耳の前の小さな穴は「浅い」病変―先天性耳瘻孔の症状を発生学から読み解く
第101回医師国家試験 B問題 第69問
国試問題にチャレンジ
先天性耳瘻孔でみられるのはどれか。
- a.めまい
- b.感音難聴
- c.味覚障害
- d.耳前部発赤
- e.顔面神経麻痺
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
先天性耳瘻孔は、胎生期に第1・第2鰓弓由来の耳介結節が癒合する過程での不全によって、耳前部(多くは耳輪脚付近)に生じる盲端の瘻管であり、皮下にとどまる浅い病変です。感染がなければ無症状のことが多く、瘻管内にたまった分泌物に細菌感染が起こると、耳前部の発赤・腫脹・疼痛や膿瘍形成、排膿をきたします。めまい・感音難聴は内耳〜後迷路、味覚障害は鼓索神経など、顔面神経麻痺は側頭骨内〜耳下腺の顔面神経の障害で生じる症状であり、浅い皮下病変である先天性耳瘻孔ではみられません。治療は感染時の抗菌薬と切開排膿、反復例では炎症消退後の瘻管全摘出が基本で、難聴を伴う場合は鰓弓耳腎(BOR)症候群も念頭に置きます。症状を障害部位と対応づけて考える習慣は、耳鼻咽喉科領域の鑑別全般に役立ちます。
解答・解説
正解はdです
先天性耳瘻孔は、耳介が形成される過程での癒合不全によって、耳の前方(多くは耳輪脚の付け根付近)に小さな穴(瘻孔)とその奥に続く盲端の管が残る先天異常である。耳介は胎生期に第1・第2鰓弓から生じる6個の小隆起(耳介結節、His の小丘)が癒合してできあがり、この癒合がうまくいかなかった部分に上皮で裏打ちされた管が残ると考えられている。 病変は耳前部の皮下にとどまる浅いものであり、中耳・内耳・顔面神経などの深部構造とは連続しない。そのため、瘻孔だけでは無症状のことが多く、症状が出るのは瘻管内に分泌物(皮脂や角化物)がたまって細菌感染を起こしたときである。感染すると耳前部の発赤・腫脹・疼痛が生じ、膿瘍を形成したり、瘻孔から排膿したりする。 本問では、この「浅い皮下の病変で、感染により耳前部に炎症所見を呈する」という病態から考えると、耳前部発赤が該当する。めまい・感音難聴・味覚障害・顔面神経麻痺は、いずれも内耳や神経の障害によって起こる症状であり、先天性耳瘻孔の病変部位とは関係しない。
選択肢考察
- ×a. めまい
耳の疾患によるめまいは、内耳(半規管・耳石器)や前庭神経など平衡機能をつかさどる部位の障害で生じる。先天性耳瘻孔は耳前部の皮下に限られる病変で内耳とはつながっておらず、感染を起こしてもめまいの原因にはならない。
- ×b. 感音難聴
感音難聴は内耳(蝸牛)または後迷路(蝸牛神経から聴覚中枢まで)の障害による難聴である。先天性耳瘻孔は外耳の前方の皮下病変であり、外耳道・中耳・内耳の構造には影響しないため、難聴は生じない。ただし、耳瘻孔に頸部の鰓性瘻・腎奇形・難聴を合併する鰓弓耳腎(BOR)症候群のような症候群の一部として耳前瘻孔がみられることはあり、この場合の難聴は症候群の他の異常によるもので、単独の先天性耳瘻孔の症状ではない。
- ×c. 味覚障害
耳の疾患に伴う味覚障害は、中耳腔を通過する鼓索神経(舌前2/3の味覚を運ぶ顔面神経の枝)の障害、あるいは顔面神経の枝である大錐体神経(軟口蓋の味覚を運ぶ)の障害で生じる。中耳炎や中耳手術などで起こりうるが、耳前部皮下の病変である先天性耳瘻孔はこれらの神経に及ばないため、味覚障害はきたさない。
- ○d. 耳前部発赤
先天性耳瘻孔でみられる。瘻管の内腔は皮膚と同じ上皮で覆われており、分泌物や角化物がたまりやすい。ここに細菌感染が起こると、耳前部(瘻孔の周囲)に発赤・腫脹・圧痛・熱感が生じ、進行すると膿瘍を形成して自壊・排膿することもある。感染を繰り返すことが多く、これが手術(瘻管摘出術)を考える契機となる。
- ×e. 顔面神経麻痺
顔面神経は側頭骨内の顔面神経管を通って茎乳突孔から出たのち、耳下腺内で分枝する。先天性耳瘻孔の瘻管は耳前部の皮下の浅い層にとどまり、顔面神経の走行部位よりも浅いため、炎症を伴っても顔面神経麻痺をきたすことはない。耳疾患で顔面神経麻痺を起こすのは、真珠腫性中耳炎、耳性帯状疱疹(Ramsay Hunt 症候群)、側頭骨骨折などである。
先天性耳瘻孔の概要
・耳介発生時の耳介結節の癒合不全によって生じる、耳前部の瘻孔と盲端に終わる瘻管である。 ・瘻孔は耳輪脚の前縁付近に開口することが最も多い。片側性が多いが両側性のこともある。 ・日本人を含む東アジア系で比較的頻度が高く、家族内発生もみられる。
症状と経過
・感染がなければ無症状で、瘻孔から白色の分泌物が出る程度のことが多い。 ・感染すると耳前部の発赤・腫脹・疼痛を生じ、膿瘍形成、自壊・排膿を繰り返すことがある。
治療
・無症状なら経過観察でよい。 ・急性感染時は抗菌薬を投与し、膿瘍を形成していれば切開排膿を行う。 ・感染を繰り返す例では、炎症が落ち着いた時期に瘻管を完全に摘出する。瘻管の一部が残ると再発しやすいため、色素を注入して瘻管の範囲を確認するなどの工夫をしながら全摘出を目指す。
関連事項
・鰓弓耳腎(BOR)症候群: 耳前瘻孔、頸部の鰓性瘻孔・嚢胞、耳介奇形、難聴(伝音・感音・混合性)、腎奇形を特徴とする常染色体顕性(優性)遺伝の疾患。耳前瘻孔に難聴を伴う場合には念頭に置く。 ・耳の症状と障害部位の対応: めまい・感音難聴は内耳~後迷路、味覚障害は鼓索神経・大錐体神経、顔面神経麻痺は顔面神経の走行経路(側頭骨内~耳下腺)の障害で生じる。
POINT
・先天性耳瘻孔は耳介結節の癒合不全による、耳前部(耳輪脚付近)の皮下の浅い瘻管である。 ・症状は感染時の耳前部の発赤・腫脹・疼痛・排膿であり、内耳や神経の症状(めまい、感音難聴、味覚障害、顔面神経麻痺)は起こさない。 ・治療は感染時に抗菌薬・切開排膿、反復例では炎症消退後に瘻管を全摘出する。
