StudyMed医師国家試験

壁細胞が消えると何が起こる?―A型胃炎と悪性貧血をつなぐ「内因子」

第117回医師国家試験 A問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第117回 A問題 第7問

自己免疫性胃炎〈A型胃炎〉に合併するのはどれか。

  1. a.悪性貧血
  2. b.溶血性貧血
  3. c.悪性リンパ腫
  4. d.鉄欠乏性貧血
  5. e.再生不良性貧血

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は自己免疫性胃炎、いわゆるA型胃炎に合併する病態を問う問題だ。カギは「壊れる細胞が何を作っているか」を考えること。自己免疫の標的がどの細胞か、思い出せるかな。
医学生医学生
胃底腺の壁細胞だったと思います。抗胃壁細胞抗体が陽性になるんですよね。
ドクタードクター
その通り。抗体の標的は壁細胞のH+,K+-ATPase、つまりプロトンポンプだ。では、壁細胞は何を分泌している?
医学生医学生
胃酸です。……あと、生理学の講義で内因子も壁細胞から出ると習いました。
ドクタードクター
よく覚えていたね。壁細胞は胃酸と内因子の2つを出している。だから壁細胞が壊れると、その両方が足りなくなる。まず内因子の役割から整理しよう。
医学生医学生
ビタミンB12とくっついて、回腸末端で吸収されるのを助けるんでしたっけ。
ドクタードクター
そう。内因子がなくなり、さらに抗内因子抗体がB12と内因子の結合を邪魔すると、B12が吸収できなくなる。B12はDNA合成に必要だから、赤芽球が成熟できずに大きいまま残る。これが巨赤芽球性貧血で、自己免疫性胃炎による内因子欠乏が原因のものを悪性貧血と呼ぶ。今回の正解は悪性貧血だ。
医学生医学生
「悪性」という名前なので、最初は腫瘍のような怖い病気かと思っていました。
ドクタードクター
昔は治療法がなく致死的だったからそう呼ばれたんだ。今はビタミンB12で治療できる。ただし吸収経路そのものが壊れているから、経口ではなく筋注が基本になる点は押さえておこう。
医学生医学生
でも、胃酸が出なくなるなら鉄の吸収も落ちますよね。鉄欠乏性貧血も合併しそうに思えて迷いました。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。実際、食物中の3価鉄は胃酸で可溶化されて吸収されやすくなるから、無酸症では鉄欠乏性貧血も起こりうる。若い女性では鉄欠乏が先に目立つこともある。ただ、A型胃炎に特徴的で代表的な合併症として位置づけられているのは、内因子欠乏による悪性貧血だ。1つ選ぶなら悪性貧血になる。
医学生医学生
溶血性貧血はどうでしょう。悪性貧血でもLDや間接ビリルビンが上がると聞いたことがあります。
ドクタードクター
そこは混同しやすいところだ。悪性貧血では骨髄の中で異常な赤芽球が壊れる「無効造血」が起こるため、溶血に似た検査所見になる。でも溶血性貧血は末梢の赤血球が壊れる病態で、自己免疫性溶血性貧血もA型胃炎と直接の関係はない。
医学生医学生
汎血球減少になるなら、再生不良性貧血との区別も必要ですね。
ドクタードクター
その通り。悪性貧血でも汎血球減少をきたすことがあるけれど、骨髄は巨赤芽球が増えて過形成になる。再生不良性貧血は造血幹細胞が減って低形成骨髄になるから、骨髄所見で正反対なんだ。A型胃炎との関連もない。
医学生医学生
悪性リンパ腫は、胃のMALTリンパ腫を連想しました。
ドクタードクター
胃MALTリンパ腫の背景はHelicobacter pylori感染による慢性炎症で、除菌で退縮することが多い。つまりB型胃炎側の話だね。A型胃炎で注意すべき腫瘍は別にある。無酸症になると、ガストリンはどうなると思う?
医学生医学生
負のフィードバックが外れて、前庭部のG細胞からガストリンがどんどん出る……高ガストリン血症ですか。
ドクタードクター
正解。高ガストリン血症がECL細胞を刺激して過形成を起こし、多発性の小さな胃神経内分泌腫瘍(1型)が生じうる。胃癌のリスクも上がる。萎縮は胃体部・胃底部優位で前庭部は保たれる「逆萎縮」が特徴で、前庭部から萎縮が広がるピロリ胃炎とは分布が逆だ。血清ペプシノゲンⅠやⅠ/Ⅱ比も低下する。
医学生医学生
消化器内科の実習で内視鏡を見学したとき、指導医の先生が「体部だけ萎縮しているからA型を疑う」と話していた意味がやっとわかりました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。もう1つ、A型胃炎は橋本病や1型糖尿病、白斑など他の自己免疫疾患と合併しやすい。さらにB12欠乏は亜急性連合性脊髄変性症のような神経障害も起こすから、貧血が軽くても深部感覚障害や歩行障害があれば疑う。神経症状は治療が遅れると残りやすいので、早期発見が大切だ。

まとめ

自己免疫性胃炎(A型胃炎)は壁細胞に対する自己免疫により胃体部・胃底部優位に萎縮が進む胃炎で、抗胃壁細胞抗体や抗内因子抗体が陽性となります。壁細胞は胃酸と内因子を分泌するため、内因子欠乏によるビタミンB12吸収障害から悪性貧血(巨赤芽球性貧血)を合併し、治療はB12の非経口投与が基本です。無酸症により鉄欠乏性貧血も起こりえますが代表的な合併症は悪性貧血であり、高ガストリン血症による胃神経内分泌腫瘍や胃癌、橋本病など他の自己免疫疾患の合併にも注意が必要です。一方、胃MALTリンパ腫はピロリ菌感染と関連し、溶血性貧血や再生不良性貧血とは骨髄所見や病態で区別されます。「壊れる細胞が何を作っているか」から合併症を導く考え方は、萎縮性胃炎全般や胃切除後の病態の理解にもそのまま応用できます。

解答・解説

正解はaです

自己免疫性胃炎(A型胃炎)とそれに合併する病態を問う問題である。 自己免疫性胃炎は、胃底腺に存在する壁細胞に対する自己免疫反応により、壁細胞が破壊されて胃体部・胃底部優位に萎縮が進む慢性胃炎である。血中には抗胃壁細胞抗体(壁細胞のH+,K+-ATPase、すなわちプロトンポンプを標的とする)や抗内因子抗体が検出される。 壁細胞は、胃酸(塩酸)と内因子という2つの物質を分泌している。したがって、壁細胞が失われると次の2つの欠乏が起こる。 1. 内因子の欠乏:内因子はビタミンB12と結合して回腸末端での吸収を担う糖蛋白である。内因子が欠乏する(さらに抗内因子抗体がB12と内因子の結合を阻害する)とビタミンB12が吸収できなくなり、DNA合成障害による巨赤芽球性貧血、すなわち悪性貧血をきたす。 2. 胃酸の欠乏:食物中の鉄は主に3価鉄(非ヘム鉄)であり、胃酸によって可溶化され、2価鉄に還元されやすい状態になって十二指腸で吸収される。無酸症では鉄の吸収が低下し、鉄欠乏性貧血も生じうる。 このように自己免疫性胃炎では鉄欠乏性貧血も起こりうるが、自己免疫性胃炎に特徴的・代表的な合併症として位置づけられているのは悪性貧血であり、一つを選ぶ本問では悪性貧血が正解となる。

選択肢考察

  1. ○a.  悪性貧血

    悪性貧血は、自己免疫性胃炎による壁細胞の破壊で内因子が欠乏し、ビタミンB12が吸収されなくなって生じる巨赤芽球性貧血である。抗内因子抗体はB12と内因子の結合や、その複合体の回腸での吸収を阻害する。大球性貧血(MCVの上昇)、汎血球減少、LD著増、間接ビリルビン上昇、好中球の過分葉などがみられ、ハンター舌炎や、亜急性連合性脊髄変性症(後索・側索の障害による深部感覚障害や痙性麻痺)などの神経症状を伴うことがある。かつては有効な治療がなく致死的であったため「悪性」と呼ばれたが、現在はビタミンB12の筋注(吸収障害があるため経口でなく非経口投与が基本)で治療できる。

  2. ×b.  溶血性貧血

    溶血性貧血は赤血球の破壊亢進によって生じる貧血であり、遺伝性球状赤血球症などの先天性のものと、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、発作性夜間ヘモグロビン尿症、機械的溶血などの後天性のものがある。AIHAは赤血球膜抗原に対する自己抗体による自己免疫疾患だが、自己免疫性胃炎との直接の関連はない。なお、悪性貧血では骨髄内で異常な赤芽球が壊れる無効造血のためLDや間接ビリルビンが上昇し、溶血に似た検査所見を示すが、これは溶血性貧血とは別の病態である。

  3. ×c.  悪性リンパ腫

    胃に発生する悪性リンパ腫としては、MALTリンパ腫(粘膜関連リンパ組織型節外性辺縁帯リンパ腫)とびまん性大細胞型B細胞リンパ腫が代表的である。胃MALTリンパ腫の多くはHelicobacter pylori感染による慢性炎症を背景に発生し、除菌治療で退縮することが多い。自己免疫性胃炎の合併症としては知られていない。自己免疫性胃炎に関連して発生リスクが高まる腫瘍は、胃神経内分泌腫瘍(高ガストリン血症による)と胃癌である。

  4. ×d.  鉄欠乏性貧血

    鉄欠乏性貧血は、鉄の不足によりヘモグロビン合成が低下して生じる小球性低色素性貧血である。自己免疫性胃炎では壁細胞の減少により胃酸分泌が低下し、食物中の3価鉄が可溶化されにくくなるため鉄の吸収が障害され、実際に鉄欠乏性貧血を合併することがある(若年女性などではB12欠乏より先に鉄欠乏が顕在化することもある)。しかし、自己免疫性胃炎に最も特徴的な合併症は内因子欠乏による悪性貧血であり、一つを選ぶ本問では正解とはならない。

  5. ×e.  再生不良性貧血

    再生不良性貧血は、造血幹細胞の減少により骨髄が低形成となり、末梢血で赤血球・白血球・血小板のうち2系統以上が減少する症候群で、指定難病である。後天性の多くは細胞傷害性T細胞による造血幹細胞への免疫学的攻撃が関与するとされ、免疫抑制療法(抗胸腺細胞グロブリン、シクロスポリン)が行われる。自己免疫性胃炎との関連はない。なお、悪性貧血でも汎血球減少をきたすことがあるが、骨髄は過形成(巨赤芽球の増加)であり、低形成骨髄を示す再生不良性貧血とは区別される。

A型胃炎とB型胃炎の比較

・A型胃炎(自己免疫性胃炎):胃体部・胃底部優位の萎縮(前庭部は比較的保たれる、いわゆる逆萎縮)。抗胃壁細胞抗体・抗内因子抗体陽性。無酸症となり、ガストリン分泌の負のフィードバックが外れるため、前庭部G細胞からのガストリン分泌が亢進して血清ガストリンは著明に上昇する。血清ペプシノゲンⅠおよびⅠ/Ⅱ比は低下する。 ・B型胃炎:Helicobacter pylori感染による慢性胃炎。萎縮は前庭部から始まり胃体部へ広がる。日本の萎縮性胃炎の大半を占める。

自己免疫性胃炎の合併症・関連疾患

・悪性貧血(ビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血、亜急性連合性脊髄変性症) ・鉄欠乏性貧血(無酸症による鉄吸収障害) ・胃神経内分泌腫瘍(1型):高ガストリン血症によりECL細胞(腸クロム親和性細胞様細胞)が過形成となり、多発性の小腫瘍として生じる ・胃癌(胃腺癌) ・他の自己免疫疾患の合併:橋本病(慢性甲状腺炎)、Basedow病、1型糖尿病、Addison病、白斑など

ビタミンB12の吸収経路

食物中の蛋白と結合したB12は、胃酸とペプシンで遊離し、唾液由来のハプトコリンと結合する。十二指腸で膵酵素によりハプトコリンが分解されると、B12は壁細胞由来の内因子と結合し、回腸末端の受容体を介して吸収される。したがって、胃全摘後、回腸末端切除後、Crohn病などでもB12欠乏が生じる。体内貯蔵量が多いため、胃全摘後のB12欠乏性貧血は数年後に顕在化する。

POINT

・自己免疫性胃炎(A型胃炎)は壁細胞に対する自己免疫で胃体部優位に萎縮し、抗胃壁細胞抗体・抗内因子抗体が陽性となる。 ・内因子欠乏によりビタミンB12吸収が障害され、悪性貧血(巨赤芽球性貧血)を合併する。 ・無酸症により血清ガストリン高値、ペプシノゲンⅠ低値となる。 ・鉄欠乏性貧血、胃神経内分泌腫瘍、胃癌、他の自己免疫疾患(橋本病など)も合併しうる。 ・胃MALTリンパ腫はHelicobacter pylori感染(B型胃炎)と関連する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。