StudyMed医師国家試験

熱を出した1歳半の子、その「1歳のころ」を思い浮かべられるか―発達マイルストーンの物差し

第100回医師国家試験 C問題 第16問(連問)

国試問題にチャレンジ

第100回 C問題 第16問

連問の共通文

次の文を読み,16~18の問いに答えよ。 1歳6か月の男児。発熱と顔色不良とを主訴に来院した。 現病歴:昨夕,不機嫌,38℃ 台の発熱および顔色不良に気付いた。夜は眠ったが今朝も不機嫌で元気がなかった。 出生歴:在胎40週,自然分娩で出生した。出生時の身長51cm,体重3,240g,頭囲33.5cm,胸囲33.0cm。Apgarスコア10点(1分)。 発育歴・既往歴:精神運動発達は正常である。予防接種はBCG,ポリオワクチン2回,DPTⅠ期および麻疹ワクチン完了。9か月時に突発性発疹に罹患した。 現症:身長82cm,体重10.2kg。体温37.8℃。呼吸数48/分。脈拍160/分,整。血圧96/64mmHg。意識はやや傾眠状態。顔色不良で顔貌は無欲状である。大泉門は閉鎖している。咽頭は軽度に発赤し,粘膜疹はない。リンパ節は触知しない。鼓膜の発赤はない。胸部に異常所見はない。仰臥位で,頸部を前屈すると股関節と膝関節とで下肢が屈曲し,両下肢を伸展位で挙上すると膝が屈曲する。足底をさすると母趾は底屈する。 検査所見:尿所見:異常なし。血液所見:赤血球394万,Hb 10.7g/dL,白血球15,900(後骨髄球2%,桿状核好中球10%,分葉核好中球54%,単球12%,リンパ球22%),血小板12万。CRP 11.2mg/dL。

この患児が1歳時にできたと考えられるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.つかまって歩く。
  2. b.両手を使っておもちゃで遊ぶ。
  3. c.積み木を2つ重ねる。
  4. d.上着を脱ぐ。
  5. e.二語文を言う。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、発熱で受診した幼児の症例を題材にしながら、実は診断ではなく「発達歴」を問う問題だ。着眼点は発育歴の「精神運動発達は正常」という一文。つまりこの子を定型発達児とみなして、1歳の時点で何ができていたかを標準的な目安から判断すればいい。
医学生医学生
症例が重そうなので、つい診断のほうに目が行ってしまいました。髄膜刺激徴候がありそうですよね。
ドクタードクター
その読みは正しくて、細菌性髄膜炎が強く疑われる症例だよ。それは別の設問で扱うとして、ここでは発達の物差しを持っているかが試されている。まず粗大運動から整理しよう。つかまり立ち、つたい歩き、ひとり歩きは何か月ごろだったかな。
医学生医学生
小児科の講義では、ひとり歩きが1歳ごろと習いました。つかまり立ちはその少し前ですよね。
ドクタードクター
そう。つかまり立ちが9〜10か月、家具につかまって横に移動するつたい歩きが10〜11か月、ひとり歩きが1歳〜1歳3か月ごろだ。だから「つかまって歩く」は1歳の時点ですでに獲得しているのが普通で、正解の一つになる。
医学生医学生
両手を使っておもちゃで遊ぶのはどうでしょう。もっと早くからできそうな気がします。
ドクタードクター
いい感覚だね。6〜7か月ごろに手から手へ物を持ち替えられるようになり、その後、両手に持った物を打ち合わせたり、片手で押さえてもう片方で操作したりと、両手を協調させて遊べるようになる。1歳なら十分可能だから、これも正解だ。
医学生医学生
積み木を2つ重ねるのも、1歳ならできそうに思えてしまいました。
ドクタードクター
そこが引っかけやすいところ。積み木を積むには、つかむだけでなく、狙った場所で正確に手を離す巧緻性が要る。これは1歳3か月〜1歳6か月ごろにできるようになるから、1歳ではまだ期待できない。ちなみに母指と示指の先でつまむピンセットつまみは10か月〜1歳ごろだ。
医学生医学生
つまむのと置くのは別の能力なんですね。上着を脱ぐのは生活習慣の項目でしょうか。
ドクタードクター
そう。衣服の着脱は1歳半ごろから自分で脱ごうとし始め、2歳前後で簡単な服を一人で脱げるようになる。着るのはさらに遅く3歳前後だ。脱ぐほうが先、と覚えておくといい。
医学生医学生
二語文は、CBTの勉強で2歳と覚えました。1歳だと意味のある単語がやっと出るころですよね。
ドクタードクター
その通り。1歳前後で「ママ」「マンマ」のような有意語が出て、1歳半で語彙が増え、2歳ごろに「ママ、きた」のような二語文、3歳ごろに三語文や自分の名前が言えるようになる。1歳で二語文は早すぎるね。
医学生医学生
まとめると、運動はつたい歩き、手は両手の協調までが1歳でできていて、積み木・衣服・二語文は1歳以降、ということですね。
ドクタードクター
よく整理できた。発展として、発達の目安には個人差があることも忘れないでほしい。健診では、9割程度の子が獲得する時期を過ぎてもできない場合に遅れを疑い、経過観察や精査につなげる。評価にはDENVER IIや遠城寺式乳幼児分析的発達検査法などが使われるよ。
医学生医学生
臨床実習の乳幼児健診で、先生がおもちゃや積み木を使って短時間で発達をみていたのを思い出しました。
ドクタードクター
ああいう診察の裏には、月齢ごとの目安が頭に入っていることがある。さらに、今回のような急性疾患の子でも、発達歴は病前の状態を知る大事な情報だ。髄膜炎などの後に発達の後退がないかを評価するときも、元の到達点がわかっていないと比べられないからね。
医学生医学生
診断の問題でも発達歴を読み飛ばさないようにします。

まとめ

問題文に「精神運動発達は正常」とあれば、標準的な発達マイルストーンに沿って月齢ごとの到達点を判断します。つたい歩きは10〜11か月ごろ、両手を協調させた遊びは持ち替え(6〜7か月)の後に可能となるため、いずれも1歳時点でできています。一方、積み木2個を積むのは1歳3〜6か月、衣服を脱ぐのは2歳前後、二語文は2歳ごろであり、1歳ではまだ期待できません。目安には個人差があるため、健診では多くの児が獲得する時期を過ぎても未獲得の場合に遅れを疑い、DENVER IIなどで評価します。粗大運動・微細運動・言語・生活習慣の目安を領域ごとに押さえておくことは、乳幼児健診だけでなく、急性疾患の児の病前評価や後遺症の判断にも役立ちます。

解答・解説

正解はa, bです

症例の整理

1歳6か月の男児で、前日の夕方から38℃台の発熱、不機嫌、顔色不良が続いている。受診時は傾眠傾向で無欲状顔貌を呈し、呼吸数48/分・脈拍160/分と頻呼吸・頻脈を認める。診察では、仰臥位で頸部を前屈させると股関節・膝関節が屈曲する所見(Brudzinski徴候)と、下肢を伸展したまま挙上すると膝が曲がってしまう所見(Kernig徴候)があり、髄膜刺激徴候が陽性である。血液検査では白血球15,900/μLと増加し、桿状核好中球10%・後骨髄球2%という左方移動(未熟な好中球が末梢血に出てくる状態)を伴い、CRP 11.2mg/dLと強い炎症反応がある。以上から細菌性髄膜炎(化膿性髄膜炎)が強く疑われる。

本設問の考え方

本設問は診断そのものではなく、この児の発達歴について問うている。発育歴に「精神運動発達は正常である」と明記されているので、「1歳の定型発達児ができること」を選べばよい。つまり、標準的な発達の目安(マイルストーン)を月齢ごとに覚えているかどうかを確認する問題である。 1歳前後の粗大運動(体幹や四肢を使う大きな運動)では、つかまり立ちが9〜10か月頃、つたい歩き(つかまって歩く)が10〜11か月頃、ひとり立ち・ひとり歩きが1歳〜1歳3か月頃に可能となる。微細運動(手指の細かい運動)では、7か月頃に手から手へ物を持ち替えられるようになり、両手を協調させて遊べる段階を経て、1歳前後で親指と人差し指の先でつまむこと(ピンセットつまみ)ができるようになる。積み木を2つ重ねる、上着を脱ぐ、二語文を話すといった課題はいずれも1歳以降、1歳半〜2歳前後に獲得されるものである。

選択肢考察

  1. ○a.  つかまって歩く。

    家具などにつかまって横に移動する「つたい歩き」は、おおむね10〜11か月頃に可能になる。1歳の時点ではすでに獲得しているのが通常であり、発達正常の本児も1歳時にできていたと考えられる。

  2. ○b.  両手を使っておもちゃで遊ぶ。

    6〜7か月頃から手から手へおもちゃを持ち替えられるようになり、その後両手を協調させて物を扱う(両手に持った物を打ち合わせる、片手で押さえてもう一方の手で操作するなど)ことができるようになる。1歳時には十分可能な動作であり、本児もできていたと考えられる。

  3. ×c.  積み木を2つ重ねる。

    積み木を2つ積むには、物を狙った位置で正確に離す(リリースする)手指の巧緻性が必要で、1歳3か月〜1歳6か月頃に可能となる。1歳の時点ではまだ期待できない。

  4. ×d.  上着を脱ぐ。

    衣服の着脱は生活習慣の自立に関わる課題で、1歳半頃から自分で脱ごうとする様子がみられ始め、2歳前後で簡単な衣服を一人で脱げるようになる(着るのはさらに遅く3歳前後)。1歳の時点でできる動作ではない。

  5. ×e.  二語文を言う。

    言語発達は、1歳前後で意味のある単語(有意語、例:「ママ」「マンマ」)が出始め、1歳半頃に使える単語が増え、2歳頃に「ママ、きた」のような二語文を話すようになる。1歳時点で二語文は期待できない。

主な発達の目安(定型発達児のおおよその獲得時期)

粗大運動:首すわり3〜4か月、寝返り5〜6か月、ひとり座り(お座り)7か月、はいはい8〜9か月、つかまり立ち9〜10か月、つたい歩き10〜11か月、ひとり歩き1歳〜1歳3か月、走る1歳6か月頃、階段を上る2歳頃、片足立ち(数秒)3歳頃、ケンケン4歳頃。 微細運動:手を開いて物をつかむ4〜5か月、手から手への持ち替え6〜7か月、母指と示指でのつまみ(ピンセットつまみ)10か月〜1歳、積み木2個を積む1歳3〜6か月、なぐり書き1歳6か月頃、円を描く3歳頃、十字を描く4歳頃、四角を描く4〜5歳頃、三角を描く5〜6歳頃。 言語:喃語6か月頃、有意語(1語)1歳頃、二語文2歳頃、三語文・自分の名前が言える3歳頃。 社会性・生活習慣:あやすと笑う(社会的微笑)2〜3か月、人見知り6〜8か月、バイバイなどの模倣9〜10か月、スプーンを使う1歳6か月頃、衣服を脱ぐ2歳頃、衣服を着る3歳頃、ボタンをはめる4歳頃。

発達評価の考え方

発達の目安には個人差があり、上記の時期は「多くの子どもができるようになる時期」を示す。健診では、90%程度の児が獲得する時期を過ぎても獲得していない場合に発達の遅れを疑い、経過観察や精査を行う。評価法としては、DENVER II(デンバー発達判定法)や遠城寺式乳幼児分析的発達検査法などが用いられる。

POINT

・問題文に「精神運動発達は正常」とあれば、標準的なマイルストーンに従って判断する。 ・つたい歩き10〜11か月、ひとり歩き1歳〜1歳3か月。 ・持ち替え6〜7か月、ピンセットつまみ10か月〜1歳、積み木2個1歳3〜6か月。 ・有意語1歳、二語文2歳、三語文3歳。 ・衣服を脱ぐ2歳頃、着る3歳頃。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。