薬より先に「暮らし」を処方する―健診で見つかった脂肪肝への生活指導
第119回医師国家試験 D問題 第75問
国試問題にチャレンジ
54歳の男性。健康診断で肝障害を指摘され来院した。自覚症状はない。喫煙は1年前まで加熱式たばこを20本/日。飲酒はビール350mL/日を週に2~3回。職業はデスクワークが主体の会社員で,午前7時に起床し自家用車で通勤している。昼食は麺類を好んで食べている。夕食は午後9時過ぎに自宅で食べ,午後11時ごろに就寝している。既往歴に特記すべきことはない。身長171cm,体重82kg,腹囲98cm。脈拍84/分,整。血圧134/80mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。健康診断時の血液生化学所見:AST 60U/L,ALT 82U/L,γ-GT 90U/L(基準13~64),尿酸6.8mg/dL,血糖98mg/dL,トリグリセリド346mg/dL,HDLコレステロール42mg/dL,LDLコレステロール128mg/dL。免疫血清学所見:HBs抗原陰性,HCV抗体陰性。腹部超音波検査では肝腎コントラストの増強を認めた。 この患者に対する指導で正しいのはどれか。3つ選べ。
- a.「体重を減らしましょう」
- b.「栄養指導を受けましょう」
- c.「身体活動量を増やしましょう」
- d.「もう少し早めに就寝しましょう」
- e.「まず中性脂肪を下げる薬を飲みましょう」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
肥満とALT優位の軽度肝酵素上昇、肝腎コントラストの増強があり、飲酒が少量で肝炎ウイルスが陰性であれば、代謝異常を背景とする脂肪性肝疾患(NAFLD、現在の名称ではMASLD)を考えます。治療の基本は減量で、栄養指導による食事の見直しと身体活動量の増加が二本柱となり、体重の7%以上の減量で肝の炎症の改善が期待できます。本例で改善すべきは就寝時刻ではなく遅い夕食であり、高トリグリセリド血症もまず生活習慣の改善を行い、薬物療法はその後に検討します。生活歴から問題となる習慣を具体的に見つけ、指導内容に結びつける力は、外来診療や健診後のフォローで欠かせない臨床能力です。
解答・解説
正解はa, b, cです
所見の整理
・54歳の男性。健康診断で肝障害を指摘されたが自覚症状はない。 ・身長171cm、体重82kgでBMIは約28.0(82÷1.71÷1.71)と肥満(日本肥満学会基準で肥満1度:25以上30未満)である。腹囲98cmは内臓脂肪蓄積を示す。 ・AST 60U/L、ALT 82U/LとALT優位のトランスアミナーゼ上昇、γ-GT 90U/Lの軽度上昇がある。 ・トリグリセリド346mg/dLと高トリグリセリド血症、HDLコレステロール42mg/dL、血圧134/80mmHgと収縮期血圧がやや高い。血糖は98mg/dLで正常範囲、尿酸6.8mg/dLは基準上限付近である。 ・HBs抗原・HCV抗体は陰性で、B型・C型肝炎は否定的である。 ・腹部超音波で肝腎コントラスト(肝実質と右腎皮質のエコー輝度の差)が増強している。肝細胞に脂肪がたまると肝臓が白く明るく(高エコーに)描出されるため、脂肪肝の代表的な所見である。
診断の考え方
・飲酒はビール350mL(純アルコール約14g)を週2〜3回で、1日平均に換算すると10g未満とごく少量である。アルコール性肝障害を起こす量(目安として男性で1日60g以上の長期飲酒)には遠く及ばない。 ・ウイルス性肝炎も否定的であり、肥満・内臓脂肪蓄積・脂質異常を背景とした代謝異常関連の脂肪性肝疾患と考えられる。従来の名称ではNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)、2023年の国際的な名称変更後はMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)に相当する。なお、確定には自己免疫性肝炎や薬剤性肝障害など他の原因の除外も必要であり、線維化の程度(FIB-4 indexなど)の評価も行う。 ・日本のメタボリックシンドローム診断基準(腹囲男性85cm以上を必須とし、①トリグリセリド150mg/dL以上かつ/またはHDLコレステロール40mg/dL未満、②収縮期血圧130mmHg以上かつ/または拡張期血圧85mmHg以上、③空腹時血糖110mg/dL以上のうち2項目以上)に照らすと、腹囲98cm、トリグリセリド346mg/dL、収縮期血圧134mmHgで基準を満たす。脂肪肝はメタボリックシンドロームの肝臓における表現型とも位置づけられる。
指導の方針
生活歴からは、デスクワーク中心で自家用車通勤という運動不足、昼食に麺類が多い炭水化物に偏った食事、午後9時過ぎの遅い夕食という問題点が読み取れる。代謝異常を背景とする脂肪肝の治療の基本は、薬ではなく生活習慣の改善による減量であり、食事療法と運動療法が二本柱となる。設問はこれに沿った指導を選ばせている。
選択肢考察
- ○a. 「体重を減らしましょう」
本例はBMI約28の肥満で内臓脂肪蓄積があり、これが脂肪肝・脂質異常・血圧上昇の共通の原因である。減量は脂肪肝に対して最も効果が確立された治療で、体重の3〜5%の減量で肝脂肪が減少し、約7%以上で肝の炎症(脂肪肝炎)の改善、約10%以上で線維化の改善も期待できるとされる。急激な減量はかえって肝障害を悪化させうるため、数か月かけて段階的に(例えばまず現体重の5〜7%)減らすよう目標を設定する。
- ○b. 「栄養指導を受けましょう」
昼食は麺類が多く、炭水化物に偏りやすいうえ、早食い・過食にもつながりやすい。夕食も午後9時過ぎと遅い。管理栄養士による栄養指導を受け、総エネルギー摂取量の適正化(目安として標準体重×25〜30kcal/日程度)、糖質や果糖を多く含む清涼飲料水・菓子類の制限、主食・主菜・副菜のそろった食事、夕食の時刻を早めるか遅い時間の夕食を軽くするといった具体的な改善を図ることは、脂肪肝・脂質異常症の改善に有効である。
- ○c. 「身体活動量を増やしましょう」
デスクワーク主体で自家用車通勤であり、日常の身体活動量が少ない。運動は体重減少を介するだけでなく、体重が大きく減らなくても肝脂肪を減らし、インスリン抵抗性を改善する効果がある。ウォーキングなどの有酸素運動を中心に、週150分程度を目安とし、可能ならレジスタンス運動も組み合わせる。歩く距離を増やす、階段を使う、座りっぱなしの時間を減らすなど、日常生活の活動量を増やす工夫も勧められる。
- ×d. 「もう少し早めに就寝しましょう」
起床は午前7時、就寝は午後11時ごろで、睡眠時間は約8時間確保されており、就寝時刻そのものに問題はない。本例で改善すべき点は、午後9時過ぎという遅い夕食と、夕食から就寝までの間隔が短いことである。夜遅い時間の食事は消費されにくいエネルギーとして脂肪に蓄えられやすいため、指導するなら「夕食を早めに摂る」「遅くなる日は夕食を軽めにする」とするのが適切である。就寝を早めると夕食から就寝までの時間がさらに短くなり、むしろ逆効果になりうる。
- ×e. 「まず中性脂肪を下げる薬を飲みましょう」
脂肪肝、メタボリックシンドローム、脂質異常症のいずれにおいても、治療の第一歩は食事療法・運動療法による生活習慣の改善である。トリグリセリド346mg/dLは高値だが、急性膵炎のリスクが高まる1,000mg/dL前後の著明高値ではなく、直ちに薬物療法を始める必要はない。生活習慣の改善を数か月行っても目標に達しない場合や、心血管リスクが高い場合に、フィブラート系薬(ペマフィブラートなど)などの薬物療法を検討する。「まず薬」という指導は誤りである。
脂肪性肝疾患の分類と名称の変遷
・従来はアルコール摂取量が少ない脂肪肝を NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)とし、そのうち炎症・肝細胞障害を伴い肝硬変や肝癌へ進行しうるものをNASH(非アルコール性脂肪肝炎)と呼んだ。 ・2023年に国際的に名称が見直され、肝脂肪化に肥満・糖代謝異常・高血圧・脂質異常などの代謝異常(心代謝リスク因子)を1つ以上伴うものをMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)、その脂肪肝炎をMASH、代謝異常に加えて中等量の飲酒を伴うものをMetALDと呼ぶ。上位概念は SLD(脂肪性肝疾患)である。日本でもこの新名称が採用されている。
脂肪肝の検査所見の特徴
・トランスアミナーゼは軽度上昇でALT優位のことが多い(アルコール性肝障害ではAST優位、γ-GTの著明上昇が典型)。ただし線維化が進むとAST優位となる。 ・トリグリセリドや尿酸が高くなりやすい。 ・腹部超音波:肝腎コントラストの増強、肝の高エコー化(bright liver)、深部エコーの減衰、肝内脈管の不明瞭化。 ・線維化の評価:FIB-4 index(年齢・AST・ALT・血小板数から計算)、エラストグラフィ、必要に応じて肝生検。
メタボリックシンドロームの診断基準(日本)
必須項目:腹囲(臍の高さ)男性85cm以上、女性90cm以上(内臓脂肪面積100cm2以上に相当)。 上記に加え、以下のうち2項目以上: ①トリグリセリド150mg/dL以上かつ/またはHDLコレステロール40mg/dL未満 ②収縮期血圧130mmHg以上かつ/または拡張期血圧85mmHg以上 ③空腹時血糖110mg/dL以上
脂肪肝の治療
・基本は食事療法と運動療法による減量。 ・合併する糖尿病・脂質異常症・高血圧はそれぞれの基準に従って治療する(糖尿病合併例ではピオグリタゾン、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬などが肝脂肪の改善にも有効とする報告がある)。 ・高度肥満では減量・代謝改善手術も選択肢となる。 ・喫煙は肝線維化や心血管疾患のリスク因子であり、本例のように禁煙できている場合は継続を支援する。
POINT
・肥満+ALT優位の肝酵素上昇+肝腎コントラスト増強+少量飲酒+肝炎ウイルス陰性=代謝異常関連の脂肪性肝疾患(NAFLD、現在の名称ではMASLD)。 ・治療の基本は減量であり、食事療法(栄養指導)と運動療法(身体活動量の増加)が二本柱。体重の約7%以上の減量で肝の炎症の改善が期待できる。 ・脂質異常症やメタボリックシンドロームでも、まず生活習慣の改善を行い、薬物療法はその後に検討する。 ・生活歴の問題点(遅い夕食、炭水化物に偏った食事、運動不足)を具体的に見つけ、適切な指導内容と結びつける。
