StudyMed医師国家試験

ASTが勝つか、ALTが勝つか―比で見抜くアルコール性肝障害

第102回医師国家試験 D問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第102回 D問題 第14問

アルコール性肝障害の特徴でないのはどれか。

  1. a.血清AST/ALT比<1
  2. b.血清γ-GTP高値
  3. c.肝腎コントラスト増強
  4. d.肝線維化
  5. e.肝組織好中球浸潤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、アルコール性肝障害の特徴に当てはまらないものを選ぶ問題だ。血液検査、超音波、病理の3つの視点から、典型像を一つずつ確認していこう。特に、トランスアミナーゼのどちらが優位になるかが最大の着眼点だよ。
医学生医学生
ASTとALTの比ですよね。肝炎だとALTが高くなるイメージがあるので、AST/ALT比が1未満でもおかしくない気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが落とし穴なんだ。ALT優位、つまりAST/ALT比が1未満になるのは、慢性ウイルス性肝炎や初期の非アルコール性脂肪性肝疾患で典型的なパターン。アルコール性肝障害は逆にAST優位で、比が1を超え、アルコール性肝炎では2を超えることも多いんだ。
医学生医学生
どうしてアルコールだとASTのほうが高くなるんですか。
ドクタードクター
理由は大きく2つ。ひとつは、アルコールがミトコンドリアを傷害して、ミトコンドリアに多く含まれるASTが血中に漏れ出すこと。もうひとつは、大酒家ではビタミンB6、つまり補酵素のピリドキサールリン酸が不足しがちで、ALTの活性のほうが強く落ちることだ。
医学生医学生
生化学の講義で、トランスアミナーゼの補酵素がビタミンB6だと習ったのを思い出しました。栄養状態まで検査値に出るんですね。
ドクタードクター
その通り。だからAST/ALT比が1未満というのは、アルコール性肝障害の特徴ではない。これが正解だ。では、γ-GTPはどうだろう。
医学生医学生
健康診断で「お酒の飲みすぎ」と言われる項目なので、特徴に当てはまると思います。
ドクタードクター
そうだね。γ-GTPはアルコールで合成が誘導されるので、飲酒量の多い人で上がる。禁酒すると数週間で下がってくるから、外来で本当に禁酒できているかを確かめる指標にもなるんだ。
医学生医学生
肝腎コントラストは、超音波で肝臓が腎臓より白く見える所見でしたよね。
ドクタードクター
そう。アルコールの代謝の過程で脂肪酸の合成が進み、分解が抑えられるから、肝細胞に中性脂肪がたまって脂肪肝になる。脂肪化した肝臓は超音波をよく反射するので、右腎の皮質より明るく見える。これが肝腎コントラストの増強だ。肝内血管の不明瞭化や深部エコーの減衰もあわせてみられるよ。
医学生医学生
消化器内科の実習で腹部エコーを当てさせてもらったとき、肝臓が真っ白に見える患者さんがいて驚きました。
ドクタードクター
脂肪肝は一度見ると印象に残るよね。次は病理。肝線維化と好中球浸潤はどうかな。
医学生医学生
線維化は肝硬変につながるので当てはまりそうです。でも肝炎の炎症細胞ってリンパ球じゃなかったですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。ウイルス性肝炎ではリンパ球浸潤が主体だけど、アルコール性肝炎では好中球浸潤が特徴的なんだ。肝細胞の風船様変性、Mallory-Denk体、つまり昔のMallory小体の出現、そして好中球が変性した肝細胞を取り囲むように集まる像がそろう。線維化も中心静脈周囲の肝細胞を取り巻くように始まる肝細胞周囲性線維化が特徴で、進めば肝硬変に至る。
医学生医学生
炎症細胞の種類でもウイルス性と区別できるんですね。病理実習でMallory-Denk体を探したのを思い出しました。
ドクタードクター
そう、検査値でも組織でも、ウイルス性肝炎とは対照的なところがポイントだ。ほかの検査所見として、MCVの増大、血清IgAの上昇、中性脂肪や尿酸の上昇も押さえておこう。
医学生医学生
治療は、やはり禁酒が一番ですか。
ドクタードクター
基本は禁酒と栄養状態の改善だ。脂肪肝の段階なら禁酒で可逆的に改善する。一方、飲酒量が急に増えたあとに発熱、黄疸、肝腫大、白血球増多で発症するアルコール性肝炎は要注意で、重症型では禁酒しても改善せず、肝性脳症や消化管出血、腎不全を合併して予後不良になることがある。副腎皮質ステロイドなどが検討されるよ。肝硬変まで進めば肝細胞癌の発生母地にもなるから、長く付き合っていく病気だと考えてほしい。

まとめ

アルコール性肝障害は脂肪肝、肝線維症、肝炎、肝硬変へと進行しうる病態で、血液検査ではAST優位(AST/ALT比>1)のトランスアミナーゼ上昇とγ-GTP高値が特徴です。AST優位になる背景には、ミトコンドリア障害によるASTの逸脱とビタミンB6不足によるALT活性の低下があり、ALT優位となる慢性ウイルス性肝炎や初期のNAFLDとの鑑別に役立ちます。超音波では脂肪肝を反映した肝腎コントラストの増強、病理では脂肪化、風船様変性、Mallory-Denk体、好中球浸潤、肝細胞周囲性線維化がみられます。治療の基本は禁酒と栄養改善で、γ-GTPは禁酒の確認にも使えます。検査値の「向き」を理由とともに理解しておくと、日常診療で肝障害の原因を推定する力につながります。

解答・解説

正解はaです

アルコール性肝障害は、長期間の過剰飲酒によって起こる肝障害の総称で、病態の進行に応じてアルコール性脂肪肝、アルコール性肝線維症、アルコール性肝炎、アルコール性肝硬変などに分けられる。本問はその血液検査・画像・病理所見の特徴を問う「特徴でないもの」を選ぶ問題である。 考え方の軸は次の3つである。 【血液検査】ASTがALTより高くなること(AST/ALT比>1)と、γ-GTP(γ-グルタミルトランスペプチダーゼ)の上昇が特徴である。ウイルス性肝炎や非アルコール性脂肪性肝疾患では一般にALT優位(AST/ALT比<1)となりやすく、両者の鑑別に使われる。 【画像】脂肪沈着を反映し、腹部超音波で肝臓が腎臓より明るく(高エコーに)描出される。 【病理】肝細胞の脂肪化、風船様変性、Mallory-Denk体(旧称Mallory小体、アルコール硝子体)、好中球浸潤、肝細胞周囲(中心静脈周囲)から始まる線維化が特徴である。 これらの特徴に照らすと、AST/ALT比が1未満というのはアルコール性肝障害の典型像と逆であり、「特徴でない」ものに該当する。

選択肢考察

  1. ○a.  血清AST/ALT比<1

    アルコール性肝障害ではASTがALTを上回り、AST/ALT比は1より大きくなるのが特徴で、アルコール性肝炎では2を超えることも多い。理由として、①アルコールはミトコンドリアを障害し、ミトコンドリアに多く存在するAST(m-AST)が血中に逸脱すること、②大酒家では補酵素であるピリドキサールリン酸(ビタミンB6)が不足しやすく、ALTの活性がASTより強く低下すること、などが挙げられる。AST/ALT比<1(ALT優位)は慢性ウイルス性肝炎や非アルコール性脂肪性肝疾患(初期)で典型的であり、アルコール性肝障害の特徴ではない。したがって本肢が正解である。

  2. ×b.  血清γ-GTP高値

    γ-GTPは肝細胞や胆管上皮に存在する酵素で、アルコールによってその合成が誘導されるため、飲酒量の多い人で上昇する。アルコール性肝障害の診断で最もよく用いられる指標の一つであり、禁酒によって数週間で低下することから、飲酒の継続・中止の確認にも役立つ。アルコール性肝障害の特徴に当てはまる。

  3. ×c.  肝腎コントラスト増強

    アルコールの代謝過程で脂肪酸の合成が進み、分解が抑えられるため、肝細胞内に中性脂肪(トリグリセリド)が蓄積して脂肪肝となる。脂肪化した肝臓は超音波をよく反射して高エコーとなり、同じ画面に映る右腎の皮質より明るくみえる。これが肝腎コントラストの増強(陽性)であり、脂肪肝を示す代表的な超音波所見である。ほかに肝内血管の不明瞭化や深部エコーの減衰もみられる。アルコール性肝障害の特徴に当てはまる。

  4. ×d.  肝線維化

    アルコール性肝障害では、中心静脈周囲(小葉の中心域)の肝細胞を取り囲むように線維が増生する肝細胞周囲性線維化(pericellular fibrosis)が特徴的である。飲酒が続くと線維化が進行し、最終的に肝硬変に至る。アルコール性肝線維症という病型もあり、アルコール性肝障害の特徴に当てはまる。

  5. ×e.  肝組織好中球浸潤

    アルコール性肝炎の組織像では、肝細胞の風船様変性(ballooning)、Mallory-Denk体の出現、好中球(多核白血球)の浸潤、肝細胞周囲の線維化が典型的にみられる。好中球はMallory-Denk体をもつ変性肝細胞を取り囲むように集まることがある。ウイルス性肝炎ではリンパ球浸潤が主体であるのと対照的であり、好中球浸潤はアルコール性肝障害の特徴に当てはまる。

アルコール性肝障害の病型

・アルコール性脂肪肝:最も頻度が高い。禁酒によって可逆的に改善する。 ・アルコール性肝線維症:炎症細胞浸潤や肝細胞壊死は軽いが、中心静脈周囲の線維化が目立つ。 ・アルコール性肝炎:飲酒量の急な増加を契機に、発熱、黄疸、右季肋部痛、肝腫大、白血球増多などで発症する。重症型アルコール性肝炎は禁酒しても肝腫大が持続し、肝性脳症、消化管出血、腎不全などを合併して予後不良となる。 ・アルコール性肝硬変:線維化が進み、小結節性の肝硬変となることが多い。腹水、黄疸、浮腫、食道・胃静脈瘤、肝性脳症などを生じ、肝細胞癌の発生母地にもなる。

検査所見のまとめ

・AST優位のトランスアミナーゼ上昇(AST/ALT比>1) ・γ-GTP上昇(禁酒で低下) ・平均赤血球容積(MCV)の増大(大球性の傾向) ・血清IgA上昇 ・中性脂肪(トリグリセリド)や尿酸の上昇 ・超音波で肝腎コントラスト、肝の腫大

治療

基本は禁酒であり、栄養状態の改善も重要である。重症型アルコール性肝炎では副腎皮質ステロイドなどが検討される。

POINT

・アルコール性肝障害はAST優位(AST/ALT比>1)、ウイルス性肝炎やNAFLDの初期はALT優位。 ・γ-GTP上昇は飲酒の指標で、禁酒で低下する。 ・脂肪肝は超音波で肝腎コントラスト陽性。 ・病理:脂肪化、風船様変性、Mallory-Denk体、好中球浸潤、肝細胞周囲性線維化。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。