締めつけ、数分、そして肩へ―労作性狭心症の胸痛を言葉で見抜く
第100回医師国家試験 E問題 第31問
国試問題にチャレンジ
労作性狭心症で正しいのはどれか。
- a.針で刺すような痛みである。
- b.痛みは頸部や肩に放散する。
- c.痛みが数秒間持続する。
- d.発作は空腹時に起こる。
- e.硝酸薬は無効である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
労作性狭心症は、冠動脈の器質的狭窄を背景に、労作・食後・寒冷・精神的興奮などで心筋の酸素需要が供給を上回ったときに一過性の虚血が生じる病態です。胸痛は前胸部の締めつけられるような圧迫感で、関連痛として頸部・下顎・肩・左上肢などへ放散するのが特徴です。発作は数分で治まり、安静やニトログリセリン舌下で速やかに消失します。刺すような痛みや数秒の痛みは非心臓性、20分以上続く痛みは急性冠症候群、空腹時痛は十二指腸潰瘍、夜間〜早朝の安静時発作は冠攣縮性狭心症を考えます。胸痛の性状・放散・持続時間・誘因・寛解因子を体系的に問診する力は、致死的疾患を見逃さないための臨床の基本です。
解答・解説
正解はbです
労作性狭心症(effort angina)の胸痛の性状を問う一般問題である。 労作性狭心症は、冠動脈の器質的な狭窄(多くは動脈硬化性プラークによる)を背景に、歩行・階段昇降・重い物の運搬・寒冷曝露・食後・精神的興奮など、心筋の酸素需要が増える場面で需要と供給のバランスが崩れ、一過性の心筋虚血が生じる病態である。安静にすれば酸素需要が下がって虚血は解消するため、発作は短時間で治まる。 胸痛の典型像は次のようにまとめられる。 ・性状: 「締めつけられる」「圧迫される」「重苦しい」といった、部位をはっきり指し示せない鈍い不快感。手のひら全体で胸を押さえるように訴えることが多い。 ・部位と放散: 胸骨裏から前胸部にかけて。頸部・下顎・肩・左上肢(尺側)・心窩部などへ放散することがある。 ・持続時間: 数分(おおむね3〜5分、長くても15分程度まで)。 ・誘因: 労作、食後、寒冷、精神的ストレス。 ・寛解因子: 安静、ニトログリセリン舌下投与(1〜2分以内に効く)。 これらの典型像と照らし合わせ、非典型的な記述(刺すような痛み、数秒の痛み、空腹時の発作、硝酸薬無効)を除外すると、正解は放散痛を述べた選択肢に絞られる。
選択肢考察
- ×a. 針で刺すような痛みである。
狭心症の痛みは、胸を押さえつけられる・締めつけられるような重苦しい圧迫感であり、鋭い痛みではない。針で刺すような局所的で鋭い痛み、指先で一点を示せる痛みは、胸壁(肋軟骨炎などの筋骨格系)や心臓神経症などの非心臓性胸痛を示唆する所見である。
- ○b. 痛みは頸部や肩に放散する。
心臓からの内臓痛覚を運ぶ求心性線維は、主に第1〜第4胸髄レベル付近の脊髄に入る。同じ脊髄分節には頸部・肩・上肢内側の皮膚からの感覚線維も入るため、脳が痛みの発生部位を体表側と取り違え、頸部・下顎・肩・左上肢などに痛みを感じる(関連痛)。こうした放散痛は狭心症の典型的な特徴であり、本選択肢が正しい。なお、胸痛を伴わず歯痛や肩こり様の症状のみで現れることもあるため注意を要する。
- ×c. 痛みが数秒間持続する。
労作性狭心症の発作は通常数分(3〜5分程度)続き、安静やニトログリセリンで消失する。数秒で終わる瞬間的な痛みは狭心症としては非典型的で、非心臓性胸痛を考える。逆に20〜30分以上続く胸痛は、急性心筋梗塞や不安定狭心症などの急性冠症候群を疑う。
- ×d. 発作は空腹時に起こる。
食後は消化管の血流が増え心拍出量も増加するため、心筋酸素需要が高まり発作が誘発されやすい(食後狭心症)。空腹時に起こり摂食で軽快する心窩部痛は、十二指腸潰瘍に特徴的な症状である。なお、安静時、特に夜間から早朝に起こる発作は冠攣縮性狭心症の特徴であり、これも労作性狭心症とは区別される。
- ×e. 硝酸薬は無効である。
硝酸薬(ニトログリセリンなど)は主に静脈を拡張して心臓へ戻る血液量(前負荷)を減らし、左室壁張力を下げて心筋酸素需要を減少させる。さらに太い冠動脈を拡張する作用もある。舌下投与では1〜2分で効果が現れ、発作を速やかに寛解させるため、狭心症の発作治療の第一選択である。ニトログリセリンが効かない胸痛では、心筋梗塞など他の疾患を考える必要がある。
狭心症の分類
・誘因による分類: 労作性狭心症(労作で誘発)、安静狭心症(安静時に出現。冠攣縮性狭心症が代表)。 ・発生機序による分類: 器質性(動脈硬化性狭窄)、冠攣縮性(冠動脈の一過性の過収縮)、冠血栓性。 ・臨床経過による分類: 安定狭心症(発作の頻度・強さ・誘因が一定)、不安定狭心症(新規発症、増悪型、安静時発作の出現など)。不安定狭心症は急性心筋梗塞に移行する危険が高く、急性冠症候群として緊急対応が必要である。
典型的な狭心症の胸痛を覚える語呂
・S: sudden onset(突然の発症) ・A: anterior chest pain(前胸部痛) ・V: vague sensation(部位のはっきりしない不快な圧迫感) ・E: effort participation(労作により誘発) ・N: nitroglycerin effective(ニトログリセリンが有効) ・S: short duration(3〜5分の短い発作)
胸痛の鑑別
・急性心筋梗塞: 20〜30分以上持続、ニトログリセリン無効、冷汗・悪心を伴う。 ・急性大動脈解離: 引き裂かれるような激痛で、背部へ移動する。 ・急性心膜炎: 深吸気や仰臥位で増悪し、前屈位で軽快する。 ・気胸・胸膜炎: 呼吸に伴って増強する鋭い痛み。 ・胸壁痛(肋軟骨炎など): 圧痛があり、体動で変化する局所の刺すような痛み。 ・逆流性食道炎: 胸やけ、食後や臥位で悪化。
診断
発作時の心電図でST低下(冠攣縮性ではST上昇が多い)がみられる。非発作時は正常のことが多く、運動負荷心電図、ホルター心電図、冠動脈CT、冠動脈造影などで評価する。
POINT
・労作性狭心症の胸痛は、前胸部の圧迫感・絞扼感(鋭い刺痛ではない)。 ・頸部、下顎、肩、左上肢への放散痛(関連痛)が特徴的。 ・持続は数分(3〜5分程度)。数秒なら非心臓性、20分以上なら急性冠症候群を疑う。 ・労作・食後・寒冷で誘発され、安静とニトログリセリン舌下で速やかに消失する。 ・空腹時痛は十二指腸潰瘍、夜間〜早朝の安静時発作は冠攣縮性狭心症。
