StudyMed医師国家試験

その「霰粒腫」、本当に良性?―高齢者の瞼にひそむ脂腺癌を見逃さない

第114回医師国家試験 D問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第114回 D問題 第2問

高齢者において霰粒腫との鑑別を要するのはどれか。

  1. a.脂腺癌
  2. b.乳頭腫
  3. c.麦粒腫
  4. d.基底細胞癌
  5. e.ぶどう膜腫瘍

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、霰粒腫とよく似ていて、特に高齢者で見逃してはいけない疾患を選ぶ問題だ。カギになるのは「どこから発生するか」という発生母地の視点。まずは霰粒腫がどんな病気か、確認しておこう。
医学生医学生
まぶたにできる、ものもらいのようなしこりですよね。細菌感染だったでしょうか。
ドクタードクター
そこは混同しやすいところだね。霰粒腫は、瞼板の中にあるマイボーム腺の出口が詰まって、たまった脂質に対して起こる慢性の肉芽腫性炎症なんだ。基本的には細菌感染を伴わず、痛みのない硬い結節として皮下に触れるのが典型だよ。
医学生医学生
マイボーム腺は、涙の油層をつくる脂腺でしたね。組織学の実習で瞼板の中に並んでいるのを見ました。
ドクタードクター
そう、その脂腺がポイントになる。同じマイボーム腺から発生する悪性腫瘍があるんだけど、何かわかるかな。
医学生医学生
脂腺から出る癌だから、脂腺癌ですか。
ドクタードクター
正解。脂腺癌は主にマイボーム腺、ほかにツァイス腺などから生じる悪性腫瘍で、高齢者に多く、上眼瞼にやや多い。霰粒腫と同じく瞼板内の脂腺から生じるから、瞼板の中の硬い無痛性結節という、そっくりな見た目になるんだ。黄色から黄白色調を帯びることもある。
医学生医学生
見た目が同じだと、霰粒腫として治療されてしまいそうです。
ドクタードクター
まさにそれが問題なんだ。霰粒腫として切開やステロイド注射を繰り返すうちに、診断が遅れることがある。脂腺癌はリンパ節転移や遠隔転移をきたしうる、比較的予後不良な眼瞼悪性腫瘍だから、見逃しの代償は大きい。しかも日本を含むアジアでは、欧米より眼瞼悪性腫瘍に占める割合が高いとされているんだ。
医学生医学生
では、麦粒腫は鑑別にならないんですか。名前も似ていて迷いました。
ドクタードクター
麦粒腫はマイボーム腺やツァイス腺、モル腺の急性化膿性の細菌感染で、黄色ブドウ球菌などが原因になる。発赤、腫脹、圧痛があって数日で化膿する急性の経過だ。感染を合併した急性霰粒腫との区別が問題になることはあるけれど、年齢を問わず起こるもので、「高齢者で特に」鑑別すべき疾患ではないね。
医学生医学生
基底細胞癌も高齢者の眼瞼にできる悪性腫瘍ですよね。皮膚科の講義で、眼瞼悪性腫瘍で一番多いと習いました。
ドクタードクター
その通り、頻度では基底細胞癌が最も多い。ただ、表皮の基底細胞や毛包上皮から生じる皮膚表面の病変で、下眼瞼や内眼角付近に好発し、黒褐色調で、辺縁が真珠様に隆起した結節や中心の潰瘍、拡張した血管が特徴だ。瞼板内の脂腺から生じる霰粒腫とは発生母地も外観も違うから、霰粒腫との鑑別として最も重要とはいえない。
医学生医学生
乳頭腫は、たしか表面に飛び出すようなできものでしたね。
ドクタードクター
そう。乳頭腫は上皮の良性増殖で、有茎性やカリフラワー状に表面へ突出する。皮下の結節である霰粒腫とは形がまるで違う。ぶどう膜腫瘍は虹彩・毛様体・脈絡膜という眼球の中の組織から生じるもので、成人なら脈絡膜悪性黒色腫が代表だ。眼瞼にしこりをつくる霰粒腫とは場所がまったく異なるね。
医学生医学生
結局、同じ場所から同じように生じるから脂腺癌が一番紛らわしい、ということですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。では臨床で、どんなときに脂腺癌を疑えばいいかまとめておこう。高齢者であること、治療に反応しない、同じ部位に繰り返し再発する、徐々に大きくなる、睫毛が抜ける、潰瘍や出血がある、といったサインだ。
医学生医学生
眼科の臨床実習で、霰粒腫の切開を見学しましたが、取ったものは病理に出すんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。高齢者や再発例では、摘出した組織を病理検査に出して確認することが大切だ。もう一つ覚えておきたいのは、脂腺癌が明らかな結節をつくらず、片側だけの治りにくい眼瞼結膜炎のように見えることがある点。上皮内を這うように広がる、pagetoid spreadと呼ばれる進展によるものだ。
医学生医学生
片側だけの慢性結膜炎が治らないときも、脂腺癌を頭に置くべきなんですね。
ドクタードクター
その通り。「よくある良性疾患」と思い込んで漫然と保存的治療を続けず、少しでも合わないと感じたら生検で病理診断を確定する。これが眼瞼腫瘤を診るときの基本姿勢だよ。

まとめ

霰粒腫はマイボーム腺の閉塞による無菌性の慢性肉芽腫性炎症で、瞼板内の無痛性の硬い結節として現れます。脂腺癌は同じマイボーム腺などの脂腺から生じるため外観が霰粒腫に酷似し、高齢者で特に鑑別が重要で、転移しうる比較的予後不良な腫瘍でありアジアに比較的多いとされます。麦粒腫は有痛性の急性細菌感染、基底細胞癌は皮膚表面に生じ下眼瞼に多い黒色調・潰瘍性の腫瘍、乳頭腫は表面に突出する良性腫瘍、ぶどう膜腫瘍は眼球内の腫瘍であり、いずれも霰粒腫とは発生母地や外観が異なります。高齢者の再発性・治療抵抗性の霰粒腫様病変や片側性の難治性眼瞼結膜炎では脂腺癌を疑い、生検で病理診断を確定することが大切です。発生母地から鑑別疾患を整理する考え方は、眼瞼腫瘍に限らず腫瘤性病変全般の診断に役立ちます。

解答・解説

正解はaです

問われていること

霰粒腫と見た目がよく似ていて、とくに高齢者で見逃してはならない疾患を選ぶ問題である。

霰粒腫とは

霰粒腫(chalazion)は、瞼板内にあるマイボーム腺(瞼板腺:涙液の油層をつくる脂腺)の出口が詰まり、たまった脂質に対して生じる慢性の肉芽腫性炎症である。眼瞼の皮下に、痛みのない硬い結節として触れるのが典型で、通常は細菌感染を伴わない(感染を伴って発赤・疼痛が出たものは急性霰粒腫と呼ばれる)。

考え方

脂腺癌はマイボーム腺などの眼瞼の脂腺から発生する悪性腫瘍であり、霰粒腫と発生部位(瞼板内のマイボーム腺)が同じであるため、瞼板内の無痛性結節という似た外観を呈する。そのため霰粒腫として切開・ステロイド注射などを繰り返されるうちに診断が遅れることがある。高齢者の「霰粒腫」、とくに治療に反応しない・同じ部位に再発する・徐々に増大する・睫毛脱落や黄色調の変化を伴う場合は、脂腺癌を疑って生検(病理組織検査)を行う必要がある。他の選択肢は発生母地や外観、あるいは病態が霰粒腫とは異なる。

選択肢考察

  1. ○a.  脂腺癌

    脂腺癌は主にマイボーム腺(ほかにツァイス腺など)に由来する悪性腫瘍で、高齢者に多く、上眼瞼にやや多い。霰粒腫と同じく瞼板内の脂腺から生じるため、瞼板内の硬い無痛性結節として現れ、黄色〜黄白色調を帯びることがある。外観が霰粒腫に類似するので誤診されやすく、治療抵抗性・再発性の霰粒腫様病変では本症を疑って生検を行う。ときに明らかな結節をつくらず、片側性の慢性眼瞼結膜炎のような像を示すこと(pagetoid spreadと呼ばれる上皮内進展による)もある。リンパ節転移・遠隔転移をきたしうる比較的予後不良な眼瞼悪性腫瘍であり、日本を含むアジアでは欧米に比べ眼瞼悪性腫瘍に占める割合が高い。

  2. ×b.  乳頭腫

    乳頭腫は眼瞼皮膚や瞼縁にみられる上皮の良性増殖性腫瘍で、有茎性あるいはカリフラワー状に表面へ突出する外観をとる。瞼板内の皮下結節である霰粒腫とは形態が明らかに異なる。出血や潰瘍形成はまれで、ある程度の大きさに達するとそれ以上大きな変化を示さないことが多い。霰粒腫との鑑別で問題となる疾患ではない。

  3. ×c.  麦粒腫

    麦粒腫はマイボーム腺(内麦粒腫)や、睫毛根部のツァイス腺(皮脂腺)・モル腺(汗腺)(外麦粒腫)の急性化膿性細菌感染で、起炎菌は黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌が多い。発赤・腫脹・圧痛を伴い、数日の経過で化膿・排膿に至る急性の病態である。慢性・無痛性の肉芽腫である霰粒腫とは病態が異なり、また年齢を問わず生じる。感染を合併した急性霰粒腫と麦粒腫の区別が問題になることはあるが、「高齢者において」特に鑑別が求められる疾患ではない。

  4. ×d.  基底細胞癌

    基底細胞癌は表皮の基底細胞や毛包上皮に由来する皮膚癌で、高齢者の下眼瞼や内眼角付近に好発する代表的な眼瞼悪性腫瘍である。メラニンを含み黒褐色を呈することが多く、辺縁が真珠様に隆起した結節、中心部の潰瘍形成、表面の拡張・蛇行した血管、病変部の睫毛脱落などが特徴である。皮膚表面の病変であり、瞼板内(皮下)の脂腺から生じる霰粒腫や脂腺癌とは発生母地も外観も異なるため、霰粒腫との鑑別として最も重要な疾患とはいえない。転移はまれで局所の浸潤・破壊性発育が主体である。

  5. ×e.  ぶどう膜腫瘍

    ぶどう膜(虹彩・毛様体・脈絡膜)は眼球内の組織であり、そこから生じる腫瘍(成人では脈絡膜悪性黒色腫が代表)は眼内に発生する。眼瞼に結節をつくる霰粒腫とは発生部位がまったく異なり、鑑別の対象とならない。

眼瞼の解剖と腺

・マイボーム腺(瞼板腺):瞼板内にある脂腺。瞼縁に開口し、涙液の油層を分泌する。霰粒腫・内麦粒腫・脂腺癌の発生部位。 ・ツァイス腺:睫毛の毛包に付属する皮脂腺。外麦粒腫、脂腺癌の発生部位となることがある。 ・モル腺:睫毛根部の汗腺(アポクリン腺)。外麦粒腫の発生部位。

霰粒腫と麦粒腫の違い

・霰粒腫:マイボーム腺の梗塞による無菌性の慢性肉芽腫性炎症。無痛性の硬い結節。治療は経過観察、ステロイド局所注射、切開・掻爬。 ・麦粒腫:眼瞼の腺の急性細菌感染(主にブドウ球菌)。発赤・腫脹・疼痛を伴う。治療は抗菌薬点眼・内服、膿点が形成されれば切開排膿。

日本における主な眼瞼悪性腫瘍

・基底細胞癌:頻度が最も高い。高齢者の下眼瞼に好発。黒色調、潰瘍、睫毛脱落。転移はまれ。 ・脂腺癌:基底細胞癌に次いで多い。マイボーム腺由来で霰粒腫に類似。転移しうる。アジアで比較的多い。 ・扁平上皮癌:角化・潰瘍を伴う腫瘤。 ・その他:悪性リンパ腫(結膜・眼窩のMALTリンパ腫など)、メルケル細胞癌など。

悪性を疑うべき眼瞼腫瘤のサイン

・高齢者 ・治療に反応しない、同部位に繰り返し再発する ・徐々に増大・形状が変化する ・睫毛脱落、潰瘍、出血、瞼縁の破壊 ・片側性の難治性眼瞼結膜炎 これらがあれば漫然と保存的治療を続けず、生検で病理診断を確定する。

POINT

・霰粒腫と脂腺癌はともにマイボーム腺から生じるため外観が似ており、鑑別が重要である。 ・高齢者の再発性・治療抵抗性の霰粒腫様病変は脂腺癌を疑い、生検する。 ・脂腺癌は転移しうる比較的予後不良な眼瞼悪性腫瘍で、アジアに多い。 ・眼瞼悪性腫瘍で最も多いのは基底細胞癌(高齢者の下眼瞼、黒色調、潰瘍)である。 ・麦粒腫=急性細菌感染で有痛性、霰粒腫=無菌性肉芽腫で無痛性。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。