StudyMed医師国家試験

ゆがんで見えるけれど夜は困らない―中心性漿液性脈絡網膜症の「黄斑だけ」の病態

第116回医師国家試験 A問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第116回 A問題 第3問

中心性漿液性脈絡網膜症について誤っているのはどれか。

  1. a.夜盲を自覚する。
  2. b.変視症を自覚する。
  3. c.自然治癒することが多い。
  4. d.蛍光眼底造影が有用である。
  5. e.光干渉断層計〈OCT〉が有用である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は中心性漿液性脈絡網膜症について、誤った記述を選ぶ問題だ。ポイントは「病変がどこにあるか」。網膜のどの部位が障害されるかが分かれば、出る症状と出ない症状が自然に整理できるよ。まず、この病気がどんな病態か説明できるかな。
医学生医学生
眼科の講義で、脈絡膜から漏れた水が網膜の下にたまる病気だと習いました。
ドクタードクター
その通り。脈絡膜の血管透過性が亢進して、網膜色素上皮のバリアが局所的に破綻する。そこから漏れた漿液が黄斑部の網膜の下にたまって、漿液性網膜剝離を起こすんだ。名前の「中心性」は、まさに黄斑という視力の中心が舞台だという意味だね。
医学生医学生
黄斑部の網膜が持ち上がるなら、物がゆがんで見える変視症は出そうです。
ドクタードクター
正しい理解だ。感覚網膜が網膜下液で持ち上げられると視細胞の並びが乱れて、物がゆがんで見える。視細胞の間隔が広がるので物が小さく見える小視症、中心が暗く見える中心暗点、軽い視力低下も典型的だ。網膜が前に移動するぶん、遠視化することもある。
医学生医学生
臨床実習の眼科外来で、アムスラーチャートの線が曲がって見えると話していた患者さんがいました。
ドクタードクター
まさにその検査で変視を確認するんだ。では夜盲はどうだろう。暗い所で見えにくくなる症状だけど。
医学生医学生
網膜剝離の一種なので、視細胞が障害されて夜盲も起こりうるのかなと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだね。夜盲は暗所で働く杆体細胞の障害で起こる症状で、杆体は網膜の周辺部に多く分布している。中心性漿液性脈絡網膜症は黄斑に限局した剝離だから、周辺の杆体は保たれる。だから夜盲は生じない。これが誤った記述で、正解になる。
医学生医学生
なるほど、黄斑は錐体が多くて、杆体は周辺に多いという組織学の知識がそのまま効いてくるんですね。夜盲といえば網膜色素変性が代表でしたっけ。
ドクタードクター
そう。ほかにビタミンA欠乏症、小口病、白点状眼底なども夜盲をきたす。いずれも杆体系の機能障害が関わっている。次に経過だけど、自然治癒することが多い、という記述はどうかな。
医学生医学生
数か月で治ることが多いと聞いた気がします。
ドクタードクター
正しいよ。急性例の多くは3〜6か月程度で網膜下液が自然に吸収されて、視力も回復することが多い。だから初期はまず経過観察が基本だ。ただし再発を繰り返したり慢性化したりすると、視細胞が傷んで視力が戻りきらないことがあるので、そういう例では治療を検討する。
医学生医学生
検査はOCTと蛍光眼底造影のどちらも有用とありますが、役割はどう違うんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。OCTは網膜の断面を造影剤なしで撮れる検査で、感覚網膜と網膜色素上皮の間にたまった液体が低反射領域としてはっきり見える。脈絡膜の肥厚も評価でき、液の吸収具合を追うのにも繰り返し使える。一方、フルオレセイン蛍光眼底造影は色素が漏れ出す漏出点を見つける検査で、インクがにじむように広がるink-blot型や、煙が立ちのぼるようなsmoke-stack型の漏出が有名だ。
医学生医学生
OCTで液の存在を確認して、造影で漏れている場所を特定する、という分担ですね。漏出点が分かると治療につながるんですか。
ドクタードクター
そうなんだ。遷延例や再発例で漏出点が中心窩から離れていれば、そこにレーザー光凝固を行える。中心窩に近い場合や慢性例では光線力学的療法が選択されることもある。インドシアニングリーン造影では脈絡膜血管の透過性亢進も観察できるよ。
医学生医学生
どんな人に多いかも押さえておきたいです。
ドクタードクター
30〜50歳代の男性に多く、片眼性が多い。精神的ストレス、過労、睡眠不足が誘因になるほか、臨床で特に大事なのが副腎皮質ステロイドだ。内服だけでなく外用や吸入、注射でも起こりうるから、問診で必ず使用歴を聞くこと。使用中なら可能な範囲で中止や減量を検討する。
医学生医学生
皮膚科の塗り薬でも起こりうるとは意外でした。両眼に漿液性網膜剝離があったら別の病気も考えるべきですか。
ドクタードクター
その感覚は大切だね。両眼性で多発し、頭痛や感音難聴などを伴えば原田病、高齢者で脈絡膜新生血管があれば加齢黄斑変性を考える。原田病はステロイドで治療する病気だから、取り違えると治療方針が正反対になりうる。年齢、両眼性、全身症状、造影所見で区別しよう。

まとめ

中心性漿液性脈絡網膜症は、脈絡膜の血管透過性亢進と網膜色素上皮のバリア破綻により、黄斑部に漿液性網膜剝離を生じる疾患です。病変が黄斑に限局するため、変視症・小視症・中心暗点・軽度の視力低下が出る一方、周辺網膜の杆体は保たれるので夜盲は生じません(夜盲は網膜色素変性などの杆体障害でみられます)。働き盛りの男性に多く、ストレスやステロイド使用が誘因となり、多くは数か月で自然軽快するためまず経過観察とします。診断にはOCTによる網膜下液の描出と蛍光眼底造影による漏出点の同定が有用で、遷延例では漏出点へのレーザー光凝固などを検討します。「病変の部位から症状を導く」考え方は、眼底疾患全般を理解する基本になります。

解答・解説

正解はaです

中心性漿液性脈絡網膜症(central serous chorioretinopathy:CSC)は、脈絡膜の血管透過性が亢進し、網膜色素上皮(retinal pigment epithelium:RPE)のバリア機能が局所的に破綻することで、脈絡膜側から漏れ出た漿液が網膜の下にたまり、黄斑部に漿液性網膜剝離を生じる疾患である。 本問は「誤っているもの」を選ぶ問題であるため、CSCの症状・経過・検査について正しい記述を一つずつ確認し、当てはまらないものを除外すればよい。

考え方

・病変の主座は黄斑部(視力の中心を担う部位)であり、症状は中心視野に関するもの(視力低下、変視症、小視症、中心暗点など)が中心となる。一方、周辺網膜の杆体(暗所で働く視細胞)は障害されないため、暗い所で見えにくくなる夜盲は生じない。 ・経過は良好なことが多く、多くは数か月以内に網膜下液が自然に吸収される。 ・診断には、網膜の断面を観察して網膜下液を確認する光干渉断層計(OCT)と、色素の漏れ出す部位(漏出点)を同定する蛍光眼底造影がいずれも重要である。 したがって、CSCの症状として誤っているのは夜盲である。

選択肢考察

  1. ○a.  夜盲を自覚する。

    誤った記述であり、本問の正解である。夜盲は暗所での見え方を担う杆体細胞の障害によって起こり、代表的な原因疾患は網膜色素変性である。そのほかビタミンA欠乏症、小口病、白点状眼底などでもみられる。CSCは黄斑部に限局した漿液性網膜剝離であり、杆体が多く分布する周辺網膜は保たれるため、夜盲は生じない。

  2. ×b.  変視症を自覚する。

    正しい記述である。黄斑部の感覚網膜が網膜下液によって持ち上げられると、視細胞の配列が乱れ、物がゆがんで見える(変視症)。また視細胞の間隔が広がることで物が小さく見える小視症、中心が暗く見える中心暗点、軽度の視力低下、網膜が前方に移動することによる遠視化なども典型的な自覚症状である。変視症はアムスラーチャート(方眼紙状の検査表)で確認できる。

  3. ×c.  自然治癒することが多い。

    正しい記述である。急性のCSCの多くは、3〜6か月程度で網膜下液が自然に吸収され、視力も回復することが多い。そのため初期は経過観察が基本となる。ただし再発を繰り返す例や、網膜下液が長く残存して慢性化する例では、視細胞の障害により視力が十分に回復しないことがあり、治療介入が検討される。

  4. ×d.  蛍光眼底造影が有用である。

    正しい記述である。フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)では、RPEの破綻した部位から色素が網膜下へ漏れ出る漏出点が描出される。漏出の形は、点状に始まりインクがにじむように広がる型(ink-blot型)や、煙が立ち上るように上方へ広がる型(smoke-stack型)として知られる。漏出点の位置を特定できると、中心窩から離れている場合にはその部位へのレーザー光凝固の適応判断に役立つ。インドシアニングリーン蛍光造影(ICGA)では脈絡膜血管の透過性亢進が観察できる。

  5. ×e.  光干渉断層計〈OCT〉が有用である。

    正しい記述である。OCTは近赤外光を用いて網膜の断層像を非侵襲的に得る検査で、造影剤を使わずに黄斑部の漿液性網膜剝離(感覚網膜と RPE の間の低反射領域)や小さな網膜色素上皮剝離を明瞭に描出できる。脈絡膜の肥厚も評価でき、診断だけでなく網膜下液の吸収具合の追跡や治療効果の判定にも繰り返し用いられる。

中心性漿液性脈絡網膜症の概要

・好発:30〜50歳代の男性に多く、片眼性が多い。 ・誘因・危険因子:精神的ストレス、過労、睡眠不足、几帳面で競争的な性格傾向(A型行動パターン)、副腎皮質ステロイドの使用(内服・外用・吸入・注射のいずれでも起こりうる)、妊娠、Cushing症候群など。ステロイドの使用歴の聴取は重要である。 ・病態:脈絡膜血管の拡張・透過性亢進と脈絡膜の肥厚(パキコロイド)を背景に、RPEのバリアが局所的に破綻し、漿液が網膜下に貯留する。 ・症状:視力低下(軽度のことが多い)、変視症、小視症、中心暗点、色の見え方の変化、遠視化。 ・検査:OCT(漿液性網膜剝離、脈絡膜肥厚)、FA(漏出点:ink-blot型・smoke-stack型)、ICGA(脈絡膜血管透過性亢進)、アムスラーチャート(変視の確認)。 ・治療:まずは経過観察(数か月)とし、ステロイド使用中であれば可能な範囲で中止・減量を検討する。遷延例や再発例では、漏出点が中心窩から離れていればレーザー光凝固を行う。中心窩近傍の漏出や慢性例では光線力学的療法(PDT)が選択されることがある。

夜盲をきたす主な疾患

網膜色素変性、ビタミンA欠乏症、小口病、白点状眼底、コロイデレミア、脳回状脈絡網膜萎縮など。いずれも杆体系の機能障害が関与する。

鑑別

加齢黄斑変性(脈絡膜新生血管による滲出性変化、高齢者)、原田病(両眼性の多発性漿液性網膜剝離、髄膜刺激症状や感音難聴などを伴う)、視神経乳頭ピットに伴う黄斑症などで漿液性網膜剝離がみられるため、年齢・両眼性・全身症状・造影所見で区別する。

POINT

・CSCは働き盛りの男性に多く、ストレスやステロイド使用が誘因となる。 ・黄斑部の漿液性網膜剝離により、変視症・小視症・中心暗点・視力低下を自覚する。夜盲は生じない(夜盲は網膜色素変性などの杆体障害でみられる)。 ・多くは数か月で自然治癒するため、まず経過観察する。 ・診断にはOCT(網膜下液の描出)と蛍光眼底造影(漏出点の同定)が有用である。 ・遷延例では漏出点へのレーザー光凝固やPDTを検討する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。