瓦礫の下から救出された後が本当の勝負―圧挫症候群でまず生理食塩液を入れる理由
第103回医師国家試験 A問題 第36問
国試問題にチャレンジ
40歳の女性。震度6の地震で倒壊した家の壁に両下肢を挟まれ3時間後に救出され搬入された。意識は清明。体温37.5℃。呼吸数22/分。脈拍120/分,整。血圧84/56mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。両下肢は発赤,皮下出血および腫脹が著明で,激しい疼痛を伴う。導尿で尿30mLを得た。尿所見:コーラ色,蛋白1+,糖(-),潜血3+,沈渣に赤血球0~2/1視野。血液所見:赤血球410万,Hb 13.8g/dL,Ht 40%,白血球12,000。血液生化学所見:総蛋白6.5g/dL,アルブミン3.2g/dL,尿素窒素25mg/dL,クレアチニン1.8 mg/dL,AST 320IU/L,ALT 90IU/L,CK 16,000IU/L(基準40~200),Na 140mEq/L,K 6.5 mEq/L,Cl 108mEq/L。 まず行うのはどれか。
- a.血液透析
- b.腹膜透析
- c.下肢切断術
- d.生理食塩液投与
- e.新鮮凍結血漿投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
四肢などの大きな筋肉が長時間圧迫されたのち解除されると、壊死した筋からカリウムやミオグロビンが全身へ流れ込み、同時に挫滅筋への血漿漏出で循環血液量が減少する圧挫症候群(クラッシュ症候群)が起こります。CKの著増、尿潜血陽性なのに沈渣で赤血球がほとんどないミオグロビン尿、高カリウム血症、腎機能障害、Hbが保たれたショックが典型的な所見です。初期治療の柱はカリウムを含まない生理食塩液の大量輸液で、ショックの離脱と尿量確保によるミオグロビン性急性腎障害の予防を図り、高カリウム血症には心電図モニター下でカルシウム製剤やグルコース・インスリン療法を並行します。透析は輸液に反応しない場合の二次的手段で、区画症候群には切断ではなく筋膜切開を検討します。救出直後は元気に見えても急変しうるため、受傷機転から本症を疑い救出前から輸液を始める考え方は、災害医療の現場で欠かせない知識です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・受傷機転:地震で倒壊した家屋の壁に両下肢を3時間挟まれ、その後に救出された。広範な骨格筋が長時間圧迫され、圧迫解除によって再灌流が起きた状況である。 ・バイタルサイン:脈拍120/分、血圧84/56mmHgで、頻脈を伴う低血圧、すなわちショック状態である。ショックインデックス(心拍数÷収縮期血圧)は約1.4と高い。 ・局所所見:両下肢に発赤・皮下出血・著明な腫脹と激しい疼痛がある。筋組織が挫滅し、区画〈コンパートメント〉症候群に進みつつある可能性もある。 ・尿所見:尿量が少なく(導尿で30mL)、コーラ色である。尿潜血3+なのに沈渣の赤血球は0~2/1視野とほとんど見られない。尿潜血の試験紙はヘモグロビンだけでなくミオグロビンのペルオキシダーゼ様活性にも反応するため、この「潜血陽性・赤血球なし」の乖離はミオグロビン尿を示す。 ・血液検査:CK 16,000IU/Lと著増し、AST優位の上昇(AST 320、ALT 90)も筋由来である。K 6.5mEq/Lの高カリウム血症、BUN 25mg/dL・クレアチニン1.8mg/dLの腎機能低下がある。Hb 13.8g/dL・Ht 40%と貧血はなく、むしろ濃縮傾向である。
診断へのプロセス
長時間の圧迫後の救出、筋逸脱酵素の著増、ミオグロビン尿、高カリウム血症、腎機能障害がそろっており、圧挫症候群(クラッシュ症候群)と診断できる。圧迫を解除すると、壊死した筋細胞からカリウム・ミオグロビン・乳酸などが一気に全身へ流れ込み、同時に損傷した筋組織へ大量の血漿成分が漏れ出す。 ショックの原因として外傷による出血をまず考えるが、Hb・Htが保たれているため大量出血は考えにくい。挫滅した下肢の筋肉への体液漏出(サードスペースへの移行)による循環血液量減少性ショックと考えるのが妥当である。腎機能障害は、循環血液量減少による腎血流低下(腎前性)と、ミオグロビンによる尿細管障害(腎性)の両方が関与しうる。
まず行うこと
循環血液量を回復させてショックを離脱し、あわせて尿量を確保してミオグロビンを腎から洗い流すことが最優先である。そのためには、カリウムを含まない等張の細胞外液である生理食塩液を大量に輸液する。高カリウム血症(K 6.5mEq/L)は致死的不整脈の危険があるため、心電図モニターを装着し、必要に応じてグルコン酸カルシウム、グルコース・インスリン療法、炭酸水素ナトリウムなどで並行して対処する。透析は、十分な輸液を行っても乏尿・高カリウム血症・アシドーシスなどが改善しないときに検討する二次的な手段である。
選択肢考察
- ×a. 血液透析
治療抵抗性の高カリウム血症、乏尿による体液過剰(肺水腫など)、高度の代謝性アシドーシス、急速に進む高窒素血症など、急性腎障害が完成した段階では適応となる。しかし本症例はショック状態で、しかも循環血液量が減っているため、この段階で体外循環を始めるとさらに血圧が下がる危険がある。まずは輸液で循環を立て直すべきで、最初に行う処置ではない。なお、ミオグロビン(分子量約17,000)は通常の血液透析では除去されにくく、除去を狙うなら持続的血液濾過透析〈CHDF〉などの方が有利とされる。
- ×b. 腹膜透析
腹膜透析は腹腔内に透析液を貯留し、腹膜を介して溶質と水分を交換する方法である。主に慢性腎不全の在宅療法として用いられ、効率が低く効果の発現が遅い。高カリウム血症や急性腎障害に対して緊急に血液浄化が必要な場合は、血液透析などの体外循環による方法を選ぶ。本症例の初期対応としては不適切である。
- ×c. 下肢切断術
下肢の損傷の程度は現時点で不明であり、血流障害、神経損傷、その後の壊死や感染の経過をみて判断すべきものである。40歳と若く、患肢はできるだけ温存を目指す。救出現場で脱出不能な場合や、患肢の壊死・重症感染で救命が脅かされる場合に切断が考慮されることはあるが、搬入直後にまず行う処置ではない。区画症候群が進行した場合は、切断ではなく筋膜切開による減張が検討される。
- ○d. 生理食塩液投与
本症例のショックは、挫滅筋への体液漏出による循環血液量減少が主な原因であり、大量の細胞外液補充が治療の基本となる。生理食塩液はカリウムを含まないため、高カリウム血症がある状態でもカリウム負荷にならない。十分な輸液で腎血流と尿量を保つ(成人で200~300mL/時程度の尿量を目標とすることが多い)ことで、ミオグロビンによる尿細管閉塞と急性腎障害を予防できる。理想的には救出前から現場で静脈路を確保して輸液を始めておくと、圧迫解除直後の高カリウム血症やアシドーシスの急激な悪化を和らげられる。
- ×e. 新鮮凍結血漿投与
新鮮凍結血漿は凝固因子の補充を目的とし、大量出血に伴う希釈性・消費性の凝固障害や播種性血管内凝固〈DIC〉で出血傾向がある場合に用いられる。本症例では凝固異常を示す所見はなく、循環血液量の補充という目的で使うものでもない。圧挫症候群が進行してDICを合併すれば適応となりうるが、現時点の優先度は低い。
圧挫症候群(クラッシュ症候群)とは
四肢や臀部などの大きな筋肉が長時間(目安として数時間以上)圧迫された後に、圧迫が解除されることで起こる全身性の病態である。1995年の阪神・淡路大震災で多数発生し、日本で広く知られるようになった。
病態
・圧迫中:筋肉が虚血に陥り、筋細胞膜が壊れて細胞内のカリウム、ミオグロビン、乳酸、リンなどがたまる。 ・圧迫解除後(再灌流):これらが一気に全身循環に流れ込み、高カリウム血症(心室細動・心停止の原因)、代謝性アシドーシス、ミオグロビン尿を起こす。同時に、傷んだ筋組織の毛細血管から血漿成分が漏れ、患肢が腫れて循環血液量が減少する(ショック)。 ・腎障害:循環血液量減少による腎血流低下に加え、ミオグロビンが酸性尿の中で尿細管に円柱を作って詰まらせ、また直接の尿細管毒性を示すことで急性腎障害に至る。
特徴的な検査所見
・CKの著明な上昇(数千~数十万IU/L) ・尿潜血陽性なのに尿沈渣で赤血球がほとんどない(ミオグロビン尿) ・高カリウム血症、高リン血症、低カルシウム血症、代謝性アシドーシス
治療
・救出前からの輸液開始が理想(カリウムを含まない生理食塩液を大量に) ・高カリウム血症への対応:心電図モニター、グルコン酸カルシウム静注(心筋保護)、グルコース・インスリン療法、炭酸水素ナトリウムなど ・尿量の確保とミオグロビン排泄の促進 ・区画症候群に対する筋膜切開の検討 ・輸液に反応しない乏尿・高カリウム血症・アシドーシス・体液過剰には血液浄化療法
注意点
救出直後は意識清明で一見元気に見えることがあり、軽症と判断されやすい。その後、急に心停止や腎不全に陥ることがあるため、受傷機転から本症を疑うことが重要である。
POINT
・長時間の四肢圧迫→救出後のショック、ミオグロビン尿(潜血陽性・沈渣赤血球なし)、CK著増、高カリウム血症→圧挫症候群 ・ショックの主因は挫滅筋への体液漏出による循環血液量減少 ・初期治療はカリウムを含まない生理食塩液の大量輸液(できれば救出前から) ・高カリウム血症には心電図モニターとカルシウム製剤・グルコース・インスリン療法などで並行対処 ・透析は輸液で改善しない腎障害・高カリウム血症に対する二次的手段 ・区画症候群には筋膜切開、下肢切断は第一選択ではない
