StudyMed医師国家試験

痒み・左右対称・高IgE―アトピー性皮膚炎の「眼」に潜むひっかけ

第100回医師国家試験 E問題 第30問

国試問題にチャレンジ

第100回 E問題 第30問

アトピー性皮膚炎に特徴的でないのはどれか。

  1. a.瘙痒
  2. b.虹彩炎
  3. c.白内障
  4. d.対称性皮疹
  5. e.血清IgE増加

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、アトピー性皮膚炎の症状・検査所見・合併症をきちんと整理できているかを問う問題だ。選択肢には皮膚の所見、血液検査、眼の病気が並んでいる。特に眼の合併症のところで迷いやすいから、そこを意識して考えてみよう。
医学生医学生
瘙痒と対称性皮疹はいかにもアトピーらしいので、迷うのは眼の病気2つですね。白内障と虹彩炎、どちらもありそうに思えてしまいます。
ドクタードクター
そこが本問の核心だね。まずは土台として、アトピー性皮膚炎がどんな病気かを確認しておこう。増悪と軽快を繰り返す、痒みのある湿疹を主体とした慢性の皮膚疾患で、多くの患者がアトピー素因をもっている。本人や家族に喘息やアレルギー性鼻炎があったり、IgEを作りやすい体質だったりすることだね。
医学生医学生
免疫学の講義で、皮膚のバリア障害とTh2型の免疫反応が両輪だと習いました。フィラグリン遺伝子の変異も出てきました。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。角層のバリアが弱いと抗原が入り込みやすくなり、Th2優位の炎症が起こる。そこで日本皮膚科学会の診断基準だ。瘙痒、特徴的な皮疹とその分布、慢性・反復性の経過の3つを満たすことが条件になっている。
医学生医学生
痒みは診断基準の第1項目なんですね。臨床実習の皮膚科外来で、夜に痒くて眠れないという患者さんがいました。
ドクタードクター
痒みは夜間に強くなりやすく、睡眠障害の原因にもなる。掻くとバリアがさらに壊れて炎症と痒みが悪化する悪循環、いわゆるitch-scratch cycleが生じ、慢性化すると皮膚が厚く硬くなる苔癬化に至る。だから瘙痒はまさに特徴的な所見だ。
医学生医学生
皮疹の分布が左右対称なのも基準に入っていますね。年齢によって好発部位が変わるとも聞きました。
ドクタードクター
その通り。乳児期は頭や顔から始まって体幹・四肢へ広がり、幼小児期は首や肘の内側・膝の裏などの屈側に多い。思春期以降は顔・首・胸・背中といった上半身に強く出る傾向がある。左右対称性の分布も診断の手がかりになる。
医学生医学生
血清IgEの上昇も、アトピーという名前からして当然ありそうです。
ドクタードクター
多くの患者で血清総IgEが高く、ダニやハウスダストなどへの特異的IgEも陽性になりやすい。ただ総IgEは動きがゆっくりで、長期的な目安にとどまる。好酸球増多やLDH上昇もみられ、短期的な病勢を鋭敏に反映するマーカーとしてはTARCが使われているよ。
医学生医学生
では眼です。白内障はステロイドの副作用というイメージが強くて、アトピーそのものの合併症なのか自信がありません。
ドクタードクター
よくある疑問だね。アトピー性皮膚炎では、顔面の皮疹が重い若年者に白内障がみられることが知られていて、若年性白内障の原因として重要なんだ。顔を強く掻いたり叩いたりする物理的刺激の関与が考えられている。同じ理由で網膜剝離の合併も知られているよ。
医学生医学生
なるほど、だから白内障はアトピーに特徴的な合併症なんですね。そうすると虹彩炎が仲間はずれでしょうか。
ドクタードクター
正解。虹彩炎、つまり前部ぶどう膜炎はアトピー性皮膚炎では通常みられない。眼の合併症として挙がるのは白内障、網膜剝離、アトピー性角結膜炎、円錐角膜などだ。虹彩炎を見たら、別の全身疾患を考えるべきなんだ。
医学生医学生
虹彩炎といえば、眼科の講義でBehçet病やサルコイドーシス、原田病が出てきました。強直性脊椎炎などHLA-B27関連の疾患もありましたね。
ドクタードクター
よく整理できている。ぶどう膜炎の三大原因として、サルコイドーシス、Vogt-小柳-原田病、Behçet病を押さえておくといい。アトピーの眼合併症は水晶体と網膜が中心、ぶどう膜炎は全身性炎症疾患のサイン、と対比で覚えよう。
医学生医学生
臨床でアトピーの患者さんを診るときは、皮膚以外にも気を配る必要がありそうですね。
ドクタードクター
まさにそう。顔面の症状が重い人には定期的な眼科受診を勧めること。それから皮膚感染症にも注意したい。とびひ、水いぼ、そして単純ヘルペスが湿疹病変に広がるKaposi水痘様発疹症は見逃せない合併症だ。治療はステロイドやタクロリムスの外用、保湿によるスキンケア、悪化因子の対策が三本柱で、重症例ではデュピルマブなどの生物学的製剤やJAK阻害薬も使われる。
医学生医学生
アトピーマーチで喘息や鼻炎、食物アレルギーにもつながっていくことも、小児科の実習で教わりました。
ドクタードクター
いいね。皮膚だけでなく、眼・感染症・ほかのアレルギー疾患まで含めて全身を診る視点をもっておくことが大切だよ。

まとめ

アトピー性皮膚炎は、皮膚バリア機能の低下とTh2型免疫反応の亢進を背景とした慢性・反復性の瘙痒性湿疹で、診断基準は瘙痒、左右対称で年齢により好発部位が変わる特徴的皮疹、慢性・反復性経過の3項目です。検査では血清総IgE高値や好酸球増多がみられ、短期的な病勢の指標にはTARCが用いられます。眼合併症は白内障と網膜剝離が代表で、顔面の掻破や叩打による物理的刺激の関与が考えられており、虹彩炎(前部ぶどう膜炎)は合併しません。虹彩炎を見たらBehçet病、サルコイドーシス、原田病、HLA-B27関連疾患など全身疾患を考えるのが原則です。皮膚疾患の合併症を眼や感染症まで含めて整理しておくことが、全身を診る臨床力につながります。

解答・解説

正解はbです

アトピー性皮膚炎の症状・検査所見・合併症を整理できているかを問う問題である。 アトピー性皮膚炎は、増悪と軽快を繰り返す瘙痒のある湿疹を主な病変とする慢性の皮膚疾患で、多くの患者がアトピー素因(本人または家族に気管支喘息・アレルギー性鼻炎・結膜炎・アトピー性皮膚炎の既往があること、あるいはIgE抗体を産生しやすい体質)をもつ。背景には皮膚バリア機能の低下(フィラグリン遺伝子変異などによる角層の異常)と、Th2型の免疫反応の亢進がある。 日本皮膚科学会の診断基準では、(1)瘙痒、(2)特徴的な皮疹とその分布(湿疹病変で、左右対称性に分布し、年齢によって好発部位が変わる)、(3)慢性・反復性の経過(乳児では2か月以上、それ以外では6か月以上)の3項目を満たすものをアトピー性皮膚炎とする。検査では血清総IgE値の上昇や末梢血好酸球増多がみられ、眼合併症として白内障や網膜剝離が知られている。 これらと照らし合わせると、虹彩炎(前部ぶどう膜炎)だけがアトピー性皮膚炎と結びつかない所見である。

選択肢考察

  1. ×a.  瘙痒

    瘙痒は診断基準の第1項目に挙げられる必須の症状である。痒みは強く、特に夜間に増強して睡眠障害の原因となる。掻くことで皮膚バリアがさらに壊れ、炎症と痒みが悪化するという悪循環(itch-scratch cycle)を形成し、慢性化すると苔癬化(皮膚が厚く硬くなり、皮溝が深くなる変化)を生じる。アトピー性皮膚炎に特徴的な所見である。

  2. ○b.  虹彩炎

    虹彩炎は、ぶどう膜(虹彩・毛様体・脈絡膜)のうち前部に生じる炎症で、Behçet病、サルコイドーシス、HLA-B27関連疾患(強直性脊椎炎など)、Vogt-小柳-原田病などの全身疾患に伴って起こることが多い。アトピー性皮膚炎では眼の合併症が多いが、それは白内障・網膜剝離・角結膜炎・円錐角膜などであり、虹彩炎は通常みられない。したがってアトピー性皮膚炎に特徴的でない所見であり、本問の正解である。

  3. ×c.  白内障

    白内障はアトピー性皮膚炎の代表的な眼合併症で、特に顔面の皮疹が重症の若年者にみられ、若年性白内障の原因として重要である。水晶体の前嚢下・後嚢下の混濁を生じることが多い。顔面を強く掻いたりたたいたりする物理的刺激が関与すると考えられている。同様に網膜剝離の合併も知られており、定期的な眼科受診が勧められる。アトピー性皮膚炎に特徴的な合併症である。

  4. ×d.  対称性皮疹

    皮疹が左右対称に分布することは診断基準の皮疹の分布に関する項目に含まれる。好発部位は年齢によって変わり、乳児期は頭部・顔面から始まり体幹・四肢へ広がる。幼小児期は頸部や肘窩・膝窩などの屈側、四肢関節部に多く、思春期・成人期は顔面・頸部・前胸部・背部など上半身に皮疹が強い傾向がある。アトピー性皮膚炎に特徴的な所見である。

  5. ×e.  血清IgE増加

    アトピー性皮膚炎の患者の多くで血清総IgE値が上昇しており、ダニ・ハウスダスト・食物などに対する特異的IgE抗体が陽性となることも多い。総IgE値は長期的な病勢の目安となるが、変動は緩やかである。ほかに末梢血好酸球増多や血清LDH上昇がみられ、短期的な病勢を鋭敏に反映する指標として血清TARC(thymus and activation-regulated chemokine)が用いられる。アトピー性皮膚炎に特徴的な検査所見である。

アトピー性皮膚炎の診断基準(日本皮膚科学会)

1. 瘙痒 2. 特徴的皮疹と分布 ・皮疹は湿疹病変(急性病変:紅斑・丘疹・漿液性丘疹・鱗屑・痂皮、慢性病変:苔癬化・痒疹結節など) ・分布は左右対称性で、年齢により好発部位が異なる 3. 慢性・反復性経過:乳児では2か月以上、その他では6か月以上 上記1〜3を満たすものを、症状の軽重を問わずアトピー性皮膚炎と診断する。

主な検査所見

血清総IgE高値、抗原特異的IgE陽性、末梢血好酸球増多、血清LDH上昇、血清TARC高値(病勢マーカー)

主な合併症

・眼:白内障、網膜剝離、アトピー性角結膜炎、円錐角膜 ・皮膚感染症:伝染性膿痂疹(とびひ)、伝染性軟属腫(水いぼ)、Kaposi水痘様発疹症(単純ヘルペスウイルスの播種性感染) ・その他のアレルギー疾患:気管支喘息、アレルギー性鼻炎、食物アレルギー(アトピーマーチ)

治療の三本柱

1. 薬物療法:ステロイド外用薬、タクロリムス軟膏などの抗炎症外用薬、抗ヒスタミン薬内服(補助的)。重症例ではデュピルマブ(抗IL-4受容体α抗体)などの生物学的製剤やJAK阻害薬も用いられる 2. スキンケア:保湿剤による皮膚バリア機能の補強 3. 悪化因子の対策:汗、乾燥、ダニ・ハウスダスト、掻破などへの対応

POINT

・診断の3要素:瘙痒、特徴的皮疹と分布(左右対称・年齢で部位が変化)、慢性・反復性の経過 ・検査:血清IgE高値、好酸球増多、LDH上昇、TARC高値(病勢の指標) ・眼合併症は白内障と網膜剝離が代表で、虹彩炎は合併しない。 ・虹彩炎(前部ぶどう膜炎)はBehçet病、サルコイドーシス、HLA-B27関連疾患、原田病などで考える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。