StudyMed医師国家試験

筋は元気なのに瞼が上がらない―腱膜の「ゆるみ」から考える眼瞼下垂

第113回医師国家試験 A問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第113回 A問題 第14問

眼瞼下垂の原因となるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.加齢
  2. b.霰粒腫
  3. c.甲状腺眼症
  4. d.滑車神経麻痺
  5. e.コンタクトレンズ長年装用

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は眼瞼下垂の原因を問う問題だ。ポイントは、上眼瞼を持ち上げる仕組みを分解して、選択肢のそれぞれがその仕組みのどこを傷めるのか、あるいは傷めないのかを考えること。まず、瞼を上げる筋肉には何があったかな。
医学生医学生
上眼瞼挙筋ですよね。動眼神経支配だったと思います。
ドクタードクター
正解。それともう一つ、挙筋の裏側にあるMüller筋という平滑筋があって、こちらは交感神経支配で瞼を1〜2mmほど持ち上げる補助役だ。挙筋の先端は挙筋腱膜という薄い膜になり、瞼の芯である瞼板にくっついている。筋が縮んで、その力が腱膜を通って瞼板に伝わり、瞼が上がるわけだ。
医学生医学生
神経、筋、腱膜のどこが壊れても下垂が起こりうる、ということですね。
ドクタードクター
その通り。だから原因は神経原性、筋原性、腱膜性、機械性、先天性と分けて整理するといい。そして成人で一番多いのが腱膜性なんだ。
医学生医学生
腱膜性というのは初めて意識しました。神経の講義では動眼神経麻痺やHorner症候群ばかり覚えていて。
ドクタードクター
国試ではそちらが目立つから無理もない。でも外来で実際に出会う眼瞼下垂の多くは腱膜性だ。挙筋腱膜が伸びたり、瞼板から外れたりすると、筋そのものは元気なのに力が瞼に伝わらなくなる。ちょうど伸びきったゴムひもで物を持ち上げようとするようなものだね。
医学生医学生
加齢はまさにそれでしょうか。年をとると腱膜が薄く伸びてしまう。
ドクタードクター
そう、加齢は腱膜性眼瞼下垂の代表的な原因だ。挙筋の可動性は比較的保たれていて、二重の線が上にずれたり、上瞼がくぼんだりするのが特徴。本人は無意識におでこの筋肉で眉を上げて代償するから、額のしわや頭痛、肩こりにつながることもある。
医学生医学生
コンタクトレンズの長年装用もそうなんですか。若い人でも起こるのは意外です。
ドクタードクター
起こりうるんだ。特にハードコンタクトレンズでは、着脱のたびに瞼を引っ張ったり、まばたきのたびにレンズの縁が上眼瞼の裏をこすったりする刺激が何年も積み重なる。それで挙筋腱膜が伸びたり外れたり、Müller筋が傷んだりすると考えられている。比較的若い年代でも腱膜性の下垂が起こるのはそのためだ。この2つが正解になる。
医学生医学生
甲状腺眼症は、外眼筋が腫れるので瞼も下がるのかと思っていました。
ドクタードクター
そこは逆なんだ。甲状腺眼症では挙筋やMüller筋の炎症・線維化や交感神経の緊張で、上瞼がむしろ上に引き込まれる眼瞼後退が起こる。正面視で角膜の上に白目が見えるDalrymple徴候、下を見ても上瞼がついてこないGraefe徴候がその表れだ。眼球突出や、下直筋・内直筋の肥大による複視もみられる。
医学生医学生
滑車神経麻痺は眼球運動の障害なので、瞼にも何か出るかなと少し迷いました。
ドクタードクター
滑車神経が支配しているのは上斜筋だけ。麻痺すると患眼が上にずれて、階段を下りるときや読書など下を見たときに上下に物がだぶって見える。頭を健側に傾けて代償し、患側に傾けるとずれが強くなるBielschowsky頭部傾斜試験が有名だね。上眼瞼挙筋は動眼神経支配だから、瞼は下がらない。眼球運動障害と下垂が一緒にあるなら動眼神経麻痺を考えるんだ。
医学生医学生
霰粒腫は、OSCEの練習で眼瞼を診たときに習った「瞼のしこり」ですね。
ドクタードクター
そう。瞼板の中にある脂腺、マイボーム腺の出口が詰まって起こる慢性の肉芽腫性炎症で、痛みの少ない硬い結節ができる。挙上する筋や神経を障害するものではないので、眼瞼下垂の原因としては扱わない。ただ、高齢者で何度も再発するときは脂腺癌との鑑別が必要だから覚えておこう。
医学生医学生
下垂を見たら、仕組みのどこが壊れたかで原因を考えればいいんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床で見逃したくないものを挙げておこう。散瞳を伴う動眼神経麻痺は内頸動脈-後交通動脈分岐部の脳動脈瘤による圧迫を疑う緊急事態。軽い下垂に縮瞳と顔面の無汗があればHorner症候群で、肺尖部腫瘍などの検索が必要だ。夕方に悪化する下垂なら重症筋無力症を考えて、アイスパックテストなどで確かめる。また、皮膚のたるみが瞼縁にかぶさるだけの眼瞼皮膚弛緩症のように、挙上機構は正常でも下がって見える偽眼瞼下垂もあるから注意しよう。

まとめ

上眼瞼は動眼神経支配の上眼瞼挙筋と交感神経支配のMüller筋によって持ち上げられ、挙筋の力は挙筋腱膜を介して瞼板に伝わります。成人で最も多い腱膜性眼瞼下垂は、腱膜の伸展や瞼板からの離開によって起こり、加齢とハードコンタクトレンズの長期装用が代表的な原因です。甲状腺眼症はむしろ眼瞼後退をきたし、滑車神経麻痺は上斜筋麻痺による上下複視、霰粒腫はマイボーム腺の慢性肉芽腫性炎症であり、いずれも眼瞼下垂の原因とはなりません。神経原性の下垂では、散瞳を伴う動眼神経麻痺(脳動脈瘤)やHorner症候群など重大な疾患が隠れていることがあり、日内変動があれば重症筋無力症を考えます。開瞼の仕組みを神経・筋・腱膜に分けて理解しておくと、眼瞼下垂の鑑別を系統立てて進められます。

解答・解説

正解はa, eです

眼瞼下垂とは、正面視したときに上眼瞼縁が正常より下がり、瞼裂が狭くなって瞳孔にかかる(あるいは近づく)状態である。 上眼瞼を持ち上げる仕組みは主に二つある。 ・上眼瞼挙筋:動眼神経支配の横紋筋。筋の先端は薄い膜状の挙筋腱膜となり、瞼板(上眼瞼の芯となる硬い結合組織)の前面や皮膚に付着して眼瞼を引き上げる。 ・Müller筋(上瞼板筋):交感神経支配の平滑筋で、挙筋の裏側から瞼板上縁に付着し、眼瞼を1〜2 mm程度引き上げる。 この経路のどこかが障害されると眼瞼下垂が起こる。原因別に、神経原性(動眼神経麻痺、Horner症候群)、筋原性(重症筋無力症、筋強直性ジストロフィー、慢性進行性外眼筋麻痺)、腱膜性(加齢、コンタクトレンズ長期装用、内眼手術後など)、機械性(腫瘍などの重みによるもの)、先天性(挙筋の発育不全)に分けて整理するとよい。 成人で最も多いのは腱膜性眼瞼下垂である。挙筋腱膜が伸びたり瞼板から外れたりすることで、挙筋自体の力は保たれているのに、その力が瞼に伝わらなくなる。加齢とコンタクトレンズの長期装用はいずれもこの機序による代表的原因であり、本問の正解となる。 他の選択肢は、眼瞼の腫れ(霰粒腫)、上眼瞼の後退(甲状腺眼症)、眼瞼挙筋とは無関係な外眼筋の麻痺(滑車神経麻痺)であり、眼瞼下垂の原因とはならない。

選択肢考察

  1. ○a.  加齢

    加齢に伴い挙筋腱膜が菲薄化・伸展し、瞼板との付着が緩んだり外れたりする(腱膜の離開)。その結果、挙筋の収縮力が瞼に十分伝わらなくなり眼瞼下垂となる(老人性・退行性の腱膜性眼瞼下垂)。挙筋の機能そのもの(挙筋機能検査での上眼瞼の可動距離)は比較的保たれ、重瞼線の上方移動や上眼瞼のくぼみを伴いやすいのが特徴である。無意識に前頭筋で眉毛を持ち上げて代償するため、額のしわや頭痛・肩こりの原因にもなる。治療は挙筋腱膜を瞼板に縫着し直す手術(挙筋腱膜前転術など)である。

  2. ×b.  霰粒腫

    霰粒腫は、瞼板内にある皮脂腺であるマイボーム腺の出口が詰まり、分泌物が貯留して周囲に生じる慢性肉芽腫性炎症である。眼瞼に痛みの乏しい硬い結節(しこり)や腫脹、異物感を生じるが、眼瞼を挙上する筋や神経を障害するものではなく、眼瞼下垂の原因としては扱われない。急性炎症を伴えば発赤・腫脹・疼痛をきたす(急性霰粒腫)。なお、高齢者で再発を繰り返す場合は脂腺癌との鑑別が必要である。

  3. ×c.  甲状腺眼症

    甲状腺眼症(主にBasedow病に伴う)では、上眼瞼挙筋やMüller筋の炎症・線維化や交感神経緊張により、むしろ上眼瞼が上方へ引き込まれる眼瞼後退が起こる。これにより正面視で角膜上方に白目(強膜)が見える瞼裂開大(Dalrymple徴候)、下方視で上眼瞼が眼球についてこない現象(Graefe徴候)がみられる。ほかに眼球突出、外眼筋(特に下直筋・内直筋)の肥大による複視も生じる。眼瞼下垂とは逆の所見である。

  4. ×d.  滑車神経麻痺

    滑車神経(第IV脳神経)は上斜筋のみを支配する。上斜筋は眼球を内下方へ動かし内旋させる筋であるため、麻痺すると患眼が上斜視・外旋偏位となり、下方視(特に内下方視、階段を降りる、読書など)での上下複視を訴える。複視を軽減するため頭を健側に傾ける頭位異常がみられ、患側に頭を傾けると上斜視が増強する(Bielschowsky頭部傾斜試験陽性)。上眼瞼挙筋は動眼神経支配であるため、滑車神経麻痺では眼瞼下垂は起こらない。眼瞼下垂を伴う眼球運動障害なら動眼神経麻痺を考える。

  5. ○e.  コンタクトレンズ長年装用

    コンタクトレンズ、特にハードコンタクトレンズを長年使用すると、眼瞼下垂の原因となる。レンズの着脱時に瞼を引っ張る操作や、瞬目のたびにレンズの縁が上眼瞼の裏をこする機械的刺激が繰り返され、挙筋腱膜の伸展・瞼板からの離開やMüller筋の障害が起こると考えられている(腱膜性眼瞼下垂)。比較的若い年齢でも生じうる。片眼性・両眼性のどちらもある。

眼瞼下垂の原因分類

・腱膜性:加齢(最多)、ハードコンタクトレンズ長期装用、白内障などの内眼手術後、眼瞼をこする習慣、アトピー性皮膚炎など ・神経原性:動眼神経麻痺(散瞳・眼球運動障害を伴う。瞳孔散大を伴う場合は内頸動脈-後交通動脈分岐部の脳動脈瘤による圧迫に注意)、Horner症候群(交感神経障害によるMüller筋麻痺:軽度の眼瞼下垂、縮瞳、顔面の無汗) ・筋原性:重症筋無力症(日内変動・易疲労性、氷試験やエドロホニウム試験で改善)、筋強直性ジストロフィー、慢性進行性外眼筋麻痺(ミトコンドリア病) ・機械性:眼瞼腫瘍や高度の浮腫による重み ・先天性:上眼瞼挙筋の形成不全。挙筋機能が低下しており、弱視の原因となりうる ・偽眼瞼下垂:眼瞼皮膚弛緩症(皮膚のたるみが瞼縁にかぶさる)、眼瞼けいれん、眼球陥凹など、挙上機構は正常でも下垂して見えるもの

眼瞼を動かす筋と神経支配

・上眼瞼挙筋(開瞼):動眼神経 ・Müller筋(開瞼の補助):交感神経 ・眼輪筋(閉瞼):顔面神経(麻痺すると兎眼=閉瞼不全となる)

外眼筋の神経支配

外直筋は外転神経、上斜筋は滑車神経、その他(内直筋・上直筋・下直筋・下斜筋)と上眼瞼挙筋は動眼神経が支配する。

POINT

・成人の眼瞼下垂で最も多いのは腱膜性で、加齢とハードコンタクトレンズ長期装用が代表的原因。 ・上眼瞼挙筋は動眼神経、Müller筋は交感神経、眼輪筋は顔面神経が支配する。 ・滑車神経麻痺は上斜筋麻痺による上斜視・下方視での複視で、眼瞼下垂はきたさない。 ・甲状腺眼症は眼瞼後退(Dalrymple徴候、Graefe徴候)で、眼瞼下垂とは逆。 ・霰粒腫はマイボーム腺の慢性肉芽腫性炎症で、眼瞼の結節・腫脹をきたす。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。