暗闇に慣れる力では剝がれは見えない―網膜剝離を捉える4つの検査
第100回医師国家試験 B問題 第16問
国試問題にチャレンジ
網膜剝離の診断に有用でないのはどれか。
- a.倒像鏡検査
- b.Goldmann三面鏡検査
- c.超音波検査
- d.網膜電図〈ERG〉
- e.光覚〈暗順応〉検査
対話形式の解説
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ドクターまとめ
網膜剝離は感覚網膜が網膜色素上皮から離れた状態で、最も多い裂孔原性では網膜周辺部の裂孔から液化硝子体が網膜下に流入します。診断では、倒像鏡やGoldmann三面鏡で剝離の範囲と周辺部の裂孔を探し、硝子体出血や白内障で眼底が見えないときは超音波Bモードの膜状エコーやERGによる網膜機能の他覚的評価で補います。一方、暗順応検査は杆体機能を反映し、網膜色素変性や小口病、ビタミンA欠乏症など夜盲性疾患の評価に用いるもので、網膜剝離の診断には役立ちません。飛蚊症や光視症の段階で周辺部まで眼底を確認し、黄斑剝離前に治療につなげることが視力予後を左右するため、検査の役割を目的別に整理しておくことが大切です。
解答・解説
正解はeです
網膜剝離とは、感覚網膜(神経網膜)が網膜色素上皮から離れて浮き上がった状態である。最も頻度が高い裂孔原性網膜剝離では、網膜周辺部に生じた裂孔(円孔や弁状裂孔)から液化した硝子体が網膜下へ入り込み、剝離が広がっていく。飛蚊症や光視症(視界に光が走る)が前駆し、剝離の範囲に一致した視野欠損(カーテンがかかったような見え方)が進行し、黄斑に及ぶと視力が急激に低下する。 診断で重要なのは次の2点である。 1) 剝離そのものと、その原因となった裂孔を見つけること:裂孔は網膜の最周辺部にあることが多いため、周辺部まで観察できる検査が必要となる。 2) 眼底が見えない場合にも剝離の有無と網膜機能を評価すること:硝子体出血や高度の白内障などで眼底が透見できないときは、画像検査や電気生理検査で補う。 この観点から、倒像鏡検査・Goldmann三面鏡検査は1)に、超音波検査・網膜電図(ERG)は2)に役立つ。一方、光覚(暗順応)検査は夜盲をきたす疾患の評価に用いる検査であり、網膜剝離の診断に役立つ検査ではない。設問は「有用でないもの」を選ぶ形式であることに注意する。
選択肢考察
- ×a. 倒像鏡検査
倒像鏡検査(双眼倒像鏡や単眼倒像鏡と集光レンズを用いる眼底検査)は、直像鏡に比べて倍率は低いものの視野が広く、立体的に眼底全体を見渡せるため、網膜剝離の範囲や丈の高さ、周辺部の裂孔の位置を把握するのに必須の検査である。散瞳下で強膜圧迫を併用すると、鋸状縁付近の最周辺部の裂孔まで観察できる。網膜剝離の診断に有用である。
- ×b. Goldmann三面鏡検査
Goldmann三面鏡は、中央のレンズと角度の異なる3枚の鏡を組み込んだ接触型レンズで、細隙灯顕微鏡と組み合わせて用いる。中央部で後極(黄斑・乳頭)を、各鏡で中間周辺部・最周辺部・隅角を拡大・立体的に観察できる。網膜周辺部の小さな裂孔や格子状変性の検出、裂孔の形態の詳しい評価に優れ、網膜剝離の診断と治療方針の決定に有用である。
- ×c. 超音波検査
超音波検査(Bモード)は、光を通さない媒体でも内部の構造を描出できるため、硝子体出血、高度の白内障、角膜混濁などで眼底が透見できない症例で特に有用である。網膜剝離は硝子体腔内に視神経乳頭と連続する膜状エコーとして描出され、硝子体出血や後部硝子体剝離との鑑別にも用いられる。網膜剝離の診断に有用である。
- ×d. 網膜電図〈ERG〉
網膜電図(ERG:electroretinogram)は、光刺激に対する網膜全体の電気的反応を記録する検査で、網膜機能を他覚的に評価できる。眼底が透見できない状態で網膜剝離の有無や網膜機能の残存程度を推定したり、手術による視機能回復の見込みを判断したりするのに役立つ。広範な網膜剝離では振幅が低下し、全剝離では反応が著しく減弱する。網膜剝離の診断・評価に有用である。
- ○e. 光覚〈暗順応〉検査
光覚(暗順応)検査は、明るい環境から暗所に移った後、時間経過とともにどこまで弱い光を感じられるようになるか(光覚閾値の低下)を測定する検査である。暗順応曲線は錐体の順応による第一相と杆体の順応による第二相からなり、杆体の機能障害を反映する。網膜色素変性、小口病、白点状眼底、ビタミンA欠乏症など夜盲を主訴とする疾患の診断や病状把握に用いられる。網膜剝離では剝離の形態や裂孔の有無、範囲を知ることはできず、診断に有用な検査ではない。
網膜剝離の分類
・裂孔原性網膜剝離:最も多い。網膜裂孔から液化硝子体が網膜下に流入する。近視眼、中高年の後部硝子体剝離、眼外傷、格子状変性が危険因子。若年者では萎縮円孔、中高年では後部硝子体剝離に伴う弁状裂孔が原因となりやすい。 ・牽引性網膜剝離:増殖糖尿病網膜症や未熟児網膜症などで、増殖膜が網膜を引っ張って剝離させる。 ・滲出性(続発性)網膜剝離:原田病、中心性漿液性脈絡網膜症、脈絡膜腫瘍、妊娠高血圧症候群などで、網膜下に滲出液がたまる。
治療(裂孔原性)
剝離のない裂孔のみの段階ではレーザー光凝固で裂孔周囲を固め、剝離の進行を予防する。剝離が生じた場合は、強膜バックリング術(強膜側から陥凹させて裂孔を閉鎖)や硝子体手術(硝子体を切除し、ガスなどで網膜を復位させる)を行う。黄斑が剝離する前に手術すると視力予後がよいため、早期発見・早期治療が重要である。
眼底検査法の比較
・直像鏡:倍率が高い(約15倍)が視野は狭く、正立像。後極部の観察向き。 ・倒像鏡:倍率は低いが視野が広く、上下左右が逆の倒立像。周辺部まで観察でき、網膜剝離の診療で基本となる。 ・細隙灯顕微鏡+前置レンズ/三面鏡:拡大・立体視での詳細な観察が可能。 ・光干渉断層計(OCT):網膜の断層像を描出し、黄斑部の剝離の有無などを詳しく評価できる。
POINT
・網膜剝離の診断:倒像鏡・Goldmann三面鏡で剝離と周辺部裂孔を探す。 ・眼底透見不能時は超音波Bモード(膜状エコー)とERG(網膜機能の他覚的評価)で補う。 ・暗順応検査は夜盲性疾患(網膜色素変性、小口病、ビタミンA欠乏など)の検査であり、網膜剝離の診断には用いない。 ・「有用でないのはどれか」という否定形の設問に注意する。
