StudyMed医師国家試験

ピロリ菌は「粘膜」の住人―関連しない病変を見抜く一本の線

第103回医師国家試験 I問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第103回 I問題 第5問

Helicobacter pylori感染と関連しないのはどれか。

  1. a.慢性胃炎
  2. b.十二指腸潰瘍
  3. c.胃ポリープ
  4. d.胃平滑筋腫
  5. e.胃癌

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、Helicobacter pylori感染と関係する疾患を整理する問題だ。ポイントは「ピロリ菌が胃壁のどこで悪さをするのか」。そこが分かれば、関係ない病変は自然と浮かび上がってくるよ。まず、ピロリ菌はどこに住んでいる菌かな。
医学生医学生
胃の粘膜ですよね。微生物学の講義で、ウレアーゼでアンモニアを作って胃酸を中和すると習いました。
ドクタードクター
その通り。グラム陰性のらせん菌で、ウレアーゼで尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解し、強酸の中でも生き延びる。感染の多くは乳幼児期に成立して、除菌しない限り一生続くんだ。すると粘膜では何が起きると思う?
医学生医学生
ずっと炎症が続くので、慢性胃炎になります。
ドクタードクター
そう。好中球やリンパ球が浸潤する慢性活動性胃炎がまず起こり、年単位で萎縮性胃炎、さらに腸上皮化生へと進む。現在、組織学的な慢性胃炎の大部分はピロリ菌が原因と考えられていて、内視鏡で確認された感染胃炎は除菌治療の保険適用にもなっている。この「粘膜の慢性炎症」が、ほかの多くの病気の土台になるんだ。
医学生医学生
十二指腸潰瘍も関連しますよね。でも菌は胃にいるのに、どうして十二指腸に潰瘍ができるのか、実はよく分かっていません。
ドクタードクター
いい疑問だね。前庭部優位の胃炎になると、酸分泌を抑えるソマトスタチンが減ってガストリンが増え、酸分泌が高まる。その酸が十二指腸に流れ込むと球部に胃上皮化生が起こり、そこにピロリ菌が定着して潰瘍ができる、という流れだ。わが国の十二指腸潰瘍では9割以上が陽性とされ、除菌すると再発率は大きく下がる。
医学生医学生
胃癌は、WHOが発がん因子に認定しているんでしたよね。
ドクタードクター
1994年に国際がん研究機関がグループ1、つまり「ヒトに対して発がん性がある」と認定した。動物実験や国内の前向き研究、早期胃癌の内視鏡治療後に除菌すると異時性の癌が減るという報告などが根拠になっている。慢性炎症から萎縮、腸上皮化生を経る分化型癌だけでなく、未分化型癌にも関与するとされているよ。
医学生医学生
胃ポリープは迷いました。消化器内科の実習で、ピロリ陰性のきれいな胃にもポリープがあると聞いた気がして。
ドクタードクター
鋭いね。胃ポリープは種類で関係が違う。過形成性ポリープはピロリ菌による萎縮性胃炎を背景に生じやすく、除菌で縮小・消失することも多い。一方、君が聞いたのはおそらく胃底腺ポリープで、こちらはむしろピロリ陰性の萎縮のない胃に多く、PPIの長期内服でも増える。関係の向きは違っても、胃ポリープ全体としてはピロリ菌と関連をもつ病変として扱われるんだ。
医学生医学生
そうすると、残る胃平滑筋腫が正解ですね。粘膜じゃなくて筋層からできる腫瘍だから。
ドクタードクター
正解。胃平滑筋腫は固有筋層などの平滑筋細胞から生じる良性の間葉系腫瘍で、表面は正常粘膜に覆われた粘膜下腫瘍の形をとる。粘膜の炎症を背景にした病変ではないから、ピロリ菌とは関係しないんだ。
医学生医学生
粘膜の病気か、粘膜の下の間葉系の病気か、で線を引けばいいんですね。
ドクタードクター
その整理で十分戦える。補足すると、昔「胃平滑筋腫」と呼ばれていた腫瘍の多くは、今ではKITやDOG1が陽性の消化管間質腫瘍、つまりGISTだったと分かっている。真の平滑筋腫はデスミン陽性・KIT陰性で、比較的まれだ。GISTや神経鞘腫も含め、粘膜下腫瘍はピロリ菌とは無関係と覚えておこう。
医学生医学生
逆に、胃以外でピロリ菌が関わる病気はありますか。
ドクタードクター
胃MALTリンパ腫は特に重要で、限局期の多くは除菌だけで寛解する。胃以外では免疫性血小板減少性紫斑病や鉄欠乏性貧血との関連が知られている。反対に、除菌後に酸分泌が回復して逆流性食道炎が一時的に増えることもあるよ。
医学生医学生
除菌はPPIかボノプラザンに、アモキシシリンとクラリスロマイシンの3剤で、二次除菌ではクラリスロマイシンをメトロニダゾールに替える、でしたね。
ドクタードクター
その通り。もう一つ臨床で大事なのは、除菌に成功しても胃癌のリスクはゼロにならないこと。萎縮が進んだ胃では除菌後も定期的な内視鏡検査を続ける必要がある。また、尿素呼気試験で判定するときはPPIで偽陰性になりやすいから、休薬期間を置くことも忘れないでね。

まとめ

Helicobacter pyloriは胃粘膜に持続感染して慢性活動性胃炎を起こし、萎縮性胃炎・腸上皮化生へと進む慢性炎症を土台に、十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍、胃癌、胃MALTリンパ腫、胃過形成性ポリープに関与します。一方、胃平滑筋腫は固有筋層の平滑筋から生じる間葉系の粘膜下腫瘍で、粘膜の炎症とは無関係なためピロリ菌とは関連しません。かつての平滑筋腫の多くはKIT・DOG1陽性のGISTであったことも押さえておきましょう。胃底腺ポリープや除菌後の逆流性食道炎のように、ピロリ陰性や除菌後に多い病変もあります。「病変が粘膜由来か、間葉系由来か」という視点は、除菌の適応や除菌後の内視鏡フォローを考えるうえでも役立ちます。

解答・解説

正解はdです

Helicobacter pylori(ヘリコバクター・ピロリ、以下H. pylori)は、胃粘膜に定着するグラム陰性らせん菌である。菌体が産生するウレアーゼで尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解し、周囲の胃酸を中和することで強酸の環境でも生き延びる。感染の多くは乳幼児期に成立し、除菌しない限り生涯持続する。 持続感染により胃粘膜には好中球・リンパ球が浸潤する慢性活動性胃炎が生じ、長い年月をかけて萎縮性胃炎、さらに腸上皮化生へと進む。この慢性炎症を土台として、消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)、胃癌、胃MALTリンパ腫、胃過形成性ポリープなど多くの病変が発生する。胃以外でも、免疫性(特発性)血小板減少性紫斑病(ITP)や鉄欠乏性貧血との関連が知られている。 したがって本問は、「粘膜の慢性炎症・萎縮に関係する病変」と「粘膜とは無関係に筋層など間葉系組織から生じる病変」を区別できるかを問うている。胃平滑筋腫は固有筋層の平滑筋細胞から発生する粘膜下腫瘍であり、粘膜の炎症を起こすH. pyloriとの関連は示されていない。

選択肢考察

  1. ×a.  慢性胃炎

    H. pyloriと関連する。現在、組織学的な慢性胃炎の大部分はH. pylori感染によって起こると考えられている。感染すると粘膜に炎症細胞が浸潤する慢性活動性胃炎となり、多くは前庭部から体部へと萎縮が広がる萎縮性胃炎へ進行する。除菌により活動性炎症(好中球浸潤)は改善する。2013年からは内視鏡で胃炎が確認されたH. pylori感染胃炎に対して除菌治療が保険適用となっている。

  2. ×b.  十二指腸潰瘍

    H. pyloriと関連する。わが国の十二指腸潰瘍では90%以上でH. pyloriが陽性とされる。前庭部優位の胃炎では胃酸分泌を抑えるソマトスタチンが減少してガストリンが増え、酸分泌が亢進する。酸が十二指腸に流れ込むと十二指腸球部に胃上皮化生が起こり、そこにH. pyloriが定着して潰瘍が生じる。除菌しないと潰瘍の年間再発率は数十%に達するが、除菌に成功すると数%程度まで低下する。

  3. ×c.  胃ポリープ

    H. pyloriと関連する。胃ポリープのうち過形成性ポリープは、H. pylori感染による萎縮性胃炎を背景に発生することが多く、除菌によって縮小・消失する例が少なくない。一方、胃底腺ポリープは逆にH. pylori陰性の萎縮のない胃粘膜に多く発生し、長期のプロトンポンプ阻害薬(PPI)内服でも増える。このように種類によって関係の方向は異なるが、胃ポリープはH. pylori感染と関連をもつ病変として扱われる。

  4. ○d.  胃平滑筋腫

    H. pyloriとの関連はなく、これが正解である。胃平滑筋腫は胃壁の固有筋層(または粘膜筋板)の平滑筋細胞から生じる良性の間葉系腫瘍で、正常粘膜に覆われた粘膜下腫瘍の形をとる。粘膜の炎症を背景とする病変ではないため、H. pylori感染とは関係しない。なお、かつて胃平滑筋腫と診断されていた腫瘍の多くは、免疫染色でKIT(CD117)やDOG1が陽性となる消化管間質腫瘍(GIST)であったことがわかっており、現在では真の平滑筋腫(デスミン陽性、KIT陰性)は比較的まれとされる。GISTもH. pyloriとの関連はない。

  5. ×e.  胃癌

    H. pyloriと関連する。1994年、WHOの国際がん研究機関(IARC)は疫学研究をもとにH. pyloriを「ヒトに対して発がん性がある(グループ1)」と認定した。その後、スナネズミの感染実験で胃癌が発生すること、わが国の前向き研究で感染者のみから胃癌が発生したこと、早期胃癌の内視鏡治療後に除菌すると異時性の胃癌が減ることなどが報告されている。慢性炎症→萎縮性胃炎→腸上皮化生を経て発生する分化型癌だけでなく、未分化型癌の発生にも関与する。ただし除菌後も発癌リスクはゼロにならないため、定期的な内視鏡検査が必要である。

H. pylori感染と関連する主な疾患

・慢性胃炎(萎縮性胃炎、鳥肌胃炎など) ・胃潰瘍、十二指腸潰瘍 ・胃癌(特に早期胃癌の内視鏡治療後の異時性癌の予防に除菌が有効) ・胃MALTリンパ腫(限局期の多くは除菌のみで寛解する) ・胃過形成性ポリープ ・胃以外:免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)、鉄欠乏性貧血など

H. pyloriと関連しない、または負の関係にある病変

・胃粘膜下腫瘍(平滑筋腫、GIST、神経鞘腫など):間葉系組織から生じる ・胃底腺ポリープ:H. pylori陰性の胃に多い ・逆流性食道炎:除菌後に酸分泌が回復して一時的に増えることがある

H. pylori感染の診断法

内視鏡を用いる方法:迅速ウレアーゼ試験、鏡検法(組織染色)、培養法 内視鏡を用いない方法:尿素呼気試験、便中抗原測定、血清・尿中抗体測定 PPI内服中は偽陰性が出やすいため、尿素呼気試験などではPPIの中止期間を置く。

除菌治療

一次除菌はPPI(またはカリウムイオン競合型酸ブロッカーであるボノプラザン)+アモキシシリン+クラリスロマイシンの3剤を7日間、二次除菌ではクラリスロマイシンをメトロニダゾールに替える。現在はボノプラザンを用いたレジメンが除菌率の高さから広く用いられている。

POINT

・H. pyloriは胃粘膜の慢性炎症を起こし、慢性胃炎・消化性潰瘍・胃癌・胃MALTリンパ腫・過形成性ポリープに関与する。 ・胃平滑筋腫やGISTなど間葉系由来の粘膜下腫瘍はH. pyloriと関連しない。 ・胃底腺ポリープや逆流性食道炎は、むしろH. pylori陰性例や除菌後に多い。 ・H. pyloriはIARCのグループ1発がん因子である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。