「10週のはずが8週?」―月経不順の妊婦で頭殿長が教えてくれる本当の妊娠週数
第113回医師国家試験 A問題 第15問
国試問題にチャレンジ
30歳の女性。無月経となり市販の妊娠反応検査が陽性のため来院した。月経周期は30~50日型で,最終月経から算出した妊娠週数は10週0日であった。超音波検査で子宮内に心拍を有する胎児を認めるが,頭殿長は妊娠8週2日相当である。 現時点の対応として適切なのはどれか。
- a.自宅安静を指示する。
- b.妊娠週数を修正する。
- c.食事療法を指導する。
- d.母体の血糖値を測定する。
- e.絨毛検査の必要性を説明する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
最終月経から算出する妊娠週数は、28日周期で月経開始14日目に排卵するという前提に立っているため、月経周期が長く不規則な女性では実際より進んで見積もられやすくなります。妊娠初期(おおむね8~11週、頭殿長14~41mm)の頭殿長は個人差が小さく週数推定に最も正確な指標で、最終月経からの予定日と7日以上ずれる場合は頭殿長に基づいて妊娠週数と分娩予定日を修正します。心拍のある子宮内胎児が確認され症状もなければ正常妊娠であり、安静指示や絨毛検査は不要で、血糖測定は予定日確定後の妊娠初期検査の中で行います。予定日は早産・過期産の判定や胎児発育の評価など、その後の妊娠管理すべての基準となるため、初診時に正確に確定する意義を理解しておくことが重要です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・30歳女性、無月経と市販の妊娠反応陽性で受診している。尿中hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)陽性は、ごくまれにhCG産生腫瘍などでもみられるが、まず妊娠を考える。 ・月経周期は30~50日型で、周期が長くかつ一定しない(月経不順)。 ・最終月経から計算した妊娠週数は10週0日である。 ・経腟超音波で子宮内に心拍のある胎児を確認できる。つまり子宮内妊娠であり、胎児は生存している。 ・頭殿長(CRL:crown-rump length、胎児の頭頂から殿部までの長さ)は8週2日相当で、最終月経からの週数より約12日(ほぼ2週間)小さい。
診断へのプロセス
最終月経から妊娠週数を計算する方法は、「月経周期28日、最終月経開始日から14日目に排卵・受精した」という前提に立っている。本例のように周期が30~50日と長く不規則な女性では、排卵が月経開始後14日目より遅れることが多く、最終月経からの計算は実際の妊娠週数より進んで見積もられやすい。 一方、妊娠初期(おおむね妊娠8~11週ころ)の胎児の発育は個人差がきわめて小さく、CRLは妊娠週数をもっとも正確に推定できる指標である。本例では最終月経による週数とCRLによる週数の間に7日以上のずれがあるので、CRLに基づいて妊娠週数(分娩予定日)を8週2日に修正するのが正しい。 心拍のある子宮内胎児が確認されており、出血や腹痛などの異常所見も記載されていないことから、本例は「月経不順の女性における正常な子宮内妊娠」と判断できる。胎児発育不全や流産を疑う状況ではない。
設問の考え方
「現時点で」何をするべきかが問われている。妊娠初期の初診時にもっとも重要なのは、正確な妊娠週数と分娩予定日を確定することである。予定日はその後の妊婦健診の時期、胎児発育の評価、早産・過期妊娠の判定、出生前検査を受けられる時期の判断など、すべての基準となるため、まずここを確定させる。
選択肢考察
- ×a. 自宅安静を指示する。
胎児心拍が確認された正常な子宮内妊娠であり、性器出血や下腹部痛など切迫流産を疑わせる症状も記載されていない。CRLが最終月経からの週数より小さいのは月経不順で排卵が遅れたためと考えられ、発育の異常ではない。安静を指示する理由はない。なお、妊娠初期の流産の多くは胎児の染色体異常が原因であり、安静によって防げるという根拠は乏しい。
- ○b. 妊娠週数を修正する。
月経周期が30~50日と長く不規則なため、最終月経からの計算では排卵・受精の時期を正しく推定できない。妊娠初期のCRLは個人差が小さく、週数推定に最も信頼できる指標である。産婦人科診療ガイドライン(産科編)では、正確に測ったCRL(14~41mmの時期、おおむね妊娠8~11週)から求めた予定日と、最終月経からの予定日との差が7日以上ある場合にはCRLによる予定日を採用するとされる。本例の差は約12日なので、妊娠週数を8週2日に修正し、分娩予定日を決め直すのが適切である。
- ×c. 食事療法を指導する。
治療として食事療法が必要になるのは、妊娠糖尿病や糖尿病合併妊娠など耐糖能異常がある場合である。本例ではそれを疑う情報(肥満、糖尿病の家族歴、尿糖、巨大児分娩歴など)はなく、現時点で食事療法を指導する根拠はない。なお、全妊婦に対して一般的な栄養指導や体重管理の助言を行うことは妊婦健診の中で行われる。
- ×d. 母体の血糖値を測定する。
妊娠初期に全妊婦の随時血糖を測定し、耐糖能異常をスクリーニングすることは推奨されている。しかしそれは妊娠初期検査(血液型、貧血、感染症などと同時)の一部として行うものである。本例で今まず行うべきは週数・予定日の確定であり、血糖測定は予定日を確定し、母子健康手帳の交付後に行う初期検査の中で実施すればよい。「現時点の対応」としては優先度が低い。
- ×e. 絨毛検査の必要性を説明する。
絨毛検査(CVS:chorionic villus sampling)は、胎盤のもとになる絨毛組織を採取して胎児の染色体や遺伝子を調べる確定的な出生前検査で、通常は妊娠11~14週ころに行う。流産などのリスクを伴う侵襲的検査であり、高年妊娠、染色体異常児の出産歴、両親の染色体構造異常、非確定的検査での陽性などの適応がある場合に、遺伝カウンセリングを経て本人の希望に基づき行う。本例は30歳で特別な適応はなく、検査の必要性を説明する場面ではない。
妊娠週数の数え方
・妊娠週数は最終月経の開始日を妊娠0週0日として数える。28日周期では排卵・受精は2週0日ころにあたる。 ・分娩予定日は40週0日である。月経周期が28日型の場合、ネーゲレ概算法(最終月経の月に9を足すか3を引き、日に7を足す)で概算できる。 ・月経周期が長い・不規則な女性、授乳中や経口避妊薬中止直後の妊娠、最終月経の記憶があいまいな場合は、最終月経からの推定は不正確になりやすい。
超音波による週数の推定
・妊娠初期(おおむね8~11週):CRLが最も正確で、誤差はおよそ数日である。 ・妊娠5~6週ころは胎嚢(GS)の大きさが目安になるが、CRLより精度は低い。 ・妊娠中期以降:児頭大横径(BPD)なども用いるが、胎児の発育差が大きくなるため週数推定の精度は下がる。妊娠中期以降に初めて予定日を修正することは慎重であるべきで、初期のCRLで確定しておくことが重要である。
予定日修正の基準
・CRLが14~41mmの時期に、最終月経からの予定日とCRLからの予定日に7日以上のずれがあれば、CRLによる予定日を採用する。 ・体外受精などの生殖補助医療による妊娠では、採卵日・胚移植日から妊娠週数をほぼ正確に決められる。
正確な予定日が重要な理由
・早産(22週0日~36週6日)、正期産(37週0日~41週6日)、過期産(42週0日以降)の判定 ・胎児発育不全(FGR)の評価 ・出生前検査や妊婦健診の実施時期の判断 予定日が誤っていると、例えば実際には正常発育の胎児を発育不全と誤認したり、必要のない分娩誘発を行ったりする原因となる。
POINT
・妊娠週数は最終月経開始日を0週0日として数えるが、これは28日周期・14日目排卵を前提とした計算である。 ・月経不順の女性では、最終月経から算出した週数が実際とずれやすい。 ・妊娠初期のCRL(14~41mm、おおむね8~11週)は週数推定に最も正確な指標である。 ・最終月経からの予定日とCRLからの予定日に7日以上の差があれば、CRLの予定日を採用して週数を修正する。 ・初診時はまず予定日を確定し、その後に妊娠初期検査(血糖を含む)を行う。
