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瞼を「上げる」のは誰か―筋と神経から解く眼瞼下垂の原因

第101回医師国家試験 B問題 第70問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第70問

眼瞼下垂の原因となるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.加齢
  2. b.滑車神経麻痺
  3. c.三叉神経麻痺
  4. d.顔面神経麻痺
  5. e.星状神経節ブロック

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は眼瞼下垂の原因を問う知識問題だ。丸暗記に頼らず、「瞼を持ち上げているのはどの筋で、どの神経がそれを動かしているか」から考えると、迷わず解けるよ。まず、開瞼に関わる筋を挙げられるかな。
医学生医学生
上眼瞼挙筋ですよね。解剖実習で眼窩を開けたとき、上直筋の上に薄く乗っていたのを覚えています。
ドクタードクター
そう、それが開瞼の主役で、動眼神経が支配する横紋筋だ。挙筋腱膜という薄い膜を介して瞼板にくっつき、瞼を引き上げている。もう一つ、補助役としてMüller筋という平滑筋があって、こちらは交感神経支配。瞼を1〜2mmほど持ち上げる程度の働きをしている。
医学生医学生
閉じるほうは眼輪筋で、顔面神経ですね。
ドクタードクター
その通り。つまり眼瞼下垂の原因は、挙筋や腱膜そのものの異常、動眼神経麻痺、交感神経の障害、神経筋接合部の異常、筋疾患、と整理できる。この枠組みで選択肢を見ていこう。まず加齢はどうだろう。
医学生医学生
年を取ると筋力が落ちて瞼が下がる、というイメージです。
ドクタードクター
惜しい。実は加齢性の眼瞼下垂では挙筋自体の筋力は保たれていることが多いんだ。主な機序は、挙筋の力を瞼板に伝える挙筋腱膜が薄く伸びて瞼板から外れてしまうこと。これを腱膜性眼瞼下垂といって、後天性の眼瞼下垂で最も多い。ハードコンタクトレンズの長期装用や眼科手術後にも同じ機序で起こるよ。
医学生医学生
眼科を回ったとき、外来で瞼の手術を受ける高齢の方が多かったのはそのためなんですね。皮膚のたるみも関係ありますか。
ドクタードクター
いい質問だね。加齢で上眼瞼の皮膚がたるんで瞼縁にかぶさる眼瞼皮膚弛緩症は、見かけ上の下垂、つまり偽眼瞼下垂になる。本物の下垂とは区別するけれど、どちらも加齢で起こりうる。次に星状神経節ブロックはどうかな。
医学生医学生
麻酔科実習でペインクリニックの外来を見学したとき、ブロック後に目が小さくなっていた患者さんがいました。あれはHorner症候群でしょうか。
ドクタードクター
まさにそれ。星状神経節は下頸神経節と第1胸神経節が癒合した交感神経節で、頭頸部へ向かう交感神経が通る。ここをブロックすると同側の交感神経が遮断されて、眼瞼下垂、縮瞳、顔面の発汗低下というHorner症候群が起こる。下垂はMüller筋の麻痺によるものだから軽度なんだ。臨床ではHornerの出現が「ブロックが効いた」目安にもなるよ。
医学生医学生
なるほど、副作用というより効果判定のサインなんですね。では顔面神経麻痺は、顔の筋肉が動かなくなるので瞼も下がりそうですが……。
ドクタードクター
そこは典型的なひっかけだ。顔面神経が支配するのは閉じる側の眼輪筋。麻痺すると瞼を閉じられない兎眼になり、眼裂はむしろ開く。角膜が乾いて兎眼性角膜炎を起こしやすいのが臨床上の問題だね。下垂とは逆方向だと覚えておこう。
医学生医学生
滑車神経と三叉神経はどうでしょう。どちらも眼の近くですが。
ドクタードクター
滑車神経は上斜筋だけを支配していて、麻痺すると下方視、特に内下方視で上下の複視が出る。患者さんは複視を避けるために頭を健側へ傾けるのが特徴だ。三叉神経は顔面や角膜の感覚と咀嚼筋の運動を担当するから、麻痺で角膜反射の消失や神経麻痺性角膜症が問題になる。どちらも開瞼の筋には関わらないから、下垂は起こさない。
医学生医学生
「開瞼に関わる筋と神経」に当てはまるかどうかで判断すれば、加齢と星状神経節ブロックの2つが残りますね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床で大事な鑑別を押さえよう。同じ神経原性の下垂でも、動眼神経麻痺とHorner症候群では見た目がかなり違う。どう区別する?
医学生医学生
瞳孔ですか。動眼神経には副交感神経線維が通っているので、麻痺すると散瞳しそうです。
ドクタードクター
正解。動眼神経麻痺は高度の下垂に散瞳と眼球運動障害を伴い、Hornerは軽度の下垂に縮瞳で、眼球運動は正常。特に散瞳を伴う急性の動眼神経麻痺では、内頸動脈-後交通動脈分岐部の動脈瘤を考えて緊急で画像検査をする必要がある。一方Hornerを見たら、肺尖部のPancoast腫瘍や頸動脈解離が隠れていないか確認するのが大切だ。
医学生医学生
夕方に悪化する下垂なら重症筋無力症を考える、というのもCBTでよく出ていました。
ドクタードクター
そうだね。日内変動や易疲労性があれば重症筋無力症を疑い、アイスパックテストで改善を見るのも手だ。小児の先天性眼瞼下垂では、瞼が視軸を覆うと弱視の原因になるので早めの手術を検討する。「下垂」という一つの所見の裏に、命に関わる病気から加齢変化まで幅広い原因があると意識しておこう。

まとめ

開瞼は動眼神経支配の上眼瞼挙筋と交感神経支配のMüller筋が担い、閉瞼は顔面神経支配の眼輪筋が担います。眼瞼下垂の原因は、加齢などによる挙筋腱膜の菲薄化・離開(腱膜性眼瞼下垂)、動眼神経麻痺、交感神経障害によるHorner症候群(星状神経節ブロックも含む)、重症筋無力症、筋疾患などに整理できます。顔面神経麻痺はむしろ閉瞼不全の兎眼を、滑車神経麻痺は上下複視を、三叉神経麻痺は顔面・角膜の感覚障害を起こし、下垂の原因にはなりません。動眼神経麻痺(高度下垂・散瞳)とHorner症候群(軽度下垂・縮瞳)は瞳孔で鑑別でき、前者では脳動脈瘤、後者では肺尖部腫瘍や頸動脈解離を見逃さないことが重要です。筋と支配神経から症状を組み立てる考え方は、眼科に限らず神経診察全般の基礎になります。

解答・解説

正解はa, eです

眼瞼下垂とは、上眼瞼が正常の位置より下がり、開瞼が不十分になった状態である。原因を考えるには、上眼瞼を持ち上げる筋とその支配神経を押さえておくことが基本となる。

上眼瞼を挙げる筋と支配神経

・上眼瞼挙筋: 動眼神経が支配する横紋筋で、開瞼の主役である。腱膜(挙筋腱膜)を介して瞼板に付着し、瞼を引き上げる。 ・Müller 筋(上瞼板筋): 交感神経が支配する平滑筋で、挙筋を補助して瞼を 1〜2 mm ほど持ち上げる。 一方、瞼を閉じる筋は眼輪筋で、これは顔面神経が支配する。 したがって眼瞼下垂の原因は、(1) 挙筋そのもの・挙筋腱膜の異常(加齢による腱膜性眼瞼下垂、先天性眼瞼下垂など)、(2) 動眼神経麻痺、(3) 交感神経の障害(Horner 症候群)、(4) 神経筋接合部の異常(重症筋無力症)、(5) 筋疾患(ミトコンドリア病、筋強直性ジストロフィーなど)に大きく分けられる。 選択肢のうち、加齢は (1) の代表で、星状神経節ブロックは交感神経を遮断して Horner 症候群を起こすため (3) に当たる。滑車神経・三叉神経は開瞼に関与せず、顔面神経麻痺はむしろ閉瞼ができなくなる(兎眼)方向に働く。よって正解は a と e である。

選択肢考察

  1. ○a.  加齢

    眼瞼下垂の原因となる。後天性の眼瞼下垂で最も多いのが加齢によるもので、上眼瞼挙筋の力を瞼板に伝える挙筋腱膜が加齢とともに薄く伸び、瞼板から外れる(腱膜の菲薄化・離開)ことで起こる。これを腱膜性(退行性)眼瞼下垂という。挙筋自体の筋力は保たれていることが多い。ハードコンタクトレンズの長期使用や、白内障などの眼科手術後にも同じ機序で生じうる。また、加齢で上眼瞼の皮膚がたるんで瞼縁にかぶさる眼瞼皮膚弛緩症も、見かけ上の下垂(偽眼瞼下垂)をきたす。

  2. ×b.  滑車神経麻痺

    眼瞼下垂の原因とはならない。滑車神経(第IV脳神経)は上斜筋だけを支配し、上眼瞼挙筋には関与しない。上斜筋は眼球を内方回旋させ、特に内転位で眼球を下に向ける働きをもつため、その麻痺では下方視(特に内下方視)で増強する上下方向の複視が生じ、患者は複視を避けるため頭を麻痺側と反対側に傾ける(頭部傾斜)。瞼の位置は正常である。

  3. ×c.  三叉神経麻痺

    眼瞼下垂の原因とはならない。三叉神経(第V脳神経)は顔面・角膜の感覚と、咀嚼筋(咬筋・側頭筋など)の運動を担う。麻痺すると顔面の感覚低下、角膜反射の消失(求心路の障害)、咀嚼力の低下などが生じる。角膜知覚が失われると角膜潰瘍(神経麻痺性角膜症)を起こしやすくなるが、開瞼の筋には関与しないため下垂は起こらない。

  4. ×d.  顔面神経麻痺

    眼瞼下垂の原因とはならない。顔面神経(第VII脳神経)は瞼を閉じる眼輪筋を支配する。麻痺すると眼輪筋が働かなくなり、瞼を閉じられない兎眼(閉瞼不全)となって、眼裂はむしろ開大する。角膜が乾燥して兎眼性角膜炎を起こしやすくなる点が臨床上問題となる。下垂とは逆の状態であることを押さえておく。

  5. ○e.  星状神経節ブロック

    眼瞼下垂の原因となる。星状神経節は下頸神経節と第1胸神経節が癒合した交感神経節で、頭頸部・上肢へ向かう交感神経線維が通過する。ここに局所麻酔薬を注入するブロック(顔面・上肢の痛みや血流障害の治療などに用いられる)を行うと、同側の頭頸部の交感神経が遮断され、Horner 症候群(眼瞼下垂、縮瞳、顔面の発汗低下)が生じる。眼瞼下垂は交感神経支配の Müller 筋の麻痺によるもので、1〜2 mm 程度の軽度の下垂である。Horner 症候群の出現はブロックが効いている指標としても用いられる。なお、薬液が反回神経に及ぶと一過性の嗄声を生じることもある。

眼瞼の開閉に関わる筋と神経のまとめ

・上眼瞼挙筋(開瞼): 動眼神経 → 麻痺で高度の眼瞼下垂 ・Müller 筋(開瞼の補助): 交感神経 → 障害で軽度の眼瞼下垂(Horner 症候群) ・眼輪筋(閉瞼): 顔面神経 → 麻痺で兎眼(閉瞼不全)

眼瞼下垂の主な原因

・先天性: 先天性眼瞼下垂(上眼瞼挙筋の発育異常。弱視の原因になりうるため、視軸を覆う例では早期手術を検討する) ・腱膜性: 加齢、ハードコンタクトレンズ長期装用、眼科手術後 ・神経原性: 動眼神経麻痺(内頸動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤、糖尿病など。瞳孔散大や眼球運動障害を伴う)、Horner 症候群(肺尖部腫瘍〈Pancoast 腫瘍〉、頸動脈解離、Wallenberg 症候群、星状神経節ブロックなど) ・神経筋接合部: 重症筋無力症(夕方に増悪する日内変動、易疲労性。アイスパックテストで改善) ・筋原性: 慢性進行性外眼筋麻痺(ミトコンドリア病)、筋強直性ジストロフィー ・偽眼瞼下垂: 眼瞼皮膚弛緩症、眼瞼の腫脹、対側の眼瞼後退など

動眼神経麻痺と Horner 症候群の比較

・動眼神経麻痺: 高度の下垂、散瞳(副交感神経線維の障害)、眼球運動障害(外下方偏位) ・Horner 症候群: 軽度の下垂、縮瞳、同側顔面の無汗。眼球運動は正常 瞳孔の大きさが両者の鑑別の決め手となる。

POINT

・開瞼は上眼瞼挙筋(動眼神経)と Müller 筋(交感神経)、閉瞼は眼輪筋(顔面神経)が担う。 ・加齢による眼瞼下垂の主な機序は挙筋腱膜の菲薄化・離開(腱膜性眼瞼下垂)である。 ・星状神経節ブロックは交感神経遮断により Horner 症候群(眼瞼下垂・縮瞳・無汗)を起こす。 ・顔面神経麻痺は下垂ではなく兎眼(閉瞼不全)、滑車神経麻痺は上下複視、三叉神経麻痺は顔面・角膜の感覚障害と咀嚼筋麻痺を起こす。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。