StudyMed医師国家試験

パチパチ、ヒュー、ゴロゴロ―聴診音から病態を読み解く呼吸器疾患の組合せ

第103回医師国家試験 G問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第103回 G問題 第21問

組合せで正しいのはどれか。

  1. a.気胸 ―― wheezes
  2. b.気管支喘息 ―― coarse crackles
  3. c.肺血栓塞栓症 ―― 呼吸音減弱
  4. d.特発性肺線維症 ―― fine crackles
  5. e.慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉 ―― 胸膜摩擦音

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、代表的な呼吸器疾患と聴診所見の対応を問う問題だ。丸暗記で解くこともできるけれど、「肺のどこで、何が起きているか」から音を推理できるようになると忘れにくい。まずは聴診所見の分類から整理しよう。肺の聴診所見は大きく何に分けられるかな。
医学生医学生
呼吸音そのものの変化と、本来聞こえないはずの副雑音、ですよね。OSCEの胸部診察の練習で最初に習いました。
ドクタードクター
その通り。呼吸音の変化には減弱・消失、気管支呼吸音化、呼気延長などがある。副雑音は肺の中で生じるラ音と、肺の外で生じる胸膜摩擦音などに分かれる。ラ音はさらに、連続性ラ音と断続性ラ音に分けるんだ。
医学生医学生
連続性がwheezesとrhonchi、断続性がfine cracklesとcoarse cracklesですね。ただ、fineとcoarseの成り立ちの違いがいまひとつ曖昧です。
ドクタードクター
そこが今回の核心だね。fine cracklesは捻髪音とも呼ばれ、呼気で閉じた末梢気道が吸気の後半に一気に開くときの音と考えられている。肺が硬くなる疾患、つまり間質の線維化で典型的に聴かれる。coarse cracklesは水泡音で、気道内の分泌物や液体の中を空気が通過するときに生じる。肺炎、気管支拡張症、肺水腫などで聴かれるんだ。
医学生医学生
なるほど、fineは「硬い肺」、coarseは「水っぽい気道」というイメージですね。では特発性肺線維症はfine cracklesで合っていそうです。
ドクタードクター
正解。特発性肺線維症は特発性間質性肺炎の中で最も多い病型で、間質に進行性の線維化が起こる。両側下肺野の背側で、吸気終末にマジックテープをはがすようなパチパチという音が聴かれる。velcroラ音とも呼ばれるよ。ばち指と並ぶ重要な身体所見だ。
医学生医学生
呼吸器内科を回ったとき、間質性肺炎の患者さんの背中で聴かせてもらいました。前胸部だとほとんど聞こえなかったのが印象的でした。
ドクタードクター
いい経験だね。下肺野背側が好発部位だから、背部の聴診を省くと見逃しやすい。では他の組合せも見ていこう。気胸でwheezesはどうかな。
医学生医学生
気胸は胸腔に空気がたまって肺がしぼむので、音自体が伝わりにくくなる気がします。
ドクタードクター
その推論で正しい。気胸では患側の呼吸音が減弱ないし消失し、打診では鼓音、声音振盪も低下する。wheezesは気道が狭くなったことを示す音なので、気胸の特徴ではないんだ。
医学生医学生
気管支喘息でcoarse cracklesというのは、喘息でも痰が出るので一瞬迷いました。
ドクタードクター
迷うのはわかるよ。でも喘息の本質は気道狭窄だ。平滑筋の収縮や気道壁の浮腫、粘液栓で気道が狭くなり、主に呼気時に高調なwheezesと呼気延長が聴かれる。注意したいのは重症発作で、換気量が著しく減るとwheezesすら聞こえなくなることがある。これをsilent chestといって、むしろ危険なサインなんだ。
医学生医学生
音が消えたから良くなった、と勘違いしてはいけないんですね。肺血栓塞栓症の呼吸音減弱はどうでしょう。
ドクタードクター
肺血栓塞栓症は肺動脈が詰まる病気で、障害されるのは主に血流だ。気道や肺胞への空気の出入りは保たれるから、呼吸音は正常なことが多い。突然の呼吸困難や低酸素血症があるのに聴診で目立った所見がない、というギャップがむしろ本症を疑う手がかりになるんだ。肺梗塞や胸水を伴えば局所的な変化が出ることもあるけれど、典型とはいえない。
医学生医学生
最後のCOPDで胸膜摩擦音、というのも違いそうですね。胸膜摩擦音は胸膜炎の所見だと習いました。
ドクタードクター
その通り。胸膜摩擦音は炎症で粗くなった臓側胸膜と壁側胸膜がこすれ合う音で、呼吸に同期して吸気・呼気ともに聴かれる。COPDでは肺胞壁の破壊による過膨張と気流制限のため、呼吸音は全体に減弱し、呼気が延長する。気道狭窄を反映してwheezesが聴かれることもあるね。
医学生医学生
病態をイメージすると、空気がたまるのか、気道が狭いのか、肺が硬いのか、胸膜が荒れているのかで音が決まるんですね。
ドクタードクター
まさにそれがこの問題の狙いだ。発展として、特発性肺線維症の全体像も押さえておこう。中高年の男性、喫煙者に多く、緩徐に進行する労作時呼吸困難と乾性咳嗽で始まる。画像では両側下肺野・胸膜直下優位の網状影や蜂巣肺、呼吸機能では拘束性換気障害と拡散能の低下、血清ではKL-6やSP-Dの上昇がみられる。
医学生医学生
fine cracklesは石綿肺や過敏性肺炎でも聴かれると聞きました。
ドクタードクター
そう、fine cracklesは間質性肺疾患に広くみられる所見で、特発性肺線維症だけに特異的ではない。だから聴診で間質性肺炎を疑ったら、職業歴や環境曝露、膠原病の有無も確認して原因を探ることが大切だ。聴診は胸部画像より先に異常を拾えることもある、身近で強力な検査だよ。

まとめ

肺の聴診所見は、呼吸音そのものの変化(減弱・消失、気管支呼吸音化、呼気延長)と副雑音(連続性ラ音、断続性ラ音、胸膜摩擦音)に分けて整理すると理解しやすくなります。特発性肺線維症では、線維化で硬くなった肺の末梢気道が吸気後半に再開放されることで、両側下肺野背側の吸気終末にfine crackles(捻髪音)を聴取するのが典型です。気胸では患側呼吸音の減弱・消失、気管支喘息ではwheezesと呼気延長(重症発作ではsilent chestに注意)、COPDでは呼吸音減弱と呼気延長がみられ、肺血栓塞栓症は症状のわりに聴診所見に乏しいことが多く、胸膜摩擦音は胸膜炎を示唆します。「空気がたまる」「気道が狭い」「肺が硬い」「胸膜が荒れる」という病態から音を推理する習慣は、ベッドサイドでの素早い鑑別に直結します。

解答・解説

正解はdです

本問は、代表的な呼吸器疾患と、その疾患で聴診上とらえられる所見との対応を問うものである。 肺の聴診所見は大きく二つに分けて考えると整理しやすい。一つは「呼吸音そのもの」の変化であり、減弱・消失、気管支呼吸音化(本来肺胞呼吸音が聞こえる部位で気管支呼吸音が聞こえる)、呼気延長などがある。もう一つは本来聞こえないはずの「副雑音」であり、肺内から生じるラ音(連続性ラ音と断続性ラ音)と、肺外から生じる胸膜摩擦音などに分けられる。 連続性ラ音は気道の狭窄部を空気が通過する際の気道壁の振動で生じ、高調のwheezes(笛様音)と低調のrhonchi(いびき様音)がある。断続性ラ音は、細かく高調なfine crackles(捻髪音)と、粗く低調なcoarse crackles(水泡音)に分かれる。fine cracklesは、呼気時に閉塞した末梢気道が吸気の後半に急に再開放されるときの音と考えられ、間質の線維化で肺が硬くなる疾患で典型的に聴取される。coarse cracklesは、気道内の分泌物や液体の中を空気が通過する際に生じ、肺炎や気管支拡張症、肺水腫などで聴かれる。 各選択肢について、その疾患の病態(空気や液体がどこに貯留するか、気道が狭くなるか、間質が硬くなるか、胸膜に炎症があるか)から、どの所見が生じるかを考えれば正解を導ける。特発性肺線維症は間質の線維化が主体の疾患であり、両側下肺野背側の吸気終末に fine crackles を聴取するのが典型であるため、この組合せが正しい。

選択肢考察

  1. ×a.  気胸 ―― wheezes

    気胸では胸膜腔に空気がたまり肺が虚脱するため、患側の呼吸音が減弱ないし消失する。また打診では鼓音を呈し、声音振盪も低下する。wheezesは気道の狭窄を反映する連続性ラ音であり、気胸に特徴的な所見ではない。

  2. ×b.  気管支喘息 ―― coarse crackles

    気管支喘息では気道平滑筋の収縮、気道壁の浮腫、粘液栓などにより気道が狭窄し、主に呼気時に高調な連続性ラ音であるwheezesを聴取し、呼気が延長する。なお、重症発作で換気量が著しく低下すると、wheezesすら聞こえなくなる(silent chest)ことがあり、危険な徴候である。coarse cracklesは気道内の分泌物や液体を反映する断続性ラ音であり、喘息の典型的所見ではない。

  3. ×c.  肺血栓塞栓症 ―― 呼吸音減弱

    肺血栓塞栓症は肺動脈が血栓で閉塞する疾患で、障害されるのは主に血流(灌流)であり、気道や肺胞への空気の出入りは保たれる。そのため呼吸音は正常であることが多く、呼吸音減弱は本症に特徴的な所見ではない。むしろ、突然の呼吸困難や頻呼吸、低酸素血症があるのに聴診所見に乏しいことが本症を疑う手がかりになる。肺梗塞や胸水を合併した場合には局所的な呼吸音減弱や胸膜摩擦音がみられることもあるが、典型的とはいえない。その他、肺高血圧を反映してII音の肺動脈成分(IIp)が亢進することがある。

  4. ○d.  特発性肺線維症 ―― fine crackles

    特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)は特発性間質性肺炎の中で最も頻度が高い病型で、肺の間質に進行性の線維化をきたす。線維化で硬くなった肺では、呼気時に虚脱した末梢気道が吸気後半に急激に再開放され、パチパチ、あるいはマジックテープをはがすようなfine crackles(捻髪音、velcro ラ音とも呼ばれる)を生じる。両側の下肺野背側で吸気終末に聴取されるのが典型であり、ばち指とともに重要な身体所見である。したがってこの組合せは正しい。

  5. ×e.  慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉 ―― 胸膜摩擦音

    慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)では、肺胞壁の破壊による肺の過膨張と気流制限のため、呼吸音は全体に減弱し、呼気が延長する。気道狭窄を反映してwheezesを聴取することもある。胸膜摩擦音は、炎症で粗くなった臓側胸膜と壁側胸膜がこすれ合って生じる音で、胸膜炎(乾性胸膜炎)などでみられる所見であり、COPDに特徴的なものではない。

肺の聴診所見の分類

1. 呼吸音の異常 ・減弱・消失:気胸、胸水、無気肺、COPD(肺の過膨張)、高度の肥満など ・気管支呼吸音化:肺炎による浸潤影(コンソリデーション)など、肺実質が含気を失い音の伝導がよくなった状態 ・呼気延長:気管支喘息、COPDなどの閉塞性障害 2. 副雑音(肺内由来のラ音) ・連続性ラ音  wheezes(笛様音、高調):気管支喘息、COPD、心不全(心臓喘息)など、比較的細い気道の狭窄  rhonchi(いびき様音、低調):太い気道の狭窄や分泌物の貯留  stridor(吸気性喘鳴):喉頭や気管など上気道の狭窄(喉頭蓋炎、クループ、異物など) ・断続性ラ音  fine crackles(捻髪音):吸気終末に聴取。特発性肺線維症などの間質性肺炎、石綿肺、過敏性肺炎など  coarse crackles(水泡音):吸気早期から聴取され、呼気にも及ぶことがある。細菌性肺炎、気管支拡張症、肺水腫など 3. 肺外由来の副雑音 ・胸膜摩擦音:胸膜炎、肺梗塞に伴う胸膜炎など。呼吸に同期し、吸気・呼気ともに聴取される

特発性肺線維症の特徴

中高年の男性、喫煙者に多い。緩徐に進行する労作時呼吸困難と乾性咳嗽が主症状である。身体所見ではfine cracklesとばち指、画像では両側下肺野・胸膜直下優位の網状影や蜂巣肺を認め、呼吸機能検査では拘束性換気障害と拡散能(DLCO)の低下を示す。血清マーカーとしてKL-6、SP-D、SP-Aが上昇する。

POINT

・特発性肺線維症などの間質性肺炎:fine crackles(捻髪音)、吸気終末、両側下肺野背側 ・気管支喘息:wheezesと呼気延長。重症発作ではsilent chestに注意 ・気胸:患側呼吸音の減弱・消失、打診で鼓音 ・肺血栓塞栓症:呼吸困難・低酸素血症のわりに聴診所見は乏しいことが多い ・COPD:呼吸音減弱、呼気延長 ・胸膜摩擦音は胸膜炎の所見

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。