StudyMed医師国家試験

貧血の心臓は「速く・薄く」流れる―鉄欠乏性貧血で聞こえる収縮期雑音の正体

第100回医師国家試験 E問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第100回 E問題 第34問

鉄欠乏性貧血でみられるのはどれか。

  1. a.黄疸
  2. b.脾腫
  3. c.鼻出血
  4. d.チアノーゼ
  5. e.収縮期雑音

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、鉄欠乏性貧血でみられる身体所見を選ぶ問題だ。ポイントは、所見を「貧血そのものによるもの」と「鉄欠乏に特有のもの」に分け、さらに「ほかの病態で出るもの」を除外していくこと。まず、鉄欠乏性貧血と聞いて思い浮かぶ所見を挙げてみて。
医学生医学生
スプーン状爪や舌炎、氷を無性に食べたくなる氷食症です。CBTの勉強で何度も出てきました。
ドクタードクター
いいね。それらは鉄欠乏に特有の所見で、上皮組織の鉄含有酵素が障害されることが関係している。嚥下障害を伴えばPlummer-Vinson症候群だ。ただ、今回の選択肢には入っていない。そこで「貧血に共通する所見」に目を向けよう。
医学生医学生
眼瞼結膜の蒼白、動悸や息切れ、頻脈……あとは心雑音でしょうか。
ドクタードクター
その通り。今回の正解は収縮期雑音だ。なぜ貧血で雑音が聞こえるか説明できるかな。
医学生医学生
心臓の弁は正常なのに雑音が出るのは、少し不思議に感じます。
ドクタードクター
仕組みはこうだ。貧血では血液の酸素運搬能が落ちるから、組織への酸素供給を保とうとして心拍出量が増える。いわゆる高拍出状態だね。さらに血液が薄まって粘稠度も下がる。速く、さらさらした血液が弁口や大血管を勢いよく通ると乱流が生じて、収縮期に駆出性の雑音が聞こえるんだ。
医学生医学生
弁に異常がない機能性の雑音ということですね。循環器内科の実習で、甲状腺機能亢進症や妊婦さんでも同じような雑音が出ると教わりました。
ドクタードクター
よく結びつけたね。どれも高拍出状態という共通点がある。こうした雑音は心尖部や胸骨左縁で聴かれることが多く、貧血が改善すれば消える。鉄欠乏性貧血は慢性に進んで高度の貧血に至ることも多いから、この所見に出会いやすい。では、ほかの選択肢を見ていこう。黄疸はどうかな。
医学生医学生
黄疸は間接ビリルビンが上がるときなので、溶血性貧血でみられる所見ですよね。
ドクタードクター
正解。巨赤芽球性貧血のように骨髄内で赤芽球が壊れる無効造血でも軽い黄疸が出る。鉄欠乏性貧血は赤血球の産生低下が主体で、溶血も目立った無効造血もないから黄疸は出ない。脾腫も同様に考えよう。
医学生医学生
脾腫は遺伝性球状赤血球症のように脾臓で赤血球が壊される病態や、肝硬変、白血病などで出るものですね。
ドクタードクター
そう。鉄欠乏性貧血では脾臓での赤血球処理の亢進も髄外造血も起こらないので、典型的な所見ではない。次は鼻出血だ。
医学生医学生
貧血で血が薄いから出血しやすい、というわけではないんですね。
ドクタードクター
そこは混同しやすいポイントだ。出血傾向は血小板や凝固因子、血管の異常で起こる。鉄欠乏性貧血では血小板はむしろ反応性に増えることがある。逆に、Osler病のように鼻出血を繰り返した結果として鉄欠乏性貧血になることはあるから、因果の向きを取り違えないようにしよう。
医学生医学生
チアノーゼは、酸素が足りないなら出そうな気もしますが……。
ドクタードクター
直感的にはそう思うよね。でもチアノーゼは、還元ヘモグロビンがおよそ5g/dL以上になって初めて見える現象だ。貧血ではヘモグロビンの総量自体が少ないから、この量に達しにくい。だから貧血ではむしろチアノーゼは出にくいんだ。
医学生医学生
Hbが少ないと青くなる材料自体が足りない、ということですね。腑に落ちました。
ドクタードクター
いい表現だ。最後に臨床での注意点をまとめよう。検査では小球性低色素性で、血清鉄低下、総鉄結合能上昇、そして貯蔵鉄を反映するフェリチン低下が決め手になる。慢性疾患に伴う貧血ならフェリチンは正常〜上昇、サラセミアならフェリチン正常で標的赤血球、と小球性貧血の鑑別も押さえておきたい。
医学生医学生
治療は鉄剤を飲んでもらえば終わり、ではないですよね。
ドクタードクター
その通り。最優先は原因検索だ。女性なら月経過多、成人男性や閉経後女性なら消化管出血、特に大腸癌などの悪性腫瘍を見逃さないこと。鉄剤は経口が原則で、Hbが正常化した後もフェリチンが回復するまで数か月続ける。途中でやめると再発しやすいから、患者さんへの説明も大切だよ。

まとめ

鉄欠乏性貧血の身体所見は、蒼白・頻脈・機能性収縮期雑音といった貧血一般の所見と、スプーン状爪・舌炎・嚥下障害・異食症といった鉄欠乏特有の所見に分けて整理できます。収縮期雑音は、酸素供給を保つための高拍出状態と血液粘稠度の低下によって生じる乱流が原因で、貧血が改善すれば消失します。黄疸や脾腫は溶血、鼻出血は血小板・凝固・血管の異常を示唆する所見で、鉄欠乏性貧血では原則みられず、チアノーゼはヘモグロビン総量が少ないためむしろ出にくくなります。診断ではフェリチン低下が決め手となり、治療では鉄剤投与とともに消化管出血などの原因検索が欠かせません。所見を病態生理から説明できるようにしておくと、貧血の鑑別を論理的に進められるようになります。

解答・解説

正解はeです

鉄欠乏性貧血(iron deficiency anemia; IDA)でみられる身体所見を問う一般問題である。 鉄欠乏性貧血は、ヘモグロビン合成に必要な鉄が不足して起こる小球性低色素性貧血で、日本で最も多い貧血である。原因は、月経過多・消化管出血(消化性潰瘍、大腸癌など)といった慢性的な失血、成長期や妊娠による需要増大、胃切除後などの吸収障害、偏食による摂取不足である。 身体所見は大きく二つに分けて考えるとよい。 ・貧血そのものによる所見(どの貧血にも共通): 眼瞼結膜や皮膚の蒼白、動悸・息切れ・易疲労感、頻脈、心雑音(機能性収縮期雑音)。 ・鉄欠乏に特有の所見(上皮組織の鉄含有酵素の障害): スプーン状爪(匙状爪)、舌炎・口角炎、嚥下障害(Plummer-Vinson症候群)、異食症(氷食症など)。 一方、鉄欠乏性貧血は赤血球が壊れる病態(溶血)でも、血小板や凝固因子が減る病態でもない。そのため、溶血や脾機能亢進を示す所見(黄疸、脾腫)や出血傾向(鼻出血)は原則として伴わない。また、ヘモグロビン自体が減っているため、チアノーゼは出にくい。 このように「貧血に共通する所見」と「鉄欠乏に特有の所見」を押さえ、他の病態に由来する所見を除外すると、正解は収縮期雑音となる。

選択肢考察

  1. ×a.  黄疸

    黄疸は血中の間接ビリルビンが増加して生じる。貧血では、赤血球が血管内外で壊される溶血性貧血や、骨髄内で赤芽球が成熟前に壊れる無効造血(巨赤芽球性貧血など)で間接ビリルビンが上昇し、黄疸を呈する。鉄欠乏性貧血は赤血球の産生低下が主体で、溶血も目立った無効造血もないため黄疸はみられない。

  2. ×b.  脾腫

    脾腫は、赤血球が脾臓で破壊される溶血性貧血(遺伝性球状赤血球症など)、門脈圧亢進を伴う肝硬変、白血病・骨髄線維症などの造血器腫瘍、感染症などでみられる。鉄欠乏性貧血では脾臓での赤血球処理の亢進や髄外造血は起こらず、脾腫は典型的な所見ではない(重症・長期例でごく軽度の脾腫が報告されることはあるが、特徴的所見とはいえない)。

  3. ×c.  鼻出血

    鼻出血などの出血傾向は、血小板減少(再生不良性貧血、白血病、ITPなど)、血小板機能異常、凝固因子異常(von Willebrand病など)、血管の異常(遺伝性出血性毛細血管拡張症〈Osler病〉など)で起こる。鉄欠乏性貧血では血小板や凝固因子は減少しない(むしろ反応性に血小板が増加することがある)ため、貧血の結果として鼻出血が起こることはない。なお、Osler病のように反復する鼻出血が原因となって鉄欠乏性貧血になることはあり、因果の向きを混同しないようにする。

  4. ×d.  チアノーゼ

    チアノーゼは、毛細血管内の還元ヘモグロビン(酸素と結合していないヘモグロビン)がおよそ5g/dL以上になると皮膚や粘膜が青紫色に見える現象である。貧血ではヘモグロビンの総量が少ないため、還元ヘモグロビンがこの量に達しにくく、チアノーゼは出現しにくい。鉄欠乏性貧血ではヘモグロビンの質(構造)にも異常はなく、メトヘモグロビン血症のような異常ヘモグロビンによるチアノーゼも起こらない。

  5. ○e.  収縮期雑音

    貧血では血液の酸素運搬能が低下するため、組織への酸素供給を保とうとして心拍出量が増加する(高拍出状態)。さらに血液粘稠度も低下するため、心臓の弁口や大血管を通る血流が速くなり乱流が生じ、収縮期に駆出性の雑音が聴取される。弁自体に異常のないこの雑音は機能性(無害性)収縮期雑音と呼ばれ、心尖部や胸骨左縁に聴かれることが多い。鉄欠乏性貧血は慢性に経過して高度の貧血に至ることが多く、この所見がみられる。貧血が改善すれば雑音は消失する。

鉄欠乏性貧血の検査所見

・小球性低色素性貧血: MCV(平均赤血球容積)80fL未満、MCHC低下。 ・血清鉄低下、総鉄結合能(TIBC)上昇、不飽和鉄結合能(UIBC)上昇。 ・血清フェリチン低下(貯蔵鉄の減少を反映し、最も鋭敏な指標)。 ・末梢血塗抹で菲薄赤血球(中央の淡い部分が広い)。 ・反応性に血小板が増加することがある。

小球性貧血の鑑別

・慢性疾患に伴う貧血: 血清鉄低下だがTIBCは正常〜低下、フェリチンは正常〜上昇。 ・サラセミア: フェリチン正常、標的赤血球。 ・鉄芽球性貧血: 血清鉄・フェリチン上昇、骨髄で環状鉄芽球。

貧血の種類と身体所見の対応

・黄疸、脾腫: 溶血性貧血(遺伝性球状赤血球症など)。 ・出血傾向、感染: 再生不良性貧血、白血病(汎血球減少)。 ・Hunter舌炎、神経症状(亜急性連合性脊髄変性症)、軽度黄疸: ビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血。 ・スプーン状爪、舌炎、嚥下障害、異食症: 鉄欠乏性貧血。

治療

原因(出血源など)の検索と治療が最優先である。成人では消化管の悪性腫瘍の検索を忘れない。鉄剤は経口投与が原則で、Hbが正常化した後も貯蔵鉄(フェリチン)が回復するまで数か月継続する。

POINT

・鉄欠乏性貧血では、貧血一般の所見(蒼白、頻脈、機能性収縮期雑音)と鉄欠乏特有の所見(スプーン状爪、舌炎、嚥下障害、異食症)がみられる。 ・機能性収縮期雑音は高拍出状態と血液粘稠度の低下による乱流で生じる。 ・黄疸・脾腫は溶血、出血傾向は血小板・凝固の異常を示唆し、鉄欠乏性貧血ではみられない。 ・貧血ではヘモグロビン総量が少ないため、チアノーゼは出にくい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。