StudyMed医師国家試験

目頭の赤い腫れ、まず採るべきは「涙」―急性涙嚢炎で培養を優先する理由

第109回医師国家試験 I問題 第45問

国試問題にチャレンジ

第109回 I問題 第45問

79歳の女性。左内眼角部の腫脹を主訴に来院した。1週前から腫脹と発赤とが徐々に増強し痛みも強くなってきたため受診した。顔面の写真を別に示す。  まず行うべき検査はどれか。

第109回 I問題 第45問の問題画像
  1. a.組織診
  2. b.涙液培養
  3. c.眼窩部CT
  4. d.超音波検査
  5. e.フレアセルフォトメトリ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は眼科の問題で、目頭の腫れの正体を見抜いたうえで「まず何を検査するか」を問われている。ポイントは、腫れの場所が涙の通り道のどこに当たるかと、炎症の性質だ。写真では左の内眼角のやや下方、ちょうど涙嚢の位置に一致して赤く腫れているね。
医学生医学生
まぶたの腫れというと、麦粒腫や霰粒腫をまず思い浮かべました。
ドクタードクター
鑑別としては正しい発想だよ。ただ、麦粒腫や霰粒腫はまぶたの縁や瞼板にできるもの。今回は眼瞼ではなく内眼角の下方、つまり涙嚢部の腫れだ。ここで涙道の解剖をおさらいしよう。
医学生医学生
解剖の講義で習いました。涙腺で作られた涙が、涙点から涙小管、涙嚢、鼻涙管を通って下鼻道に流れるんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。そして高齢の女性は鼻涙管が狭くなったり詰まったりしやすい。出口が塞がると涙嚢に涙がたまり、そこで細菌が増えて感染を起こす。1週間で発赤・腫脹・痛みが強まってきたという経過は急性の細菌感染で、急性涙嚢炎と考えられるね。
医学生医学生
診断がついたなら、治療は抗菌薬ですよね。検査をする前にすぐ始めたほうがいい気もします。
ドクタードクター
治療の柱が抗菌薬なのはその通り。だからこそ、抗菌薬を始める前に起炎菌を調べる検体を採っておくのが大切なんだ。いったん抗菌薬を入れてしまうと、培養で菌が生えにくくなる。涙点から逆流してくる膿や結膜嚢の分泌物、つまり涙液を採って、細菌培養と薬剤感受性検査に出す。これが「まず行うべき検査」になるよ。
医学生医学生
感染症内科を回ったときも、抗菌薬の前に血液培養を採るよう何度も言われました。眼でも同じ考え方なんですね。
ドクタードクター
まさに同じ原則だ。起炎菌は黄色ブドウ球菌やレンサ球菌、インフルエンザ菌、緑膿菌などさまざま。培養結果を待つ間は経験的に抗菌薬を始め、結果が出たら必要に応じて変更する。涙液培養は簡便で痛みも少ないのも利点だね。
医学生医学生
高齢者のしこりなので、腫瘍を考えて組織診をするという選択はどうですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。組織診は腫瘍を疑うときの検査で、急性炎症の真っ只中に組織を採ると、感染を広げたり瘻孔を作ったりするおそれがある。ただし、抗菌薬が効かない、硬い腫瘤を触れる、血の混じった逆流があるなど、涙嚢腫瘍を疑う所見があれば、画像検査や生検を考えるよ。
医学生医学生
眼窩部CTは、炎症の広がりを見るのに役立ちそうです。
ドクタードクター
役立つ場面はある。眼球突出、眼球運動障害や運動時痛、視力低下があって、眼窩蜂巣炎や膿瘍への波及が疑われるときだ。今回はそうした所見が書かれておらず、涙嚢部に限局した炎症として臨床的に診断できるから、まずは培養が優先される。超音波検査も涙嚢の拡張や膿瘍は観察できるけれど、診断に必須ではなく、起炎菌の情報も得られないね。
医学生医学生
フレアセルフォトメトリは聞き慣れない検査です。
ドクタードクター
前房にレーザー光を当てて、蛋白濃度であるフレアや炎症細胞のセルを定量する検査で、ぶどう膜炎や眼内手術後の炎症評価に使う。涙嚢炎は眼球の外、涙道の病気だから、対象外だよ。
医学生医学生
炎症が眼の中か外かで、使う検査がまったく違うんですね。治療は抗菌薬だけで終わりですか。
ドクタードクター
抗菌薬の全身投与に抗菌点眼薬を併用し、膿瘍を作って波動を触れれば切開排膿する。注意したいのは、急性期には涙道洗浄やブジーは炎症を広げるおそれがあるので控えること。そして根本の原因は鼻涙管閉塞だから、炎症が落ち着いたら再発予防として涙嚢鼻腔吻合術や涙管チューブ挿入術で涙の流れを回復させる。
医学生医学生
背景に慢性涙嚢炎があることも多いと聞きました。目頭を押すと膿が出てくるのがそれですか。
ドクタードクター
そう、涙嚢部を圧迫すると涙点から膿や粘液が逆流するのが慢性涙嚢炎の特徴で、痛みは乏しい。高齢者の「なみだ目と目やに」を軽く見ず、こうした所見を確かめておくと、急性増悪を防ぐきっかけにもなるよ。

まとめ

高齢女性の内眼角下方、涙嚢部に一致する発赤・腫脹・疼痛は急性涙嚢炎を考え、その背景には鼻涙管閉塞による涙嚢内のうっ滞と細菌増殖があります。治療の中心は抗菌薬なので、投与開始前に涙液や涙点からの膿を採取して細菌培養と薬剤感受性検査に提出することが、まず行うべき検査です。眼窩部CTは眼球突出や眼球運動障害など眼窩蜂巣炎が疑われるとき、組織診は涙嚢腫瘍が疑われるときに考慮し、フレアセルフォトメトリは前房の炎症を評価する検査で涙道疾患には用いません。急性期は抗菌薬と必要に応じた切開排膿で対応し、涙道洗浄やブジーは避け、消炎後に涙嚢鼻腔吻合術などで再発予防を図ります。「抗菌薬の前に培養」という感染症診療の大原則が眼科領域でもそのまま当てはまることを確認できる問題です。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・79歳女性。高齢女性は、涙を鼻腔へ流す鼻涙管が狭窄・閉塞しやすい(鼻涙管閉塞は中高年女性に多い)。 ・左内眼角部(目頭)の腫脹:内眼角のやや下方には、涙を一時的にためる涙嚢がある。 ・1週間の経過で腫脹・発赤が徐々に増強し、痛みも強くなっている:急性の炎症(感染)を示す。 ・顔面写真では、左の内眼角部下方、涙嚢に一致する部位に発赤を伴う腫脹がみられる。

診断へのプロセス

内眼角の涙嚢部に一致した、発赤・腫脹・疼痛を伴う急性の炎症であることから、急性涙嚢炎と診断できる。急性涙嚢炎は、鼻涙管閉塞によって涙嚢内に涙がうっ滞し、そこに細菌が増殖して起こる。背景には慢性涙嚢炎(涙嚢部を押すと涙点から膿や粘液が逆流する状態)があることが多い。 鑑別としては、眼瞼の腫瘤である霰粒腫や麦粒腫が挙がるが、これらは眼瞼(まぶた)の縁や瞼板に生じるもので、内眼角の下方という発生部位から区別できる。眼窩蜂巣炎では眼球突出や眼球運動障害、視力低下を伴うことが多い。

設問の考え方

急性涙嚢炎は細菌感染症であるため、治療の中心は抗菌薬投与である。適切な抗菌薬を選ぶため、抗菌薬を開始する前に起炎菌を同定し薬剤感受性を調べる検体を採取しておくことが「まず行うべき」ことになる。涙点からの逆流物や結膜嚢の分泌物(涙液)を採取して培養に提出する。画像検査や組織検査は、診断が臨床的に明らかな現時点でまず必要とはならない。

選択肢考察

  1. ×a.  組織診

    組織診(生検)は、悪性腫瘍などの腫瘍性病変を疑う場合に行う検査である。本例は急速に増悪する発赤・疼痛を伴う急性炎症で、臨床的に急性涙嚢炎と診断できるため、まず行う検査ではない。急性炎症の部位に侵襲的な組織採取を行うと、感染を周囲に広げたり瘻孔を形成したりするおそれもある。なお、抗菌薬治療に反応しない場合や、硬い腫瘤を触れる、血性の逆流があるなど涙嚢腫瘍を疑う所見があれば、画像検査や生検を検討する。

  2. ○b.  涙液培養

    急性涙嚢炎は、鼻涙管閉塞を背景に涙嚢内で細菌が増殖して起こる感染症であり、黄色ブドウ球菌、レンサ球菌、インフルエンザ菌、緑膿菌などが起炎菌となる。治療の基本は抗菌薬であり、その選択の根拠を得るため、抗菌薬投与を開始する前に涙液や涙点からの膿を採取して細菌培養と薬剤感受性検査に提出する。簡便で非侵襲的であり、まず行うべき検査として最も適切である。培養結果を待つ間は経験的に抗菌薬を開始し、結果が出たら必要に応じて変更する。

  3. ×c.  眼窩部CT

    眼窩部CTは、炎症が涙嚢周囲から眼窩内へ波及した眼窩蜂巣炎や膿瘍形成が疑われる場合(眼球突出、眼球運動障害、視力低下などがある場合)、あるいは涙嚢腫瘍や骨病変、副鼻腔病変を鑑別したい場合に有用である。しかし、本例では涙嚢部に限局した炎症として臨床的に診断できており、まず行う検査としては培養が優先される。

  4. ×d.  超音波検査

    超音波検査で涙嚢の拡張や膿瘍の有無を観察することは可能だが、急性涙嚢炎の診断は症状と所見から臨床的に行えるため、診断・治療方針の決定に必須の検査ではない。起炎菌の情報が得られず、まず行う検査としては適切でない。

  5. ×e.  フレアセルフォトメトリ

    フレアセルフォトメトリ(レーザーフレアセルメータ)は、眼球内の前房にレーザー光を当て、その散乱光から前房内の蛋白濃度(フレア)や炎症細胞(セル)を定量する検査で、ぶどう膜炎や眼内手術後などの眼内炎症の評価に用いる。涙嚢炎は眼球の外の涙道に生じる炎症であり、この検査の対象ではない。

涙の通り道(涙道)

涙腺(上耳側)で産生された涙は眼表面を潤したのち、内眼角側の上下の涙点から涙小管に入り、総涙小管を経て涙嚢にたまり、鼻涙管を通って下鼻道へ排出される。

鼻涙管閉塞と涙嚢炎

・鼻涙管閉塞:中高年女性に多い。流涙(なみだ目)、眼脂が主症状。乳児では鼻涙管の下端の膜が開通していない先天鼻涙管閉塞がみられる。 ・慢性涙嚢炎:鼻涙管閉塞により涙嚢内に涙がたまり、慢性的な感染を起こした状態。流涙と眼脂があり、涙嚢部を圧迫すると涙点から膿や粘液が逆流するのが特徴である。疼痛は乏しい。 ・急性涙嚢炎:慢性涙嚢炎の急性増悪として起こることが多い。涙嚢部に一致した発赤・腫脹・圧痛・熱感を生じ、進行すると涙嚢周囲炎、膿瘍形成、皮膚への自潰・瘻孔形成、さらに眼窩蜂巣炎へ波及することもある。

急性涙嚢炎の診療の流れ

1. 涙液・膿の培養と薬剤感受性検査を提出する。 2. 抗菌薬の全身投与(内服または点滴)を行い、抗菌点眼薬も併用する。 3. 膿瘍を形成して波動を触れる場合は、切開排膿を行う。 4. 急性期は涙道洗浄(通水検査)や涙道へのブジー(器具の挿入)は炎症を広げるおそれがあるため控える。 5. 炎症が落ち着いたのち、再発予防のため、閉塞した鼻涙管を迂回して涙嚢と鼻腔をつなぐ涙嚢鼻腔吻合術(DCR)や、涙道内視鏡を用いた涙管チューブ挿入術などで涙の流れを回復させる。

内眼角付近の腫脹の鑑別

・霰粒腫:瞼板内のマイボーム腺に生じる無痛性の肉芽腫。眼瞼内に硬い腫瘤として触れる。 ・麦粒腫:睫毛の根元の腺(外麦粒腫)やマイボーム腺(内麦粒腫)の急性化膿性炎症。眼瞼縁の発赤・疼痛。 ・眼窩蜂巣炎:眼瞼の発赤・腫脹に加え、眼球突出、眼球運動障害・痛み、視力低下を伴う。CTで評価し、緊急の抗菌薬治療を要する。

POINT

・高齢女性の内眼角下方(涙嚢部)の発赤・腫脹・疼痛は急性涙嚢炎。背景に鼻涙管閉塞がある。 ・細菌感染症なので、抗菌薬投与前に涙液・膿の培養(薬剤感受性検査)を提出するのがまず行うべき検査である。 ・治療は抗菌薬の全身投与、膿瘍があれば切開排膿。急性期は涙道洗浄・ブジーを避け、消炎後に涙嚢鼻腔吻合術などで根治を図る。 ・慢性涙嚢炎では涙嚢部を圧迫すると涙点から膿が逆流する。 ・フレアセルフォトメトリは眼内(前房)の炎症の評価に使う検査。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。