梗塞3日目の新しい雑音―前壁中隔梗塞が招く「心室中隔穿孔」を見抜く
第103回医師国家試験 A問題 第35問
国試問題にチャレンジ
53歳の男性。激しい胸痛のため搬入された。12誘導心電図を別に示す。入院3日後,突然呼吸困難が出現した。新たな収縮期心雑音とcoarse cracklesとを聴取する。 考えられるのはどれか。

- a.左室瘤
- b.心室中隔穿孔
- c.左室自由壁破裂
- d.左室流出路狭窄
- e.左室リモデリング
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急性心筋梗塞の発症から1週間以内に、突然の呼吸困難と新たな収縮期雑音、肺のcoarse cracklesが出現した場合は、心室中隔穿孔か乳頭筋断裂という機械的合併症を考えます。心室中隔穿孔は前壁中隔梗塞に多く、胸骨左縁下部の粗い全収縮期雑音と振戦、右室での酸素飽和度ステップアップが特徴で、乳頭筋断裂は下壁梗塞に多く急性僧帽弁逆流を起こします。左室自由壁破裂は同じ時期に起こるものの心タンポナーデから無脈性電気活動に至り雑音は生じず、左室瘤やリモデリングは数週〜数か月かけて進む変化です。心電図による梗塞部位診断と発症からの時期を組み合わせることで合併症を絞り込め、心エコーで速やかに確認して早期の外科的修復につなげることが救命の鍵になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・53歳男性。激しい胸痛で救急搬入された。 ・12誘導心電図:V1〜V4を中心にV5にかけて著明なST上昇がみられ、V1〜V3ではQS型(R波の消失)を示す。一方、I、II、III、aVL、aVFには目立ったST上昇はない。左冠動脈前下行枝の閉塞による急性前壁中隔梗塞と判断できる。 ・入院3日後に突然呼吸困難が出現した。 ・新たな収縮期心雑音を聴取する。 ・両肺にcoarse crackles(水泡音:粗い断続性ラ音)を聴取し、肺うっ血・肺水腫を示唆する。
診断へのプロセス
急性心筋梗塞の発症後、数日(多くは1週間以内)の時期に、突然の心不全と新たな収縮期雑音が出現した場合は、梗塞で脆くなった心筋が裂ける「機械的合併症」をまず考える。新たな収縮期雑音の原因となる機械的合併症は次の2つである。 ・心室中隔穿孔:梗塞した心室中隔に穴があき、収縮期に左室から右室へ血液が短絡(左右短絡)する。胸骨左縁下部で粗い全収縮期雑音を聴取し、振戦(thrill)を触れることが多い。前壁中隔梗塞に多い。 ・乳頭筋断裂:僧帽弁を支える乳頭筋がちぎれ、急性の重症僧帽弁逆流を生じる。心尖部の収縮期雑音で、心拍出量が急減するため雑音は意外に小さいこともある。単一の冠動脈から血流を受ける後乳頭筋が侵されやすく、下壁(後下壁)梗塞に多い。 どちらも急激な肺うっ血(coarse crackles)や低血圧・心原性ショックを起こす。本例は心電図から前壁中隔梗塞であり、心室中隔の梗塞に起因する穿孔と考えるのが最も妥当である。 確定診断には心エコー(カラードプラ法)で中隔の欠損孔と左右短絡の血流を確認する。右心カテーテル(Swan-Ganzカテーテル)では、右房に比べて右室・肺動脈の血液の酸素飽和度が上昇する(ステップアップ)ことも診断の手がかりになる。
選択肢考察
- ×a. 左室瘤
誤り。左室瘤は、広範な貫壁性梗塞(とくに前下行枝閉塞による前壁〜心尖部梗塞)の後、梗塞部が薄い線維性瘢痕に置き換わり、収縮期に外側へ膨らむ(奇異性運動)状態である。形成には治癒過程を要するため、多くは発症から数週〜数か月後に明らかになる。心電図で梗塞後もST上昇が持続するのが特徴で、心不全、心室性不整脈、瘤内血栓による塞栓症の原因となる。入院3日後の突然の呼吸困難と新たな収縮期雑音という急激な経過は、左室瘤では説明しにくい。
- ○b. 心室中隔穿孔
正しい。心室中隔穿孔は急性心筋梗塞の機械的合併症の一つで、梗塞で壊死・軟化した心室中隔が裂けて生じる。発症から1週間以内、とくに数日以内に多い。前下行枝の中隔枝が灌流する中隔前部が障害される前壁中隔梗塞で起こりやすい(下壁梗塞でも中隔基部に生じうる)。穿孔により左室から右室へ大量の血液が短絡するため、肺血流量が増えて肺うっ血となり、同時に体循環への拍出量が減って低血圧・心原性ショックに陥る。聴診では胸骨左縁下部に新たな粗い全収縮期雑音を聴き、振戦を伴うことが多い。本例は前壁中隔梗塞の3日後に、突然の呼吸困難、新たな収縮期雑音、coarse cracklesを呈しており典型的である。診断は心エコーのカラードプラ法で行い、治療は大動脈内バルーンパンピング(IABP)などで循環を支えながら、早期の外科的修復(穿孔閉鎖術、必要に応じて冠動脈バイパス術を併施)を行う。内科的治療のみでは予後は極めて不良である。
- ×c. 左室自由壁破裂
誤り。左室自由壁破裂は、梗塞部の左室外壁が裂けて心嚢内に出血する合併症で、発症後早期(多くは1週間以内)に起こる。高齢者、女性、高血圧、初回の貫壁性梗塞などが危険因子である。急激に心タンポナーデとなり、血圧低下・意識消失をきたし、心電図上は電気活動があるのに脈が触れない無脈性電気活動(PEA)に陥って突然死することが多い。破裂部が血栓などでふさがれて緩徐に進む亜急性型もある。血液は心嚢内にたまるので、心内の短絡や弁逆流による新たな収縮期雑音は生じず、本例の所見とは合わない。
- ×d. 左室流出路狭窄
誤り。左室流出路狭窄(左室流出路の圧較差)は、主に閉塞性肥大型心筋症でみられる。肥厚した心室中隔と、収縮期に前方へ引き寄せられる僧帽弁前尖(僧帽弁収縮期前方運動:SAM)により流出路が狭くなり、胸骨左縁に駆出性収縮期雑音を聴く。急性心筋梗塞でも、心尖部の広範な梗塞に伴い心基部が過収縮して一過性に流出路狭窄を起こす例はあるが例外的であり、本例のように前壁中隔梗塞後数日で突然の肺水腫と新たな収縮期雑音をきたした場合にまず考えるべき病態ではない。
- ×e. 左室リモデリング
誤り。左室リモデリングとは、心筋梗塞の後に左室の大きさ・形・壁厚が変化していく過程を指す。梗塞部が薄く引き伸ばされて拡大する(梗塞伸展)とともに、残った非梗塞部も負荷の増大に適応して肥大・拡張し、左室全体が拡大・球状化していく。変化は発症直後から始まるが、数週〜数か月、さらには年単位で徐々に進み、慢性心不全の原因となる。ACE阻害薬やARB、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬がその抑制に用いられる。入院3日後に突然出現した呼吸困難と新たな収縮期雑音という急性の変化を説明する病態ではない。
急性心筋梗塞の主な合併症
・不整脈:心室細動・心室頻拍(発症早期の死亡原因として最多)、房室ブロック(下壁梗塞で多い)など。 ・ポンプ失調:心不全、心原性ショック。 ・機械的合併症:左室自由壁破裂、心室中隔穿孔、乳頭筋断裂。多くは発症1週間以内に起こり、緊急手術の適応となる。 ・その他:右室梗塞(下壁梗塞に合併)、心膜炎(早期の梗塞後心膜炎、数週後のDressler症候群)、左室瘤、左室内血栓と塞栓症。
機械的合併症の比較
・心室中隔穿孔:前壁中隔梗塞に多い。胸骨左縁下部の粗い全収縮期雑音、振戦を伴うことが多い。急性の肺うっ血とショック。右心カテーテルで右室での酸素飽和度ステップアップ。心エコーで中隔の欠損と左右短絡。 ・乳頭筋断裂:下壁(後下壁)梗塞に多い(後乳頭筋は右冠動脈または回旋枝の一方からのみ血流を受けるため)。心尖部の収縮期雑音で、振戦は伴わないことが多い。急性の重症僧帽弁逆流により著しい肺水腫。肺動脈楔入圧波形で巨大v波。 ・左室自由壁破裂:高齢者、女性、高血圧、初回梗塞に多い。心タンポナーデからPEAに陥り突然死することが多い。新たな心雑音は生じない。
治療の原則
心室中隔穿孔や乳頭筋断裂では、IABPなどの機械的循環補助、血管拡張薬や強心薬で血行動態を安定させつつ、早期に外科的修復(穿孔閉鎖術、僧帽弁置換術・形成術)を行い、必要に応じて冠動脈バイパス術(CABG)を同時に行う。自由壁破裂では心嚢穿刺で一時的にタンポナーデを解除しつつ緊急手術を行う。
心電図からの梗塞部位診断の目安
V1〜V4:前壁中隔(左前下行枝)、I・aVL・V5・V6:側壁(回旋枝や対角枝)、II・III・aVF:下壁(多くは右冠動脈)。
POINT
・心筋梗塞後の新たな収縮期雑音+急性心不全(肺水腫)→心室中隔穿孔か乳頭筋断裂を考える。 ・心室中隔穿孔は前壁中隔梗塞に多く、胸骨左縁下部の粗い全収縮期雑音と振戦、右室での酸素飽和度ステップアップが特徴。 ・乳頭筋断裂は下壁(後下壁)梗塞に多く、急性僧帽弁逆流を起こす。 ・左室自由壁破裂は心タンポナーデからPEAとなり、心雑音は出ない。 ・機械的合併症は発症1週間以内に多く、早期の外科的修復が必要。 ・左室瘤やリモデリングは数週〜数か月かけて進む変化で、急性の経過とは合わない。
