息が苦しくても脳は詰まらない―脳梗塞の原因を「血管・血液・塞栓源」で仕分ける
第100回医師国家試験 E問題 第32問
国試問題にチャレンジ
脳梗塞の発症に関連しないのはどれか。
- a.脱水症
- b.糖尿病
- c.僧帽弁膜症
- d.過換気症候群
- e.播種性血管内凝固〈DIC〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
脳梗塞の原因は、動脈硬化などの「血管壁の異常」、脱水による血液濃縮やDICなどの凝固亢進といった「血液の異常」、心房細動や僧帽弁狭窄症による左房内血栓などの「塞栓源」の3つに整理できます。糖尿病は動脈硬化を進め、脱水は血液粘稠度を高め、僧帽弁膜症は心原性脳塞栓症の原因となり、DICは出血傾向とともに全身の微小血栓を生じて脳梗塞と関連します。過換気症候群ではPaCO2低下により脳血管が収縮して一過性に脳血流が減りますが、自己調節能の範囲内で可逆的に回復するため脳梗塞には至りません。危険因子を機序ごとに分類して理解しておくと、初見の病態でも関連の有無を論理的に判断でき、脳卒中の予防や診療にも直結します。
解答・解説
正解はdです
脳梗塞の危険因子・発症要因を問う一般問題で、「関連しないもの」を一つ選ぶ。 脳梗塞は、脳を灌流する動脈が閉塞して脳組織が壊死する疾患であり、発症機序から次のように整理すると考えやすい。 ・血管壁の異常: 高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙などによる動脈硬化。太い動脈の粥状硬化はアテローム血栓性脳梗塞、細い穿通枝の病変はラクナ梗塞の原因となる。 ・血液成分の異常: 脱水による血液濃縮・粘稠度上昇、多血症、DIC・抗リン脂質抗体症候群などの凝固亢進状態。 ・塞栓源の存在: 心房細動、僧帽弁狭窄症、人工弁、感染性心内膜炎、心筋梗塞後の壁在血栓など、心臓内にできた血栓が脳動脈に流れて詰まる(心原性脳塞栓症)。 「血管壁」「血液」「血流(塞栓源・灌流圧)」のいずれかに異常をもたらす病態は脳梗塞と関連する。各選択肢がこの枠組みのどこに当てはまるかを検討し、どこにも当てはまらないものを選べばよい。過換気症候群は一過性の呼吸性アルカローシスにより脳血管が収縮して血流が減るものの、自己調節の範囲内で可逆的に回復し、脳梗塞には至らない。
選択肢考察
- ×a. 脱水症
脱水では循環血漿量が減ってヘマトクリットが上昇し、血液が濃縮されて粘稠度が高まる。血流も遅くなるため血栓ができやすくなり、脳梗塞の誘因となる。夏季の高齢者、発熱・下痢・嘔吐、利尿薬の使用、入浴や飲酒後などで脱水となり、脳梗塞を起こすことがある。したがって脳梗塞に関連する。
- ×b. 糖尿病
糖尿病は脳梗塞の代表的な危険因子である。高血糖が血管内皮を障害し、太い動脈では粥状硬化(アテローム硬化)を進めてアテローム血栓性脳梗塞を、細い穿通枝では細動脈硬化を通じてラクナ梗塞を起こしやすくする。また高血糖による血漿浸透圧の上昇や浸透圧利尿に伴う脱水、血小板機能亢進も血栓形成に関わる。したがって脳梗塞に関連する。
- ×c. 僧帽弁膜症
とくに僧帽弁狭窄症では左房から左室への血液流出が妨げられて左房が拡大し、左房内(特に左心耳)で血流がうっ滞して血栓ができやすい。さらに左房拡大により心房細動を合併しやすく、心房細動が加わると塞栓症の危険は非常に高くなる。この血栓が脳動脈に流れて詰まると心原性脳塞栓症となる。したがって脳梗塞に関連する。
- ○d. 過換気症候群
過換気症候群は、不安や精神的ストレスをきっかけに過呼吸となり、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が低下して呼吸性アルカローシスとなる病態である。PaCO2の低下は脳血管を収縮させて脳血流を減らし、めまい・意識が遠のく感じ・視覚異常などを起こすことがある。また血中イオン化カルシウムが減って手足や口周囲のしびれ、テタニー(助産師の手位)を生じる。しかし脳血流の低下は一過性で、脳血流の自己調節能の範囲内にとどまり、呼吸が落ち着けば回復するため、脳組織の壊死(脳梗塞)には至らない。したがって脳梗塞の発症に関連しないものとして、本選択肢が正解である。
- ×e. 播種性血管内凝固〈DIC〉
DIC(disseminated intravascular coagulation)は、敗血症・悪性腫瘍・産科合併症などを基礎に凝固系が全身で過剰に活性化され、微小血管内に血栓が多発する病態である。凝固因子や血小板が消費されるため出血傾向も生じるが、微小血栓による臓器虚血(脳では脳梗塞)も起こす。悪性腫瘍に伴う凝固亢進状態で起こる脳梗塞はトルーソー症候群と呼ばれる。したがって脳梗塞に関連する。
脳梗塞の病型(臨床病型分類)
・アテローム血栓性脳梗塞: 頸部〜頭蓋内の太い動脈の粥状硬化が原因。高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙が危険因子。 ・ラクナ梗塞: 穿通枝の閉塞による直径15mm未満の小梗塞。高血圧が最大の危険因子。 ・心原性脳塞栓症: 心内血栓が脳動脈を閉塞。非弁膜症性心房細動が最多の原因で、ほかに僧帽弁狭窄症、人工弁、急性心筋梗塞後の左室内血栓、感染性心内膜炎、卵円孔開存を介した奇異性塞栓など。突然発症し、梗塞巣が大きく重症化しやすい。
脳梗塞の主な危険因子
高血圧(最大の危険因子)、糖尿病、脂質異常症、喫煙、心房細動、多量飲酒、肥満、加齢、脱水、多血症、凝固亢進状態(DIC、抗リン脂質抗体症候群、悪性腫瘍)、経口避妊薬など。
二酸化炭素と脳血流
脳血管はPaCO2に鋭敏に反応し、PaCO2が上がると拡張、下がると収縮する。頭蓋内圧亢進時に一時的に過換気を行って脳血流量を減らし、頭蓋内圧を下げる処置はこの性質を利用したものである。脳には血圧が変動しても血流を一定に保つ自己調節能もあり、過換気症候群程度の一過性の変化で脳梗塞が起こることはない。
過換気症候群の対応
安心させて呼吸をゆっくりさせることが基本である。かつて行われたペーパーバッグ法は、低酸素血症を招く危険があるため現在は推奨されていない。
POINT
・脳梗塞は「血管壁の異常(動脈硬化)」「血液の異常(濃縮・凝固亢進)」「塞栓源(心房細動・弁膜症)」で起こる。 ・脱水は血液濃縮、糖尿病は動脈硬化、僧帽弁狭窄症は左房内血栓、DICは全身の微小血栓で脳梗塞と関連する。 ・過換気症候群はPaCO2低下で一過性に脳血流が減るが、自己調節能の範囲内で可逆的であり、脳梗塞は起こさない。
