真夜中に歩く15歳―翌朝覚えていない「夢中遊行症」を睡眠段階から読み解く
第109回医師国家試験 I問題 第44問
国試問題にチャレンジ
15歳の男子。夜間の異常行動を主訴に母親とともに来院した。2週前,午前1時ころ患者の部屋で大きな音がしたため母親が確認に行くと,患者がうつろな眼差しで部屋の中を歩いており,目覚まし時計が床に転がっていた。手をつかもうとすると急に暴れ始め抑え切れなかったため父親を呼びに行き,部屋に戻るとベッドの中で寝ていた。翌日に確認すると「夜の10時半ころから朝までぐっすり寝ていた」と述べ,昨夜の出来事を全く覚えていなかった。昨晩も同様の状態がみられたため受診した。身体所見,血液生化学所見および脳波所見に異常を認めない。 最も考えられるのはどれか。
- a.夜驚症
- b.悪夢障害
- c.夢中遊行症
- d.レム〈REM〉睡眠行動障害
- e.睡眠覚醒スケジュール障害
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
睡眠中の異常行動は、起こる時間帯と覚醒のしやすさ、翌朝の記憶で、ノンレム睡眠からの覚醒障害とレム睡眠関連の病態に分けて考えます。夜間前半の徐波睡眠から不完全に覚醒して歩き回り、制止に混乱し、翌朝に健忘を残すのが夢中遊行症で、小児〜思春期に多く、成長とともに自然に消えることが多い病態です。同じノンレム系でも悲鳴と強い恐怖・自律神経症状が主体なら夜驚症、夜間後半に夢の内容を行動化し起こせば夢を語れるならレム睡眠行動障害、怖い夢で目覚め内容を覚えているなら悪夢障害と区別します。対応の基本は家族への説明と安全確保であり、無理に起こさず寝床へ誘導し、睡眠不足などの誘因を減らします。睡眠構築の理解はパラソムニア全般の鑑別に直結し、レム睡眠行動障害と神経変性疾患との関連など臨床上重要な知識にもつながります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・15歳男子。思春期の若年者である。 ・午後10時半ころに就寝し、約2時間半後の午前1時ころに異常行動が出現:夜間睡眠の前半3分の1、すなわち深いノンレム睡眠(徐波睡眠)が多い時間帯である。 ・うつろな眼差しで部屋の中を歩き回り、物を落としている:意識が十分に覚醒しないまま、比較的複雑な運動(歩行)を行っている。 ・手をつかもうとすると急に暴れた:外からの働きかけに適切に応答できず、無理に制止しようとすると混乱して抵抗する。覚醒レベルが不十分であることを示す。 ・しばらくすると自分でベッドに戻って眠っていた。 ・翌朝、出来事をまったく覚えていない(健忘)。 ・同様のエピソードが反復している。 ・身体所見、血液生化学所見、脳波所見に異常なし:てんかん発作(特に複雑部分発作=焦点意識減損発作)や代謝性の意識障害を示唆する所見がない。
診断へのプロセス
睡眠中にみられる異常行動は睡眠時随伴症(パラソムニア)としてまとめられ、出現する睡眠段階によって「ノンレム睡眠からの覚醒障害」と「レム睡眠に関連するもの」に大別される。 本例は、①夜間前半の深睡眠の時間帯に生じている、②夢の内容を語っておらず、行動中に呼びかけや制止に応じない、③翌朝に健忘を残す、という点からノンレム睡眠からの覚醒障害に属する。このなかで、叫び声や強い恐怖症状が主体ではなく「歩き回る」ことが主体であるため、夢中遊行症(睡眠時遊行症、いわゆる夢遊病)と診断できる。 年齢が若いこと、行動中に夢を見ていた様子がなく記憶も残っていないことから、高齢者に多く夢の内容を行動化するレム睡眠行動障害は考えにくい。脳波異常がない点はてんかんとの鑑別上も重要である。
設問の考え方
「小児〜思春期」「入眠後数時間以内」「歩き回る」「起こそうとしても覚醒しにくく、無理に止めると暴れる」「翌朝覚えていない」の組み合わせは夢中遊行症の典型である。
選択肢考察
- ×a. 夜驚症
夜驚症(睡眠時驚愕症)も夢中遊行症と同じくノンレム睡眠(徐波睡眠)からの覚醒障害で、入眠後数時間以内に起こり、覚醒させにくく翌朝に健忘を残す点は共通する。しかし夜驚症の中心症状は、突然の悲鳴や叫び声とともに起き上がり、強い恐怖・パニックの表情を示すことであり、頻脈、頻呼吸、発汗、散瞳などの著しい自律神経症状を伴う。好発は幼児〜学童期である。本例では恐怖症状や叫び声ではなく、うつろな表情で歩き回ることが主体であり、夢中遊行症の方が合致する。
- ×b. 悪夢障害
悪夢障害は、生命や安全を脅かされるような強い不安・恐怖を伴う夢を繰り返し見て、その都度目が覚めてしまう病態で、主にレム睡眠に関連し夜間の後半に多い。悪夢から目覚めるとすぐに完全に覚醒して見当識も保たれ、夢の内容を詳しく思い出せるのが特徴である。本例では行動中に覚醒が不十分で、翌朝に何も覚えていないため合致しない。また悪夢障害では、歩き回るような身体的な行動異常は通常みられない。
- ○c. 夢中遊行症
夢中遊行症(睡眠時遊行症)は、ノンレム睡眠の深い段階(徐波睡眠)から不完全に覚醒することで起こる睡眠時随伴症である。徐波睡眠が多い夜間睡眠の前半3分の1に生じやすく、ぼんやりした表情で起き上がって歩き回り、ときに物を動かしたり屋外へ出たりする。呼びかけへの反応は乏しく、覚醒させるのが難しく、無理に制止すると混乱して暴れることがある。数分から数十分で自然に再入眠し、翌朝には出来事を思い出せない。学童期に多く、多くは思春期以降に自然消失する。本例の年齢、時間帯、症状、健忘、検査所見の正常はすべてこれに合致する。
- ×d. レム〈REM〉睡眠行動障害
レム睡眠行動障害は、本来レム睡眠中に生じるはずの骨格筋の脱力(筋緊張の消失)が起こらないため、夢の内容に合わせて大声を出したり、殴る・蹴るといった行動をしたりする病態である。50歳以上の男性に多く、Parkinson病やLewy小体型認知症などのα-シヌクレイン関連疾患の前駆症状として重要である。レム睡眠が多い夜間後半に起こりやすく、起こすと比較的容易に覚醒して夢の内容を語れることが多い。診断には終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)で筋活動の低下を伴わないレム睡眠を確認する。15歳であること、夢の想起がなく健忘を残すことから否定的である。
- ×e. 睡眠覚醒スケジュール障害
睡眠覚醒スケジュール障害(概日リズム睡眠・覚醒障害)は、体内時計(概日リズム)と社会生活上求められる睡眠時間帯とがずれることで、入眠困難、朝起きられない、日中の眠気などを生じる病態である。睡眠相後退型(思春期に多い極端な夜型)、睡眠相前進型(高齢者に多い極端な朝型)、非24時間睡眠・覚醒型、不規則睡眠・覚醒型、交代勤務型、時差型などがある。睡眠の時間帯の問題であり、睡眠中の異常行動を主症状とはしない。本例は普段どおりの時刻に就寝しており、合致しない。
睡眠段階と睡眠時随伴症
睡眠は、浅いノンレム睡眠→深いノンレム睡眠(徐波睡眠)→レム睡眠という約90分の周期を一晩に4〜5回繰り返す。徐波睡眠は夜間前半に多く、レム睡眠は夜間後半に長くなる。この分布の違いが、各睡眠時随伴症の起こる時間帯の違いを説明する。
ノンレム睡眠からの覚醒障害
・夢中遊行症:歩き回る。学童期に多い。 ・夜驚症:悲鳴を上げて起き上がり、強い恐怖と自律神経症状を示す。幼児〜学童期に多い。 ・錯乱性覚醒:寝ぼけてもうろうとし、混乱した言動をとる。 共通点:夜間前半に起こる、覚醒させにくい、夢の想起がほとんどなく翌朝に健忘を残す、小児に多く成長とともに自然軽快することが多い、家族歴がみられることがある。睡眠不足、発熱、ストレス、不規則な生活などが誘因となる。
レム睡眠に関連する睡眠時随伴症
・レム睡眠行動障害:夢の行動化。中高年男性に多い。 ・悪夢障害:怖い夢で目覚め、内容を鮮明に覚えている。 ・反復性孤立性睡眠麻痺(いわゆる金縛り)。 共通点:夜間後半に起こりやすい、覚醒すると見当識が保たれ夢の内容を思い出せる。
夢中遊行症の対応
多くは成長とともに自然に消失するため、まず病気の性質を家族に説明して安心させる。重要なのは安全確保であり、窓や玄関の施錠、階段の柵、危険物の片付けなどを行う。エピソード中は無理に起こしたり押さえつけたりせず、静かに寝床へ誘導する。睡眠不足や不規則な生活を是正する。頻度が高く危険な場合にはベンゾジアゼピン系薬などの薬物療法が検討されることがある。てんかん発作との鑑別が問題になる場合は、脳波検査や終夜睡眠ポリグラフ検査を行う。
POINT
・夢中遊行症・夜驚症はノンレム睡眠(徐波睡眠)からの覚醒障害であり、夜間前半に起こり、覚醒させにくく、翌朝に健忘を残す。小児に多い。 ・歩き回るのが夢中遊行症、悲鳴と強い恐怖・自律神経症状が主体なのが夜驚症。 ・レム睡眠行動障害と悪夢障害はレム睡眠に関連し、夜間後半に起こり、覚醒すれば夢の内容を想起できる。 ・レム睡眠行動障害は高齢男性に多く、Parkinson病やLewy小体型認知症の前駆症状として重要。 ・夢中遊行症の対応は、説明と安全確保が基本で、無理に起こさない。
