肝臓を替えれば治るのか―肝移植の適応を分ける「再発」という壁
第102回医師国家試験 D問題 第15問
国試問題にチャレンジ
肝移植の適応とならないのはどれか。
- a.肝硬変
- b.劇症肝炎
- c.肝細胞癌
- d.胆道閉鎖症
- e.肝内胆管癌
対話形式の解説
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ドクターまとめ
肝移植は、ほかの治療では救命や根治が望めない末期肝疾患に対する治療で、非代償性肝硬変、内科的治療に反応しない劇症肝炎(急性肝不全)、ミラノ基準などを満たす肝細胞癌、胆道閉鎖症、先天性代謝異常症などが主な適応です。一方、肝内胆管癌は移植後の再発率が高く免疫抑制下で急速に進行するため適応とならず、肝外転移のある悪性腫瘍、制御できない感染症、重い心肺疾患、継続するアルコール・薬物依存なども禁忌です。小児肝移植の原疾患で最も多いのは胆道閉鎖症で、肝細胞癌の適応ではミラノ基準(単発5cm以下、または3個以内かつ各3cm以下)が基本になります。「肝臓を替えて治るか」と「移植後に再発しないか」という2つの軸で考えると、肝移植の適応と禁忌を整理しやすくなります。
解答・解説
正解はeです
肝移植は、ほかの治療では救命や根治が期待できない末期肝疾患に対して行われる治療である。適応を考えるうえでは、①肝臓を丸ごと取り替えることで病気が治る(あるいは生命予後が改善する)か、②移植後に免疫抑制薬を使っても再発や全身転移で成績が損なわれないか、の2点が鍵となる。
主な適応
・末期の慢性肝疾患:各種原因による非代償性肝硬変(ウイルス性、アルコール性、原発性胆汁性胆管炎、原発性硬化性胆管炎、自己免疫性肝炎など) ・急性肝不全(劇症肝炎):内科的治療に反応しない場合 ・肝細胞癌:肝内に限局し、一定の基準(ミラノ基準など)を満たすもの ・小児の胆汁うっ滞性疾患:胆道閉鎖症(小児肝移植で最も多い原疾患)など ・先天性代謝異常症:Wilson病、尿素サイクル異常症、家族性アミロイドポリニューロパチーなど
適応とならない(禁忌)主な状況
肝外に転移した悪性腫瘍、コントロールできない肝外の感染症、重い心肺疾患、アルコール・薬物依存が続いている場合などである。悪性腫瘍では、移植後の免疫抑制下で再発・急速進行しやすいものは適応とされない。 選択肢のうち、肝内胆管癌は移植後の再発率が高く成績が不良であるため、肝移植の適応とならない。
選択肢考察
- ×a. 肝硬変
肝硬変が進行して腹水、黄疸、肝性脳症、静脈瘤出血などを繰り返す非代償期に至ると、内科的治療では肝機能の回復が望めず、根本的な治療は肝移植のみとなる。成人肝移植の原疾患として最も多いのが各種の肝硬変であり、適応となる。重症度の評価にはChild-Pugh分類やMELD(model for end-stage liver disease)スコアが用いられる。
- ×b. 劇症肝炎
劇症肝炎は、急激な肝細胞壊死によって肝性脳症を伴う肝不全に陥る病態で、現在は急性肝不全の昏睡型として分類されている。血漿交換や血液濾過透析などの人工肝補助療法を含む内科的治療を行っても回復しない場合、内科的治療のみでの救命率は低いため、肝移植の適応となる。わが国では、日本急性肝不全研究会などによる予後予測スコアリングを用いて移植の必要性を早期に判断する。
- ×c. 肝細胞癌
肝細胞癌の多くは肝硬変を背景に発生するため、切除やラジオ波焼灼療法が肝予備能の低さ(Child-Pugh分類Cなど)のためにできない場合、肝移植によって癌と背景の肝硬変を同時に治療できる。移植後の再発を抑えるため、適応には腫瘍条件が定められており、代表がミラノ基準(遠隔転移・脈管侵襲がなく、単発なら径5cm以下、多発なら3個以内でそれぞれ径3cm以下)である。わが国ではこれに加え、5-5-500基準(腫瘍径5cm以下、腫瘍数5個以内、AFP 500ng/mL以下)を満たす場合も保険診療の対象とされている。条件を満たす肝細胞癌は適応となる。
- ×d. 胆道閉鎖症
胆道閉鎖症は、新生児期〜乳児期早期に肝外胆管が炎症・線維化により閉塞し、胆汁が腸に流れなくなる疾患である。まず肝門部空腸吻合術(葛西手術)が行われるが、黄疸が消えない場合や、術後に胆汁性肝硬変・門脈圧亢進症が進行した場合には肝移植が必要となる。小児肝移植の原疾患として最も多く、適応となる。
- ○e. 肝内胆管癌
肝内胆管癌(胆管細胞癌)は、肝内の胆管上皮から発生する悪性腫瘍で、リンパ節転移や周囲への浸潤をきたしやすい。肝移植を行っても移植後の再発率が高く、免疫抑制下で急速に進行するため長期成績が不良であり、肝移植の適応とならない(相対的禁忌とされる)。治療の中心は根治切除が可能であれば肝切除とリンパ節郭清であり、切除不能例では化学療法が行われる。したがって本肢が正解である。
肝移植の種類
・生体肝移植:健康な家族などから肝臓の一部(右葉・左葉・外側区域など)の提供を受ける。わが国ではドナー不足のため生体肝移植の割合が高い。 ・脳死肝移植:脳死ドナーから全肝(または分割肝)の提供を受ける。
肝移植の主な禁忌
絶対的禁忌として、肝外に転移した悪性腫瘍、コントロールできない肝外の活動性感染症、重度の心肺疾患(進行した肺高血圧症など)、周術期や長期の術後管理が不可能な状況(アルコール・薬物依存の継続、服薬遵守が期待できない場合など)が挙げられる。相対的禁忌として、胆管癌、高齢、進行した腎不全、門脈血栓症、高度の低栄養などがある。HIV感染症は、かつては禁忌とされたが、抗ウイルス療法でコントロールされていれば移植を行う施設もある。
悪性腫瘍と肝移植
肝細胞癌はミラノ基準などの条件内であれば良好な成績が得られる。一方、肝内胆管癌や転移性肝癌は原則として適応外である。なお、海外では限られた条件の肝門部胆管癌や、ごく小さな肝内胆管癌などに対する移植が研究的に試みられているが、標準的適応ではない。
POINT
・肝移植の主な適応:非代償性肝硬変、内科的治療無効の急性肝不全(劇症肝炎)、ミラノ基準などを満たす肝細胞癌、胆道閉鎖症、先天性代謝異常症。 ・肝内胆管癌は移植後の再発が多く、肝移植の適応とならない。 ・ミラノ基準:単発5cm以下、または3個以内かつ各3cm以下で、脈管侵襲・遠隔転移なし。 ・小児肝移植の原疾患で最多は胆道閉鎖症。
