「裂けている場所」から症状を読む―唇裂・口蓋裂で起こること、起こらないこと
第108回医師国家試験 A問題 第3問
国試問題にチャレンジ
唇裂・口蓋裂の症候でないのはどれか。
- a.嚥下障害
- b.外鼻変形
- c.構音障害
- d.歯列異常
- e.扁桃肥大
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
唇裂・口蓋裂は、胎生期に顔面や口蓋をつくる突起が癒合しないことで生じる頻度の高い先天異常で、症候は「裂がある構造」から導けます。唇裂では口唇と外鼻の変形、顎裂では歯の欠損や位置異常・上顎の発育不全による歯列異常、口蓋裂では口腔と鼻腔の交通による哺乳・嚥下障害と、鼻咽腔閉鎖機能不全による開鼻声などの構音障害が起こります。さらに口蓋帆張筋の機能不全による耳管障害から滲出性中耳炎・伝音難聴を高頻度に合併します。一方、扁桃肥大は年齢や反復する炎症で生じるもので、唇裂・口蓋裂の症候ではありません。発生と解剖から症状を論理的に導く姿勢は、多職種によるチーム医療で長期的に患児を支えるうえでの基礎になります。
解答・解説
正解はeです
唇裂・口蓋裂は、胎生期に顔面や口蓋をつくる突起どうしがうまく癒合しなかったために生じる先天異常である。日本人では出生およそ500〜600人に1人と、頻度の高い先天異常の一つである。 症候を考えるときは、「どの構造が欠けているか」から機能障害を導くとよい。 ・上唇と外鼻の土台が裂けている(唇裂)→ 口唇・外鼻の形態異常 ・歯槽部(歯ぐきの骨)が裂けている(顎裂)→ 歯の欠損・位置異常、上顎の発育不全 ・口蓋が裂けて口腔と鼻腔が交通している(口蓋裂)→ 口腔内を陰圧にできない・鼻へ漏れる → 哺乳障害、摂食・嚥下障害、開鼻声などの構音障害 ・軟口蓋の筋(口蓋帆張筋など)の付着異常 → 耳管の開大が不十分 → 滲出性中耳炎、伝音難聴 これらはすべて裂の存在から直接説明できる。一方、口蓋扁桃は咽頭側壁にあるリンパ組織で、その大きさは主に年齢(幼児期に生理的に大きくなる)や反復する炎症によって決まり、唇裂・口蓋裂の発生とは直接結びつかない。したがって「症候でないもの」として扁桃肥大を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 嚥下障害
唇裂・口蓋裂の症候である。口蓋裂では口腔と鼻腔がつながっているため、口腔を密閉して陰圧をつくることができず、乳児期には乳首をうまく吸えない哺乳障害が起こる。また、舌を口蓋に押し当てて食塊を咽頭へ送り込む動作が不十分となり、飲食物が鼻へ逆流(鼻漏れ)することもある。こうした咀嚼・嚥下(飲み込み)の障害は口蓋裂の代表的な機能障害であり、口蓋裂児にはホッツ床(口蓋を覆う樹脂製プレート)や専用の哺乳びんが用いられる。
- ×b. 外鼻変形
唇裂・口蓋裂の症候である。上唇と鼻の下部(鼻腔底・鼻翼基部)は同じ発生過程でつくられ、唇裂は内側鼻突起と上顎突起の癒合不全で生じるため、口唇だけでなく外鼻にも変形が及ぶ。裂側の鼻翼が扁平に広がる、鼻柱が短く健側へ傾く、鼻孔の形が左右非対称になるといった「唇裂鼻変形」が典型的で、口唇形成術の後も成長に伴って目立つことがあり、鼻の二次修正術が行われることが多い。
- ×c. 構音障害
唇裂・口蓋裂の症候である。発話時には軟口蓋が挙上して咽頭後壁に接し、鼻腔と口腔を遮断する(鼻咽腔閉鎖機能)。口蓋裂ではこの閉鎖が不十分となり、声が鼻に抜ける開鼻声や、破裂音(p、t、k など)・摩擦音で呼気が鼻から漏れる鼻漏れが生じる。さらに、口腔内圧を上げられないことを代償しようとして、声門破裂音や口蓋化構音などの異常構音(誤った構音習慣)が定着することもある。口蓋形成術は言語発達を考慮して1歳〜1歳半ごろに行うのが一般的で、術後も言語聴覚士による言語訓練が行われる。なお唇裂でも口唇の動きの制限により両唇音が障害されることがある。
- ×d. 歯列異常
唇裂・口蓋裂の症候である。裂が歯槽部に及ぶ顎裂では、裂部の歯(特に上顎側切歯)の欠損や矮小歯、過剰歯、歯の位置異常・萌出方向の異常がみられる。また、裂そのものや手術後の瘢痕により上顎の成長が抑えられ、上顎歯列弓の狭窄や交叉咬合、反対咬合(受け口)をきたしやすい。そのため矯正歯科治療や、顎裂部への骨移植(顎裂部骨移植術)が治療計画に組み込まれる。
- ○e. 扁桃肥大
唇裂・口蓋裂の症候ではない。口蓋扁桃は咽頭側壁のリンパ組織で、裂の発生とは解剖学的・発生学的に直接の関係がない。扁桃は幼児期(おおむね3〜7歳ごろ)に生理的に大きくなり、また反復する扁桃炎などでも肥大するが、これらは唇裂・口蓋裂に固有の変化ではない。上気道感染を繰り返した結果として二次的に扁桃が腫大することはありうるが、唇裂・口蓋裂そのものの症候として挙げられるものではない。なお、口蓋裂児で扁桃摘出やアデノイド切除を検討する際は、アデノイドが鼻咽腔閉鎖を補助している場合があり、切除により開鼻声が悪化しうる点に注意が必要である。
発生
・唇裂:胎生4〜7週ごろ、内側鼻突起と上顎突起が癒合して上唇と一次口蓋(切歯孔より前方の顎堤部)がつくられる。この癒合がうまくいかないと唇裂(顎裂を伴えば唇顎裂)となる。片側性が多く、左側に多い。 ・口蓋裂:胎生7〜12週ごろ、左右の上顎突起から伸びた口蓋突起(外側口蓋突起)が正中で癒合し、二次口蓋(硬口蓋の大部分と軟口蓋)ができる。癒合は前方(切歯孔付近)から後方へ進むため、癒合が途中で止まると後方の軟口蓋や口蓋垂に裂が残る。軽症例として口蓋垂裂や、粘膜下口蓋裂(表面の粘膜は保たれるが筋層が離開しているもの)がある。 ・原因は多因子(遺伝要因と、母体の喫煙・葉酸不足・一部の薬剤などの環境要因)とされる。
主な症候・合併症
・形態:口唇裂、外鼻変形(唇裂鼻)、顎裂、上顎劣成長 ・歯科:歯の欠損・過剰・位置異常、歯列弓狭窄、反対咬合 ・摂食:哺乳障害、咀嚼・嚥下障害、鼻への逆流 ・言語:鼻咽腔閉鎖機能不全による開鼻声・鼻漏れ、異常構音 ・耳:口蓋帆張筋の機能不全による耳管機能障害 → 滲出性中耳炎・伝音難聴(口蓋裂児で高頻度) ・心理社会的問題:容貌への悩みなど
治療の流れ(一例)
・出生直後〜:哺乳指導、ホッツ床、術前顎矯正 ・生後3か月前後:口唇形成術(体重約6kg・生後10週・Hb 10g/dL の目安「rule of 10s」が知られる) ・1歳〜1歳半ごろ:口蓋形成術 ・幼児期〜:言語訓練、中耳炎の管理(鼓膜換気チューブ留置など) ・学童期:顎裂部骨移植術、矯正歯科治療 ・思春期以降:外鼻修正術、必要に応じて顎矯正手術 形成外科、口腔外科、耳鼻咽喉科、矯正歯科、言語聴覚士、小児科などによるチーム医療が基本である。
POINT
・唇裂・口蓋裂の症候は「裂がある構造」から導ける:口唇・外鼻の変形、歯列異常、哺乳・嚥下障害、構音障害(開鼻声)、滲出性中耳炎。 ・構音障害の本態は鼻咽腔閉鎖機能不全である。 ・口蓋裂は耳管機能障害から滲出性中耳炎を合併しやすい。 ・扁桃肥大は唇裂・口蓋裂の症候ではない。
