StudyMed医師国家試験

その震え、本当に肝臓のせい?―肝硬変の身体所見を「2つの病態」で仕分ける

第117回医師国家試験 A問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第117回 A問題 第9問

肝硬変でみられない所見はどれか。

  1. a.手掌紅斑
  2. b.静止時振戦
  3. c.女性化乳房
  4. d.くも状血管腫
  5. e.腹壁静脈怒張

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肝硬変でみられる身体所見を整理する問題だ。所見を一つずつ丸暗記するより、「肝細胞の機能が落ちたから出る所見」と「門脈圧が上がったから出る所見」の2つに振り分けると、仲間外れが自然に見えてくる。まずは、肝臓の機能が落ちると何が困るか考えてみよう。
医学生医学生
アルブミンや凝固因子が作れなくなる、アンモニアを処理できなくなる、ビリルビンを排泄できなくなる、あたりでしょうか。
ドクタードクター
いいね、合成・解毒・排泄の3つだ。もう一つ見落とされやすいのがホルモンの代謝。肝臓はエストロゲンを不活化しているから、肝硬変ではエストロゲン作用が相対的に強くなる。これで説明できる所見が手掌紅斑、くも状血管腫、女性化乳房だ。
医学生医学生
消化器内科の実習で、肝硬変の患者さんの手のひらが母指球と小指球のところだけ赤くなっているのを見せてもらいました。あれもエストロゲンなんですね。
ドクタードクター
そう、皮膚の細動脈や毛細血管が拡張して起こると考えられている。くも状血管腫も同じ血管拡張の仲間で、中心の細動脈から脚のように細い血管が広がり、中心を押さえると赤みが消えるのが特徴。顔や頸部、前胸部など上半身に出やすい。
医学生医学生
女性化乳房は、たしか肝硬変の治療薬でも起きるって薬理の講義で聞いた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。腹水に使うスピロノラクトンの副作用として有名だ。病気そのものでも薬でも起こりうるから、診察では内服歴も確認したい。では次に門脈圧亢進症。肝臓が硬くなって門脈血が通りにくくなると、どうなる?
医学生医学生
血液が行き場を失って、脾腫や腹水、それから食道静脈瘤のような側副血行路ができます。
ドクタードクター
その通り。側副血行路は食道・胃だけでなく、臍静脈が再開通して臍から放射状に腹壁の静脈が浮き出ることもある。これが腹壁静脈怒張、いわゆるメズサの頭だ。ここまでで、手掌紅斑、くも状血管腫、女性化乳房、腹壁静脈怒張はすべて説明できたね。
医学生医学生
残るのは静止時振戦ですね。でも肝硬変って振戦が出るんじゃなかったでしたっけ。CBTの勉強で「肝性脳症=振戦」と覚えてしまっていて……。
ドクタードクター
そこが今回の落とし穴なんだ。肝性脳症で出るのは羽ばたき振戦。両腕を前に伸ばして手首を反らせた姿勢を保ってもらうと、筋肉の緊張が一瞬途切れて手がカクンと落ち、戻そうとして羽ばたくような動きになる。正体は陰性ミオクローヌスで、姿勢を保とうとしたときに出るのがポイントだ。
医学生医学生
静止時振戦は、力を抜いて安静にしているときに出て、動かすと軽くなる震えですよね。神経内科の実習で見たParkinson病の患者さんの、丸薬を丸めるような指の動きを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれ。静止時振戦はParkinson病などの錐体外路障害の代表的な症候で、肝硬変の所見として挙げるものではない。だから肝硬変でみられないのは静止時振戦、というのが答えになる。「振戦」という言葉だけで飛びつかず、どんな状況で出る震えかを区別することが大事だね。
医学生医学生
振戦は種類ごとに整理しておかないと危ないですね。
ドクタードクター
せっかくだからまとめておこう。安静時に出るのがParkinson病の静止時振戦、姿勢を保つと出るのが本態性振戦や甲状腺機能亢進症の姿勢時振戦、目標に近づくほど強くなるのが小脳障害の企図振戦。そして羽ばたき振戦は肝性脳症に限らず、尿毒症やCO2ナルコーシスなどの代謝性脳症でもみられる。肝硬変に特異的な所見ではないことも押さえておきたい。
医学生医学生
意識がぼんやりした患者さんで羽ばたき振戦を見たら、肝臓だけでなく腎臓や呼吸の問題も考える、ということですね。
ドクタードクター
その通り。臨床では、肝硬変の患者さんに羽ばたき振戦が出てきたら、便秘や消化管出血、感染、脱水、利尿薬の使い過ぎといった肝性脳症の誘因がないかをまず探す。身体所見は病態のサインだから、「なぜその所見が出ているのか」を説明できるようにしておくと、ベッドサイドで強いよ。

まとめ

肝硬変の身体所見は「肝細胞機能の低下」と「門脈圧亢進症」の2つの病態で整理できます。エストロゲンの不活化低下によって手掌紅斑、くも状血管腫、女性化乳房が生じ、門脈圧亢進に伴う側副血行路の発達として腹壁静脈怒張(メズサの頭)や食道・胃静脈瘤がみられます。肝性脳症で出現するのは姿勢保持時の羽ばたき振戦(陰性ミオクローヌス)であり、安静時に出る静止時振戦はParkinson病などの錐体外路障害の所見です。振戦は静止時・姿勢時・企図・羽ばたきの種類ごとに代表疾患と結びつけて覚え、羽ばたき振戦は尿毒症やCO2ナルコーシスなど代謝性脳症全般でみられる点も押さえておきましょう。所見を病態から説明できるようにしておくことが、暗記に頼らない確かな診察力につながります。

解答・解説

正解はbです

肝硬変は、慢性的な肝障害が続いた結果、肝細胞の壊死と再生を繰り返して線維化が進み、肝小葉構造が再生結節に置き換わった状態である。肝硬変の身体所見は、大きく次の二つの病態から説明できる。

1. 肝細胞機能の低下

肝臓は、合成(アルブミン・凝固因子など)、代謝・解毒(アンモニア、ホルモン、薬物など)、排泄(ビリルビン)を担う。肝硬変ではこれらが低下する。とくに性ホルモンの代謝が落ちてエストロゲン作用が相対的に強まると、手掌紅斑、くも状血管腫、女性化乳房、睾丸萎縮などが現れる。アンモニアなどの解毒が不十分になると肝性脳症を起こし、その特徴的な神経所見が羽ばたき振戦である。

2. 門脈圧亢進症

線維化した肝臓では門脈血が流れにくくなり、門脈圧が上がる。その結果、脾腫(およびそれに伴う血小板減少)、腹水、側副血行路の発達(食道・胃静脈瘤、腹壁静脈怒張、痔核など)がみられる。

設問の考え方

各選択肢を、上の二つの病態のどちらかで説明できるかで振り分ければよい。肝硬変の振戦として知られるのは、肝性脳症に伴う「羽ばたき振戦」である。これは持続した姿勢を保てなくなる陰性ミオクローヌスで、安静時に出る振戦ではない。安静時に出現する振戦はParkinson病などの錐体外路疾患の特徴であり、肝硬変の所見として挙げるのは適切ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  手掌紅斑

    肝硬変でみられる所見である。母指球・小指球など手のひらの辺縁部が赤くなる所見で、皮膚表層の細動脈・毛細血管が拡張して起こる。肝臓でのエストロゲン不活化が低下し、エストロゲン作用が相対的に強まることが主な原因と考えられている。肝硬変のほか、妊娠や関節リウマチ、甲状腺機能亢進症などでもみられる。

  2. ○b.  静止時振戦

    肝硬変の所見ではないため、これが正解である。静止時振戦(安静時振戦)は、力を抜いて安静にしているときに出現し、動作を始めると軽減する振戦で、Parkinson病の代表的な症候である(4~6Hz程度の規則的な振戦で、指先で丸薬をまるめるような動き〈pill-rolling〉が典型)。一方、肝硬変に伴う肝性脳症でみられるのは羽ばたき振戦(asterixis)である。両上肢を前に伸ばし手関節を背屈させた姿勢を保たせると、筋緊張が一瞬途切れて手が落ち、それを戻そうとして羽ばたくような不規則な動きとなる。姿勢保持のときに出る点で、静止時振戦とはまったく異なる。

  3. ×c.  女性化乳房

    肝硬変でみられる所見である。男性で乳腺組織が肥大する状態で、肝臓でのエストロゲン分解が低下することに加え、副腎由来アンドロゲンが末梢でエストロゲンへ変換されやすくなることなどにより、エストロゲン/アンドロゲン比が上昇して起こる。肝硬変の腹水治療に用いるスピロノラクトン(抗アルドステロン薬)の副作用としても生じうる点も押さえておく。

  4. ×d.  くも状血管腫

    肝硬変でみられる所見である。中心の拡張した細動脈から細い血管がクモの脚のように放射状に広がる皮膚病変で、中心部を圧迫すると周囲の赤みが消える。上大静脈の灌流域(顔面、頸部、前胸部、上肢)に出やすい。手掌紅斑と同様に、エストロゲン作用の相対的増強による血管拡張が関与する。妊婦や経口避妊薬を服用している女性にもみられる。

  5. ×e.  腹壁静脈怒張

    肝硬変でみられる所見である。門脈圧亢進症により、門脈血が肝臓を迂回して大循環へ戻るための側副血行路が発達する。臍静脈が再開通し、臍周囲から放射状に腹壁静脈が拡張したものはメズサの頭(caput medusae)と呼ばれる。同じ側副血行路の発達として、食道・胃静脈瘤や直腸静脈叢の拡張もみられる。

肝硬変の主な症候の整理

1. 肝細胞機能低下によるもの ・合成能低下:低アルブミン血症(浮腫、腹水)、凝固因子低下によるプロトロンビン時間延長と出血傾向、コリンエステラーゼ低下、総コレステロール低下 ・解毒・代謝能低下:高アンモニア血症による肝性脳症(意識障害、羽ばたき振戦、肝性口臭) ・ホルモン代謝の異常(エストロゲン作用の相対的増強):手掌紅斑、くも状血管腫、女性化乳房、睾丸萎縮、月経異常 ・排泄能低下:黄疸(高ビリルビン血症) 2. 門脈圧亢進症によるもの ・脾腫と脾機能亢進(汎血球減少、とくに血小板減少) ・腹水 ・側副血行路:食道・胃静脈瘤、腹壁静脈怒張(メズサの頭)、痔核

振戦の種類と代表的疾患

・静止時(安静時)振戦:Parkinson病 ・姿勢時振戦:本態性振戦、甲状腺機能亢進症 ・企図振戦(目標に近づくほど強くなる):小脳障害 ・羽ばたき振戦:肝性脳症、尿毒症、CO2ナルコーシス(高二酸化炭素血症)など代謝性脳症 羽ばたき振戦は肝性脳症に特異的ではなく、代謝性脳症全般でみられることも覚えておくとよい。

POINT

・肝硬変の所見は「肝細胞機能低下」と「門脈圧亢進症」の二本立てで整理する。 ・手掌紅斑、くも状血管腫、女性化乳房はエストロゲン作用の相対的増強による。 ・腹壁静脈怒張(メズサの頭)は門脈圧亢進症による側副血行路の所見である。 ・肝性脳症の振戦は羽ばたき振戦であり、静止時振戦はParkinson病の所見である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。