5歳児の朝の嘔吐―矢状断MRIで「脳幹の後ろ」を見抜け
第101回医師国家試験 D問題 第45問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,45と46の問いに答えよ。 5歳の男児。頭痛と嘔吐とを主訴に来院した。 現病歴:1か月前から頭痛が出現し,次第に増強してきた。10日前から毎朝嘔吐している。 既往歴・家族歴:特記すべきことはない。 現症:意識は清明。精神発達は正常。身長120cm,体重28kg。体温36.8℃。呼吸数18/分。脈拍72/分,整。血圧96/56mmHg。口唇と舌とはやや乾燥している。 検査所見:尿所見:蛋白(-),糖(-)。血液所見:赤血球490万,Hb 14.6g/dL,Ht 45%,白血球7,200,血小板37万。血液生化学所見:総蛋白7.2g/dL,アルブミン3.6g/dL,クレアチニン0.9mg/dL,Na 149mEq/L,K 4.8mEq/L,Cl 102mEq/L。頭部造影MRIのT1強調矢状断像を示す。
病変はどこか。

- a.大脳
- b.小脳
- c.脳幹
- d.下垂体
- e.松果体
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
小児で亜急性に増悪する頭痛と早朝嘔吐は頭蓋内圧亢進を示唆し、持続する嘔吐は高Na血症や血液濃縮などの脱水を伴いえます。MRI矢状断では、前から下垂体・第3脳室・松果体、その下に脳幹、背側に第4脳室と小脳という位置関係を押さえることが読影の基本です。本例では後頭蓋窩正中の造影される腫瘤が脳幹を前方へ圧排しており、主座は小脳(虫部)で、側脳室拡大は第4脳室閉塞による二次的な閉塞性水頭症にすぎません。小児の小脳虫部腫瘍ではまず髄芽腫を考え、上衣腫や毛様細胞性星細胞腫と部位・画像の特徴で鑑別します。腫瘤と周囲構造の前後関係から主座を決める読み方は、小児脳腫瘍の部位別鑑別の土台になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
5歳の男児が、1か月前から徐々に強くなる頭痛と、10日前から続く早朝の嘔吐で受診している。発熱はなく、意識は清明で、精神発達にも問題はない。 「亜急性に増悪する頭痛」+「朝方に目立つ嘔吐」は、頭蓋内圧亢進症状の典型的な組み合わせである。眠っている間は呼吸が浅くなって動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が上がり、脳血管が拡張して脳血液量が増える。さらに横になった姿勢では静脈還流も妨げられる。そのため頭蓋内圧は明け方に最も高くなり、起床時の頭痛や嘔吐として現れやすい。 口唇・舌の乾燥、Na 149mEq/Lの高Na血症、Ht 45%・Hb 14.6g/dLの軽い血液濃縮、5歳児としては高めのクレアチニン0.9mg/dL(この年齢の基準はおおむね0.3〜0.5mg/dL程度)は、嘔吐が続いたことによる脱水(腎前性の変化)を示す。脱水は頭蓋内病変そのものの所見ではないが、嘔吐がかなりの期間続いていることを裏づける。
画像の読み方
頭部造影MRIのT1強調矢状断像(体を左右に分ける断面)である。小脳テント(大脳と小脳を隔てる硬膜のしきり)より下の後頭蓋窩の正中部に、造影剤でよく染まる(T1強調像で高信号の)腫瘤がある。腫瘤は小脳の正中部(小脳虫部)から第4脳室の位置を占め、脳幹(橋・延髄)を前方へ押している。その上方では側脳室が大きく拡張している。これは第4脳室が腫瘤で押しつぶされ、髄液の流れが妨げられて起こった閉塞性水頭症である。大脳の実質、トルコ鞍の中の下垂体、第3脳室の後ろにある松果体には腫瘤を指摘できない。
設問の考え方
本問で問われているのは、腫瘤が主にどこにあるかである。後頭蓋窩の正中にあり、脳幹を後ろから押している位置関係から、病変の主座は小脳(虫部)と判断できる。側脳室の拡大は二次的な水頭症であり、それを病変の主座と取り違えないことが大切である。 小児の小脳虫部に発生し、造影で強く染まって第4脳室を埋め、水頭症を起こす腫瘍としては、髄芽腫がまず考えられる。鑑別には上衣腫、毛様細胞性星細胞腫が挙がる(診断の詳細は次問)。
選択肢考察
- ×a. 大脳
大脳の中では側脳室が大きく拡張しているが、その原因は後頭蓋窩の腫瘤が第4脳室を閉塞して起こった閉塞性水頭症である。大脳の実質そのものに造影される腫瘤はなく、病変の主座ではない。
- ○b. 小脳
小脳テントより下の後頭蓋窩の正中、小脳虫部から第4脳室にかけて、造影剤でよく染まる腫瘤がある。腫瘤は脳幹の背側にあって脳幹を前方へ押しており、小脳から生じた腫瘍と判断できる。第4脳室が圧排されて髄液の通り道がふさがれたことで水頭症が起こり、頭痛や早朝嘔吐という頭蓋内圧亢進症状が生じている。小児の小脳虫部に発生する腫瘍としては髄芽腫が代表的である。
- ×c. 脳幹
脳幹(中脳・橋・延髄)は腫瘤の前方にあり、後ろから押されて前方へ偏位している。腫瘤は脳幹の外、背側にあるので、脳幹は圧迫を受けている側である。小児の脳幹に発生する腫瘍としては橋のびまん性グリオーマ(びまん性正中グリオーマ)があるが、これは橋そのものが膨らんで見え、多くは造影効果に乏しい点で本例とは異なる。
- ×d. 下垂体
トルコ鞍の中の下垂体とその上方(鞍上部)に腫瘤は見られない。小児の鞍上部腫瘍の代表は頭蓋咽頭腫で、視野障害(両耳側半盲)、低身長などの内分泌異常、尿崩症を起こしやすいが、本例はそのいずれにも当てはまらない。
- ×e. 松果体
松果体は第3脳室の後部、中脳の背側にある。この部位に腫瘤は指摘できない。松果体部の腫瘍(胚腫などの胚細胞腫瘍)は中脳水道を圧迫して水頭症を起こし、上方視の障害(Parinaud徴候)を伴うことが多いが、本例の腫瘤はそれより下、小脳の位置にある。
小児脳腫瘍の特徴
小児の固形腫瘍の中では脳腫瘍が最も多く、成人と比べてテントより下(後頭蓋窩)に発生する割合が高い。部位ごとの代表的な腫瘍は次のとおりである。 ・小脳虫部(正中):髄芽腫。悪性の胎児性腫瘍で、造影で強く染まる充実性腫瘤。第4脳室を埋めて水頭症を起こす。 ・小脳半球:毛様細胞性星細胞腫。嚢胞に壁在結節を伴う像が典型的で、予後は良好。 ・第4脳室底:上衣腫。石灰化を伴いやすく、ルシュカ孔・マジャンディ孔を通って脳室外へ伸びることがある。 ・橋:びまん性正中グリオーマ(びまん性橋グリオーマ)。脳神経麻痺や錐体路症状で発症し、予後は極めて不良。 ・鞍上部:頭蓋咽頭腫。石灰化・嚢胞を伴い、視野障害や内分泌障害を起こす。 ・松果体部:胚細胞腫瘍(胚腫など)。Parinaud徴候や尿崩症を伴うことがある。
後頭蓋窩腫瘍の症状
・閉塞性水頭症による頭蓋内圧亢進症状:頭痛、嘔吐(特に早朝)、うっ血乳頭、外転神経麻痺による複視。乳児では頭囲の拡大や大泉門の膨隆も見られる。 ・小脳症状:虫部の障害では体幹失調(座位や立位でふらつく、よろめき歩行)、半球の障害では同じ側の四肢の協調運動障害が目立つ。 ・第4脳室の底には嘔吐に関わる延髄の領域(最後野など)があり、ここへの圧迫で頭痛がなくても嘔吐が続くことがある。
MRI矢状断での位置関係
正中の矢状断では、前から順に下垂体(トルコ鞍)、視交叉、第3脳室、松果体と並ぶ。その下に中脳・橋・延髄が縦に続き、その背側に第4脳室、さらにその背側に小脳がある。腫瘤と脳幹の前後関係を見れば、主座が脳幹の中にあるのか、背側の小脳・第4脳室にあるのかを見分けられる。
POINT
・小児で亜急性に悪化する頭痛と早朝の嘔吐 → 頭蓋内圧亢進を疑う。 ・後頭蓋窩の正中にあり、脳幹を前方へ押す造影される腫瘤 → 主座は小脳(虫部)。 ・側脳室の拡大は第4脳室閉塞による二次的な閉塞性水頭症で、病変の主座ではない。 ・小児の小脳虫部腫瘍 → まず髄芽腫。鑑別は上衣腫(第4脳室底)と毛様細胞性星細胞腫(小脳半球、嚢胞+壁在結節)。 ・長く続いた嘔吐では脱水(高Na血症、血液濃縮、クレアチニン上昇)を伴いうる。
