ゆがんで見えるけれど夜は困らない―中心性漿液性脈絡網膜症の「黄斑だけ」の病態
第116回医師国家試験 A問題 第3問
国試問題にチャレンジ
中心性漿液性脈絡網膜症について誤っているのはどれか。
- a.夜盲を自覚する。
- b.変視症を自覚する。
- c.自然治癒することが多い。
- d.蛍光眼底造影が有用である。
- e.光干渉断層計〈OCT〉が有用である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
中心性漿液性脈絡網膜症は、脈絡膜の血管透過性亢進と網膜色素上皮のバリア破綻により、黄斑部に漿液性網膜剝離を生じる疾患です。病変が黄斑に限局するため、変視症・小視症・中心暗点・軽度の視力低下が出る一方、周辺網膜の杆体は保たれるので夜盲は生じません(夜盲は網膜色素変性などの杆体障害でみられます)。働き盛りの男性に多く、ストレスやステロイド使用が誘因となり、多くは数か月で自然軽快するためまず経過観察とします。診断にはOCTによる網膜下液の描出と蛍光眼底造影による漏出点の同定が有用で、遷延例では漏出点へのレーザー光凝固などを検討します。「病変の部位から症状を導く」考え方は、眼底疾患全般を理解する基本になります。
解答・解説
正解はaです
中心性漿液性脈絡網膜症(central serous chorioretinopathy:CSC)は、脈絡膜の血管透過性が亢進し、網膜色素上皮(retinal pigment epithelium:RPE)のバリア機能が局所的に破綻することで、脈絡膜側から漏れ出た漿液が網膜の下にたまり、黄斑部に漿液性網膜剝離を生じる疾患である。 本問は「誤っているもの」を選ぶ問題であるため、CSCの症状・経過・検査について正しい記述を一つずつ確認し、当てはまらないものを除外すればよい。
考え方
・病変の主座は黄斑部(視力の中心を担う部位)であり、症状は中心視野に関するもの(視力低下、変視症、小視症、中心暗点など)が中心となる。一方、周辺網膜の杆体(暗所で働く視細胞)は障害されないため、暗い所で見えにくくなる夜盲は生じない。 ・経過は良好なことが多く、多くは数か月以内に網膜下液が自然に吸収される。 ・診断には、網膜の断面を観察して網膜下液を確認する光干渉断層計(OCT)と、色素の漏れ出す部位(漏出点)を同定する蛍光眼底造影がいずれも重要である。 したがって、CSCの症状として誤っているのは夜盲である。
選択肢考察
- ○a. 夜盲を自覚する。
誤った記述であり、本問の正解である。夜盲は暗所での見え方を担う杆体細胞の障害によって起こり、代表的な原因疾患は網膜色素変性である。そのほかビタミンA欠乏症、小口病、白点状眼底などでもみられる。CSCは黄斑部に限局した漿液性網膜剝離であり、杆体が多く分布する周辺網膜は保たれるため、夜盲は生じない。
- ×b. 変視症を自覚する。
正しい記述である。黄斑部の感覚網膜が網膜下液によって持ち上げられると、視細胞の配列が乱れ、物がゆがんで見える(変視症)。また視細胞の間隔が広がることで物が小さく見える小視症、中心が暗く見える中心暗点、軽度の視力低下、網膜が前方に移動することによる遠視化なども典型的な自覚症状である。変視症はアムスラーチャート(方眼紙状の検査表)で確認できる。
- ×c. 自然治癒することが多い。
正しい記述である。急性のCSCの多くは、3〜6か月程度で網膜下液が自然に吸収され、視力も回復することが多い。そのため初期は経過観察が基本となる。ただし再発を繰り返す例や、網膜下液が長く残存して慢性化する例では、視細胞の障害により視力が十分に回復しないことがあり、治療介入が検討される。
- ×d. 蛍光眼底造影が有用である。
正しい記述である。フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)では、RPEの破綻した部位から色素が網膜下へ漏れ出る漏出点が描出される。漏出の形は、点状に始まりインクがにじむように広がる型(ink-blot型)や、煙が立ち上るように上方へ広がる型(smoke-stack型)として知られる。漏出点の位置を特定できると、中心窩から離れている場合にはその部位へのレーザー光凝固の適応判断に役立つ。インドシアニングリーン蛍光造影(ICGA)では脈絡膜血管の透過性亢進が観察できる。
- ×e. 光干渉断層計〈OCT〉が有用である。
正しい記述である。OCTは近赤外光を用いて網膜の断層像を非侵襲的に得る検査で、造影剤を使わずに黄斑部の漿液性網膜剝離(感覚網膜と RPE の間の低反射領域)や小さな網膜色素上皮剝離を明瞭に描出できる。脈絡膜の肥厚も評価でき、診断だけでなく網膜下液の吸収具合の追跡や治療効果の判定にも繰り返し用いられる。
中心性漿液性脈絡網膜症の概要
・好発:30〜50歳代の男性に多く、片眼性が多い。 ・誘因・危険因子:精神的ストレス、過労、睡眠不足、几帳面で競争的な性格傾向(A型行動パターン)、副腎皮質ステロイドの使用(内服・外用・吸入・注射のいずれでも起こりうる)、妊娠、Cushing症候群など。ステロイドの使用歴の聴取は重要である。 ・病態:脈絡膜血管の拡張・透過性亢進と脈絡膜の肥厚(パキコロイド)を背景に、RPEのバリアが局所的に破綻し、漿液が網膜下に貯留する。 ・症状:視力低下(軽度のことが多い)、変視症、小視症、中心暗点、色の見え方の変化、遠視化。 ・検査:OCT(漿液性網膜剝離、脈絡膜肥厚)、FA(漏出点:ink-blot型・smoke-stack型)、ICGA(脈絡膜血管透過性亢進)、アムスラーチャート(変視の確認)。 ・治療:まずは経過観察(数か月)とし、ステロイド使用中であれば可能な範囲で中止・減量を検討する。遷延例や再発例では、漏出点が中心窩から離れていればレーザー光凝固を行う。中心窩近傍の漏出や慢性例では光線力学的療法(PDT)が選択されることがある。
夜盲をきたす主な疾患
網膜色素変性、ビタミンA欠乏症、小口病、白点状眼底、コロイデレミア、脳回状脈絡網膜萎縮など。いずれも杆体系の機能障害が関与する。
鑑別
加齢黄斑変性(脈絡膜新生血管による滲出性変化、高齢者)、原田病(両眼性の多発性漿液性網膜剝離、髄膜刺激症状や感音難聴などを伴う)、視神経乳頭ピットに伴う黄斑症などで漿液性網膜剝離がみられるため、年齢・両眼性・全身症状・造影所見で区別する。
POINT
・CSCは働き盛りの男性に多く、ストレスやステロイド使用が誘因となる。 ・黄斑部の漿液性網膜剝離により、変視症・小視症・中心暗点・視力低下を自覚する。夜盲は生じない(夜盲は網膜色素変性などの杆体障害でみられる)。 ・多くは数か月で自然治癒するため、まず経過観察する。 ・診断にはOCT(網膜下液の描出)と蛍光眼底造影(漏出点の同定)が有用である。 ・遷延例では漏出点へのレーザー光凝固やPDTを検討する。
