飲まないのにアルコール肝?―NASHの組織像とまぎれ込んだ「ロゼット」
第111回医師国家試験 A問題 第5問
国試問題にチャレンジ
非アルコール性脂肪性肝炎の病理組織像で誤っているのはどれか。
- a.線維化
- b.肝細胞の膨化
- c.ロゼット形成
- d.肝細胞の脂肪変性
- e.小葉内への炎症細胞浸潤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、飲酒歴が乏しいにもかかわらずアルコール性肝障害に似た組織像を示す肝炎で、肥満・糖尿病・脂質異常症などの代謝異常を背景とします。基本病理像は大滴性の脂肪変性、風船様変性(肝細胞の膨化)、小葉内炎症細胞浸潤であり、進行するとzone 3の類洞周囲から金網状の線維化が始まって肝硬変・肝細胞癌に至りえます。ロゼット形成はinterface hepatitisや形質細胞浸潤とともに自己免疫性肝炎に特徴的な所見で、NASHの所見ではありません。NASHとアルコール性肝炎は組織像だけでは区別しにくいため飲酒歴の聴取が鑑別に重要で、近年はMASLD/MASHという新名称も用いられています。疾患ごとの特徴的な組織像を病態と結びつけて理解しておくことは、肝生検結果の解釈や肝疾患の鑑別に直結します。
解答・解説
正解はcです
非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)は、明らかな飲酒歴がないにもかかわらず、アルコール性肝障害とよく似た組織像を示す肝炎である。診断は最終的に肝生検による病理組織で行われ、単なる脂肪肝(脂肪が沈着しているだけの状態)と区別するために、次の所見がそろっているかが重視される。 1. 肝細胞の脂肪変性(主に大滴性) 2. 肝細胞の風船様変性(ballooning)=肝細胞の膨化 3. 小葉内の炎症細胞浸潤 これらに加えて、病期が進むと線維化が出現し、最終的には肝硬変・肝細胞癌に至りうる。 したがって本問は「NASHの基本病変(脂肪変性・風船様変性・小葉内炎症)と進行所見(線維化)」に当てはまらない選択肢を探せばよい。ロゼット形成は、門脈域周囲の肝細胞が腺管様に再配列する所見で、自己免疫性肝炎に特徴的な像であり、NASHの所見としては挙げられない。
選択肢考察
- ×a. 線維化
NASHでみられる。脂肪変性と炎症が持続すると、肝星細胞が活性化されて膠原線維が産生される。NASHの線維化は典型的には小葉中心部(zone 3)の類洞周囲・肝細胞周囲から始まり、肝細胞を一つずつ取り囲むように線維が伸びる(金網状、chicken-wire fibrosis)のが特徴である。進行すると門脈域や中心静脈間を結ぶ架橋線維化となり、肝硬変へ移行する。線維化の程度は予後と最もよく相関する因子とされる。
- ×b. 肝細胞の膨化
NASHでみられる。肝細胞の膨化は風船様変性(ballooning degeneration)と呼ばれ、細胞骨格の障害により肝細胞が腫大し、細胞質が淡明になる所見である。肝細胞傷害を示す所見であり、単純性脂肪肝とNASHを区別する上で重要である。風船様変性を起こした肝細胞内には、変性した中間径フィラメント(ケラチン)が凝集したMallory-Denk体(マロリー小体)がみられることがある。
- ○c. ロゼット形成
NASHの所見ではないため、これが「誤っているもの」として正解である。ロゼット形成とは、肝細胞が数個集まって中心に小さな腔をもつ花冠状(腺管様)の配列をとる所見で、自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis:AIH)に特徴的である。AIHでは、門脈域から小葉へ向かってリンパ球・形質細胞が浸潤し、境界板(門脈域と肝実質の境界)を破壊するinterface hepatitisがみられ、その周囲の再生肝細胞がロゼットを形成する。リンパ球が肝細胞内に入り込むemperipolesisもAIHでみられる所見である。
- ×d. 肝細胞の脂肪変性
NASHでみられる。肝細胞の細胞質に中性脂肪(トリグリセリド)が蓄積する所見で、NASHでは核を辺縁に押しやるほどの大きな脂肪滴が主体の大滴性脂肪変性が典型的である。脂肪変性は主に小葉中心部(zone 3)に目立つ。一般に肝細胞の5%以上に脂肪沈着があれば脂肪肝と判定される。なお、脂肪変性だけで炎症や肝細胞傷害を伴わないものは単純性脂肪肝(NAFL)であり、NASHとは区別される。
- ×e. 小葉内への炎症細胞浸潤
NASHでみられる。NASHでは門脈域よりも肝小葉内(実質内)に、リンパ球や好中球などの炎症細胞が散在性・小集簇性に浸潤する。脂肪変性・風船様変性とあわせて、NASHの炎症の存在を示す基本所見である。これに対して、門脈域主体の炎症は慢性ウイルス性肝炎や自己免疫性肝炎で目立つ。
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の概念
飲酒量が少ない(エタノール換算で男性30 g/日未満、女性20 g/日未満が目安)にもかかわらず脂肪肝を呈する病態の総称をNAFLD(nonalcoholic fatty liver disease)という。NAFLDは、進行がほとんどない単純性脂肪肝(NAFL)と、炎症と肝細胞傷害を伴い肝硬変・肝細胞癌へ進行しうるNASHに分けられる。 なお2023年に国際的な名称変更が行われ、代謝異常(肥満、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧など)を背景とするものは代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)、その肝炎型は代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)と呼ばれるようになった。
原因・背景
メタボリックシンドロームの肝臓での表現型と考えられており、肥満、2型糖尿病、脂質異常症、インスリン抵抗性が主な背景である。そのほか、薬剤(タモキシフェン、副腎皮質ステロイドなど)、完全静脈栄養、急激な体重減少なども原因となりうる。
NASHの病理組織像の整理
・脂肪変性:大滴性が主体、zone 3優位 ・風船様変性(肝細胞の膨化)、Mallory-Denk体 ・小葉内炎症細胞浸潤 ・線維化:zone 3の類洞周囲・肝細胞周囲線維化(金網状)から始まり、架橋線維化、肝硬変へ進展 組織学的な活動性の評価にはNAFLD activity score(脂肪化・小葉内炎症・風船様変性の合計点)が、線維化の評価にはBrunt分類などの病期分類が用いられる。
他の肝疾患の特徴的組織像との対比
・自己免疫性肝炎:interface hepatitis、形質細胞浸潤、ロゼット形成、emperipolesis ・原発性胆汁性胆管炎:慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)、肉芽腫 ・原発性硬化性胆管炎:胆管周囲の同心円状線維化(onion-skin lesion) ・慢性C型肝炎:門脈域のリンパ濾胞形成、軽度の脂肪変性 ・アルコール性肝炎:NASHと類似(脂肪変性、風船様変性、Mallory-Denk体、好中球浸潤、類洞周囲線維化)。両者は組織像のみでは区別が難しく、飲酒歴で区別する。
POINT
・NASHの基本病理像は「脂肪変性+風船様変性(肝細胞の膨化)+小葉内炎症」であり、進行すると線維化(zone 3の類洞周囲線維化から始まる)をきたす。 ・Mallory-Denk体もNASH・アルコール性肝炎でみられる。 ・ロゼット形成、interface hepatitis、形質細胞浸潤は自己免疫性肝炎の所見である。 ・NASHは組織像でアルコール性肝炎と類似するため、飲酒歴の聴取が鑑別に重要である。 ・2023年以降、NAFLD/NASHはMASLD/MASHと呼称が改められつつある。
