテトラサイクリン系やキノロン系抗菌薬とキレートを形成してそれらの吸収を低下させる相互作用があるため、併用時は服用時間をずらすなどの配慮をする。

  3. ○c.  抗TNF-α抗体製剤

    インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ、セルトリズマブ ペゴルなどの抗TNF-α抗体製剤は、結核菌の封じ込めに必須の肉芽腫の形成・維持をTNF-αの阻害によって妨げるため、結核の発症(特に潜在性結核感染の再燃)リスクを大きく高める。本例の肺結核は本剤による免疫抑制が背景にあると考えられ、活動性結核は本剤の禁忌に当たるため直ちに中止し、抗結核薬による治療を行う。本剤は結核のほか、非結核性抗酸菌症、ニューモシスチス肺炎、細菌性肺炎、B型肝炎ウイルスの再活性化などの感染症リスクも高める。

  4. ×d.  プロトンポンプ阻害薬

    PPIは胃の壁細胞のプロトンポンプ(H+,K+-ATPase)を阻害して胃酸分泌を抑える薬剤で、逆流性食道炎の治療に用いられている。結核の発症リスクを高める作用はなく、中止の必要はない。長期使用に伴う副作用として、鉄・ビタミンB12・マグネシウムの吸収低下、骨折リスクの上昇、Clostridioides difficile感染症、顕微鏡的大腸炎(collagenous colitisなど)が知られる。なお、NSAIDを継続する患者では消化性潰瘍予防の観点からもPPIの併用は意義がある。

  5. ×e.  活性型ビタミンD製剤

    活性型ビタミンD製剤は腸管からのカルシウム吸収を促進し、骨粗鬆症の治療に用いられる。結核の発症リスクを高める薬剤ではなく、中止の必要はない。副作用として高カルシウム血症(悪心・嘔吐などの消化器症状、多尿・脱水、腎機能障害)に注意する。結核やサルコイドーシスなどの肉芽腫性疾患では、肉芽腫内のマクロファージが1α-水酸化酵素によって活性型ビタミンDを産生し高カルシウム血症をきたすことがあるため、本剤やカルシウム製剤を併用している本例では血清カルシウム値の確認が望ましいが、それは中止すべき理由ではない。

生物学的製剤と結核

・TNF-α阻害薬(抗TNF-α抗体製剤:インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ、セルトリズマブ ペゴル/可溶性TNF受容体製剤:エタネルセプト)は、関節リウマチ、炎症性腸疾患、乾癬、強直性脊椎炎などに用いられる。 ・結核の発症リスクはTNF-α阻害薬の中でも抗体製剤で特に高いとされる。 ・使用前のスクリーニング:問診(結核既往、接触歴)、胸部X線・CT、IGRA(インターフェロンγ遊離試験)またはツベルクリン反応。潜在性結核感染と判断されれば、原則としてイソニアジドを(通常6〜9か月)予防内服し、少なくとも開始から一定期間(一般に3週間程度)経過してから生物学的製剤を開始する。 ・使用中に活動性結核を発症した場合は製剤を中止し、標準治療(イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトールの4剤による初期強化期2か月、その後イソニアジドとリファンピシンによる維持期4か月)を行う。

RA治療中の呼吸器症状の鑑別

RA患者の発熱・咳嗽・肺陰影では、以下を鑑別する。 ・RAに伴う間質性肺炎の増悪 ・薬剤性肺障害(メトトレキサート、生物学的製剤など) ・日和見感染症:結核、非結核性抗酸菌症、ニューモシスチス肺炎、細菌性肺炎、真菌感染症 両側のすりガラス陰影のように所見が重なる場合は、喀痰検査、β-D-グルカン、KL-6などを参考にし、抗酸菌感染を除外しつつ、結果を待つ間に複数の病態を同時に治療する(原因薬の中止、ST合剤によるニューモシスチス肺炎治療、ステロイドなど)ことも臨床ではまれではない。

本例で用いられている薬剤の主な副作用

・NSAID:消化性潰瘍、腎機能障害、アスピリン喘息、浮腫・高血圧 ・カルシウム製剤、活性型ビタミンD製剤:高カルシウム血症、尿路結石 ・PPI:微量元素・ビタミンB12吸収低下、骨折リスク、C. difficile感染症、顕微鏡的大腸炎 ・抗TNF-α抗体製剤:結核などの重篤な感染症、B型肝炎再活性化、投与時反応、脱髄疾患の悪化、心不全の悪化

POINT

・TNF-αは結核菌を封じ込める肉芽腫の形成・維持に必須 → TNF-α阻害薬は結核(特に潜在性結核の再燃)のリスクを高める。 ・活動性結核と診断されたら抗TNF-α製剤は中止し、抗結核薬で治療する。 ・生物学的製剤の開始前には胸部画像とIGRA(またはツベルクリン反応)で結核をスクリーニングし、潜在性結核感染があればイソニアジドの予防内服を行う。 ・NSAID、カルシウム製剤、活性型ビタミンD製剤、PPIは結核のリスクとならず、中止不要。 ・肉芽腫性疾患(結核、サルコイドーシス)では活性型ビタミンD産生による高カルシウム血症に注意する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。