壁細胞が消えると何が起こる?―A型胃炎と悪性貧血をつなぐ「内因子」
第117回医師国家試験 A問題 第7問
国試問題にチャレンジ
自己免疫性胃炎〈A型胃炎〉に合併するのはどれか。
- a.悪性貧血
- b.溶血性貧血
- c.悪性リンパ腫
- d.鉄欠乏性貧血
- e.再生不良性貧血
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
自己免疫性胃炎(A型胃炎)は壁細胞に対する自己免疫により胃体部・胃底部優位に萎縮が進む胃炎で、抗胃壁細胞抗体や抗内因子抗体が陽性となります。壁細胞は胃酸と内因子を分泌するため、内因子欠乏によるビタミンB12吸収障害から悪性貧血(巨赤芽球性貧血)を合併し、治療はB12の非経口投与が基本です。無酸症により鉄欠乏性貧血も起こりえますが代表的な合併症は悪性貧血であり、高ガストリン血症による胃神経内分泌腫瘍や胃癌、橋本病など他の自己免疫疾患の合併にも注意が必要です。一方、胃MALTリンパ腫はピロリ菌感染と関連し、溶血性貧血や再生不良性貧血とは骨髄所見や病態で区別されます。「壊れる細胞が何を作っているか」から合併症を導く考え方は、萎縮性胃炎全般や胃切除後の病態の理解にもそのまま応用できます。
解答・解説
正解はaです
自己免疫性胃炎(A型胃炎)とそれに合併する病態を問う問題である。 自己免疫性胃炎は、胃底腺に存在する壁細胞に対する自己免疫反応により、壁細胞が破壊されて胃体部・胃底部優位に萎縮が進む慢性胃炎である。血中には抗胃壁細胞抗体(壁細胞のH+,K+-ATPase、すなわちプロトンポンプを標的とする)や抗内因子抗体が検出される。 壁細胞は、胃酸(塩酸)と内因子という2つの物質を分泌している。したがって、壁細胞が失われると次の2つの欠乏が起こる。 1. 内因子の欠乏:内因子はビタミンB12と結合して回腸末端での吸収を担う糖蛋白である。内因子が欠乏する(さらに抗内因子抗体がB12と内因子の結合を阻害する)とビタミンB12が吸収できなくなり、DNA合成障害による巨赤芽球性貧血、すなわち悪性貧血をきたす。 2. 胃酸の欠乏:食物中の鉄は主に3価鉄(非ヘム鉄)であり、胃酸によって可溶化され、2価鉄に還元されやすい状態になって十二指腸で吸収される。無酸症では鉄の吸収が低下し、鉄欠乏性貧血も生じうる。 このように自己免疫性胃炎では鉄欠乏性貧血も起こりうるが、自己免疫性胃炎に特徴的・代表的な合併症として位置づけられているのは悪性貧血であり、一つを選ぶ本問では悪性貧血が正解となる。
選択肢考察
- ○a. 悪性貧血
悪性貧血は、自己免疫性胃炎による壁細胞の破壊で内因子が欠乏し、ビタミンB12が吸収されなくなって生じる巨赤芽球性貧血である。抗内因子抗体はB12と内因子の結合や、その複合体の回腸での吸収を阻害する。大球性貧血(MCVの上昇)、汎血球減少、LD著増、間接ビリルビン上昇、好中球の過分葉などがみられ、ハンター舌炎や、亜急性連合性脊髄変性症(後索・側索の障害による深部感覚障害や痙性麻痺)などの神経症状を伴うことがある。かつては有効な治療がなく致死的であったため「悪性」と呼ばれたが、現在はビタミンB12の筋注(吸収障害があるため経口でなく非経口投与が基本)で治療できる。
- ×b. 溶血性貧血
溶血性貧血は赤血球の破壊亢進によって生じる貧血であり、遺伝性球状赤血球症などの先天性のものと、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、発作性夜間ヘモグロビン尿症、機械的溶血などの後天性のものがある。AIHAは赤血球膜抗原に対する自己抗体による自己免疫疾患だが、自己免疫性胃炎との直接の関連はない。なお、悪性貧血では骨髄内で異常な赤芽球が壊れる無効造血のためLDや間接ビリルビンが上昇し、溶血に似た検査所見を示すが、これは溶血性貧血とは別の病態である。
- ×c. 悪性リンパ腫
胃に発生する悪性リンパ腫としては、MALTリンパ腫(粘膜関連リンパ組織型節外性辺縁帯リンパ腫)とびまん性大細胞型B細胞リンパ腫が代表的である。胃MALTリンパ腫の多くはHelicobacter pylori感染による慢性炎症を背景に発生し、除菌治療で退縮することが多い。自己免疫性胃炎の合併症としては知られていない。自己免疫性胃炎に関連して発生リスクが高まる腫瘍は、胃神経内分泌腫瘍(高ガストリン血症による)と胃癌である。
- ×d. 鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血は、鉄の不足によりヘモグロビン合成が低下して生じる小球性低色素性貧血である。自己免疫性胃炎では壁細胞の減少により胃酸分泌が低下し、食物中の3価鉄が可溶化されにくくなるため鉄の吸収が障害され、実際に鉄欠乏性貧血を合併することがある(若年女性などではB12欠乏より先に鉄欠乏が顕在化することもある)。しかし、自己免疫性胃炎に最も特徴的な合併症は内因子欠乏による悪性貧血であり、一つを選ぶ本問では正解とはならない。
- ×e. 再生不良性貧血
再生不良性貧血は、造血幹細胞の減少により骨髄が低形成となり、末梢血で赤血球・白血球・血小板のうち2系統以上が減少する症候群で、指定難病である。後天性の多くは細胞傷害性T細胞による造血幹細胞への免疫学的攻撃が関与するとされ、免疫抑制療法(抗胸腺細胞グロブリン、シクロスポリン)が行われる。自己免疫性胃炎との関連はない。なお、悪性貧血でも汎血球減少をきたすことがあるが、骨髄は過形成(巨赤芽球の増加)であり、低形成骨髄を示す再生不良性貧血とは区別される。
A型胃炎とB型胃炎の比較
・A型胃炎(自己免疫性胃炎):胃体部・胃底部優位の萎縮(前庭部は比較的保たれる、いわゆる逆萎縮)。抗胃壁細胞抗体・抗内因子抗体陽性。無酸症となり、ガストリン分泌の負のフィードバックが外れるため、前庭部G細胞からのガストリン分泌が亢進して血清ガストリンは著明に上昇する。血清ペプシノゲンⅠおよびⅠ/Ⅱ比は低下する。 ・B型胃炎:Helicobacter pylori感染による慢性胃炎。萎縮は前庭部から始まり胃体部へ広がる。日本の萎縮性胃炎の大半を占める。
自己免疫性胃炎の合併症・関連疾患
・悪性貧血(ビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血、亜急性連合性脊髄変性症) ・鉄欠乏性貧血(無酸症による鉄吸収障害) ・胃神経内分泌腫瘍(1型):高ガストリン血症によりECL細胞(腸クロム親和性細胞様細胞)が過形成となり、多発性の小腫瘍として生じる ・胃癌(胃腺癌) ・他の自己免疫疾患の合併:橋本病(慢性甲状腺炎)、Basedow病、1型糖尿病、Addison病、白斑など
ビタミンB12の吸収経路
食物中の蛋白と結合したB12は、胃酸とペプシンで遊離し、唾液由来のハプトコリンと結合する。十二指腸で膵酵素によりハプトコリンが分解されると、B12は壁細胞由来の内因子と結合し、回腸末端の受容体を介して吸収される。したがって、胃全摘後、回腸末端切除後、Crohn病などでもB12欠乏が生じる。体内貯蔵量が多いため、胃全摘後のB12欠乏性貧血は数年後に顕在化する。
POINT
・自己免疫性胃炎(A型胃炎)は壁細胞に対する自己免疫で胃体部優位に萎縮し、抗胃壁細胞抗体・抗内因子抗体が陽性となる。 ・内因子欠乏によりビタミンB12吸収が障害され、悪性貧血(巨赤芽球性貧血)を合併する。 ・無酸症により血清ガストリン高値、ペプシノゲンⅠ低値となる。 ・鉄欠乏性貧血、胃神経内分泌腫瘍、胃癌、他の自己免疫疾患(橋本病など)も合併しうる。 ・胃MALTリンパ腫はHelicobacter pylori感染(B型胃炎)と関連する。
