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眼の奥の交差点で何が起こる?―眼窩先端部を通る神経から症状を組み立てる

第111回医師国家試験 A問題 第16問

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第111回 A問題 第16問

眼窩先端部の病変でみられるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.兎眼
  2. b.散瞳
  3. c.眼瞼下垂
  4. d.眼球陥凹
  5. e.角膜知覚過敏

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、眼窩先端部という「場所」から、どんな症状が出るかを推論する問題だ。暗記で片づけるより、そこを何が通っているかを思い浮かべるのが一番の近道になる。まず、眼窩先端部ってどんな場所かイメージできるかな。
医学生医学生
眼窩は四角錐の形をしていて、その頂点、つまり一番奥の頭蓋内側の部分ですよね。
ドクタードクター
その通り。そしてこの頂点には、頭蓋内と眼窩をつなぐ通り道が二つある。視神経管と上眼窩裂だ。それぞれ何が通るか覚えているかな。
医学生医学生
解剖学の講義で語呂で覚えました。視神経管は視神経と眼動脈、上眼窩裂は動眼神経、滑車神経、三叉神経第1枝、外転神経、それに上眼静脈です。
ドクタードクター
完璧だね。つまり眼窩先端部に腫瘍や炎症があると、これらの神経がまとめてやられる。これを眼窩先端症候群という。あとは神経ごとに症状を当てはめればいい。動眼神経が障害されたら何が起こる?
医学生医学生
動眼神経は上眼瞼挙筋を支配しているので、まぶたが上がらなくなって眼瞼下垂になります。
ドクタードクター
正解。もう一つ、動眼神経には副交感神経線維が含まれていることを忘れないでほしい。毛様体神経節を経由して瞳孔括約筋に行く線維だ。
医学生医学生
あ、そうか。瞳孔括約筋が働かなくなるので、瞳孔が閉じられずに散瞳するんですね。
ドクタードクター
そう。だから眼瞼下垂と散瞳が正解になる。さらに内直筋・上直筋・下直筋・下斜筋も麻痺するから、眼球は外下方に偏位して複視が出る。では、残りの選択肢を見ていこう。兎眼はどうだろう。
医学生医学生
兎眼はまぶたが閉じられない状態ですよね。神経内科の実習でBell麻痺の患者さんを診たとき、目が閉じきれていませんでした。
ドクタードクター
いい経験だね。閉眼は眼輪筋の仕事で、支配しているのは顔面神経。顔面神経は内耳孔から顔面神経管を通って茎乳突孔から出るので、眼窩先端部は通らない。だから原則としてみられないんだ。次に角膜知覚過敏はどうかな。
医学生医学生
角膜の知覚は三叉神経第1枝ですよね。上眼窩裂を通るので障害されるはず……でも過敏になるのか鈍くなるのか、一瞬迷いました。
ドクタードクター
そこがひっかけだね。神経が圧迫や浸潤で障害されれば、基本的には知覚は低下する。角膜反射も減弱する。知覚が落ちると異物や乾燥に気づけず、神経麻痺性角膜症を起こしやすくなるから臨床的にも大事な所見なんだ。
医学生医学生
なるほど、障害されるのは正しいけど、向きが逆なんですね。最後の眼球陥凹はどうでしょう。
ドクタードクター
眼球陥凹は、眼窩の容積が増えるか中身が減ると起こる。代表は眼窩吹き抜け骨折で、眼窩内容が上顎洞に落ち込む。Horner症候群でも眼瞼裂が狭くなるので陥凹して見えるけれど、これは見かけ上のものだ。一方、眼窩先端部の病変は腫瘍や炎症など場所をとるものが多いから、出るとしたらむしろ眼球突出になる。
医学生医学生
場所をとる病変なら押し出される、というのは直感的にもわかります。
ドクタードクター
では発展編。似た名前の症候群との区別を押さえよう。上眼窩裂症候群は動眼・滑車・三叉第1枝・外転神経の障害で、視神経は保たれる。そこに視力低下が加わると眼窩先端症候群だ。さらに後ろの海綿静脈洞症候群では、三叉神経第2枝まで障害されることがある。
医学生医学生
視力低下があるかどうかで、病変が視神経管まで及んでいるかがわかるわけですね。CBTの問題でもこの区別が出た気がします。
ドクタードクター
そうだね。原因としては、蝶形骨洞や後部篩骨洞の炎症・腫瘍の波及、悪性リンパ腫や転移性腫瘍、Tolosa-Hunt症候群、IgG4関連疾患、外傷などがある。臨床で特に怖いのは、糖尿病や免疫不全の患者さんの浸潤性副鼻腔真菌症だ。ムーコル症やアスペルギルス症は急速に進んで視力を失ったり、頭蓋内に波及したりすることがある。
医学生医学生
糖尿病の患者さんが目の奥の痛みや複視を訴えたら、副鼻腔からの真菌症も考えて早めに画像を撮る、ということですね。
ドクタードクター
その通り。眼科だけでなく耳鼻咽喉科や神経内科と連携して、早く診断をつけることが予後を左右する。解剖を覚えておくと、こういう場面ですぐに病変部位を推定できるよ。

まとめ

眼窩先端部は視神経管と上眼窩裂が集まる場所で、視神経、動眼神経、滑車神経、三叉神経第1枝、外転神経が通ります。ここが障害されると、動眼神経麻痺による眼瞼下垂と散瞳、眼球運動障害、三叉神経第1枝障害による角膜知覚低下、視神経障害による視力低下が生じます。兎眼は顔面神経麻痺、眼球陥凹は吹き抜け骨折などでみられる所見で、眼窩先端部の占拠性病変ではむしろ眼球突出が起こりやすくなります。上眼窩裂症候群に視神経障害が加わったものが眼窩先端症候群であり、副鼻腔真菌症や腫瘍、Tolosa-Hunt症候群などが原因となります。通過する神経から症状を組み立てる考え方は、病変の局在診断全般に役立ちます。

解答・解説

正解はb, cです

テーマ

眼窩は骨に囲まれた四角錐形の空間で、底面が前方(顔面側)に開き、頂点が後方の頭蓋内側を向いている。この頂点にあたる部分が眼窩先端部である。ここには頭蓋内と眼窩をつなぐ二つの重要な通り道がある。 ・視神経管:視神経(Ⅱ)と眼動脈が通る。 ・上眼窩裂:動眼神経(Ⅲ)、滑車神経(Ⅳ)、三叉神経第1枝(眼神経、Ⅴ1)、外転神経(Ⅵ)、上眼静脈が通る。

考え方

眼窩先端部の病変(腫瘍、炎症、真菌症、外傷、副鼻腔炎の波及など)では、ここを通る神経がまとめて障害される。これを眼窩先端症候群という。症状は次のように、通過する神経から導くことができる。 ・Ⅱの障害:視力低下、視野障害、相対的瞳孔求心路障害(RAPD) ・Ⅲ・Ⅳ・Ⅵの障害:眼球運動障害(複視)。Ⅲの障害では眼瞼下垂と散瞳も起こる。 ・Ⅴ1の障害:額・上眼瞼の感覚低下、角膜知覚の低下(角膜反射の減弱) したがって、選択肢のうち、ここを通る神経の障害で説明できる所見を選べばよい。なお、病変そのものが眼窩内で場所をとる場合には、眼球は後ろから押されて突出(眼球突出)しやすい。

選択肢考察

  1. ×a.  兎眼

    兎眼は、まぶたを完全に閉じられず、閉眼時にも角膜や結膜の一部が露出する状態である。眼輪筋を支配する顔面神経(Ⅶ)の麻痺(Bell麻痺など)で起こる。顔面神経は内耳孔から顔面神経管を通って茎乳突孔から出るため、眼窩先端部は通らない。眼窩先端部の病変では原則としてみられない。なお、高度の眼球突出(甲状腺眼症など)で閉眼しにくくなることはあるが、眼窩先端部病変に特徴的な所見ではない。

  2. ○b.  散瞳

    瞳孔括約筋は、動眼神経(Ⅲ)に含まれる副交感神経線維に支配されている。この線維は毛様体神経節を経由して瞳孔括約筋に至る。動眼神経は上眼窩裂を通るので、眼窩先端部の病変で障害されると瞳孔括約筋が働かなくなり、散瞳して対光反射が減弱・消失する。また、視神経障害が強ければ光が伝わらないため、その眼の対光反射が起こりにくくなる。

  3. ○c.  眼瞼下垂

    上眼瞼を持ち上げる上眼瞼挙筋は、動眼神経(Ⅲ)の支配を受ける。上眼窩裂を通る動眼神経が眼窩先端部で障害されると、上眼瞼挙筋が麻痺し、高度の眼瞼下垂が生じる。散瞳や、上直筋・下直筋・内直筋・下斜筋の麻痺による眼球運動障害(眼球が外下方に偏位する)も伴いうる。

  4. ×d.  眼球陥凹

    眼球陥凹(眼球が奥へ引っ込んだ状態)は、眼窩の容積が増えたり眼窩内の組織が減ったりすると起こる。代表的な原因は眼窩吹き抜け骨折(眼窩下壁などの骨折で、眼窩内容が上顎洞に落ち込む)や、加齢・やせによる眼窩脂肪の萎縮である。Horner症候群では、眼瞼裂が狭くなるため眼球が陥凹して見える(見かけの眼球陥凹)。眼窩先端部の病変は腫瘍や炎症など眼窩内で場所をとるものが多く、みられるとしてもむしろ眼球突出である。

  5. ×e.  角膜知覚過敏

    角膜の知覚は、三叉神経第1枝(眼神経、Ⅴ1)から分かれる鼻毛様体神経(長毛様体神経)によって伝えられる。Ⅴ1は上眼窩裂を通るので、眼窩先端部の病変ではこの神経が障害される。その結果、角膜知覚は低下し、角膜反射も減弱・消失する。知覚が過敏になるのではない。角膜知覚が低下すると、異物や乾燥に気づきにくくなり、角膜障害(神経麻痺性角膜症)を起こしやすくなる。

眼窩先端部付近の主な通り道と通過する構造

・視神経管:視神経(Ⅱ)、眼動脈 ・上眼窩裂:動眼神経(Ⅲ)、滑車神経(Ⅳ)、眼神経(Ⅴ1:前頭神経・涙腺神経・鼻毛様体神経)、外転神経(Ⅵ)、上眼静脈、交感神経線維 ・下眼窩裂:上顎神経(Ⅴ2)の枝の眼窩下神経・頬骨神経、下眼静脈の枝

障害部位による症候群の区別

・上眼窩裂症候群:Ⅲ・Ⅳ・Ⅴ1・Ⅵの障害(眼瞼下垂、眼球運動障害、散瞳、Ⅴ1領域の感覚低下)。視神経は保たれる。 ・眼窩先端症候群:上眼窩裂症候群の症状に、視神経障害(視力低下)が加わる。 ・海綿静脈洞症候群:Ⅲ・Ⅳ・Ⅴ1・Ⅵに加え、Ⅴ2が障害されることがある。内頸動脈海綿静脈洞瘻では、拍動性の眼球突出、結膜充血・浮腫、血管雑音を伴う。

眼窩先端部病変の主な原因

眼窩先端部の腫瘍(転移性腫瘍、悪性リンパ腫など)、副鼻腔(特に蝶形骨洞・後部篩骨洞)の炎症・腫瘍の波及、浸潤性副鼻腔真菌症(アスペルギルス症、ムーコル症。糖尿病や免疫不全の患者で問題となる)、Tolosa-Hunt症候群(肉芽腫性炎症による有痛性眼筋麻痺で、ステロイドがよく効く)、IgG4関連疾患、外傷(視神経管骨折)など。

動眼神経麻痺の症状のまとめ

眼瞼下垂、散瞳・対光反射消失、眼球の外下方偏位、内転・上転・下転の障害による複視。

POINT

・眼窩先端部=視神経管+上眼窩裂。Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・Ⅴ1・Ⅵが通る。 ・動眼神経障害 → 眼瞼下垂、散瞳、眼球運動障害。 ・Ⅴ1障害 → 角膜知覚低下(過敏ではない)。 ・兎眼は顔面神経麻痺。眼球陥凹は吹き抜け骨折など(Horner症候群では見かけの陥凹)。 ・上眼窩裂症候群に視神経障害が加わったものが眼窩先端症候群。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。