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PaO2は正常なのに酸素が足りない?―貧血が「低酸素血症」にならない理由

第101回医師国家試験 B問題 第71問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第71問

低酸素血症の原因とならないのはどれか。

  1. a.換気血流不均等分布
  2. b.肺胞低換気
  3. c.シャント
  4. d.拡散障害
  5. e.貧血

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は低酸素血症の機序を問う問題だ。ポイントは「低酸素血症」と「低酸素症」という似た言葉をきちんと区別できるかどうか。まず、低酸素血症とは何を指す言葉か説明できるかな。
医学生医学生
血液中の酸素が少ない状態……でしょうか。
ドクタードクター
もう少し厳密にいこう。低酸素血症は動脈血の酸素分圧、つまりPaO2が低下した状態のこと。一般にPaO2 60Torr以下を呼吸不全の目安にする。一方、組織に届く酸素が足りない状態は低酸素症と呼んで、別の概念なんだ。
医学生医学生
生理学の講義で「hypoxemiaとhypoxiaは違う」と言われた記憶があります。でも正直、同じものだと思っていました。
ドクタードクター
混同しやすいところだね。では、PaO2を下げる機序を挙げてみよう。教科書的には肺胞低換気、換気血流比不均等、シャント、拡散障害の4つに、高地などの吸入気酸素分圧の低下を加えて整理する。どれも「肺で血液を十分に酸素化できない」という点が共通している。
医学生医学生
肺胞低換気は、呼吸が浅くなってCO2がたまる状態ですよね。
ドクタードクター
そう。換気が減るとPaCO2が上がり、その分だけ肺胞内の酸素分圧が下がるからPaO2も下がる。ただ肺そのもののガス交換能は正常なので、A-aDO2は開大しないのが特徴だ。鎮静薬やオピオイドによる呼吸抑制、神経筋疾患、肥満低換気症候群などが原因で、II型呼吸不全になる。
医学生医学生
換気血流比不均等が一番多いと習いました。
ドクタードクター
その通り。換気に比べて血流が多い領域を通った血液は酸素化が不十分になる。換気が多い領域の血液はすでに飽和度がほぼ100%だから、そこで余分に酸素を足して補うことができないんだ。酸素解離曲線の平坦部にいるからだね。COPD、肺炎、肺血栓塞栓症など多くの疾患でみられる。
医学生医学生
シャントは換気血流比が0の極端な状態、と考えればいいですか。
ドクタードクター
いい整理だ。無気肺やARDSのような肺内シャント、Fallot四徴症などの心内右左シャントがある。シャントを通る血液は吸入気に触れないから、高濃度酸素を吸わせてもPaO2があまり上がらない。これが他の機序との大きな違いだ。拡散障害はどうだろう。
医学生医学生
間質性肺炎で肺胞壁が厚くなって酸素が通りにくくなる状態ですね。呼吸器内科の実習で、歩くとSpO2が下がる患者さんを見ました。
ドクタードクター
まさにそれが典型。安静時は毛細血管を通過する時間に余裕があるけれど、運動で血流が速くなると酸素化が間に合わなくなる。だから労作時に低酸素血症が目立ち、DLCOが低下する。では残る貧血はどうかな。
医学生医学生
貧血だと酸素を運ぶヘモグロビンが少ないので、酸素が足りなくなりそうですが……。
ドクタードクター
そこが今回の核心だ。貧血でも肺の換気やガス交換は正常だから、PaO2もSaO2も正常に保たれる。減るのは血液が運べる酸素の総量、つまり動脈血酸素含量なんだ。酸素含量はおよそ1.34×Hb×SaO2に、ごくわずかな溶存酸素を足したもの。Hbが半分になれば、PaO2が正常でも酸素含量はほぼ半分になる。
医学生医学生
つまり貧血では組織の低酸素症は起こりうるけれど、PaO2は下がらないので低酸素血症の原因にはならない、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。だからこの問題の答えは貧血になる。臨床的な注意点も押さえておこう。パルスオキシメータのSpO2は飽和度を測っているから、高度の貧血でも通常は正常値を示す。SpO2が良いからといって組織に酸素が足りているとは限らないんだ。一酸化炭素中毒も同様に、Hbが酸素を運べないのにPaO2は正常で、一般的なパルスオキシメータではSpO2が見かけ上高く出てしまうので要注意だよ。
医学生医学生
救急外来でSpO2だけを見て安心してはいけない、ということですね。A-aDO2はどう使い分けるんでしょう。
ドクタードクター
A-aDO2は肺胞気と動脈血の酸素分圧の差で、室内気ならPAO2はおよそ150−PaCO2/0.8で求められる。正常はおよそ10Torr以下。PaO2が低いのにA-aDO2が正常なら肺胞低換気か吸入気酸素分圧の低下、開大していれば換気血流比不均等・シャント・拡散障害を考える。さらに酸素投与への反応が乏しければシャントを疑う、という流れで機序を絞り込めるよ。

まとめ

低酸素血症はPaO2の低下を指し、その機序は肺胞低換気、換気血流比不均等(最多)、シャント、拡散障害、そして吸入気酸素分圧の低下に整理されます。貧血ではガス交換が正常なためPaO2やSaO2は保たれ、減少するのはHbに依存する動脈血酸素含量なので、組織の低酸素症は起こしても低酸素血症の原因にはなりません。鑑別にはA-aDO2が有用で、肺胞低換気ではA-aDO2が正常、シャントでは酸素投与への反応が乏しく、拡散障害では労作時に増悪するといった特徴があります。SpO2が正常でも貧血や一酸化炭素中毒では組織への酸素供給が不足しうるため、「PaO2」「酸素含量」「酸素供給」を区別して考えることが、呼吸不全やショックの評価の基本になります。

解答・解説

正解はeです

低酸素血症(hypoxemia)とは、動脈血中の酸素分圧(PaO2)が低下した状態をいう。一般に PaO2 60 Torr 以下(SpO2 約 90% 以下に相当)を呼吸不全の基準とする。これに対して、組織に届く酸素が不足した状態は低酸素症(hypoxia)と呼ばれ、両者は区別して考える必要がある。 低酸素血症を起こす機序は、次の5つ(+吸入気の酸素分圧低下)に整理される。 ①肺胞低換気: 換気量そのものが減り、肺胞内の酸素分圧(PAO2)が下がる。 ②換気血流比不均等: 換気と血流の釣り合いがとれていない肺胞が混在する。臨床で最も多い機序である。 ③シャント: 換気のない部分を血液が素通りし、酸素化されないまま動脈側へ流れ込む。 ④拡散障害: 肺胞から毛細血管への酸素の移動が妨げられる。 ⑤吸入気酸素分圧の低下: 高地などでの低酸素環境。 これらはいずれも「肺で血液を十分に酸素化できない」ことによって PaO2 を下げる。一方、貧血はヘモグロビン(Hb)の量が減る状態であり、肺でのガス交換そのものは正常なので、PaO2 も Hb の酸素飽和度(SaO2)も正常に保たれる。貧血で減るのは血液が運べる酸素の総量(動脈血酸素含量)であり、結果として組織の低酸素症(貧血性低酸素症)は起こりうるが、低酸素血症の原因にはならない。したがって正解は e である。 なお、①〜④の鑑別には肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)が有用である。肺胞気酸素分圧は PAO2 = FiO2 ×(大気圧 − 水蒸気圧)− PaCO2 / 呼吸商 で求められ、室内気(FiO2 0.21、大気圧 760 Torr、水蒸気圧 47 Torr、呼吸商 0.8)では PAO2 ≒ 150 − PaCO2 / 0.8 となる。A-aDO2 = PAO2 − PaO2 の正常値はおよそ 10 Torr 以下(高齢者ではやや開大する)で、肺胞低換気だけが A-aDO2 の開大を伴わない。

選択肢考察

  1. ×a.  換気血流不均等分布

    低酸素血症の原因となる。肺の各部分で換気(V)と血流(Q)の比が不均一になると、換気に比べて血流の多い領域(低 V/Q 領域)を通った血液は十分に酸素化されない。高 V/Q 領域の血液は酸素飽和度がすでにほぼ 100% のため、それ以上酸素を上乗せして低 V/Q 領域の不足を補うことができない(ヘモグロビン酸素解離曲線が平坦部にあるため)。その結果、混合された動脈血の PaO2 は低下し、A-aDO2 は開大する。COPD、肺炎、間質性肺炎、肺血栓塞栓症など多くの肺疾患でみられ、低酸素血症の機序として最も頻度が高い。一方、CO2 は換気の増加で排出を補いやすいため、PaCO2 は正常か低下していることが多い。酸素投与によく反応する。

  2. ×b.  肺胞低換気

    低酸素血症の原因となる。肺胞に出入りする空気の量(肺胞換気量)が減ると CO2 が排出されずに PaCO2 が上昇し、その分だけ肺胞内の酸素分圧(PAO2)が低下するため、PaO2 も下がる。肺そのもののガス交換能は保たれているので A-aDO2 は正常範囲にとどまるのが特徴であり、高二酸化炭素血症を伴う II 型呼吸不全を呈する。原因には、薬物(鎮静薬・オピオイド)による呼吸中枢の抑制、神経筋疾患(筋萎縮性側索硬化症、Guillain-Barré 症候群など)、胸郭の変形、肥満低換気症候群などがある。

  3. ×c.  シャント

    低酸素血症の原因となる。シャントとは、静脈血が換気される肺胞を通らずにそのまま動脈側へ流れ込むことで、換気血流比が 0 の極端な状態とみなせる。肺内シャント(無気肺、肺炎で肺胞が液体に満たされた状態、急性呼吸窮迫症候群〈ARDS〉、肺動静脈瘻など)と、心内の右左シャント(Fallot 四徴症、Eisenmenger 症候群など)がある。シャントを通った血液は吸入気に触れないため、高濃度酸素を吸入させても PaO2 があまり上がらないのが他の機序との大きな違いである。A-aDO2 は開大する。

  4. ×d.  拡散障害

    低酸素血症の原因となる。酸素は肺胞から肺胞上皮・間質・毛細血管内皮・血漿を通って赤血球内の Hb に届く。この経路が厚くなったり(間質性肺炎・肺線維症など)、ガス交換に使える面積が減ったり(肺気腫、肺切除後など)すると、酸素の移動が不十分となる。安静時には毛細血管の通過時間に余裕があるため目立たないことも多いが、運動時には血流が速くなって通過時間が短縮し、酸素化が間に合わずに PaO2 が低下しやすい(労作時の低酸素血症)。A-aDO2 は開大し、肺拡散能(DLCO)が低下する。CO2 は酸素よりはるかに拡散しやすいため、PaCO2 は上昇しにくい。

  5. ○e.  貧血

    低酸素血症の原因とならない。貧血は血液中の Hb 濃度が低下した状態であるが、肺での換気やガス交換は正常なので、PaO2 と SaO2(Hb のうち酸素と結合している割合)は正常に保たれる。減少するのは動脈血酸素含量(CaO2 ≒ 1.34 × Hb × SaO2 + 0.003 × PaO2)であり、Hb が減ると運べる酸素の総量が減る。そのため高度の貧血では組織への酸素供給が不足する低酸素症(貧血性低酸素症)が起こりうるが、これは低酸素血症(PaO2 の低下)とは異なる。パルスオキシメータの SpO2 も貧血では通常正常値を示す。

低酸素血症の機序と鑑別のポイント

・肺胞低換気: A-aDO2 正常、PaCO2 上昇、酸素投与で改善 ・換気血流比不均等: A-aDO2 開大、PaCO2 は正常〜低下が多い、酸素投与で改善 ・シャント: A-aDO2 開大、高濃度酸素を投与しても改善が乏しい ・拡散障害: A-aDO2 開大、労作時に増悪、DLCO 低下、酸素投与で改善 ・吸入気酸素分圧の低下(高地など): A-aDO2 正常、PaCO2 は過換気で低下

低酸素症(hypoxia)の分類

組織への酸素供給は「動脈血酸素含量 × 心拍出量」で決まるため、低酸素症は次のように分類される。 ・低酸素性低酸素症: PaO2 の低下によるもの(上記の低酸素血症) ・貧血性低酸素症: Hb 量の減少、または一酸化炭素中毒・メトヘモグロビン血症のように Hb が酸素を運べない状態。PaO2 は正常 ・循環性(うっ血性)低酸素症: ショックや心不全による血流の低下 ・組織中毒性低酸素症: シアン中毒のように細胞が酸素を利用できない状態

動脈血酸素含量

CaO2(mL/dL)= 1.34 × Hb(g/dL)× SaO2 + 0.003 × PaO2(Torr) 酸素の大部分は Hb と結合して運ばれ、血漿に溶ける酸素はごくわずかである。そのため PaO2 が正常でも Hb が半分になれば酸素含量はおよそ半分になる。

呼吸不全の分類

・I 型呼吸不全: PaO2 ≦ 60 Torr かつ PaCO2 ≦ 45 Torr(換気血流比不均等、シャント、拡散障害が主体) ・II 型呼吸不全: PaO2 ≦ 60 Torr かつ PaCO2 > 45 Torr(肺胞低換気が主体)

POINT

・低酸素血症(PaO2 低下)の機序: 肺胞低換気、換気血流比不均等(最多)、シャント、拡散障害、吸入気酸素分圧の低下。 ・貧血は PaO2・SaO2 が正常のまま酸素含量が減る状態であり、低酸素症は起こしても低酸素血症の原因にはならない。 ・A-aDO2 が正常なのは肺胞低換気(と吸入気酸素分圧の低下)のみ。 ・シャントは酸素投与に反応しにくく、拡散障害は労作時に増悪する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。