ASTが勝つか、ALTが勝つか―比で見抜くアルコール性肝障害
第102回医師国家試験 D問題 第14問
国試問題にチャレンジ
アルコール性肝障害の特徴でないのはどれか。
- a.血清AST/ALT比<1
- b.血清γ-GTP高値
- c.肝腎コントラスト増強
- d.肝線維化
- e.肝組織好中球浸潤
対話形式の解説
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ドクターまとめ
アルコール性肝障害は脂肪肝、肝線維症、肝炎、肝硬変へと進行しうる病態で、血液検査ではAST優位(AST/ALT比>1)のトランスアミナーゼ上昇とγ-GTP高値が特徴です。AST優位になる背景には、ミトコンドリア障害によるASTの逸脱とビタミンB6不足によるALT活性の低下があり、ALT優位となる慢性ウイルス性肝炎や初期のNAFLDとの鑑別に役立ちます。超音波では脂肪肝を反映した肝腎コントラストの増強、病理では脂肪化、風船様変性、Mallory-Denk体、好中球浸潤、肝細胞周囲性線維化がみられます。治療の基本は禁酒と栄養改善で、γ-GTPは禁酒の確認にも使えます。検査値の「向き」を理由とともに理解しておくと、日常診療で肝障害の原因を推定する力につながります。
解答・解説
正解はaです
アルコール性肝障害は、長期間の過剰飲酒によって起こる肝障害の総称で、病態の進行に応じてアルコール性脂肪肝、アルコール性肝線維症、アルコール性肝炎、アルコール性肝硬変などに分けられる。本問はその血液検査・画像・病理所見の特徴を問う「特徴でないもの」を選ぶ問題である。 考え方の軸は次の3つである。 【血液検査】ASTがALTより高くなること(AST/ALT比>1)と、γ-GTP(γ-グルタミルトランスペプチダーゼ)の上昇が特徴である。ウイルス性肝炎や非アルコール性脂肪性肝疾患では一般にALT優位(AST/ALT比<1)となりやすく、両者の鑑別に使われる。 【画像】脂肪沈着を反映し、腹部超音波で肝臓が腎臓より明るく(高エコーに)描出される。 【病理】肝細胞の脂肪化、風船様変性、Mallory-Denk体(旧称Mallory小体、アルコール硝子体)、好中球浸潤、肝細胞周囲(中心静脈周囲)から始まる線維化が特徴である。 これらの特徴に照らすと、AST/ALT比が1未満というのはアルコール性肝障害の典型像と逆であり、「特徴でない」ものに該当する。
選択肢考察
- ○a. 血清AST/ALT比<1
アルコール性肝障害ではASTがALTを上回り、AST/ALT比は1より大きくなるのが特徴で、アルコール性肝炎では2を超えることも多い。理由として、①アルコールはミトコンドリアを障害し、ミトコンドリアに多く存在するAST(m-AST)が血中に逸脱すること、②大酒家では補酵素であるピリドキサールリン酸(ビタミンB6)が不足しやすく、ALTの活性がASTより強く低下すること、などが挙げられる。AST/ALT比<1(ALT優位)は慢性ウイルス性肝炎や非アルコール性脂肪性肝疾患(初期)で典型的であり、アルコール性肝障害の特徴ではない。したがって本肢が正解である。
- ×b. 血清γ-GTP高値
γ-GTPは肝細胞や胆管上皮に存在する酵素で、アルコールによってその合成が誘導されるため、飲酒量の多い人で上昇する。アルコール性肝障害の診断で最もよく用いられる指標の一つであり、禁酒によって数週間で低下することから、飲酒の継続・中止の確認にも役立つ。アルコール性肝障害の特徴に当てはまる。
- ×c. 肝腎コントラスト増強
アルコールの代謝過程で脂肪酸の合成が進み、分解が抑えられるため、肝細胞内に中性脂肪(トリグリセリド)が蓄積して脂肪肝となる。脂肪化した肝臓は超音波をよく反射して高エコーとなり、同じ画面に映る右腎の皮質より明るくみえる。これが肝腎コントラストの増強(陽性)であり、脂肪肝を示す代表的な超音波所見である。ほかに肝内血管の不明瞭化や深部エコーの減衰もみられる。アルコール性肝障害の特徴に当てはまる。
- ×d. 肝線維化
アルコール性肝障害では、中心静脈周囲(小葉の中心域)の肝細胞を取り囲むように線維が増生する肝細胞周囲性線維化(pericellular fibrosis)が特徴的である。飲酒が続くと線維化が進行し、最終的に肝硬変に至る。アルコール性肝線維症という病型もあり、アルコール性肝障害の特徴に当てはまる。
- ×e. 肝組織好中球浸潤
アルコール性肝炎の組織像では、肝細胞の風船様変性(ballooning)、Mallory-Denk体の出現、好中球(多核白血球)の浸潤、肝細胞周囲の線維化が典型的にみられる。好中球はMallory-Denk体をもつ変性肝細胞を取り囲むように集まることがある。ウイルス性肝炎ではリンパ球浸潤が主体であるのと対照的であり、好中球浸潤はアルコール性肝障害の特徴に当てはまる。
アルコール性肝障害の病型
・アルコール性脂肪肝:最も頻度が高い。禁酒によって可逆的に改善する。 ・アルコール性肝線維症:炎症細胞浸潤や肝細胞壊死は軽いが、中心静脈周囲の線維化が目立つ。 ・アルコール性肝炎:飲酒量の急な増加を契機に、発熱、黄疸、右季肋部痛、肝腫大、白血球増多などで発症する。重症型アルコール性肝炎は禁酒しても肝腫大が持続し、肝性脳症、消化管出血、腎不全などを合併して予後不良となる。 ・アルコール性肝硬変:線維化が進み、小結節性の肝硬変となることが多い。腹水、黄疸、浮腫、食道・胃静脈瘤、肝性脳症などを生じ、肝細胞癌の発生母地にもなる。
検査所見のまとめ
・AST優位のトランスアミナーゼ上昇(AST/ALT比>1) ・γ-GTP上昇(禁酒で低下) ・平均赤血球容積(MCV)の増大(大球性の傾向) ・血清IgA上昇 ・中性脂肪(トリグリセリド)や尿酸の上昇 ・超音波で肝腎コントラスト、肝の腫大
治療
基本は禁酒であり、栄養状態の改善も重要である。重症型アルコール性肝炎では副腎皮質ステロイドなどが検討される。
POINT
・アルコール性肝障害はAST優位(AST/ALT比>1)、ウイルス性肝炎やNAFLDの初期はALT優位。 ・γ-GTP上昇は飲酒の指標で、禁酒で低下する。 ・脂肪肝は超音波で肝腎コントラスト陽性。 ・病理:脂肪化、風船様変性、Mallory-Denk体、好中球浸潤、肝細胞周囲性線維化。
