「本態」から選ぶ処方箋―喘息に吸入ステロイドが基本である理由
第103回医師国家試験 G問題 第22問
国試問題にチャレンジ
疾患と治療薬の組合せで正しいのはどれか。
- a.肺結核 ―― マクロライド系抗菌薬
- b.気管支喘息 ―― 副腎皮質ステロイド吸入薬
- c.肺血栓塞栓症 ―― 降圧薬
- d.サルコイドーシス ―― 気管支拡張薬
- e.マイコプラズマ肺炎 ―― ペニシリン系抗菌薬
対話形式の解説
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ドクターまとめ
呼吸器疾患の治療薬は、「その疾患の本態は何か」から考えると整理しやすくなります。気管支喘息の本態は好酸球などが関与する気道の慢性炎症であり、全身性副作用の少ない吸入ステロイド薬が重症度を問わず長期管理の基本薬で、発作時は短時間作用性β2刺激薬の吸入が中心です。肺結核は4剤による多剤併用療法、マクロライド系は肺MAC症の中心薬、肺血栓塞栓症は抗凝固療法が基本で重症例では血栓溶解療法、サルコイドーシスは経過観察が基本で進行例に全身性ステロイド、細胞壁をもたないマイコプラズマにはβラクタム系が無効でマクロライド系が第一選択となります。病態や病原体の性質と薬の作用点を結びつけて理解しておくと、選択肢問題だけでなく実際の処方判断にも応用できます。
解答・解説
正解はbです
本問は、主要な呼吸器疾患について、その病態や病原体の性質に合った治療薬を選べるかを問う問題である。 治療薬は丸暗記するよりも、「その疾患の本態は何か」から考えると判断しやすい。 ・感染症であれば、病原体の構造(細胞壁の有無など)や増殖様式に応じて効く抗菌薬が決まる。 ・慢性炎症が本態の疾患であれば、抗炎症薬が治療の中心になる。 ・血栓による血管閉塞であれば、血栓の進展を防ぐ抗凝固薬や、血栓を溶かす血栓溶解薬を用いる。 ・肉芽腫性疾患で自然軽快が多いものは、まず経過観察を行い、臓器障害が進む場合に免疫抑制的な治療を加える。 気管支喘息は気道の慢性炎症が本態であり、その炎症を抑える吸入ステロイド薬が長期管理の基本薬である。したがって b の組合せが正しい。他の選択肢は、いずれも病態あるいは病原体の性質と治療薬が合っていない。
選択肢考察
- ×a. 肺結核 ―― マクロライド系抗菌薬
肺結核の標準治療は、耐性菌の出現を防ぐため複数の抗結核薬を併用する多剤併用療法である。標準的には、イソニアジド(INH)、リファンピシン(RFP)、ピラジナミド(PZA)にエタンブトール(EB)またはストレプトマイシン(SM)を加えた4剤で2か月間治療し、その後INH+RFPを4か月間続ける(計6か月)。マクロライド系抗菌薬は結核菌に対する標準治療薬には含まれない。なお、マクロライド系のクラリスロマイシンは、非結核性抗酸菌症のうち肺MAC症(Mycobacterium avium complex による感染症)の治療の中心となる薬であり、結核と混同しないよう注意する。
- ○b. 気管支喘息 ―― 副腎皮質ステロイド吸入薬
気管支喘息の本態は、好酸球やリンパ球などが関与する気道の慢性炎症であり、これにより気道過敏性の亢進と可逆性の気流制限が生じる。吸入ステロイド薬(inhaled corticosteroid:ICS)は気道局所で炎症を強力に抑え、全身性の副作用が少ないため、軽症から重症まで重症度にかかわらず長期管理の基本薬とされる。必要に応じて長時間作用性β2刺激薬(LABA)や長時間作用性抗コリン薬(LAMA)などを追加する。したがってこの組合せは正しい。
- ×c. 肺血栓塞栓症 ―― 降圧薬
肺血栓塞栓症は、主に下肢などの深部静脈にできた血栓が遊離して肺動脈を閉塞する疾患である。治療の基本は、血栓の進展と再発を防ぐ抗凝固療法(未分画ヘパリン、直接経口抗凝固薬〈DOAC〉、ワルファリンなど)であり、ショックや低血圧を伴う重症例では血栓溶解療法やカテーテル治療、外科的血栓摘除術が考慮される。重症例ではむしろ右心不全のために血圧が低下しやすく、降圧薬を用いる適応はない。
- ×d. サルコイドーシス ―― 気管支拡張薬
サルコイドーシスは原因不明の全身性の類上皮細胞肉芽腫性疾患である。両側肺門リンパ節腫脹(bilateral hilar lymphadenopathy:BHL)のみの例などでは自然に軽快することが多く、経過観察が基本となる。肺野病変が進行して呼吸機能が悪化する例や、心臓・眼・神経などに重要な臓器病変がある例では、副腎皮質ステロイドの全身投与を行い、効果不十分な場合にはメトトレキサートなどの免疫抑制薬を併用する。本症は気道の攣縮による気流制限を主病態とする疾患ではないため、気管支拡張薬は治療の中心にはならない。
- ×e. マイコプラズマ肺炎 ―― ペニシリン系抗菌薬
Mycoplasma pneumoniae は細胞壁をもたない病原体である。ペニシリン系などのβラクタム系抗菌薬は細胞壁の合成を阻害して効果を発揮するため、マイコプラズマには無効である。治療の第一選択はタンパク合成を阻害するマクロライド系抗菌薬であり、マクロライド耐性株が疑われる場合などにはテトラサイクリン系(ミノサイクリン、ドキシサイクリン)やニューキノロン系抗菌薬が用いられる。なお、テトラサイクリン系は歯の着色などのため8歳未満の小児には原則として避ける。
気管支喘息の治療の考え方
治療は、発作を起こさないようにする長期管理(コントローラー)と、発作時の治療(リリーバー)に分けられる。 ・長期管理:吸入ステロイド薬が基本。重症度に応じてLABA、LAMA、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤を追加し、重症例では抗IgE抗体、抗IL-5抗体、抗IL-5受容体α抗体、抗IL-4受容体α抗体などの生物学的製剤を用いる。 ・発作時:短時間作用性β2刺激薬(SABA)の吸入が中心であり、中等度以上の発作では全身性ステロイド薬や酸素投与を行う。
細胞壁の有無と抗菌薬
βラクタム系(ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系)は細胞壁合成阻害薬であり、細胞壁をもたないマイコプラズマや、細胞内で増殖するクラミジア(クラミドフィラ)、レジオネラなどの非定型病原体には効きにくい。これらによる肺炎(非定型肺炎)にはマクロライド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系を用いる。
疾患と治療薬の対応の整理
・肺結核:INH+RFP+PZA+EB(またはSM)による多剤併用療法 ・肺MAC症:クラリスロマイシンを中心とした多剤併用療法 ・肺血栓塞栓症:抗凝固療法、重症例では血栓溶解療法など ・サルコイドーシス:経過観察が基本、臓器障害が進む場合は全身性ステロイド ・マイコプラズマ肺炎:マクロライド系、耐性例ではテトラサイクリン系・ニューキノロン系
POINT
・気管支喘息は気道の慢性炎症が本態であり、吸入ステロイド薬が重症度を問わず長期管理の基本薬 ・マイコプラズマは細胞壁をもたないため、βラクタム系は無効。第一選択はマクロライド系 ・肺結核は多剤併用療法。マクロライド系は結核ではなく肺MAC症の中心薬 ・肺血栓塞栓症は抗凝固療法が基本で、重症例では血栓溶解療法 ・サルコイドーシスは経過観察が基本で、進行例に全身性ステロイド
