酒と脾腫と暗赤色の吐血―食道静脈瘤破裂は「縛って」止める
第119回医師国家試験 A問題 第38問
国試問題にチャレンジ
56歳の男性。吐血を主訴に夜間救急外来を受診した。夕食後から悪心が出現し,就寝前に暗赤色の吐血があり来院した。25年前に肝障害を指摘され,以後毎年の健康診断で指摘されているが,受診していなかった。喫煙歴はない。飲酒は日本酒4合/日を30年間。意識は清明。体温36.0℃。脈拍112/分,整。血圧80/50mmHg。眼瞼結膜に貧血を認める。眼球結膜に黄染を認めない。口腔内は乾燥している。頸部リンパ節を触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟。左肋骨弓下に脾を2cm触知する。腸雑音に異常を認めない。血液所見:赤血球274万,Hb 7.8g/dL,Ht 28%,白血球9,200,血小板7.2万。緊急上部消化管内視鏡の食道像を下に示す。 適切な治療はどれか。

- a.開腹止血術
- b.クリッピング
- c.ステント留置術
- d.内視鏡的結紮術
- e.バルーン閉塞下逆行性経静脈塞栓術〈BRTO〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
大量飲酒歴に脾腫・血小板減少を伴う吐血では、肝硬変による門脈圧亢進症から生じた食道静脈瘤の破裂を考えます。循環動態の安定化と並行して緊急内視鏡を行い、第一選択である内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)で止血します。クリッピングは潰瘍やMallory-Weiss症候群の限局した出血点に、BRTOは胃腎シャントを伴う胃静脈瘤に、ステントは悪性狭窄に用いる治療で、出血源に応じた使い分けが重要です。内視鏡で止血困難な場合のSengstaken-Blakemoreチューブ、制限的輸血、予防的抗菌薬、肝性脳症への注意も合わせて押さえておくと、救急外来での初期対応にそのまま役立ちます。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・56歳男性。夕食後に悪心が出現し、就寝前に暗赤色の吐血をきたした。吐血は上部消化管(食道・胃・十二指腸)からの出血を示す。 ・日本酒4合/日を30年間という大量・長期の飲酒歴があり、25年前から肝障害を指摘されながら放置していた。 ・脈拍112/分、血圧80/50mmHgと頻脈・低血圧があり、口腔内乾燥もみられる。出血による循環血液量減少性ショックの状態である(ショック指数=脈拍/収縮期血圧=112/80=1.4、1.0を超えると中等量以上の出血が示唆される)。 ・Hb 7.8g/dLの貧血、血小板7.2万の血小板減少、脾腫(左肋骨弓下に2cm触知)がある。 ・緊急上部消化管内視鏡で、食道内腔に青色調で数珠状に連なる太い静脈瘤を認め、表面に発赤所見を伴う。
診断へのプロセス
吐血の原因としては、食道・胃静脈瘤破裂、胃・十二指腸潰瘍、急性胃粘膜病変、Mallory-Weiss症候群、食道癌・胃癌などが鑑別に挙がる。Mallory-Weiss症候群は飲酒後などに繰り返す嘔吐の後に起こる吐血が典型であり、本症例の経過とは合わない。 大量飲酒歴と長年の肝障害からアルコール性肝障害が肝硬変へ進行していると考えられる。脾腫と血小板減少は門脈圧亢進症による脾機能亢進を示し、門脈圧亢進に伴う側副血行路として食道静脈瘤が形成されたと考えるのが自然である。内視鏡像でも食道静脈瘤が確認されており、診断は肝硬変(門脈圧亢進症)に伴う食道静脈瘤破裂である。
設問の考え方
食道静脈瘤破裂では、まず細胞外液の輸液・必要に応じた輸血で循環動態の安定化を図りつつ、緊急内視鏡で出血源を確認し、そのまま内視鏡的止血を行う。食道静脈瘤からの出血に対する第一選択の内視鏡的止血法は、手技が簡便で安全性が高く止血率も高い内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)である。輸液・輸血に加え、バソプレシンなどの門脈圧を下げる薬物や、細菌感染予防の抗菌薬投与も併用される。内視鏡的止血が困難な場合には、Sengstaken-Blakemoreチューブによるバルーン圧迫止血が一時的な手段となる。
選択肢考察
- ×a. 開腹止血術
食道静脈瘤からの出血は内視鏡的治療で多くが止血できるため、まず内視鏡的止血を行う。肝硬変・ショック状態の患者に緊急手術を行うと侵襲が大きく、肝不全の誘発や死亡のリスクが高い。食道静脈瘤に対する外科治療(食道離断術、Hassab手術:脾臓摘出と胃上部の血行遮断)は、内視鏡治療や血管内治療が発達した現在ではほとんど行われず、緊急止血の手段として選ぶものではない。
- ×b. クリッピング
内視鏡的クリッピングは、出血性胃・十二指腸潰瘍の露出血管や、Mallory-Weiss症候群の裂創など、限局した出血点をクリップで挟んで止血する方法である。食道静脈瘤は壁の薄い太い静脈であり、クリップで挟むと静脈瘤の壁を損傷してかえって出血を増悪させるおそれがあるため、静脈瘤出血の止血には用いない。
- ×c. ステント留置術
消化管ステント留置術は、食道癌などの悪性腫瘍による内腔の高度狭窄に対し、通過障害を改善する目的で行う。食道静脈瘤からの出血に対する標準的な止血法ではない。
- ○d. 内視鏡的結紮術
内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)は、内視鏡先端に装着した器具で静脈瘤を吸引し、小さなゴムバンド(Oリング)で根元を縛って血流を遮断し、静脈瘤を壊死・脱落させる方法である。手技が簡便で短時間に施行でき、合併症が少なく、急性出血に対する止血率が高いため、食道静脈瘤破裂の緊急止血の第一選択となる。出血点やその肛門側(胃側)の静脈瘤を結紮して止血する。止血後は再出血予防のため、EVLの追加や内視鏡的硬化療法(EIS)で静脈瘤の消失を目指す。
- ×e. バルーン閉塞下逆行性経静脈塞栓術〈BRTO〉
BRTO(balloon-occluded retrograde transvenous obliteration)は、胃腎シャントを有する孤立性胃静脈瘤(主に穹窿部の静脈瘤)に対して、左腎静脈から胃腎シャントへカテーテルを進め、バルーンで血流を遮断したうえで硬化剤を注入し静脈瘤を塞栓する血管内治療である。対象は胃静脈瘤であり、主に待機的・予防的治療として行われる。食道静脈瘤破裂の緊急止血には用いない。
食道・胃静脈瘤の成り立ち
肝硬変などで門脈圧が亢進すると、門脈血は肝臓を迂回して体循環へ流れる側副血行路を形成する。代表的なものは、左胃静脈・短胃静脈から食道・胃上部の粘膜下静脈を経て奇静脈へ向かう経路で、これが食道・胃静脈瘤となる。そのほか、臍傍静脈を介する腹壁静脈の怒張(メドゥーサの頭)、下腸間膜静脈から上直腸静脈を介する直腸静脈瘤、脾静脈と左腎静脈を結ぶ脾腎・胃腎シャントなどがある。
内視鏡所見の記載
形態(F:F1 直線的な細い静脈瘤、F2 連珠状の中等度の静脈瘤、F3 結節状または腫瘤状の静脈瘤)、色調(白色静脈瘤Cw・青色静脈瘤Cb)、発赤所見(RC sign:ミミズ腫れ様所見、チェリーレッドスポット、血マメ様所見など)を評価する。F2以上、RC sign陽性は破裂の危険が高い所見とされ、予防的治療の対象となる。
食道静脈瘤破裂の治療
・全身管理:輸液、輸血(過剰な輸血は門脈圧を上げるため目標Hb 7~8g/dL程度とする制限的輸血が推奨される)、門脈圧を下げる薬物(バソプレシンなど)、抗菌薬による感染予防。 ・緊急止血:内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)が第一選択。 ・内視鏡的止血困難時:Sengstaken-Blakemoreチューブによるバルーン圧迫止血、経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術(TIPS)など。 ・止血後の待機的・予防的治療:EVLの反復、内視鏡的硬化療法(EIS:静脈瘤内やその周囲に硬化剤を注入する)。
胃静脈瘤の治療
出血時は内視鏡下にシアノアクリレート系組織接着剤を注入して止血する。胃腎シャントを伴う孤立性胃静脈瘤では、待機的にBRTOが行われる。
肝硬変の合併症への注意
消化管出血は肝性脳症を誘発する(腸管内の血液が分解されアンモニアが増える)。また、肝硬変患者の消化管出血では細菌感染の合併が多く、予防的な抗菌薬投与が生存率を改善する。
POINT
・大量飲酒歴+脾腫・血小板減少+吐血 → 肝硬変・門脈圧亢進症による食道静脈瘤破裂を考える。 ・食道静脈瘤破裂の緊急止血の第一選択は内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)。 ・内視鏡で止血困難ならSengstaken-Blakemoreチューブで一時的に圧迫止血する。 ・クリッピングは潰瘍出血やMallory-Weiss症候群の止血に用い、静脈瘤には用いない。 ・BRTOは胃腎シャントを伴う胃静脈瘤に対する血管内治療。 ・ステントは悪性狭窄の治療。
