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引き込まれた鼓膜が語るもの―「陰圧」から読み解く滲出性中耳炎

第100回医師国家試験 B問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第100回 B問題 第17問

鼓膜に内陥所見がみられるのはどれか。

  1. a.耳硬化症
  2. b.突発性難聴
  3. c.Ménière病
  4. d.滲出性中耳炎
  5. e.良性発作性頭位めまい症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、鼓膜の見え方から病変の場所を推理する問題だ。ポイントは「鼓膜が内側に引き込まれるのはどんなときか」という物理的な仕組みと、各疾患の病変が外耳・中耳・内耳のどこにあるかの整理。まずは鼓膜が普段どうやって形を保っているか、考えてみよう。
医学生医学生
鼓膜の内側の鼓室は、耳管で上咽頭とつながっているんでしたよね。生理学の講義で、耳管が開いて圧を調整すると習いました。
ドクタードクター
その通り。耳管が嚥下やあくびのたびに開いて、鼓室内の圧を外気圧と同じに保っている。だから鼓膜は内にも外にも偏らず、一定の位置にいられるんだ。では、耳管がうまく開かなくなったら鼓室の中はどうなると思う?
医学生医学生
空気の出入りがなくなるだけなら、圧はそのままのような気もしますが……。
ドクタードクター
そこが大事なところ。鼓室の粘膜は中の空気を少しずつ吸収するんだ。換気が止まると空気は減る一方なので、鼓室内は陰圧になる。その陰圧に引っ張られて鼓膜が内側にへこむ、これが内陥だ。さらに陰圧が続くと粘膜から液体が染み出して鼓室にたまる。
医学生医学生
それが滲出性中耳炎ですね。耳が痛いとか熱が出るとかではなく、液がたまっている状態という。
ドクタードクター
正解。滲出性中耳炎は急性炎症の症状を伴わずに鼓室に液体が貯留する病気で、耳管の換気障害による陰圧が背景にある。鼓膜所見としては、内陥のせいでツチ骨柄が短く水平に寝たように見え、光錐は弱くなったり消えたりする。鼓膜は黄色っぽく濁り、液面線や気泡が透けて見えることもあるよ。
医学生医学生
耳鼻科の実習で耳鏡をのぞかせてもらったとき、正常の光錐がきれいに見えて感動したのを覚えています。あれが消えるんですね。
ドクタードクター
そう、光錐は鼓膜の張りと角度の指標だから、内陥すれば崩れる。では残りの選択肢も見ていこう。耳硬化症はどうかな。耳硬化症も伝音難聴で中耳の病気だよね。
医学生医学生
アブミ骨が動かなくなる病気なので、中耳の病気なら鼓膜も変化しそうに思えてしまいます。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。耳硬化症はアブミ骨底が前庭窓に固着する病気で、確かに伝音難聴を起こす。でも耳管機能は正常だから鼓室内圧は保たれ、鼓膜は原則として正常なんだ。活動期に鼓膜越しに岬角の充血が赤く透けて見えるSchwartze徴候があることはあっても、内陥はしない。ティンパノメトリーはピークの低いAs型が多く、アブミ骨筋反射が消えるのが特徴だ。
医学生医学生
突発性難聴、Ménière病、良性発作性頭位めまい症は、どれも内耳の病気なので鼓膜は正常、という理解でいいですか。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。突発性難聴は蝸牛の障害による急性の感音難聴、Ménière病は内リンパ水腫でめまい発作と低音障害型の感音難聴を繰り返す。良性発作性頭位めまい症は耳石が半規管に迷入して頭位変換で短いめまいが起こる病気で、蝸牛症状は伴わない。いずれも病変は鼓膜より奥の内耳だから、鼓膜は正常だ。
医学生医学生
Ménière病でも耳閉感が出るので、耳が詰まった感じだけだと中耳の病気と区別しにくそうですね。
ドクタードクター
鋭いね。耳閉感は中耳でも内耳でも出る症状だから、そこで鼓膜所見が鑑別の手がかりになる。鼓膜が正常で感音難聴なら内耳、内陥や液貯留があれば中耳を考える。耳鏡を一目見るだけで大きく方向が決まるんだ。
医学生医学生
ティンパノメトリーでは滲出性中耳炎はどう出るんでしょう。CBTの勉強でアルファベットの型を覚えた記憶はあるんですが。
ドクタードクター
陰圧が主体ならピークが陰圧側にずれるC型、液体が鼓室に満ちるとピークが消えて平坦なB型になる。耳硬化症のAs型、耳小骨離断のAd型と並べて覚えると整理しやすい。最後に臨床の注意点。滲出性中耳炎は小児に多く、アデノイド増殖症による耳管閉塞が代表的な原因だけれど、成人の一側性の滲出性中耳炎では上咽頭癌が耳管をふさいでいる可能性を必ず考えて、上咽頭を観察することが大切だ。
医学生医学生
大人の片耳だけの耳閉感を「ただの中耳炎」で済ませてはいけないということですね。
ドクタードクター
その通り。治療は原因疾患への対応、耳管通気、鼓膜切開で、長引く例や繰り返す例では鼓膜換気チューブを留置する。小児は自然に治ることも多いので、一定期間の経過観察も選択肢になるよ。

まとめ

鼓膜の内陥は、耳管の換気障害によって鼓室内が陰圧になったことを示す所見で、その代表が滲出性中耳炎です。鼓膜はツチ骨柄の短縮・水平化や光錐の減弱を示し、液面線や気泡が透見されることもあり、ティンパノメトリーではC型やB型をとります。耳硬化症は伝音難聴を起こしても鼓室内圧は正常で鼓膜は原則正常、突発性難聴・Ménière病・良性発作性頭位めまい症は内耳疾患のため鼓膜は正常です。成人の一側性滲出性中耳炎では上咽頭癌の除外が重要です。鼓膜所見から病変が中耳か内耳かを見分ける視点は、難聴や耳閉感を訴える患者を診る際の基本になります。

解答・解説

正解はdです

鼓膜は外耳道と中耳(鼓室)の境界にある薄い膜で、正常では鼓室内の圧が耳管の働きによって外気圧と等しく保たれているため、ほぼ一定の位置と形を保っている。鼓膜が内側へ引き込まれる(内陥する)のは、鼓室内が外気に比べて陰圧になったときであり、その主な原因は耳管の換気機能の障害である。 したがって本問は、選択肢のうち「中耳(鼓室)に病変があり、耳管機能障害による鼓室内陰圧を生じる疾患」を選べばよい。 ・中耳の病変で陰圧を生じる:滲出性中耳炎 ・中耳の骨(アブミ骨)の病変だが鼓室内圧は正常:耳硬化症 ・内耳の病変で中耳・鼓膜は正常:突発性難聴、Ménière病、良性発作性頭位めまい症 内耳疾患はいずれも鼓膜所見が正常であることが、中耳疾患との鑑別の手がかりとなる。

選択肢考察

  1. ×a.  耳硬化症

    耳硬化症は、耳包(内耳を囲む骨)の骨代謝異常によりアブミ骨底が前庭窓(卵円窓)に固着し、音の伝達が障害される疾患である。両側性で緩徐に進行する伝音難聴(進行すると混合難聴)と耳鳴を主症状とし、中年女性に多く、妊娠で悪化することがある。鼓室内圧は正常であり、鼓膜は原則として正常所見を示す。活動期には鼓膜を通して岬角の充血が赤く透けて見えること(Schwartze徴候)があるが、内陥は認めない。ティンパノメトリーはA型(多くはピークの低いAs型)で、アブミ骨筋反射は消失する。

  2. ×b.  突発性難聴

    突発性難聴は、明らかな原因なく突然発症する高度の感音難聴で、通常は一側性である。耳鳴、耳閉感を伴い、めまいを伴うこともある。原因は不明だが、内耳のウイルス感染や循環障害が推定されている。障害部位は内耳(蝸牛)であり、中耳・鼓膜は正常である。ステロイド投与を中心とした早期治療が予後に関わる。

  3. ×c.  Ménière病

    Ménière病は内リンパ水腫(内耳の内リンパ腔の拡張)を病態とし、回転性めまい発作に、変動する低音障害型の感音難聴、耳鳴、耳閉感を伴って反復する疾患である。病変は内耳にあるため、鼓膜は正常である。耳閉感を訴えるため中耳疾患と紛らわしいが、鼓膜所見が正常である点で区別される。

  4. ○d.  滲出性中耳炎

    滲出性中耳炎は、急性炎症症状(耳痛・発熱)を伴わずに鼓室内に液体が貯留する疾患である。耳管の換気機能が障害されると、鼓室内の空気が粘膜から吸収されて陰圧となり、その陰圧によって鼓膜が内陥し、滲出液が貯留する。鼓膜所見として、内陥によりツチ骨柄が短縮・水平化して見え、光錐は減弱・消失する。鼓膜は黄色〜琥珀色に濁り、貯留液の液面線(ニボー)や気泡が透見されることもある。ティンパノメトリーは、陰圧を反映するC型、液体が充満してピークが消失するB型を示す。小児ではアデノイド増殖症、成人では上咽頭癌による耳管閉塞も原因となるため、成人の一側性例では上咽頭の観察が重要である。

  5. ×e.  良性発作性頭位めまい症

    良性発作性頭位めまい症(BPPV)は、卵形嚢の耳石が剝がれて半規管内に迷入する(または半規管のクプラに付着する)ことにより、寝返りや起き上がりなど特定の頭位変換時に数十秒程度の回転性めまいと特徴的な眼振が誘発される疾患である。めまい症状の中で最も頻度が高い。難聴・耳鳴などの蝸牛症状は伴わず、中耳・鼓膜も正常である。後半規管型ではDix-Hallpike法で回旋性眼振が誘発され、Epley法などの頭位治療(耳石置換法)が有効である。

鼓膜所見と主な疾患

・内陥(陥凹):滲出性中耳炎、耳管狭窄症、癒着性中耳炎 ・発赤・膨隆:急性中耳炎 ・穿孔:慢性中耳炎、外傷性鼓膜穿孔 ・弛緩部の陥凹・デブリ(角化物)の堆積:真珠腫性中耳炎 ・岬角の充血の透見(Schwartze徴候):耳硬化症 ・青色鼓膜:鼓室内の血液貯留(コレステリン肉芽腫など) ・正常:内耳疾患(突発性難聴、Ménière病、BPPV、騒音性難聴、老人性難聴)、耳硬化症(多くの場合)

ティンパノメトリーの型

・A型:正常(鼓室内圧はほぼ0) ・As型:ピークが低い(コンプライアンス低下)→耳硬化症など ・Ad型:ピークが高い(コンプライアンス増大)→耳小骨離断、鼓膜の菲薄化 ・B型:ピークなし(平坦)→鼓室内の液体貯留(滲出性中耳炎) ・C型:ピークが陰圧側にずれる→耳管狭窄、滲出性中耳炎

滲出性中耳炎の治療

原因(アデノイド増殖症、副鼻腔炎、上咽頭病変など)の治療、耳管通気、鼓膜切開による貯留液排除を行い、遷延・反復例では鼓膜換気チューブ留置術を行う。小児では多くが自然軽快するため、一定期間の経過観察も選択肢となる。

POINT

・鼓膜内陥=鼓室内陰圧=耳管機能障害を示す所見であり、滲出性中耳炎が代表。 ・滲出性中耳炎の鼓膜:内陥、ツチ骨柄の短縮、光錐の減弱、液面線・気泡。ティンパノグラムはB型・C型。 ・成人の一側性滲出性中耳炎では上咽頭癌を除外する。 ・内耳疾患(突発性難聴、Ménière病、BPPV)では鼓膜は正常。 ・耳硬化症は鼓膜正常(Schwartze徴候を見ることがある)、As型、アブミ骨筋反射消失。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。