検診で選ばれるのは「死亡率を下げると証明された方法」だけ―乳がん検診とマンモグラフィ
第117回医師国家試験 A問題 第8問
国試問題にチャレンジ
我が国の対策型がん検診で行われる乳癌の検査方法はどれか。
- a.CT
- b.MRI
- c.視触診
- d.超音波検査
- e.マンモグラフィ
対話形式の解説
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ドクターまとめ
我が国の対策型乳がん検診は、40歳以上の女性を対象に2年に1回、問診とマンモグラフィで行われます。対策型検診は集団のがん死亡率を下げる公共的な対策であるため、死亡率減少効果が証明され、偽陽性や過剰診断、被曝などの不利益を上回る利益が確認された方法だけが採用されます。視触診は単独での有効性が乏しく現在は推奨されず、超音波検査は感度向上が示されたものの死亡率減少効果が未確立で、CTやMRIは診断後の病期・広がり診断や高リスク者のサーベイランスに用いる検査です。胃・大腸・肺・乳・子宮頸の5つの対策型検診について、対象年齢・間隔・方法をセットで押さえておくことが重要です。「見つけられる検査」と「死亡を減らせる検査」を区別する視点は、検診の意義を患者に説明するうえでも欠かせません。
解答・解説
正解はeです
我が国の対策型乳がん検診の検査方法を問う問題である。 がん検診には「対策型検診」と「任意型検診」がある。対策型検診は、集団全体のがん死亡率を下げることを目的とした公共的な予防対策であり、市区町村が住民を対象に公費で行う住民検診がこれにあたる。そのため、死亡率減少効果が科学的に証明され、不利益(偽陽性による不要な精査、過剰診断、放射線被曝など)を上回る利益が確認された方法だけが採用される。一方、任意型検診は人間ドックなどで個人が自らの死亡リスクを下げるために任意で受けるもので、検査方法は医療機関ごとに提供される。 対策型検診の内容は、厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」で定められている。乳がん検診については、40歳以上の女性を対象に、2年に1回、問診と乳房エックス線検査(マンモグラフィ)を行うこととされている。マンモグラフィは、触知できない早期の乳癌や微細石灰化を検出でき、死亡率減少効果が確認されている唯一の方法である。かつては視触診も検診項目に含まれていたが、単独での有効性が認められないことから、現在の指針では推奨されていない。
選択肢考察
- ×a. CT
CTは、乳癌と診断された後の遠隔転移(肺、肝、骨、リンパ節など)の検索や病期診断に用いられるが、乳がん検診の検査方法ではない。乳腺内の小病変の検出には適さず、被曝量もマンモグラフィに比べて多い。なお、肺がん検診では重喫煙者などを対象に低線量CTの有効性が評価されているが、乳がん検診とは無関係である。
- ×b. MRI
乳房MRI(造影MRI)は感度が高く、乳癌の広がり診断(乳房温存術の適応決定など)や、BRCA1/2遺伝子の病的バリアント保持者など遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)の高リスク女性に対するサーベイランスに用いられる。しかし、費用が高く、造影剤を要し、偽陽性も多いため、一般住民を対象とする対策型検診には含まれない。
- ×c. 視触診
視触診は日常診療での乳房診察として重要であり、かつては対策型乳がん検診の項目として行われていた。しかし、視触診単独では死亡率減少効果を示す十分な根拠がなく、早期の小さな病変の検出能も低いため、現在の指針では推奨されていない(実施する場合もマンモグラフィとの併用に限られる)。対策型検診で必須とされるのは問診とマンモグラフィである。
- ×d. 超音波検査
乳房超音波検査は被曝がなく、乳腺濃度が高い(高濃度乳房)若年者でも腫瘤を検出しやすいため、マンモグラフィで要精検とされた場合の精密検査(二次検査)や、日常診療・任意型検診で広く用いられる。日本の大規模比較試験(J-START)では、40歳代女性でマンモグラフィに超音波を追加すると感度や早期癌の発見率が向上することが示されたが、死亡率減少効果はまだ確認されておらず、偽陽性の増加という不利益もあるため、対策型検診の検査方法には採用されていない。
- ○e. マンモグラフィ
マンモグラフィ(乳房エックス線検査)は、乳房を圧迫して撮影するエックス線検査で、腫瘤のほか、非浸潤性乳管癌などにみられる微細石灰化や構築の乱れを検出できる。複数の無作為化比較試験などにより乳癌死亡率の減少効果が確認されており、我が国の対策型乳がん検診では、40歳以上の女性に2年に1回、問診とともに実施することとされている。撮影は内外斜位方向(MLO)を基本とし、40歳代では頭尾方向(CC)を加えた2方向撮影が行われる。
我が国の対策型がん検診(厚生労働省の指針)
・胃がん:50歳以上、2年に1回、問診+胃部エックス線検査または胃内視鏡検査(胃部エックス線検査は当分の間、40歳以上に年1回実施も可) ・大腸がん:40歳以上、年1回、問診+便潜血検査(免疫法、2日法) ・肺がん:40歳以上、年1回、質問(問診)+胸部エックス線検査、重喫煙者には喀痰細胞診を併用 ・乳がん:40歳以上の女性、2年に1回、問診+マンモグラフィ ・子宮頸がん:20歳以上の女性、2年に1回、問診・視診+子宮頸部細胞診・内診。30〜60歳ではHPV検査単独法(陰性なら5年に1回)も選択可能となった
対策型検診に含まれないもの
前立腺がんのPSA検診は、死亡率減少効果と過剰診断などの不利益とのバランスが明確でないことから、対策型検診には含まれていない(任意型検診や一部自治体の独自事業として行われている)。乳房の視触診・超音波、CT、MRI、腫瘍マーカーなども対策型検診の検査項目ではない。
がん検診の不利益
偽陽性による不要な精密検査と心理的負担、偽陰性による安心感、生命予後に影響しない癌まで見つけてしまう過剰診断、検査の偶発症(被曝、内視鏡による穿孔など)がある。対策型検診はこれらの不利益を考慮したうえで、利益が上回る方法に限定される。
乳癌の疫学
乳癌は日本人女性で罹患数が最も多いがんであり、罹患率は40歳代後半から60歳代にかけて高い。これが検診開始年齢を40歳とする根拠の一つである。
POINT
・対策型乳がん検診:40歳以上の女性、2年に1回、問診+マンモグラフィ。 ・視触診は現在の指針では推奨されず、超音波検査は死亡率減少効果が未確立のため対策型検診には含まれない(精密検査や任意型検診で用いる)。 ・CT・MRIは乳癌の病期診断・広がり診断や高リスク者のサーベイランスに用いるもので、検診方法ではない。 ・対策型検診は胃・大腸・肺・乳・子宮頸の5つで、それぞれ対象年齢・間隔・方法が定められている。前立腺がん(PSA)は含まれない。
