StudyMed医師国家試験

胸部写真に走る細い横線―Kerley線は「小葉間隔壁」からの手紙

第103回医師国家試験 I問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第103回 I問題 第6問

胸部エックス線写真でKerley線が見られるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.肺水腫
  2. b.過敏性肺炎
  3. c.肺血栓塞栓症
  4. d.癌性リンパ管症
  5. e.びまん性汎細気管支炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胸部エックス線写真のKerley線がどんな病態で現れるかを問う問題だ。丸暗記で解くこともできるけれど、「Kerley線は肺のどの構造が見えているのか」を理解しておけば、初めて見る選択肢にも対応できる。まずKerley線の正体から考えてみよう。
医学生医学生
放射線医学の講義で、肺の下のほうに見える短い横線と習いました。何が写っているのかまではあいまいです。
ドクタードクター
それはKerley B線だね。Kerley線は、本来写らない小葉間隔壁、つまり二次小葉どうしを仕切る結合組織の壁が厚くなって見えるようになったものなんだ。この隔壁の中には何が走っているか覚えているかな。
医学生医学生
解剖実習の後の組織学で、肺静脈とリンパ管が小葉間隔壁を走ると習いました。
ドクタードクター
完璧だ。だから隔壁が厚くなる理由は大きく2つ。肺静脈圧が上がって水がしみ出すか、リンパ管がふさがって流れが滞るか。この2つに当てはまるものを探せばいい。
医学生医学生
水がしみ出すほうは肺水腫ですね。循環器内科の実習で、心不全の患者さんの胸部写真を指導医の先生と一緒に読みました。
ドクタードクター
そう、肺水腫は正解の一つ。左心不全で肺静脈圧が上がると、まず間質に水がたまる間質性肺水腫になる。ここでKerley線のほか、気管支壁が厚く見えるperibronchial cuffingや肺門の境界不鮮明化が出る。さらに進むと水が肺胞腔にあふれ、肺門中心の蝶形陰影になるんだ。
医学生医学生
心不全が良くなるとKerley線も消えるんですか。
ドクタードクター
浮腫が引けば比較的速やかに消えるよ。だから治療効果の目安にもなる。では、リンパ管がふさがるほうは?
医学生医学生
癌性リンパ管症です。癌細胞がリンパ管の中で広がるんですよね。
ドクタードクター
その通り。胃癌、乳癌、肺癌などの癌細胞が肺のリンパ管に広がるとリンパ流がうっ滞し、小葉間隔壁や気管支血管束といった広義間質が肥厚する。HRCTでは隔壁の数珠状・結節状の不整な肥厚が特徴だ。強い呼吸困難や乾性咳嗽を伴い、予後は不良だよ。
医学生医学生
過敏性肺炎も間質性肺炎の仲間なので、隔壁が厚くなりそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかかりやすいところだね。過敏性肺炎は吸い込んだ抗原に対するアレルギー反応で、病変の中心は細気管支のまわり、つまり小葉の中心部だ。HRCTでは小葉中心性の淡い粒状影とすりガラス影が典型で、小葉間隔壁の肥厚は主所見ではない。経気道的に入る病気は小葉の「真ん中」に、リンパ路や静脈の病気は小葉の「ふち」に出る、とイメージしよう。
医学生医学生
びまん性汎細気管支炎も、名前の通り細気管支の病気だから小葉中心性ですね。CBTの勉強で、慢性副鼻腔炎の合併とエリスロマイシン少量長期療法をセットで覚えました。
ドクタードクター
よく整理できている。呼吸細気管支の慢性炎症なので、CTでは小葉中心性の粒状影や分岐状影が出て、下肺野優位の過膨張を伴う。隔壁の肥厚はやはり主役ではないね。
医学生医学生
肺血栓塞栓症は、血管が詰まる病気なので間質は関係なさそうです。
ドクタードクター
その通り。肺動脈の内腔が詰まるだけで、間質やリンパ路には変化が起きない。だから胸部写真は正常に見えることが多く、それ自体が大事なポイントなんだ。所見があるとすれば、末梢の血流低下で透過性が上がるWestermark徴候や、梗塞による胸膜側の楔状陰影くらい。診断は造影CTや肺血流シンチグラフィで行う。
医学生医学生
病変の主座が小葉のふち(隔壁・リンパ路)か、中心(細気管支)か、血管内腔か、で分ければいいんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。最後に発展知識を。Kerley線にはA・B・Cの3種類があって、A線は肺門から上中肺野に斜めに伸びる長い線、B線は下肺野外側で胸膜に垂直な1〜2cmの短い水平線、C線はB線が重なった網目状の影だ。臨床で一番よく見るのはB線だよ。また心不全の胸部写真は、上肺野の血管影増強、次に間質性浮腫、最後に肺胞性浮腫と段階的に進むから、どの段階かを読み取る意識をもとう。
医学生医学生
癌の既往がある人で、心拡大がないのにKerley線が出ていたら、癌性リンパ管症を疑うべきということですね。
ドクタードクター
いい臨床的な発想だ。心不全と決めつけて利尿薬だけで様子を見るのではなく、心拡大や胸水の有無、既往歴を合わせて考えることが大切。サルコイドーシスや塵肺でも隔壁肥厚は起こりうるから、HRCTで分布をしっかり確認しよう。

まとめ

Kerley線は、肺静脈とリンパ管が走る小葉間隔壁が肥厚して胸部エックス線写真に写るようになった線状影です。代表的な原因は、左心不全などで肺静脈圧が上昇して間質に水がたまる肺水腫と、癌細胞がリンパ管内に広がってリンパ流がうっ滞する癌性リンパ管症の2つです。過敏性肺炎やびまん性汎細気管支炎は細気管支を中心とする小葉中心性病変、肺血栓塞栓症は血管内腔の病変であり、通常Kerley線はみられません。最もよく観察されるのは下肺野外側で胸膜に垂直に走るB線で、心不全では血管影の増強から間質性浮腫、肺胞性浮腫へと所見が進みます。病変が小葉のどこにあるかを考える習慣は、胸部写真やHRCTの読影全般の土台になります。

解答・解説

正解はa, dです

Kerley線(カーリー線)は、胸部エックス線写真で肺野にみられる細い線状影であり、本来は写らない小葉間隔壁(二次小葉どうしを隔てる結合組織の壁)が厚くなることで見えるようになったものである。小葉間隔壁には肺静脈とリンパ管が走っているため、隔壁が厚くなる原因は大きく次の2つに分けられる。 1. 水分がたまる:左心不全などで肺静脈圧が上がり、間質に液体が漏れ出る(間質性肺水腫)。 2. リンパ管がふさがる・細胞が入り込む:癌細胞がリンパ管内に広がってリンパの流れが滞り、リンパ管が拡張し、隔壁に浮腫や線維化が起こる(癌性リンパ管症)。 このほか、サルコイドーシス、塵肺、リンパ脈管筋腫症などでも隔壁肥厚が起こりうるが、国試で最も代表的なのは肺水腫(心不全)と癌性リンパ管症である。 本問では、各疾患の主たる病変部位が「小葉間隔壁(広義間質・リンパ路)」にあるのか、「細気管支・肺胞」や「血管内腔」にあるのかを考えると、Kerley線をきたす2つを選べる。

選択肢考察

  1. ○a.  肺水腫

    Kerley線がみられる。左心不全などで肺静脈圧(肺動脈楔入圧)が上昇すると、まず血管周囲や小葉間隔壁などの間質に液体がたまり(間質性肺水腫)、隔壁が肥厚してKerley線、気管支壁の肥厚(peribronchial cuffing)、肺門部の境界不鮮明化などがみられる。さらに進むと液体が肺胞腔内へあふれ出し(肺胞性肺水腫)、肺門を中心に左右対称に広がる蝶形陰影(butterfly shadow)となる。心不全の治療で浮腫が引くとKerley線は比較的速やかに消失する。

  2. ×b.  過敏性肺炎

    Kerley線は通常みられない。過敏性肺炎は、カビ(夏型過敏性肺炎のトリコスポロンなど)や鳥の抗原を繰り返し吸入することで起こるIII型・IV型アレルギー反応で、細気管支を中心にリンパ球浸潤や類上皮細胞肉芽腫を形成する。胸部エックス線ではびまん性の微細な粒状影やすりガラス影を示し、高分解能CT(HRCT)では小葉中心性の淡い粒状影とすりガラス影が特徴である。病変の主座が小葉中心部であり、小葉間隔壁の肥厚は主所見ではない。

  3. ×c.  肺血栓塞栓症

    Kerley線はみられない。肺動脈が血栓で閉塞しても間質やリンパ路には変化が起こらないため、胸部エックス線写真は正常にみえることが多い。所見があるとすれば、閉塞部より末梢の血流が減って肺野の透過性が亢進するWestermark徴候、中枢肺動脈が拡張して途中で途切れるKnuckle徴候、肺梗塞による胸膜側の楔状陰影(Hampton's hump)などである。診断には造影CTや肺血流シンチグラフィを用いる。

  4. ○d.  癌性リンパ管症

    Kerley線がみられる。胃癌、乳癌、肺癌などの癌細胞が肺のリンパ管内に広がる病態で、リンパ流がうっ滞してリンパ管が拡張し、小葉間隔壁や気管支血管束(広義間質)が肥厚する。胸部エックス線では両側性の網状・線状影としてKerley線がみられ、HRCTでは小葉間隔壁や気管支血管束の数珠状・結節状の不整な肥厚が特徴である。高度の呼吸困難や乾性咳嗽を伴い、予後は不良である。

  5. ×e.  びまん性汎細気管支炎

    Kerley線はみられない。びまん性汎細気管支炎(DPB)は両肺の呼吸細気管支に慢性炎症が起こる疾患で、慢性副鼻腔炎を合併し、HLA-B54との関連が知られる。胸部エックス線では両側下肺野優位のびまん性小粒状影と過膨張、CTでは小葉中心性の粒状影や分岐状影(tree-in-bud)がみられる。病変の主座は細気管支であり、小葉間隔壁の肥厚は主所見ではない。エリスロマイシン少量長期療法が有効である。

Kerley線の種類

・A線:肺門部から上~中肺野に向かって斜めに伸びる、長さ数cmの細い線状影。肺の深部にある結合組織隔壁やリンパ管の肥厚を反映する。 ・B線:下肺野の外側(肋骨横隔膜角付近)で、胸膜面に対して垂直に走る長さ1~2cm程度の短い水平線状影。胸膜直下の小葉間隔壁の肥厚そのものであり、最もよく観察される。 ・C線:下肺野の中央部にみられる細かい網目状の陰影。B線が重なり合ったものと考えられている。

心不全(肺静脈圧上昇)の胸部エックス線所見の進み方

1. 上肺野の血管影の増強(cephalization) 2. 間質性浮腫:Kerley線、peribronchial cuffing、肺門陰影の不鮮明化、葉間胸膜の肥厚 3. 肺胞性浮腫:蝶形陰影(butterfly shadow) このほか心拡大(心胸郭比の増大)や胸水を伴うことが多い。

HRCTでの陰影の分布と代表疾患

・小葉間隔壁の肥厚(広義間質・リンパ路性):肺水腫、癌性リンパ管症、サルコイドーシス ・小葉中心性粒状影(経気道性):過敏性肺炎、びまん性汎細気管支炎、細気管支炎 ・ランダム分布:粟粒結核、血行性転移

POINT

・Kerley線は小葉間隔壁の肥厚を反映する線状影である。 ・代表疾患は肺水腫(心不全による間質性浮腫)と癌性リンパ管症。 ・B線は下肺野外側で胸膜に垂直な短い水平線で、最も重要。 ・過敏性肺炎とびまん性汎細気管支炎は小葉中心性粒状影、肺血栓塞栓症は透過性亢進(Westermark徴候)が特徴。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。