StudyMed医師国家試験

殴られた頬が口を開かせない―頬骨骨折と開口障害のつながり

第113回医師国家試験 C問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第113回 C問題 第15問

顔面を殴打された直後の患者の顔面骨3D-CTを別に示す。  症状として考えられるのはどれか。

第113回 C問題 第15問の問題画像
  1. a.嗄声
  2. b.鼻閉
  3. c.開口障害
  4. d.咬合異常
  5. e.顔面神経麻痺

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は顔面外傷の3D-CTから骨折部位を読み取り、そこから起こりうる症状を推論する問題だよ。ポイントは「どの骨が折れているか」と「その骨のすぐそばに何があるか」。まずCTを見て、どこが折れていると思う?
医学生医学生
画像で向かって左、つまり患者さんの右側の頬のあたりで、眼窩の下の縁の外側に骨折線と段差が見えます。鼻や歯のあたりは大丈夫そうです。
ドクタードクター
その通り。眼窩下縁の外側から頬骨と上顎骨のつなぎ目にかけて骨折があり、右の頬骨の輪郭が左と比べて乱れている。一方で鼻骨や上顎の歯槽部、下顎骨、歯列には明らかな骨折はない。だから右頬骨骨折と読むのが妥当だね。
医学生医学生
頬骨って、ほっぺたの出っ張りを作っている骨ですよね。解剖実習では頬骨弓が側頭部に向かって橋みたいに伸びていたのを覚えています。
ドクタードクター
よく覚えているね。頬骨は前頭骨・上顎骨・側頭骨・蝶形骨と接していて、眼窩の外側壁や下縁の一部も作っている。そして大事なのが、頬骨弓の内側を側頭筋が通り、下顎骨の筋突起に付着していることなんだ。
医学生医学生
ということは、頬骨が内側にへこむと側頭筋や筋突起の動きを邪魔して、口が開けにくくなるということでしょうか。
ドクタードクター
まさにそれが正解の開口障害だ。陥没した骨片が筋突起や側頭筋に当たって下顎の動きを機械的に妨げる。さらに頬骨弓から起始する咬筋周囲の腫れや痛みも、開口しにくさを助長する。では他の選択肢も確認しよう。咬合異常はどうかな。
医学生医学生
口が開かないなら噛み合わせもおかしくなりそうな気がして、正直迷いました。
ドクタードクター
そこは多くの人が引っかかるところだね。咬合異常は「歯並びを支える骨」がずれたときに起こる。上顎骨の歯槽部の骨折、Le Fort型骨折、下顎骨骨折、顎関節の損傷などだ。頬骨骨折単独なら歯列は動かないので、通常噛み合わせは保たれる。「口が開かない」と「噛み合わせがずれる」は別物として区別しよう。
医学生医学生
鼻閉はどうでしょう。顔を殴られたなら鼻も腫れそうですが。
ドクタードクター
鼻閉は鼻骨骨折による鼻腔の変形や、鼻中隔の偏位・血腫で起こるもの。今回は鼻骨や鼻中隔に骨折がないから考えにくい。ただ、頬骨骨折で上顎洞の壁が折れると、洞内の出血で同じ側の鼻出血が出ることはあるよ。
医学生医学生
顔面神経麻痺も、頬の外傷なら顔の神経がやられそうに思えます。
ドクタードクター
外傷性の顔面神経麻痺は、顔面神経が骨の中を走る側頭骨の骨折、特に錐体部を横切る横骨折で起こりやすい。あるいは耳下腺部の深い挫創で末梢の枝が切れた場合だね。頬骨骨折で起こるのは顔面神経麻痺ではなく、感覚神経である眼窩下神経、つまり三叉神経第2枝の枝の障害による頬や上口唇のしびれなんだ。
医学生医学生
運動と感覚で担当の神経が違うんですね。嗄声は喉頭や反回神経の問題なので、頬とは関係ないと考えていいですか。
ドクタードクター
その理解でいい。嗄声は声帯の振動異常や反回神経麻痺で生じるから、頬骨骨折とは部位が離れすぎている。ここで頬骨骨折の症状をまとめておこう。頬部の平坦化、開口障害、眼窩下神経領域のしびれ、眼窩底や外側壁の損傷による複視や眼球陥凹、眼瞼周囲や結膜下の出血、同側の鼻出血だ。
医学生医学生
臨床実習で形成外科を回ったとき、受傷直後は腫れていて頬の陥凹がわかりにくいと教わりました。
ドクタードクター
大事な臨床のポイントだね。腫れが引くと変形がはっきりしてくることがある。治療は、変位が小さく機能障害がなければ保存的に経過をみるが、開口障害や顔面変形、複視があれば、腫脹が落ち着いた受傷後おおむね2週以内に観血的整復固定術を検討する。時間がたって骨が癒合してしまうと整復が難しくなるからね。
医学生医学生
骨折部位ごとに症状を対応させて覚えるとよさそうです。鼻骨なら鼻閉、上顎骨や下顎骨なら咬合異常、側頭骨なら顔面神経麻痺や難聴、頬骨なら開口障害としびれ、ですね。
ドクタードクター
完璧だ。その対応が頭に入っていれば、画像を見た瞬間に症状を予測できる。救急外来でも、顔面外傷の患者さんには開口の程度、噛み合わせ、頬のしびれ、眼球運動と複視を必ず確認しよう。

まとめ

顔面殴打後の3D-CTで頬骨と上顎骨の接合部付近に骨折を認め、鼻骨・歯槽部・下顎骨が保たれていれば頬骨骨折と判断します。頬骨体部や頬骨弓が陥没すると、内側を走る側頭筋や下顎骨筋突起の動きが妨げられ、開口障害が生じます。頬骨骨折ではほかに頬部の陥凹、眼窩下神経領域のしびれ、複視、同側の鼻出血がみられ、咬合異常は上顎骨・下顎骨骨折、鼻閉は鼻骨骨折、顔面神経麻痺は側頭骨骨折で考えます。「どの骨が折れ、その近くに何があるか」から症状を予測する視点は、顔面外傷の診察と治療方針の決定に直結します。

解答・解説

正解はcです

画像の読み取り

顔面骨を正面からみた3D-CTである。患者の右側(画像の向かって左側)で、眼窩下縁の外側から頬骨と上顎骨の接合部(頬骨上顎縫合)付近にかけて骨折線と段差を認め、右頬骨の輪郭が左に比べて乱れている。鼻骨・鼻中隔周囲、上顎の歯槽部、下顎骨、歯列には明らかな骨折を認めない。したがって、顔面殴打による右頬骨骨折と考える。

頬骨骨折の症状の考え方

頬骨は頬の高まりを作る骨で、前頭骨・上顎骨・側頭骨(頬骨弓を介して)・蝶形骨と接し、眼窩の外側壁と下縁の一部を構成する。頬骨の体部や頬骨弓が骨折して内側へ陥没すると、その直下を走る側頭筋や、側頭筋が付着する下顎骨の筋突起の動きが妨げられ、口が開けにくくなる(開口障害)。 このほか、頬骨骨折では、頬部の平坦化(変形)、眼窩下神経(三叉神経第2枝の枝)の障害による頬部・上口唇・鼻翼周囲のしびれ、眼窩底や眼窩外側壁の損傷による複視・眼球陥凹、眼瞼周囲の皮下出血や結膜下出血、上顎洞内の出血による同側の鼻出血などがみられる。 設問の選択肢のうち、頬骨骨折に特徴的な症状は開口障害である。

選択肢考察

  1. ×a.  嗄声

    誤り。嗄声(声がれ)は声帯の振動異常によって生じ、喉頭そのものの病変や、声帯の運動を支配する反回神経(迷走神経の枝)の麻痺が原因となる。頬骨骨折は喉頭や反回神経・迷走神経の走行とは離れた部位の外傷であり、嗄声は生じない。

  2. ×b.  鼻閉

    誤り。鼻閉は鼻骨骨折による鼻腔の変形、鼻中隔の偏位や血腫、鼻腔内の腫脹などで起こる。本例の骨折は鼻骨・鼻中隔には及んでおらず、鼻腔の通気路は保たれていると考えられるため、鼻閉は症状として考えにくい。なお頬骨骨折で上顎洞の壁が折れると、洞内の出血により同側の鼻出血を生じることはある。

  3. ○c.  開口障害

    正しい。頬骨体部や頬骨弓が内側へ陥没すると、その内側を通る側頭筋や、側頭筋が停止する下顎骨の筋突起に骨片が当たり、下顎の動きが機械的に妨げられて開口障害が生じる。疼痛や咬筋(頬骨弓から起始する)周囲の腫脹も開口障害を助長する。開口障害や顔面の変形が明らかな場合は、陥没した骨片を整復・固定する手術の適応となる。

  4. ×d.  咬合異常

    誤り。咬合異常(噛み合わせのずれ)は、歯列を支える上顎骨の歯槽部や下顎骨の骨折、顎関節の損傷で生じる。Le Fort型骨折のような上顎骨の骨折や下顎骨骨折が代表である。本例では骨折が上顎の歯槽部・下顎・歯列に及んでおらず、頬骨骨折単独では通常咬合は保たれる。口が開きにくいこと(開口障害)と、噛み合わせがずれること(咬合異常)は区別して考える必要がある。

  5. ×e.  顔面神経麻痺

    誤り。外傷性の顔面神経麻痺は、顔面神経が骨内を走行する側頭骨の骨折(とくに錐体部を横切る横骨折)や、耳下腺部・顔面の深い挫創による末梢枝の切断で生じる。本例では側頭骨骨折はなく、顔面神経の走行部位に損傷は及んでいないため考えにくい。なお頬部のしびれは、顔面神経ではなく感覚神経である眼窩下神経(三叉神経第2枝)の障害による症状である。

頬骨骨折の主な症状と機序

・頬部の平坦化・変形:頬骨体部の陥没(受傷直後は腫脹で目立たないことがある) ・開口障害:陥没骨片による側頭筋・下顎骨筋突起の運動障害 ・頬部、上口唇、鼻翼、上歯肉のしびれ:眼窩下神経(三叉神経第2枝の枝)の障害 ・複視、眼球陥凹:眼窩底・眼窩外側壁の骨折による眼球位置の変化や外眼筋の障害 ・眼瞼周囲皮下出血、結膜下出血 ・同側の鼻出血:上顎洞壁の骨折による洞内出血

顔面骨骨折と症状の対応

・鼻骨骨折:鼻の変形(斜鼻・鞍鼻)、鼻出血、鼻閉 ・眼窩底骨折(吹き抜け骨折):上方視での複視、眼球運動障害、眼窩下神経領域のしびれ ・頬骨骨折・頬骨弓骨折:開口障害、頬部の陥凹、眼窩下神経領域のしびれ ・上顎骨骨折(Le Fort I〜III型):咬合異常、顔面中央部の可動性、顔面の延長 ・下顎骨骨折:咬合異常、開口障害、オトガイ神経領域のしびれ ・側頭骨骨折:顔面神経麻痺、伝音・感音難聴、髄液耳漏

治療

変位が小さく機能障害のない頬骨骨折は保存的に経過をみる。開口障害、顔面の変形、複視などがある場合は、受傷後腫脹が引いてから早期(おおむね2週以内)に観血的整復固定術を行う。

POINT

・頬骨(頬骨弓)骨折の典型症状は開口障害で、陥没骨片が側頭筋・下顎骨筋突起の動きを妨げることによる。 ・頬骨骨折ではほかに頬部の陥凹、眼窩下神経領域のしびれ、複視がみられる。 ・咬合異常は上顎骨(Le Fort型)・下顎骨骨折、顔面神経麻痺は側頭骨骨折で考える。 ・開口障害(口が開かない)と咬合異常(噛み合わせのずれ)を区別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。