菌は減ったか、生きているか―結核の治療効果は「痰」で見る
第119回医師国家試験 D問題 第72問
国試問題にチャレンジ
80歳の男性。1か月間持続する咳嗽,血痰,微熱および体重減少を主訴に来院した。胸部エックス線写真で右上葉に空洞を伴う浸潤影を認め,喀痰の抗酸菌塗抹,結核菌PCR検査および抗酸菌培養が陽性で,肺結核と診断された。 その後,抗結核薬による標準治療が開始され,2か月が経過した。 治療効果の判定に用いられる検査はどれか。2つ選べ。
- a.ツベルクリン反応
- b.喀痰抗酸菌塗抹検査
- c.喀痰抗酸菌培養検査
- d.喀痰抗酸菌PCR検査
- e.結核菌特異的全血インターフェロンγ遊離測定法〈IGRA〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
肺結核の治療効果は、体内の生きた結核菌が減ったかどうかで判定するため、喀痰の抗酸菌塗抹検査と培養検査を用います。塗抹は迅速に排菌量と感染性の推移を追えますが死菌も数えてしまうため、生菌のみを検出し薬剤感受性試験も可能な培養検査と組み合わせて評価します。PCRは死菌のDNAも検出するため診断向きであり、ツベルクリン反応やIGRAは宿主の免疫反応から感染の既往をみる検査で、活動性や治療効果は判定できません。初期強化期が終わる治療開始2か月時点の培養陽性は維持期延長の根拠となり、喀痰検査の陰性化は退院判断にも用いられます。「その検査が何を見ているのか」を理解することは、結核に限らず検査を正しく選び解釈する基本となります。
解答・解説
正解はb, cです
所見の整理
・80歳の男性で、咳嗽・血痰・微熱・体重減少が1か月続いている。2週間以上続く咳や、発熱・体重減少といった全身症状は活動性肺結核を強く疑う手がかりである。 ・胸部エックス線上、右上葉の浸潤影の内部に空洞が形成されている。上葉(特に肺尖部・後上葉区)は酸素分圧が高く結核菌が増殖しやすい部位で、空洞形成は過去に感染した菌が再燃した二次結核(成人型結核)に典型的である。高齢者の結核の多くはこの再燃型である。 ・喀痰検査では抗酸菌塗抹・結核菌PCR・抗酸菌培養のすべてが陽性であり、肺結核の確定診断となっている。塗抹陽性であることから、診断時点では周囲への感染性が高い状態だったと判断できる。
治療開始後2か月という時期の意味
標準治療は、最初の2か月(初期強化期)にイソニアジド〈INH〉、リファンピシン〈RFP〉、ピラジナミド〈PZA〉の3剤とエタンブトール〈EB〉(EBの代わりにストレプトマイシン〈SM〉でもよい)を合わせた4剤を使い、その後の維持期4か月にRFP+INHの2剤を使う計6か月の治療である。治療開始2か月はちょうど初期強化期が終わる節目で、ここで「菌が減っているか・消えているか」を評価し、維持期の期間(4か月で良いか、延長が必要か)や退院の可否を判断する。
治療効果判定に適した検査の考え方
治療効果とは「体内の結核菌、特に生きている菌がどれだけ減ったか」である。したがって、喀痰中の菌量を直接みる検査、とりわけ生菌のみを検出できる検査が用いられる。 ・塗抹検査は結果が当日に出て、排菌量(感染性)の推移を簡便に追える。 ・培養検査は生菌だけが発育するため、菌が本当に陰性化したかを判定する最も信頼性の高い指標である。2か月時点の培養陽性は再発リスクが高い所見として、維持期延長の判断根拠になる。 一方、PCR検査は死菌の遺伝子も検出してしまい、ツベルクリン反応やIGRAは菌そのものではなく宿主の免疫反応(感染の既往)をみる検査であるため、治療効果判定には使えない。
選択肢考察
- ×a. ツベルクリン反応
ツベルクリン反応は、結核菌の精製蛋白(PPD)を皮内注射し、48時間後の発赤・硬結で遅延型過敏反応(細胞性免疫)を調べる検査である。結核菌に感染したことがあるか(既感染)を推定する手段であり、菌が現在活動しているか、治療で減ったかは反映しない。さらにBCG接種や非結核性抗酸菌感染でも陽性となり、日本ではBCG接種率が高いため特異度が低い。高齢者や免疫低下者では偽陰性も起こる。治療効果判定には用いない。
- ○b. 喀痰抗酸菌塗抹検査
喀痰を染色(チール・ネールゼン染色や蛍光染色)して抗酸菌を顕微鏡で直接数える検査である。結果が迅速に得られ、排菌量を段階的に評価できるため、治療経過における排菌量の推移と感染性の評価に適しており、治療効果判定に用いられる。日本の退院基準でも、異なった日の喀痰の塗抹または培養検査で連続3回陰性であることが条件の一つになっている。ただし塗抹では生菌と死菌を区別できず、治療が効いていても死菌がしばらく塗抹陽性として残ること(塗抹陽性・培養陰性)があるため、培養検査と組み合わせて判断する。
- ○c. 喀痰抗酸菌培養検査
喀痰を培地(液体培地のMGITや小川培地など)で培養する検査で、生きている菌のみが発育する。そのため菌の陰性化を最も確実に判定でき、治療効果判定の中心となる。特に初期強化期終了時(2か月)の培養結果は重要で、空洞があり2か月時点でも培養陽性が続く場合などは維持期を延長(4か月→7か月)する根拠となる。また培養で得た菌株を用いて薬剤感受性試験を行い、使用薬剤が有効かを確認できる点でも治療方針の決定に欠かせない。欠点は結果が出るまで数週間(液体培地で陽性なら1〜2週、陰性の確定には6〜8週)かかることである。
- ×d. 喀痰抗酸菌PCR検査
PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)は結核菌のDNAを増幅して検出する方法で、数時間で結果が得られ、結核菌か非結核性抗酸菌かの鑑別もできるため初回診断には非常に有用である。しかし死菌のDNAも検出するため、治療で菌が死滅した後もしばらく陽性が続く。生菌の減少を反映しないので、治療がうまくいっているかの評価には用いない。
- ×e. 結核菌特異的全血インターフェロンγ遊離測定法〈IGRA〉
IGRAは、結核菌に特異的な抗原(ESAT-6、CFP-10など)で患者のリンパ球を刺激し、放出されるインターフェロンγを測定する検査である(QuantiFERONやT-SPOT.TBなど)。BCGの影響を受けないためツベルクリン反応より特異度が高く、潜在性結核感染症の診断や接触者健診に用いられる。しかし感染の既往を示す免疫反応をみる検査であり、活動性結核と潜在性結核感染を区別できない。治療後に値が低下する例はあるが、陰性化しない例も多く、菌の消失と結果が一致しない。したがって治療の効き目を判断する指標にはならない。なお感染から陽転するまでには約8週間を要する。
肺結核の標準治療
・A法(原則):初期2か月 RFP+INH+PZA+EB(またはSM)、維持期4か月 RFP+INH(+EB)、計6か月。 ・B法:PZAが使えない場合(重い肝障害など)。初期2か月 RFP+INH+EB(またはSM)、維持期7か月 RFP+INH、計9か月。 ・かつては80歳以上の高齢者は肝障害の懸念からPZAを使わないB法が勧められたが、PZAを加えても肝障害や重篤な転帰が明らかに増えないことが示され、現在は高齢者でも肝障害がなければA法を基本とする。 ・維持期を3か月延長する主な状況:初期2か月終了時に培養陽性が続く、広汎な空洞型・粟粒結核などの重症例、再治療例、糖尿病・じん肺・HIV感染・副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬使用など免疫低下を伴う場合。
検査の性質の比較
・塗抹:迅速、排菌量・感染性の指標。生菌・死菌の区別不可。 ・培養:生菌のみ検出、薬剤感受性試験が可能。時間がかかる。 ・PCR(核酸増幅法):迅速、菌種同定に有用。死菌も検出。 ・ツベルクリン反応・IGRA:宿主の免疫反応をみる。感染の有無の推定に用い、活動性や治療効果は判定できない。
退院基準(感染症法に基づく)の概要
2週間以上の標準的化学療法の実施、咳・発熱などの臨床症状の消失、異なった日の喀痰塗抹または培養検査で連続3回陰性、の3つを満たすことが基本である。
POINT
・結核の治療効果判定は「喀痰の塗抹検査(排菌量・感染性)」と「培養検査(生菌の有無・薬剤感受性)」で行う。 ・PCRは死菌も検出するため、診断には有用だが治療効果判定には向かない。 ・ツベルクリン反応・IGRAは感染の既往をみる検査で、活動性の判定や治療効果判定には使えない。 ・治療開始2か月は初期強化期終了の節目で、この時点の培養陽性は維持期延長(6か月→9か月治療)の根拠となる。
