ふくらはぎに潜む結核の影―「場所」で見抜く硬結性紅斑
第111回医師国家試験 A問題 第6問
国試問題にチャレンジ
下腿に好発する皮膚疾患はどれか。
- a.血管肉腫
- b.硬結性紅斑
- c.脂漏性皮膚炎
- d.ケラトアカントーマ
- e.血管性浮腫〈Quincke浮腫〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
硬結性紅斑(Bazin硬結性紅斑)は結核疹の代表で、中年女性の下腿、とくにふくらはぎ(後面)に圧痛を伴う暗紅色の皮下硬結が多発し、潰瘍化して瘢痕を残しやすい疾患です。病理は血管炎を伴う小葉性脂肪織炎で、IGRA陽性となることが多く、抗結核薬が有効です。下腿前面に好発し潰瘍化しない隔壁性脂肪織炎の結節性紅斑との対比が重要です。一方、血管肉腫は高齢者の頭部、ケラトアカントーマは顔面の露光部、脂漏性皮膚炎は脂漏部位、血管性浮腫は眼瞼・口唇に好発します。好発部位を体の地図として整理しておくことは、皮膚疾患の鑑別を素早く進めるための基本となります。
解答・解説
正解はbです
皮膚疾患の多くには「どこにできやすいか(好発部位)」と「どんな人にできやすいか(好発年齢・性別)」の特徴があり、診断の大きな手がかりになる。本問は各疾患の好発部位を問う知識問題である。 選択肢を好発部位で整理すると次のようになる。 ・血管肉腫:高齢者の頭部・顔面 ・硬結性紅斑:中年女性の下腿(特に後面) ・脂漏性皮膚炎:頭部・顔面・腋窩・胸背部などの脂漏部位 ・ケラトアカントーマ:高齢者の顔面などの露光部 ・血管性浮腫:眼瞼・口唇などの顔面、口腔・咽喉頭 下腿を好発部位とするのは硬結性紅斑である。下腿に生じる結節・紅斑としては結節性紅斑との鑑別が重要で、硬結性紅斑は下腿後面(ふくらはぎ)に多く潰瘍化しうるのに対し、結節性紅斑は下腿前面(脛骨部)に多く潰瘍化しない点が区別のポイントになる。
選択肢考察
- ×a. 血管肉腫
下腿ではなく、高齢者の頭部(被髪頭部)から顔面に好発する。血管内皮細胞由来の悪性腫瘍で、初期は打撲痕のような紫斑や暗赤色斑として現れ、易出血性の結節や潰瘍へ進行する。進行が速く肺転移(血胸・気胸の原因となる)をきたしやすく、予後はきわめて不良である。なお、乳癌術後のリンパ浮腫のある上肢に生じるもの(Stewart-Treves症候群)や、放射線照射部位に生じるものもある。
- ○b. 硬結性紅斑
下腿、特にふくらはぎ(下腿後面)に好発するため正しい。中年女性、とくに下腿が太めで血行がうっ滞しやすい人に多い。結核疹(体内の結核病巣に由来する結核菌やその成分に対する過敏反応として生じる皮疹で、病変部から結核菌は通常検出されない)の代表であり、Bazin硬結性紅斑とも呼ばれる。圧痛を伴う暗紅色の皮下硬結が多発し、しばしば潰瘍化して瘢痕を残す。病理は血管炎を伴う小葉性脂肪織炎で、類上皮細胞肉芽腫や乾酪壊死を伴うことがある。インターフェロンγ遊離試験(IGRA)が陽性となることが多く、抗結核薬が有効である。
- ×c. 脂漏性皮膚炎
皮脂の分泌が多い脂漏部位、すなわち頭部、顔面(眉間、鼻翼周囲、耳介周囲)、腋窩、前胸部・背部正中などに好発し、下腿は好発部位ではない。黄色調の脂っぽい鱗屑を伴う紅斑が特徴で、皮膚の常在真菌であるマラセチアの関与が考えられており、抗真菌外用薬が有効である。乳児期と思春期以降の成人に多く、成人ではパーキンソン病やHIV感染症で増悪・多発しやすい。
- ×d. ケラトアカントーマ
高齢者の顔面など日光にさらされる露光部に好発し、下腿は典型的な部位ではない。数週間で急速に増大する半球状の結節で、中央に角栓をいれた噴火口状の陥凹をもつのが特徴である。数か月で自然に消退することがあるが、臨床・病理ともに有棘細胞癌との区別が難しく、有棘細胞癌の一型(高分化型)とみなす考え方もあるため、通常は切除される。
- ×e. 血管性浮腫〈Quincke浮腫〉
眼瞼や口唇などの顔面に好発し、口腔・咽喉頭にも生じる。真皮深層から皮下組織にかけての限局性浮腫で、かゆみに乏しく、数日で跡を残さずに消退する。蕁麻疹に合併するヒスタミン介在性のもののほか、ACE阻害薬によるものや、C1インヒビター(C1-INH)の欠損・機能異常による遺伝性血管性浮腫(ブラジキニン介在性)がある。喉頭浮腫は窒息の危険があり注意を要する。
硬結性紅斑と結節性紅斑の比較
下腿に有痛性の皮下結節を生じる代表的な疾患であり、対比して覚えるとよい。 ・硬結性紅斑:下腿後面に多い/中年女性/潰瘍化しやすく瘢痕を残す/経過は慢性で再発しやすい/病理は血管炎を伴う小葉性脂肪織炎/結核との関連(結核疹) ・結節性紅斑:下腿前面(伸側)に多い/若年〜中年女性/潰瘍化せず瘢痕を残さない/数週で消退する/病理は隔壁性脂肪織炎/原因は溶連菌感染、サルコイドーシス、Behçet病、炎症性腸疾患、薬剤、妊娠など
結核疹とは
結核病巣に由来する結核菌の菌体成分などに対する過敏反応として生じる皮疹で、皮疹自体から菌は通常証明されない。硬結性紅斑のほか、丘疹壊死性結核疹、腺病性苔癬などがある。なお結核との関連が明らかでない同様の病変を結節性血管炎と呼ぶことがある。
下腿に好発するその他の皮膚疾患
うっ滞性皮膚炎・静脈性下腿潰瘍(下肢静脈瘤に伴う)、IgA血管炎(下腿〜殿部の触知可能な紫斑)、皮膚型結節性多発動脈炎、リベド血管症、脛骨前粘液水腫(Basedow病)、リポイド類壊死(糖尿病)、古典型Kaposi肉腫、Schamberg病などがある。
頭頸部・顔面に好発する疾患
血管肉腫(高齢者頭部)、基底細胞癌(顔面正中部)、日光角化症・ケラトアカントーマ(露光部)、脂漏性皮膚炎(脂漏部位)、血管性浮腫(眼瞼・口唇)など。
POINT
・硬結性紅斑は結核疹の代表で、中年女性の下腿(特に後面)に好発し、潰瘍化しうる。 ・結節性紅斑は下腿前面に好発し、潰瘍化しない(隔壁性脂肪織炎)。 ・血管肉腫は高齢者の頭部、ケラトアカントーマは高齢者の顔面(露光部)、脂漏性皮膚炎は脂漏部位、血管性浮腫は眼瞼・口唇に好発する。
