薬で症状を整え、リハで生活を取り戻す―精神科リハビリテーションの全体像
第102回医師国家試験 B問題 第21問
国試問題にチャレンジ
精神障害者のリハビリテーションで正しいのはどれか。
- a.効果は一時的である。
- b.就労支援は含まれない。
- c.作業療法は入院中には行わない。
- d.薬物療法と併用されることが多い。
- e.デイケアは外来患者には行わない。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
精神科リハビリテーションは、精神疾患に伴う生活上・社会上の障害からの回復を援助し、地域生活と社会参加を実現することを目的とし、症状を安定させる薬物療法と併用されることが多いのが特徴です。精神科作業療法は入院中から外来まで行われ、デイケアは主に外来通院患者を対象とし、就労支援(職業リハビリテーション)もその重要な柱に含まれます。効果は一時的なものではなく、再発・再入院の減少や社会生活機能の改善といった持続的な効果を目指します。関連してSST、家族心理教育(高EEは再発の危険因子)、グループホームやACTなどの地域生活支援も押さえておくとよいでしょう。「入院医療中心から地域生活中心へ」という流れの中で、薬物療法と生活支援を組み合わせる視点は、精神疾患をもつ人を診るすべての医師に求められます。
解答・解説
正解はdです
精神障害者のリハビリテーション(精神科リハビリテーション)は、統合失調症をはじめとする精神疾患によって生じた生活上・社会上の障害(対人関係の苦手さ、意欲の低下、生活技能や作業能力の低下など)からの回復を援助し、その人が地域で自分らしく生活し、社会に参加できるようにすることを目的とする。精神疾患の多くは慢性・再発性の経過をとるため、症状を完全に消すことだけを目標とせず、症状や障害と付き合いながら生活機能を高めていくという考え方(リカバリーの考え方)が重視される。 その基盤となるのは、症状を安定させ再発を防ぐ薬物療法である。症状が不安定なままでは訓練に取り組むことが難しく、逆に薬物療法だけでは生活技能や社会参加の回復は十分に得られない。そのため、両者を組み合わせて行うのが一般的である。 方法としては、精神科作業療法、生活技能訓練(SST)、心理教育、デイケア・ナイトケア、就労支援(職業リハビリテーション)などがあり、入院中から外来通院中、さらに地域生活の段階まで、病期や生活の場を問わず切れ目なく提供される。本問では、これらの基本を押さえていれば、限定的・否定的な表現を含む選択肢(「一時的」「含まれない」「行わない」)が誤りであると判断できる。
選択肢考察
- ×a. 効果は一時的である。
精神科リハビリテーションは、訓練によって身につけた生活技能や対人技能、生活リズム、就労習慣などを実際の生活に定着させ、社会復帰とその維持を図るものであり、持続的な効果を目指して行われる。効果が一時的なものであれば、長期にわたって取り組む意義は乏しい。実際には、再発・再入院の減少や社会生活機能の改善などの効果が期待される。よって誤りである。
- ×b. 就労支援は含まれない。
就労は経済的な自立だけでなく、生きがいや社会参加の手段としても重要であり、就労支援は精神科リハビリテーションの主要な柱の一つである。障害のある人が職業に就き、それを続けられるようにするための支援は職業リハビリテーションと呼ばれる。具体的には、障害者総合支援法に基づく就労移行支援・就労継続支援(A型・B型)・就労定着支援、ハローワークや地域障害者職業センターによる職業相談・職業評価、職場に同行して適応を支援するジョブコーチ、実際の職場で働きながら支援を受けるIPS(個別職業紹介とサポート)モデルなどがある。よって誤りである。
- ×c. 作業療法は入院中には行わない。
精神科作業療法は、手工芸、園芸、調理、スポーツ、レクリエーションなどの作業活動を通じて、生活リズムの確立、集中力や作業能力の回復、対人交流の練習、自信の回復などを図る代表的なリハビリテーションである。入院中の患者にも外来通院中の患者にも行われ、急性期を過ぎて症状が落ち着き始めた段階から、慢性期まで幅広く導入される。入院中から開始することで、長期入院に伴う意欲低下や生活能力の低下(施設症)を防ぎ、退院後の生活への橋渡しにもなる。よって誤りである。
- ○d. 薬物療法と併用されることが多い。
統合失調症や気分障害などでは、抗精神病薬や抗うつ薬・気分安定薬などによる薬物療法で症状を安定させ、再発を防ぐことが治療の土台となる。リハビリテーションはその上に立って、薬物療法だけでは回復しにくい生活技能や社会機能の障害に働きかけるものであり、両者は互いに補い合う関係にある。症状が安定していることがリハビリテーションに取り組む前提となり、逆にリハビリテーションや心理教育によって服薬の必要性への理解(服薬アドヒアランス)が高まることも期待できる。したがって、両者は併用されることが多く、正しい。
- ×e. デイケアは外来患者には行わない。
精神科デイケアは、主に外来通院中の患者を対象に、日中の一定時間(標準的には1日6時間程度)、病院や診療所などの施設で集団活動や作業、SST、レクリエーションなどのプログラムを行うものである。生活リズムの維持、対人関係の改善、再発予防、社会復帰の準備などを目的とする。外来患者こそが主な対象であり、誤りである。なお、夕方から夜間に行うものをナイトケア、昼から夜にかけて長時間行うものをデイ・ナイト・ケアという。
精神科リハビリテーションの主な方法
・精神科作業療法:作業活動を通して生活リズム、作業能力、対人技能などの回復を図る。入院・外来いずれでも行う。 ・生活技能訓練(SST:social skills training):認知行動療法に基づき、あいさつ、頼みごと、断り方、服薬の自己管理などの対人・生活技能を、ロールプレイやモデリング、ほめることによる強化を用いて練習する。 ・心理教育:病気の性質や治療、再発のサインなどについて本人や家族に情報を提供し、対処能力を高める。家族の感情表出(EE:expressed emotion)が高いと再発しやすいことが知られており、家族心理教育は再発予防に有効である。 ・デイケア・ナイトケア・デイ・ナイト・ケア:通院患者が施設に通い、日中や夜間に集団プログラムを受ける。 ・就労支援(職業リハビリテーション):就労移行支援、就労継続支援(A型:雇用契約あり、B型:雇用契約なし)、ジョブコーチ、IPSなど。 ・地域生活支援:グループホーム(共同生活援助)、訪問看護、ACT(包括型地域生活支援プログラム:多職種チームによる24時間体制の訪問支援)など。
背景となる考え方
我が国は精神科病床数が多く、長期入院が課題とされてきた。そのため「入院医療中心から地域生活中心へ」という方針のもと、退院促進と地域での生活を支える体制づくりが進められている。精神障害者の権利擁護と社会復帰は、精神保健福祉法や障害者総合支援法などによって支えられており、障害者雇用促進法では2018年度から精神障害者も法定雇用率の算定対象に加えられた。
POINT
・精神科リハビリテーションは、症状を安定させる薬物療法と併用して行われることが多い。 ・作業療法は入院中・外来のいずれでも行われ、急性期を過ぎた段階から導入される。 ・デイケアは主に外来通院患者を対象とする(夜間はナイトケア、昼から夜はデイ・ナイト・ケア)。 ・就労支援(職業リハビリテーション)は精神科リハビリテーションの重要な構成要素である。 ・目標は障害と付き合いながらの社会参加と地域生活の継続であり、持続的な効果を目指す。
