ピロリ菌は「粘膜」の住人―関連しない病変を見抜く一本の線
第103回医師国家試験 I問題 第5問
国試問題にチャレンジ
Helicobacter pylori感染と関連しないのはどれか。
- a.慢性胃炎
- b.十二指腸潰瘍
- c.胃ポリープ
- d.胃平滑筋腫
- e.胃癌
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
Helicobacter pyloriは胃粘膜に持続感染して慢性活動性胃炎を起こし、萎縮性胃炎・腸上皮化生へと進む慢性炎症を土台に、十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍、胃癌、胃MALTリンパ腫、胃過形成性ポリープに関与します。一方、胃平滑筋腫は固有筋層の平滑筋から生じる間葉系の粘膜下腫瘍で、粘膜の炎症とは無関係なためピロリ菌とは関連しません。かつての平滑筋腫の多くはKIT・DOG1陽性のGISTであったことも押さえておきましょう。胃底腺ポリープや除菌後の逆流性食道炎のように、ピロリ陰性や除菌後に多い病変もあります。「病変が粘膜由来か、間葉系由来か」という視点は、除菌の適応や除菌後の内視鏡フォローを考えるうえでも役立ちます。
解答・解説
正解はdです
Helicobacter pylori(ヘリコバクター・ピロリ、以下H. pylori)は、胃粘膜に定着するグラム陰性らせん菌である。菌体が産生するウレアーゼで尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解し、周囲の胃酸を中和することで強酸の環境でも生き延びる。感染の多くは乳幼児期に成立し、除菌しない限り生涯持続する。 持続感染により胃粘膜には好中球・リンパ球が浸潤する慢性活動性胃炎が生じ、長い年月をかけて萎縮性胃炎、さらに腸上皮化生へと進む。この慢性炎症を土台として、消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)、胃癌、胃MALTリンパ腫、胃過形成性ポリープなど多くの病変が発生する。胃以外でも、免疫性(特発性)血小板減少性紫斑病(ITP)や鉄欠乏性貧血との関連が知られている。 したがって本問は、「粘膜の慢性炎症・萎縮に関係する病変」と「粘膜とは無関係に筋層など間葉系組織から生じる病変」を区別できるかを問うている。胃平滑筋腫は固有筋層の平滑筋細胞から発生する粘膜下腫瘍であり、粘膜の炎症を起こすH. pyloriとの関連は示されていない。
選択肢考察
- ×a. 慢性胃炎
H. pyloriと関連する。現在、組織学的な慢性胃炎の大部分はH. pylori感染によって起こると考えられている。感染すると粘膜に炎症細胞が浸潤する慢性活動性胃炎となり、多くは前庭部から体部へと萎縮が広がる萎縮性胃炎へ進行する。除菌により活動性炎症(好中球浸潤)は改善する。2013年からは内視鏡で胃炎が確認されたH. pylori感染胃炎に対して除菌治療が保険適用となっている。
- ×b. 十二指腸潰瘍
H. pyloriと関連する。わが国の十二指腸潰瘍では90%以上でH. pyloriが陽性とされる。前庭部優位の胃炎では胃酸分泌を抑えるソマトスタチンが減少してガストリンが増え、酸分泌が亢進する。酸が十二指腸に流れ込むと十二指腸球部に胃上皮化生が起こり、そこにH. pyloriが定着して潰瘍が生じる。除菌しないと潰瘍の年間再発率は数十%に達するが、除菌に成功すると数%程度まで低下する。
- ×c. 胃ポリープ
H. pyloriと関連する。胃ポリープのうち過形成性ポリープは、H. pylori感染による萎縮性胃炎を背景に発生することが多く、除菌によって縮小・消失する例が少なくない。一方、胃底腺ポリープは逆にH. pylori陰性の萎縮のない胃粘膜に多く発生し、長期のプロトンポンプ阻害薬(PPI)内服でも増える。このように種類によって関係の方向は異なるが、胃ポリープはH. pylori感染と関連をもつ病変として扱われる。
- ○d. 胃平滑筋腫
H. pyloriとの関連はなく、これが正解である。胃平滑筋腫は胃壁の固有筋層(または粘膜筋板)の平滑筋細胞から生じる良性の間葉系腫瘍で、正常粘膜に覆われた粘膜下腫瘍の形をとる。粘膜の炎症を背景とする病変ではないため、H. pylori感染とは関係しない。なお、かつて胃平滑筋腫と診断されていた腫瘍の多くは、免疫染色でKIT(CD117)やDOG1が陽性となる消化管間質腫瘍(GIST)であったことがわかっており、現在では真の平滑筋腫(デスミン陽性、KIT陰性)は比較的まれとされる。GISTもH. pyloriとの関連はない。
- ×e. 胃癌
H. pyloriと関連する。1994年、WHOの国際がん研究機関(IARC)は疫学研究をもとにH. pyloriを「ヒトに対して発がん性がある(グループ1)」と認定した。その後、スナネズミの感染実験で胃癌が発生すること、わが国の前向き研究で感染者のみから胃癌が発生したこと、早期胃癌の内視鏡治療後に除菌すると異時性の胃癌が減ることなどが報告されている。慢性炎症→萎縮性胃炎→腸上皮化生を経て発生する分化型癌だけでなく、未分化型癌の発生にも関与する。ただし除菌後も発癌リスクはゼロにならないため、定期的な内視鏡検査が必要である。
H. pylori感染と関連する主な疾患
・慢性胃炎(萎縮性胃炎、鳥肌胃炎など) ・胃潰瘍、十二指腸潰瘍 ・胃癌(特に早期胃癌の内視鏡治療後の異時性癌の予防に除菌が有効) ・胃MALTリンパ腫(限局期の多くは除菌のみで寛解する) ・胃過形成性ポリープ ・胃以外:免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)、鉄欠乏性貧血など
H. pyloriと関連しない、または負の関係にある病変
・胃粘膜下腫瘍(平滑筋腫、GIST、神経鞘腫など):間葉系組織から生じる ・胃底腺ポリープ:H. pylori陰性の胃に多い ・逆流性食道炎:除菌後に酸分泌が回復して一時的に増えることがある
H. pylori感染の診断法
内視鏡を用いる方法:迅速ウレアーゼ試験、鏡検法(組織染色)、培養法 内視鏡を用いない方法:尿素呼気試験、便中抗原測定、血清・尿中抗体測定 PPI内服中は偽陰性が出やすいため、尿素呼気試験などではPPIの中止期間を置く。
除菌治療
一次除菌はPPI(またはカリウムイオン競合型酸ブロッカーであるボノプラザン)+アモキシシリン+クラリスロマイシンの3剤を7日間、二次除菌ではクラリスロマイシンをメトロニダゾールに替える。現在はボノプラザンを用いたレジメンが除菌率の高さから広く用いられている。
POINT
・H. pyloriは胃粘膜の慢性炎症を起こし、慢性胃炎・消化性潰瘍・胃癌・胃MALTリンパ腫・過形成性ポリープに関与する。 ・胃平滑筋腫やGISTなど間葉系由来の粘膜下腫瘍はH. pyloriと関連しない。 ・胃底腺ポリープや逆流性食道炎は、むしろH. pylori陰性例や除菌後に多い。 ・H. pyloriはIARCのグループ1発がん因子である。
