脾臓を取れば治る病気、取っても治らない病気―「壊される」か「作れない」かで見抜く脾摘の適応
第111回医師国家試験 A問題 第17問
国試問題にチャレンジ
難治性の場合に脾摘の適応となるのはどれか。2つ選べ。
- a.悪性貧血
- b.赤芽球癆
- c.骨髄異形成症候群
- d.自己免疫性溶血性貧血
- e.免疫性血小板減少性紫斑病〈特発性血小板減少性紫斑病〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
脾臓は自己抗体が結合した血球などを捕捉・破壊する臓器であり、脾摘が有効なのは血球が主に脾臓で破壊されて減少する疾患です。温式自己免疫性溶血性貧血と免疫性血小板減少性紫斑病はその代表で、ステロイド抵抗性・依存性の難治例で脾摘が二次治療の選択肢となり、遺伝性球状赤血球症も脾摘で貧血が改善します。一方、悪性貧血、赤芽球癆、骨髄異形成症候群などの骨髄での産生障害や、肝臓で処理される寒冷凝集素症には脾摘は無効です。脾摘後は莢膜をもつ細菌による重症感染症のリスクがあるため、術前のワクチン接種が欠かせません。血球減少を「破壊」と「産生障害」に分けて考える視点は、血液疾患の病態理解と治療選択の基本になります。
解答・解説
正解はd, eです
脾臓は老化・異常血球を捕捉して破壊する臓器であり、自己抗体が結合した赤血球や血小板を取り除くマクロファージ(単核食細胞系)が豊富に存在する。また脾臓は自己抗体を産生する場の一つでもある。したがって脾臓摘出術(脾摘)が有効なのは、「血球が末梢で、主に脾臓において破壊されることで血球が減少する疾患」である。 一方、骨髄で血球が十分につくられないこと(産生障害)が原因の疾患では、脾臓を取っても血球の産生は増えないため、脾摘は治療にならない。 本問では、各疾患が「末梢での破壊亢進(主に脾臓)」によるのか、「骨髄での産生障害」によるのかを見分けることが鍵となる。自己免疫性溶血性貧血(温式)と免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)はいずれも自己抗体が結合した血球が脾臓で破壊される疾患であり、副腎皮質ステロイドなどの一次治療に反応しない難治例で脾摘が選択肢となる。悪性貧血・赤芽球癆・骨髄異形成症候群はいずれも骨髄レベルの産生障害であり、脾摘の適応はない。
選択肢考察
- ×a. 悪性貧血
悪性貧血は、抗内因子抗体や抗壁細胞抗体による自己免疫性萎縮性胃炎のため内因子が不足し、ビタミンB12が回腸末端で吸収されなくなって生じる巨赤芽球性貧血である。DNA合成障害による骨髄での無効造血が本態であり、脾臓での破壊は主因ではない。治療はビタミンB12の非経口投与(筋肉内注射)で、吸収障害があるため経口補充では効果が不安定である。脾摘の適応はない。
- ×b. 赤芽球癆
赤芽球癆は、骨髄で赤芽球系の前駆細胞だけが選択的に著減し、網赤血球が著しく減少する正球性貧血である。原因には特発性のほか、胸腺腫、パルボウイルスB19感染、薬剤、大顆粒リンパ球性白血病などがある。病態は赤血球の産生障害であり、脾摘で改善は期待できない。治療は原因の除去(胸腺腫の摘出、被疑薬の中止など)と、シクロスポリンを中心とした免疫抑制療法(副腎皮質ステロイドを用いることもある)である。
- ×c. 骨髄異形成症候群
骨髄異形成症候群(MDS)は造血幹細胞のクローン性疾患で、血球の形態異常(異形成)と無効造血により血球減少をきたし、急性骨髄性白血病へ移行することがある。病態は骨髄での造血障害であり、脾摘の適応はない。改訂国際予後判定システム(IPSS-R)などでリスクを評価し、低リスクでは輸血などの支持療法やレナリドミド(5q欠失例)など、高リスクではアザシチジン(脱メチル化薬)や、適応があれば同種造血幹細胞移植を行う。
- ○d. 自己免疫性溶血性貧血
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)は赤血球に対する自己抗体により溶血が起こる疾患で、直接Coombs試験が陽性となる。大部分を占める温式AIHAでは、IgG自己抗体が結合した赤血球が主に脾臓のマクロファージに捕捉されて破壊される(血管外溶血)。第一選択は副腎皮質ステロイドであり、効果不十分・再燃を繰り返す・ステロイドの減量が困難といった難治例では、脾摘やリツキシマブ(抗CD20抗体)、免疫抑制薬が二次治療の候補となる。破壊の主座である脾臓を取り除くことで溶血が軽減するため、難治例で脾摘の適応となる。なお、寒冷凝集素症(冷式AIHA)では補体の結合した赤血球は主に肝臓で処理されるため、脾摘は無効である点に注意する。
- ○e. 免疫性血小板減少性紫斑病〈特発性血小板減少性紫斑病〉
免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)は、血小板に対する自己抗体(主に糖蛋白GPIIb/IIIaなどに対するIgG)が結合した血小板が、主に脾臓のマクロファージに捕捉・破壊されて血小板が減少する疾患である。脾臓は抗血小板抗体の産生の場でもある。成人の慢性ITPでは、Helicobacter pylori陽性例ではまず除菌を行い、治療が必要な場合の一次治療は副腎皮質ステロイドである。これに反応しない、あるいは減量で再燃する難治例では、トロンボポエチン受容体作動薬、リツキシマブとともに脾摘が二次治療の選択肢となる。脾摘によって血小板の破壊の場と抗体産生の場の双方を除けるため、比較的高い寛解率が得られる。
脾摘が治療となる主な血液疾患
・遺伝性球状赤血球症:赤血球膜蛋白(スペクトリン、アンキリンなど)の異常で球状となった赤血球が脾臓を通過できずに破壊される。中等症以上の溶血や胆石を伴う例で脾摘を行い、貧血はほぼ改善する(球状赤血球自体は残る)。 ・温式自己免疫性溶血性貧血:ステロイド抵抗性・依存性の難治例。 ・免疫性血小板減少性紫斑病:ステロイド抵抗性・依存性の難治例。 ・その他、脾機能亢進症で高度の血球減少をきたす場合などでも行われることがある。
脾摘が無効または適応とならない例
・骨髄での産生障害による血球減少(再生不良性貧血、赤芽球癆、骨髄異形成症候群、巨赤芽球性貧血など) ・寒冷凝集素症(補体結合赤血球の処理が主に肝臓で行われるため) ・発作性夜間ヘモグロビン尿症(補体による血管内溶血が主体)
脾摘後の注意
脾臓は莢膜を持つ細菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌b型、髄膜炎菌)の除去に重要であり、脾摘後は脾摘後重症感染症(OPSI: overwhelming post-splenectomy infection)のリスクが高まる。このため可能な限り術前(少なくとも2週間前)にこれらのワクチンを接種する。また脾摘後には一過性の血小板増多や血栓症のリスクにも注意する。
POINT
・脾摘が効くのは「血球が脾臓で壊される疾患」:遺伝性球状赤血球症、温式AIHA(難治例)、ITP(難治例) ・骨髄での産生障害(悪性貧血、赤芽球癆、MDS、再生不良性貧血)には脾摘は無効 ・寒冷凝集素症は肝臓での処理が主体のため脾摘は無効 ・脾摘前には肺炎球菌・Hib・髄膜炎菌ワクチンを接種し、OPSIを予防する
