StudyMed医師国家試験

「10gなら合格」は大間違い―高血圧の生活指導と減塩6gの壁

第100回医師国家試験 E問題 第47問

国試問題にチャレンジ

第100回 E問題 第47問

高血圧症の生活指導で誤っているのはどれか。

  1. a.禁煙
  2. b.体重減量
  3. c.果物の摂取
  4. d.アルコール制限
  5. e.1日10 gの食塩摂取

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は本態性高血圧症の生活指導、つまり非薬物療法の問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式だから、それぞれの指導が推奨内容に合っているか、とくに数値まで正確に覚えているかがカギになる。
医学生医学生
禁煙、減量、節酒は全部よさそうに見えます。迷うのは果物と食塩の量でしょうか。
ドクタードクター
いい絞り込みだね。まず前提として、生活習慣の修正は降圧薬を使うかどうかにかかわらず、すべての高血圧患者に行う治療の土台なんだ。単独でも数mmHgから10mmHg程度下げうるし、薬の効果を高めて薬剤量を減らすことにもつながる。
医学生医学生
薬を出せば生活指導は要らない、というわけではないんですね。
ドクタードクター
その通り。では食塩から。高血圧患者の減塩目標は1日何g未満だったかな。
医学生医学生
公衆衛生の講義で日本人は塩分摂取が多いと習いましたが……たしか10g未満だった気がします。
ドクタードクター
そこがまさにこの問題の落とし穴だ。1日10g未満というのは、かつて高血圧のない一般成人向けに示されていた目標値。高血圧患者に対する日本高血圧学会のガイドラインの目標は1日6g未満なんだ。だから「1日10gの食塩摂取」は不十分で、これが誤った指導、つまり正解になる。
医学生医学生
一般向けの数字と患者さん向けの数字を混同していました。どうして塩分で血圧が上がるんでしたっけ。
ドクタードクター
食塩を摂りすぎると体液量が増え、血管抵抗も高まって血圧が上がる。特に高齢者、肥満のある人、腎機能が低下した人、糖尿病の人は食塩感受性が高く、減塩の効果が出やすい。日本人の平均摂取量は今も1日10g前後だから、6g未満はかなり意識しないと達成できない数字なんだ。
医学生医学生
内科の実習で栄養指導に同席したとき、麺類の汁を残すだけでもかなり違うと言われていました。
ドクタードクター
醤油、味噌、漬物、麺類の汁、加工食品は食塩の多い代表だね。食品表示がナトリウム量のときは、ナトリウム量(mg)に2.54をかけて1000で割ると食塩相当量(g)になる。患者さんに説明するときに役立つよ。では果物はどうだろう。
医学生医学生
果物は糖分が多いので、高血圧には良くないのでしょうか。
ドクタードクター
そう考える人もいるけど、果物や野菜はナトリウムがほとんどなくカリウムが豊富だ。カリウムは腎からのナトリウム排泄を促して血圧を下げる方向に働く。野菜・果物・低脂肪乳製品を多くとるDASH食は降圧効果が示されているから、適切な指導だよ。
医学生医学生
でも腎臓が悪い人にカリウムは危なくないですか。
ドクタードクター
鋭いね。重い腎障害のある患者や、ACE阻害薬、ARB、抗アルドステロン薬などカリウムを保持する薬を飲んでいる患者では、高カリウム血症に注意が必要だ。また、さっき言ったように果物は糖分も多いから、肥満や糖尿病のある人では摂りすぎに気をつける。推奨の中にも個別の配慮が要るということだね。
医学生医学生
体重減量はどのくらい効果があるんですか。
ドクタードクター
肥満、特に内臓脂肪型肥満は、インスリン抵抗性や交感神経の亢進、腎でのナトリウム再吸収の増加、レニン-アンジオテンシン系の活性化を介して血圧を上げる。目安として約1kgの減量で収縮期血圧が約1mmHg下がるとされ、BMI 25未満が目標だ。肥満の人なら、まず数kg減らすだけでも意味がある。
医学生医学生
アルコールは少量なら血管が広がって血圧が下がると聞いたことがあります。
ドクタードクター
飲酒直後は一時的に下がることもあるけど、習慣的な飲酒は血圧を上げ、量が多いほど高血圧が多い。節酒の目安はエタノール換算で男性1日20〜30mL以下、日本酒なら約1合、ビールなら中瓶1本程度で、女性はその約半分だ。節酒すると1〜2週間ほどで血圧は下がってくる。
医学生医学生
禁煙は、降圧効果というより合併症予防の意味が大きいんでしょうか。
ドクタードクター
その理解でいい。喫煙するとニコチンで交感神経が刺激され、一過性に血圧と心拍数が上がるうえ、血管内皮障害や動脈硬化を進める。高血圧とは独立した強力な心血管病の危険因子だから、心筋梗塞や脳卒中を防ぐために禁煙は必須で、受動喫煙を避けることも指導する。あわせて、速歩などの有酸素運動を毎日30分以上行うことも勧めるけど、重症高血圧や心血管病のある人は事前に評価してから運動強度を決めることを忘れずにね。一つひとつの効果は小さくても、組み合わせれば降圧効果は積み重なっていくんだ。

まとめ

本態性高血圧症では、降圧薬の有無にかかわらず生活習慣の修正が治療の土台であり、減塩、野菜・果物の摂取、減量(BMI 25未満)、有酸素運動、節酒、禁煙を組み合わせて行います。高血圧患者の減塩目標は1日6g未満であり、1日10gは一般成人向けにかつて示された目標値と混同しやすいものの、指導としては不十分で誤りです。果物・野菜に多いカリウムはナトリウム排泄を促して降圧に働きますが、腎障害例やACE阻害薬・ARB・抗アルドステロン薬の内服例では高カリウム血症に、肥満や糖尿病では糖分の摂りすぎに注意が必要です。節酒の目安は男性でエタノール1日20〜30mL以下、女性はその約半分で、禁煙は心血管合併症の予防に欠かせません。数値まで正確に押さえ、患者ごとの背景に応じて指導を調整できることが、外来診療で高血圧を管理する力の基礎になります。

解答・解説

正解はeです

本態性高血圧症の治療は、降圧薬の有無にかかわらず生活習慣の修正(非薬物療法)が土台になる。生活習慣の修正は、それだけで血圧を数mmHg〜10mmHg程度下げうるうえ、降圧薬の効果を高め、必要な薬剤量を減らすことにもつながる。 日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインで推奨されている主な項目は次のとおりである。 ・減塩:食塩摂取量を1日6g未満にする ・野菜・果物の積極的摂取、飽和脂肪酸・コレステロールの摂取を控え、多価不飽和脂肪酸や低脂肪乳製品を取り入れる ・適正体重の維持:BMI(体格指数)25未満を目安とする ・運動:軽強度の有酸素運動を中心に、毎日30分以上(または週180分以上)を目標とする ・節酒:エタノール換算で男性20〜30mL/日以下、女性10〜20mL/日以下 ・禁煙(受動喫煙の防止も含む) 設問は「誤っているもの」を選ぶ形式である。選択肢のうち禁煙、体重減量、果物の摂取、アルコール制限はいずれも推奨項目そのものであり、残る「1日10gの食塩摂取」だけが、高血圧患者の減塩目標(6g未満)を大きく上回る値である。したがって誤っているのは e となる。

選択肢考察

  1. ×a.  禁煙

    適切な生活指導である。喫煙するとニコチンの作用で交感神経が刺激され、1本吸うごとに15分以上続く一過性の血圧上昇と心拍数増加が起こる。さらに喫煙は血管内皮障害や動脈硬化を進め、高血圧とは独立した強力な心血管病の危険因子である。降圧そのものの効果よりも、心筋梗塞・脳卒中などの合併症予防の観点で禁煙は必須であり、受動喫煙を避けることも指導する。

  2. ×b.  体重減量

    適切な生活指導である。肥満、とくに内臓脂肪型肥満はインスリン抵抗性、交感神経活動の亢進、腎でのナトリウム再吸収の増加、レニン-アンジオテンシン系の活性化などを介して血圧を上げる。減量によって血圧は明確に低下し、目安として約1kgの減量で収縮期血圧が約1mmHg下がるとされる。BMI 25未満を目標とするが、肥満者では現体重から数kg(3%程度)減らすだけでも有意な降圧効果が得られる。

  3. ×c.  果物の摂取

    適切な生活指導である。果物や野菜はナトリウムをほとんど含まず、カリウムを豊富に含む。カリウムは腎からのナトリウム排泄を促し、降圧に働く。また食物繊維やマグネシウムも含まれる。野菜・果物・低脂肪乳製品を多くとる食事パターン(DASH食)は明らかな降圧効果が示されている。ただし、重い腎障害のある患者では高カリウム血症を招くおそれがあるため積極的なカリウム摂取は勧めず、果物は糖分も多いため肥満や糖尿病のある患者では摂りすぎに注意する。

  4. ×d.  アルコール制限

    適切な生活指導である。飲酒は一時的に血管を拡張させて血圧を下げることもあるが、習慣的な飲酒は血圧を上昇させ、飲酒量が多いほど高血圧の頻度が高い。節酒によって1〜2週間程度で血圧は下がる。目安はエタノール換算で男性20〜30mL/日(日本酒なら約1合、ビールなら中瓶1本程度)以下、女性はその約半分の10〜20mL/日以下である。

  5. ○e.  1日10 gの食塩摂取

    誤った指導であり、本問の正解である。食塩(ナトリウム)を過剰に摂ると体液量が増え、また血管抵抗も高まって血圧が上昇する。日本人は食塩摂取量が多く、減塩は日本の高血圧対策で最も重要な項目の一つである。高血圧患者の減塩目標は1日6g未満であり、1日10gではまったく不十分である。なお、1日10g未満という数値は、かつて高血圧などの疾患をもたない一般成人向けに示されていた目標値であり、高血圧患者の指導値と混同しないことが大切である。

生活習慣修正の考え方

生活習慣の修正は、高血圧と診断されたすべての人に対し、降圧薬を開始するかどうかにかかわらず行う。一つひとつの降圧効果は大きくなくても、複数の項目を組み合わせることで効果が上乗せされる。

減塩のポイント

・食塩感受性(食塩摂取で血圧が上がりやすい性質)は、高齢者、肥満者、腎機能低下のある人、糖尿病患者などで強い。 ・日本人の食塩摂取量は近年減少傾向にあるが、平均でも1日10g前後と、6g未満の目標には遠い。醤油・味噌・漬物・麺類の汁・加工食品に多く含まれる。 ・食品表示ではナトリウム量で書かれていることがあり、食塩相当量(g)=ナトリウム量(mg)×2.54÷1000 で換算する。

カリウム摂取の注意

カリウムの多い野菜・果物の摂取は推奨されるが、腎機能が低下した患者、カリウム保持性に働く薬剤(アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、抗アルドステロン薬など)を内服中の患者では高カリウム血症に注意する。

運動療法

速歩、ジョギング、水泳などの有酸素運動を中心に、毎日30分以上を目標とする。ただし、重症高血圧や心血管病を合併する患者では、事前に医学的評価を行ってから運動の強度を決める。

POINT

・高血圧患者の減塩目標は1日6g未満。10gは不十分であり、誤りである。 ・推奨される生活習慣修正:減塩、野菜・果物の摂取(腎障害例ではカリウムに注意)、減量(BMI 25未満)、有酸素運動、節酒(男性エタノール20〜30mL/日以下、女性10〜20mL/日以下)、禁煙。 ・生活習慣修正は降圧薬の有無にかかわらずすべての高血圧患者に行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。