StudyMed医師国家試験

ツベルクリンはもう打たない?―制度改正で読み解く日本の結核対策

第102回医師国家試験 B問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第102回 B問題 第22問

我が国の現在の結核対策で正しいのはどれか。

  1. a.診断は胸部エックス線写真による。
  2. b.診断後7日以内に保健所へ届け出る。
  3. c.介護保険施設入所者には入所前にBCGを接種する。
  4. d.乳児にはツベルクリン反応検査を行わずにBCGを接種する。
  5. e.患者の接触者にはDOTS〈directly observed treatment, short course〉を行う。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の問題で、日本の結核対策の「いま」のルールを問うものだ。結核対策は2005年の法改正、2007年の感染症法への統合と、制度が大きく変わってきた。だから「昔はこうだった」という知識と現行制度を区別できるかが着眼点になる。診断、届出、予防、治療・接触者対策の4本柱に分けて整理してみよう。
医学生医学生
まず診断ですが、結核といえば胸部エックス線で上葉の空洞影、というイメージが強いです。
ドクタードクター
疑うきっかけとしてはその通りで、上葉やS6の浸潤影・空洞影を見たら結核を念頭に置くべきだね。でも画像だけでは非結核性抗酸菌症、肺癌、真菌症などと区別できないことが多い。確定診断には、喀痰や胃液、気管支洗浄液から結核菌そのものを証明する必要があるんだ。
医学生医学生
抗酸菌塗抹、培養、それからPCRなどの核酸増幅法ですね。微生物学の実習でZiehl-Neelsen染色をやりました。
ドクタードクター
そう、赤く染まる桿菌だね。だから「診断は胸部エックス線写真による」は誤り。次に届出はどうかな。
医学生医学生
7日以内というのは聞いたことがある数字です。結核も慢性疾患なので、それくらいの猶予があるのかと思いました。
ドクタードクター
そこがよくある勘違いだ。7日以内は五類感染症の全数把握疾患、たとえば梅毒やAIDSなどの期限なんだ。結核は感染症法の二類感染症だから、診断した医師は「直ちに」保健所長を経由して都道府県知事へ届け出る。旧結核予防法の時代は2日以内だったけれど、統合後は直ちにとなった。
医学生医学生
二類だと入院勧告や就業制限の対象にもなるんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。喀痰塗抹陽性で感染性が高い患者は、結核病床のある医療機関へ入院勧告される。入院医療費は公費負担の対象だ。では予防の柱、BCGに移ろう。介護保険施設の入所者に入所前BCGを打つという制度は聞いたことがあるかな。
医学生医学生
高齢者施設で結核の集団感染が起きるというニュースは見ますが、BCGを打つ話は聞いたことがありません。
ドクタードクター
そう、そんな制度はないんだ。BCGの定期接種の対象は1歳未満の乳児で、成人や高齢者への発病予防効果は確立していない。高齢者はすでに感染している人も多いから、なおさら意義が乏しい。高齢者施設では、入所時や定期の胸部エックス線検査、有症状者の早めの喀痰検査といった早期発見が対策の中心になる。
医学生医学生
ということは、乳児にツベルクリン反応を省いてBCGを直接打つ、というのが正解ですね。でも、なぜツ反を省略できるんですか。
ドクタードクター
乳児は既感染者がきわめて少ないから、事前にツ反で感染の有無を調べる意義が乏しいと判断されたんだ。2005年の改正で直接接種になった。BCGは予防接種法に基づく定期接種のA類疾病で、対象は1歳未満、標準的な接種期間は生後5か月以上8か月未満。管針法で1回接種する。主な目的は乳幼児の粟粒結核や結核性髄膜炎といった重症結核の予防だよ。
医学生医学生
小児科の実習で、BCG後に早く強く腫れたらコッホ現象を疑うと教わりました。
ドクタードクター
いいね。接種後10日以内くらいに強い発赤・腫脹・化膿が出たら、結核既感染の可能性があるので医療機関で精査する。ツ反を省いた分、このコッホ現象を見逃さないことが大切なんだ。最後に、接触者にDOTSを行うという記述はどうだろう。
医学生医学生
DOTSは目の前で薬を飲むのを確認する方法なので、治療している人が対象のはずです。接触しただけの人には違いますよね。
ドクタードクター
正解。DOTSは直接服薬確認療法で、治療中断と薬剤耐性結核を防ぐための服薬支援だ。接触者に対して保健所が行うのは接触者健診で、BCGの影響を受けないIGRA、つまりQFTやT-SPOTと胸部エックス線で感染・発病を調べる。そこで潜在性結核感染症と判断されれば、イソニアジドなどで治療し、その段階でDOTSの対象にはなりうる。
医学生医学生
接触者全員にDOTSではなく、まず健診、感染が分かれば治療とDOTS、という順番なんですね。
ドクタードクター
そういうこと。日本では入院中の院内DOTSから、退院後の保健所による地域DOTSへつなぐ「日本版21世紀型DOTS戦略」がとられている。臨床に出たら、結核と診断した瞬間に届出、そして保健所との連携が始まる、と覚えておくといい。
医学生医学生
診断は菌の証明、届出は直ちに、BCGは乳児にツ反なしで、DOTSは治療者に、と4本柱で整理できました。

まとめ

現在の日本の結核対策は、感染症法(結核は二類感染症)と予防接種法に基づいて行われています。確定診断は胸部エックス線ではなく、塗抹・培養・核酸増幅法による結核菌の証明で行い、診断した医師は直ちに保健所へ届け出ます。BCGは1歳未満(標準は生後5〜8か月)の乳児にツベルクリン反応検査を行わずに直接接種し、接種後早期の強い局所反応(コッホ現象)は既感染を示唆します。DOTSは治療を受ける人への服薬支援であり、接触者にはまずIGRAなどによる接触者健診を行い、潜在性結核感染症と判断されれば治療します。制度の変遷と現行ルールを区別して押さえることは、国試対策だけでなく、結核を診断した際に保健所と適切に連携するための基礎になります。

解答・解説

正解はdです

我が国の結核対策の枠組みを問う問題である。 結核対策はかつて「結核予防法」に基づいて行われていたが、2005年4月の同法改正を経て、2007年4月に同法は廃止され、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」に統合された。現在、結核は感染症法上の二類感染症に位置づけられている。一方、BCG接種は予防接種法に基づく定期接種(A類疾病)として行われている。 この問題では、以下の4つの柱を正しく押さえているかが問われる。 1. 診断:確定診断は結核菌の証明(塗抹・培養・核酸増幅法)による。 2. 届出:二類感染症として、診断した医師は直ちに保健所長を経由して都道府県知事へ届け出る。 3. 予防:BCGは乳児期に1回、ツベルクリン反応検査を行わずに直接接種する。 4. 治療・接触者対策:患者には服薬支援としてDOTSを行い、接触者には接触者健診(IGRAなど)を行い、感染が判明した者には潜在性結核感染症として治療を行う。 これらを踏まえれば、2005年の制度改正で導入された「ツベルクリン反応検査を省いたBCG直接接種」が現行の対策として正しい記述であることがわかる。

選択肢考察

  1. ×a.  診断は胸部エックス線写真による。

    誤り。胸部エックス線写真は結核を疑うきっかけとして重要で、上葉やS6(下葉上区)の浸潤影・空洞影などがあれば結核を念頭に置く必要がある。しかし画像所見は非結核性抗酸菌症、肺癌、真菌症などと区別できないことが多く、確定診断には喀痰・胃液・気管支洗浄液などの検体から結核菌を証明すること(抗酸菌塗抹検査、培養検査、PCRなどの核酸増幅法による同定)が必要である。

  2. ×b.  診断後7日以内に保健所へ届け出る。

    誤り。結核は感染症法の二類感染症であり、診断した医師は「直ちに」最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出なければならない。旧結核予防法の時代には診断後2日以内の届出とされていたが、感染症法への統合後は直ちに届け出ることとなった。「7日以内」は五類感染症のうち全数把握対象疾患(梅毒、後天性免疫不全症候群など)の届出期限であり、結核には当てはまらない。

  3. ×c.  介護保険施設入所者には入所前にBCGを接種する。

    誤り。BCGの定期接種の対象は1歳未満の乳児であり、介護保険施設の入所者に入所前のBCG接種を行う制度はない。成人・高齢者に対するBCGの発病予防効果は確立しておらず、既感染者が多い高齢者ではむしろ意義が乏しい。高齢者施設での結核対策としては、入所時や定期の胸部エックス線検査、有症状者の早期受診・喀痰検査などによる早期発見が中心となる。

  4. ○d.  乳児にはツベルクリン反応検査を行わずにBCGを接種する。

    正しい。2005年4月の結核予防法改正により、乳幼児に対するBCG接種はツベルクリン反応検査を省略した直接接種となった。乳児では既感染者が極めて少ないため、事前のツベルクリン反応検査を行う意義が乏しいと判断されたためである。BCGは予防接種法に基づく定期接種(A類疾病)で、対象は1歳未満、標準的な接種期間は生後5か月以上8か月未満であり、管針法で1回接種する。なお、接種後10日以内に接種部位に強い発赤・腫脹・化膿がみられる場合(コッホ現象)は結核既感染の可能性があるため、医療機関を受診させて精査する。

  5. ×e.  患者の接触者にはDOTS〈directly observed treatment, short course〉を行う。

    誤り。DOTS(直接服薬確認療法)は、結核の治療を受けている者が医療従事者や保健師などの目の前で服薬することを確認し、治療完遂を支援する方法であり、治療を受ける者が対象である。単に患者と接触しただけの者に対して行うものではない。接触者に対しては保健所が接触者健診(定期外健康診断)を行い、IGRA(インターフェロンγ遊離試験)や胸部エックス線検査で感染・発病の有無を確認する。その結果、潜在性結核感染症と判断された者には抗結核薬(主にイソニアジド)による治療が行われ、その際に服薬支援としてDOTSが適用されることはあるが、「接触者全員にDOTSを行う」わけではない。

結核に関する法制度の変遷

・結核予防法(1951年)により結核対策が行われてきた。 ・2005年4月の改正:乳幼児のBCG接種がツベルクリン反応検査なしの直接接種に変更された。小中学校でのツベルクリン反応検査とBCG再接種は2003年にすでに廃止されている。 ・2007年4月:結核予防法が廃止され、感染症法(二類感染症)に統合。BCG接種の根拠は予防接種法に移った。

二類感染症としての扱い

・届出:診断後直ちに。 ・就業制限や入院勧告の対象となる。肺結核で喀痰塗抹陽性など感染性が高い患者は、結核病床をもつ医療機関へ入院勧告される。 ・医療費:入院勧告による入院医療費は公費負担の対象となる。通院治療についても公費負担制度がある。

BCG接種

・対象:1歳未満。標準的接種期間は生後5か月以上8か月未満。 ・方法:経皮接種(管針法、9本針の管針を2か所に押す)。 ・主な効果:乳幼児の粟粒結核や結核性髄膜炎など重症結核の予防。 ・コッホ現象:既感染者に接種すると、接種後数日以内に強い局所反応が出る。

DOTS

・WHOが提唱した結核対策戦略(Directly Observed Treatment, Short-course)。服薬を直接確認することで治療中断と薬剤耐性結核の発生を防ぐ。 ・我が国では「日本版21世紀型DOTS戦略」として、入院中の院内DOTSから退院後の地域DOTS(保健所による外来・訪問・連絡確認など)へつなぐ体制がとられている。潜在性結核感染症の治療者も対象に含まれる。

接触者健診

・保健所が実施する。感染の有無の評価には、BCGの影響を受けないIGRA(QFT、T-SPOT)が主に用いられる。 ・潜在性結核感染症:発病していないが結核菌に感染している状態で、発病予防のためにイソニアジド6~9か月などの治療を行う。感染症法上も届出対象である。

POINT

・結核は感染症法の二類感染症で、診断したら直ちに届け出る。 ・確定診断は画像ではなく結核菌の証明(塗抹・培養・核酸増幅法)による。 ・BCGは1歳未満(標準は生後5~8か月)に、ツベルクリン反応検査なしで直接接種する。 ・DOTSは治療を受ける者への服薬支援。接触者に行うのは接触者健診(IGRAなど)。 ・高齢者施設入所者に対するBCG接種の制度はない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。