縫ったら終わりじゃない―顔の傷と頭部打撲、帰宅前に伝えるべきこと
第118回医師国家試験 B問題 第36問
国試問題にチャレンジ
54歳の女性。飲酒後転倒して顔面を強打したため救急外来を受診した。頭部単純CTで異常を認めない。額の開放創を縫合した。額の縫合後写真を示す。 患者への帰宅前の指導で正しいのはどれか。

- a.「自宅で洗顔をしてもよいです」
- b.「抜糸する時は入院が必要です」
- c.「寝る時は枕をしないでください」
- d.「痛み止めの薬を服用しないでください」
- e.「吐き気があるときは翌日に受診してください」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
縫合創は24〜48時間程度で表面が上皮化して閉じるため、その後は洗顔や水道水での洗浄が可能で、毎日の消毒も基本的に不要です。抜糸は外来で行う処置で、血流の豊富な顔面では約5日と早めに抜糸し、枕や鎮痛薬の使用を制限する医学的根拠もありません。一方、頭部打撲後は初回CTが正常でも遅発性の頭蓋内出血が起こりうるため、吐き気・嘔吐、頭痛の増悪、意識の変化などがあれば翌日まで待たずに直ちに受診するよう指導します。特に飲酒後や高齢者、抗凝固薬内服者では症状が見えにくく、慢性硬膜下血腫も含めた注意喚起が重要です。過度な生活制限を避けつつ危険なサインを確実に伝えることは、救急外来から患者を安全に帰宅させるための基本的な技能です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・飲酒後に転倒し顔面を強打した54歳女性である。頭部打撲があるため、創の処置だけでなく頭蓋内損傷の有無にも注意が必要となる。 ・頭部単純CTでは異常がなく、受診時点で頭蓋骨骨折や頭蓋内出血は認めない。 ・前額部の開放創(裂創)は縫合処置が終わっている。縫合後の写真では、黒色の糸による単結節縫合で創縁がよく合わさっており、出血や発赤、排膿など縫合不全や感染を疑う所見はない。
設問の考え方
本問は診断よりも、縫合処置後に帰宅させる際の生活指導を問うている。押さえるべき観点は次の2つである。 1)縫合創の管理:創を清潔に保つことが基本であり、縫合後早期(おおむね24〜48時間以降)からの水道水による洗浄・洗顔やシャワーは感染を増やさず、むしろ創を清潔に保つうえで勧められる。抜糸は外来で行え、顔面は血流が豊富で治癒が早いため5日前後で抜糸するのが一般的である。 2)頭部打撲後の経過観察:受診時のCTが正常でも、その後に頭蓋内出血が顕在化することがある。特に飲酒後は症状が修飾されやすい。頭痛の増悪、繰り返す嘔吐・吐き気、意識レベルの低下、けいれん、手足の麻痺などが出た場合には、時間帯にかかわらず直ちに再受診するよう指導する。 これらに照らすと、日常生活上の制限を過度に課す指導や、危険な症状に対して受診を先延ばしさせる指導は誤りとなる。
選択肢考察
- ○a. 「自宅で洗顔をしてもよいです」
縫合された創は、通常24〜48時間ほどで創縁の上皮が連続し、表面が閉じる。その後は水道水やせっけんで洗顔・洗浄しても創感染は増えないとされ、汚れや痂皮を除いて創を清潔に保つことにつながる。洗った後は清潔なタオルで押さえるように水分を拭き取ればよい。本例の縫合創は感染や縫合不全の所見もなく、洗顔を許可する指導は適切である。
- ×b. 「抜糸する時は入院が必要です」
抜糸は外来で短時間に行える処置であり、入院は不要である。顔面は血流が豊富で創傷治癒が早いため、抜糸の時期は一般に縫合後5日前後と、体幹や四肢より早い。顔面では抜糸が遅れると縫合糸の跡(いわゆる縫合痕)が残りやすいことも、早めに抜糸する理由である。
- ×c. 「寝る時は枕をしないでください」
縫合創や頭部打撲のために枕の使用を禁じる医学的理由はない。CTで頭蓋骨骨折や頭蓋内損傷もなく、頸椎損傷を疑う所見も示されていない。顔面の腫脹を軽減する目的ではむしろ頭部をやや高くすることがあり、枕を使わないよう指導する根拠はない。
- ×d. 「痛み止めの薬を服用しないでください」
創部痛に対して鎮痛薬(アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬など)を服用することは問題なく、必要に応じて処方してよい。鎮痛薬で頭部外傷後の危険な症状が見えなくなるという懸念から服用を禁じる必要はない。ただし飲酒直後の服用は避けるなど、一般的な注意は添えるとよい。
- ×e. 「吐き気があるときは翌日に受診してください」
頭部打撲後の吐き気・嘔吐は、急性硬膜外血腫や急性硬膜下血腫など、遅れて出現した頭蓋内出血による頭蓋内圧亢進の徴候である可能性がある。こうした症状が出たら翌日まで待たず、すぐに受診するよう指導しなければならない。受診時のCTが正常でも、その後に出血が進行することがあるため、帰宅時には危険な症状とすぐに受診すべきことを本人と家族に伝えておく。
縫合創の管理の基本
・縫合後24〜48時間で創表面は上皮化し、以後の洗浄・シャワー・洗顔は可能である。 ・創の消毒を毎日行う必要はなく、水道水での洗浄で清潔を保つのが現在の考え方である。 ・抜糸時期の目安:顔面 約5日、頭皮 約7〜10日、体幹 約7〜10日、四肢 約10〜14日、関節の伸側や足底などはさらに長め。部位の血流や張力により異なる。 ・発赤の拡大、腫脹、熱感、疼痛の増強、排膿、発熱があれば創感染を疑い、早めに受診させる。 ・汚染創では破傷風の予防接種歴を確認し、必要に応じて破傷風トキソイドなどを投与する。
頭部外傷後の帰宅時指導
頭部打撲後にCTが正常で帰宅させる場合、次のような症状が出たらすぐに受診するよう伝える。 ・頭痛の増悪 ・繰り返す吐き気・嘔吐 ・意識がぼんやりする、呼びかけへの反応が悪い、異常な眠気 ・けいれん ・手足の麻痺やしびれ、ろれつが回らない、物が二重に見える ・耳や鼻から透明な液体(髄液)が出る 可能であれば24時間程度は家族などが付き添い、様子を観察することが望ましい。
数週間後の注意点
高齢者や飲酒歴のある人、抗凝固薬の内服者では、軽微な頭部外傷から数週〜数か月後に慢性硬膜下血腫を生じることがある。頭痛、歩行障害、認知機能の低下、片麻痺などが徐々に出現した場合にも受診を勧める。
POINT
・縫合創は24〜48時間程度で表面が閉じ、その後の洗顔・洗浄は可能である。 ・抜糸は外来で行い、顔面は約5日と早めに抜糸する。 ・鎮痛薬の使用や枕の使用を制限する必要はない。 ・頭部打撲後の吐き気・嘔吐、頭痛の増悪、意識障害は頭蓋内出血の徴候であり、直ちに受診するよう指導する。 ・初回CTが正常でも遅発性の頭蓋内出血や慢性硬膜下血腫があり得る。
