前縦隔の主役・胸腺腫―「部位」と「合併症」で解く縦隔腫瘍の基本
第108回医師国家試験 A問題 第4問
国試問題にチャレンジ
縦隔腫瘍について正しいのはどれか。
- a.胸腺腫は後縦隔に好発する。
- b.胸腺腫は良性腫瘍に属する。
- c.セミノーマは良性腫瘍に属する。
- d.神経原性腫瘍は前縦隔に好発する。
- e.胸腺腫には重症筋無力症を合併する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
縦隔腫瘍は発生部位から組織型を推定するのが基本で、前縦隔には胸腺腫・胚細胞性腫瘍・甲状腺腫・悪性リンパ腫(4つのT)、後縦隔には神経原性腫瘍が好発します。胸腺腫は異型に乏しく発育も緩徐なことが多いものの、周囲浸潤や播種をきたしうるため悪性腫瘍として扱われ、治療の基本は外科的完全切除です。胸腺腫の最大の特徴は自己免疫疾患の合併で、重症筋無力症のほか赤芽球癆や低ガンマグロブリン血症(Good症候群)もみられます。セミノーマは治療反応性がよく予後は比較的良好ですが悪性腫瘍であり、「予後良好」と「良性」を混同しないことが大切です。部位・良悪性・合併症をセットで整理することが、画像所見と全身症状を結びつける臨床判断の土台になります。
解答・解説
正解はeです
縦隔は左右の肺にはさまれた胸腔中央の区画で、胸腺・心臓・大血管・気管・食道・神経・リンパ節などが存在する。縦隔腫瘍は「どの区画に、どの組織があるか」で発生する腫瘍の種類がおおよそ決まるため、部位と組織型の対応を押さえることが基本となる。 ・前縦隔(胸骨の後ろ、心臓の前):胸腺があるため胸腺腫・胸腺癌・胸腺嚢胞が多い。胚細胞性腫瘍(奇形腫、セミノーマなど)、悪性リンパ腫、胸骨後方へ伸びた甲状腺腫もここにみられる。 ・中縦隔(心臓・気管・食道周囲):リンパ節に由来する悪性リンパ腫、気管支原性嚢胞、心膜嚢胞など。 ・後縦隔(椎体の両脇):交感神経幹や肋間神経があるため神経原性腫瘍が大半を占める。 そのうえで、各腫瘍の良悪性の扱いと、合併しやすい全身疾患(特に胸腺腫に伴う自己免疫疾患)を整理しておくと、本問の各選択肢を判断できる。胸腺腫は重症筋無力症をはじめとする自己免疫疾患を高率に合併することが最大の特徴である。
選択肢考察
- ×a. 胸腺腫は後縦隔に好発する。
誤り。胸腺は胸骨の裏側、心臓・大血管の前方に位置する臓器であり、そこから生じる胸腺腫は前縦隔(上縦隔の前方部を含む)に好発する。前縦隔腫瘍の中で最も頻度が高いのが胸腺腫である。後縦隔に好発するのは神経原性腫瘍である。
- ×b. 胸腺腫は良性腫瘍に属する。
誤り。胸腺腫は胸腺上皮細胞に由来する腫瘍で、細胞の異型は乏しく発育も緩徐なものが多いが、被膜を越えて周囲の脂肪組織・心膜・肺・大血管へ浸潤したり、胸膜播種や遠隔転移をきたしたりすることがある。このため現在のWHO分類では、胸腺腫はすべて悪性の性格をもつ腫瘍(悪性腫瘍)として扱われる。浸潤の程度は正岡分類などの病期分類で評価し、治療の基本は胸腺を含めた外科的完全切除(胸腺胸腺腫摘出術)で、浸潤例には放射線療法や化学療法を組み合わせる。なお、より異型が強く予後不良な胸腺癌は胸腺腫とは別の腫瘍として区別される。
- ×c. セミノーマは良性腫瘍に属する。
誤り。セミノーマ(精上皮腫)は胚細胞性腫瘍の一つで、悪性腫瘍である。縦隔では前縦隔に発生し、若年男性に多い。性腺外胚細胞腫瘍の中で縦隔は頻度の高い発生部位であり、原発巣が精巣でないことを確認する必要がある。血清LDHが上昇することが多く、AFPは上昇しない(AFP上昇があれば非セミノーマ成分を疑う)。放射線や化学療法(シスプラチンを含む多剤併用療法)に対する感受性が高く、悪性腫瘍の中では予後が比較的良好であるが、「予後がよい」ことと「良性」であることは別である。良性の胚細胞性腫瘍の代表は成熟奇形腫である。
- ×d. 神経原性腫瘍は前縦隔に好発する。
誤り。神経原性腫瘍は脊椎の両脇を走る交感神経幹や肋間神経から発生するため、後縦隔(傍椎体領域)に好発する。後縦隔腫瘍の大部分を占める代表的な腫瘍である。成人では神経鞘腫(シュワン細胞由来)や神経線維腫などの良性腫瘍が多い。一方、小児では交感神経節由来の神経芽腫など悪性のものの割合が高くなる。椎間孔を通って脊柱管内へ進展する「ダンベル型(砂時計型)腫瘍」の形をとることがあり、その場合は脊髄圧迫症状に注意する。
- ○e. 胸腺腫には重症筋無力症を合併する。
正しい。胸腺腫は自己免疫疾患を合併しやすい腫瘍であり、その代表が重症筋無力症(MG:神経筋接合部のアセチルコリン受容体などに対する自己抗体により、易疲労性・筋力低下をきたす疾患)である。胸腺腫患者の約30%(報告により30〜50%程度)にMGがみられ、逆にMG患者の約10〜20%に胸腺腫が見つかる。胸腺は自己反応性T細胞を排除する場(中枢性免疫寛容)であり、胸腺腫ではこの選択がうまく働かず自己免疫が生じると考えられている。MGのほか、赤芽球癆(赤血球系のみが著減する貧血)、低ガンマグロブリン血症(Good症候群)なども合併しうる。胸腺腫合併MGでは、腫瘍とともに周囲の胸腺・脂肪組織を一括して切除する拡大胸腺摘出術が行われる。
縦隔の区分と好発腫瘍
・上縦隔:胸腔内甲状腺腫(胸骨後甲状腺腫)、胸腺腫 ・前縦隔:胸腺腫・胸腺癌、胚細胞性腫瘍(奇形腫、セミノーマ、非セミノーマ)、悪性リンパ腫、胸腺嚢胞 ・中縦隔:悪性リンパ腫、気管支原性嚢胞、心膜嚢胞、リンパ節腫大(サルコイドーシスなど) ・後縦隔:神経原性腫瘍(神経鞘腫、神経線維腫、神経節腫、神経芽腫)、食道嚢胞などの消化管由来嚢胞 前縦隔腫瘍の鑑別語呂として「4つのT」(Thymoma 胸腺腫、Teratoma 奇形腫・胚細胞性腫瘍、Thyroid 甲状腺腫、Terrible lymphoma 悪性リンパ腫)が知られる。
胸腺腫
・40〜60歳代の成人に多く、性差は少ない。 ・無症状で胸部X線やCTで偶然見つかることも多い。大きくなると咳嗽・胸痛・上大静脈症候群などをきたす。 ・合併症:重症筋無力症、赤芽球癆、低ガンマグロブリン血症(Good症候群)など。 ・病期評価には正岡分類(被膜浸潤・周囲臓器浸潤・播種・転移の有無で分類)が用いられる。
重症筋無力症と胸腺
・MG患者では胸腺腫のほか、胸腺過形成(リンパ濾胞の増生)が高率にみられる。 ・胸腺腫を伴うMGでは胸腺摘出術が治療の基本となる。胸腺腫を伴わない場合でも、抗アセチルコリン受容体抗体陽性の全身型MGでは、年齢などを考慮して拡大胸腺摘出術が選択されることがある。
胚細胞性腫瘍の腫瘍マーカー
・セミノーマ:LDH上昇、AFPは正常(hCGが軽度上昇することはある) ・非セミノーマ(卵黄嚢腫瘍、絨毛癌など):AFPやhCGが上昇 ・成熟奇形腫:良性。CTで脂肪・石灰化・歯などを含む。
POINT
・胸腺腫:前縦隔に最も多い腫瘍。悪性腫瘍として扱う。重症筋無力症(約30%)、赤芽球癆、低ガンマグロブリン血症を合併しうる。 ・神経原性腫瘍:後縦隔に好発。成人では良性(神経鞘腫など)が多い。 ・セミノーマ:前縦隔の悪性胚細胞性腫瘍。若年男性、LDH上昇、放射線・化学療法によく反応し予後は比較的良好。 ・縦隔腫瘍は発生部位から組織型を推定する。
