早すぎても遅すぎてもダメ―GBS予防投与は「陣痛開始」がベストタイミング
第116回医師国家試験 A問題 第2問
国試問題にチャレンジ
妊娠末期の腟分泌物細菌培養検査でB群連鎖球菌〈GBS〉が陽性となった妊婦に対する母子感染予防対策として,ペニシリン系抗菌薬の投与を開始する適切な時期はどれか。
- a.陽性判明の時点
- b.妊娠37週時
- c.陣痛開始時
- d.子宮口全開大時
- e.児頭排臨時
対話形式の解説
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ドクターまとめ
B群連鎖球菌は妊婦の腟や直腸に無症状で定着する常在菌で、分娩時に児が産道で曝露されると新生児の早発型GBS感染症(敗血症、肺炎、髄膜炎)を起こすことがあります。妊娠末期の培養で陽性の妊婦には、陣痛開始時(陣痛より先に破水した場合は破水時)からペニシリン系抗菌薬を静注し、児娩出の4時間以上前から投与することで高い予防効果が得られます。陽性判明時や妊娠37週での投与は再定着のため早すぎ、子宮口全開大や児頭排臨からの投与は十分な薬物濃度に達しないため遅すぎます。また、予防投与で防げるのは早発型であり遅発型は防げない点、予定帝王切開では原則不要である点も押さえておきましょう。「何のための予防投与か」から投与時期を考える姿勢は、周産期の感染対策を理解する土台になります。
解答・解説
正解はcです
テーマ
B群連鎖球菌(GBS:group B Streptococcus、Streptococcus agalactiae)は、妊婦の腟や直腸に無症状で定着していることが多い常在菌である(妊婦の約10〜30%が保菌するとされる)。分娩時に児が産道で菌にさらされると、新生児に早発型GBS感染症(敗血症、肺炎、髄膜炎)を起こすことがあり、重症化しやすい。これを防ぐため、妊娠末期に腟入口部と肛門内(直腸)の培養検査を行い、保菌が確認された妊婦には分娩時に抗菌薬を投与する(分娩時抗菌薬予防投与、IAP:intrapartum antibiotic prophylaxis)。
投与時期の考え方
IAPの目的は、児が産道を通過する時点で母体の産道の菌量を減らし、かつ胎盤を通じて児の血中にも十分な抗菌薬濃度を確保することである。そのためには次の2条件を満たす時期が適切となる。 (1) 早すぎないこと:妊娠中に抗菌薬を投与しても、投与終了後に菌は再び定着する。保菌は除菌できず、分娩時点で効果が残らない。 (2) 遅すぎないこと:児娩出の4時間以上前に投与を開始すると早発型GBS感染症の予防効果が高いことが示されている。 陣痛開始(分娩開始)時に投与を始めれば、分娩第1期を含む十分な時間が確保でき、上記の両条件を満たす。したがって陣痛開始時が正解である。なお、陣痛より先に破水(前期破水)した場合は、破水の時点で投与を開始する。
標準的な投与法
ペニシリン系が第一選択で、わが国ではアンピシリンを初回2g静注し、以後4時間ごとに1gを分娩まで静注する方法が一般的である。
選択肢考察
- ×a. 陽性判明の時点
早すぎるため不適切である。GBSは腟・腸管に定着する常在菌であり、妊娠中に抗菌薬を投与して一時的に菌が減っても、投与を終えれば再び定着する。培養は妊娠末期(妊娠35〜37週頃)に行われるため、陽性が判明してから分娩まで数週間以上空くことがあり、分娩時点での予防効果は期待できない。抗菌薬への不要な曝露や耐性菌の問題も生じる。ただし、GBSによる尿路感染症など症状のある感染があれば、その時点で治療を行う。
- ×b. 妊娠37週時
早すぎるため不適切である。分娩がいつ始まるかは予測できず、妊娠37週に投与しても分娩が妊娠40〜41週であれば3〜4週間の間隔があき、その間に再定着が起こる。予防投与は「特定の週数」ではなく「分娩の時点」に合わせて行うものである。
- ○c. 陣痛開始時
適切な時期であり、正解である。陣痛開始から児娩出までの所要時間は平均すると初産婦で十数時間、経産婦でも数時間〜半日程度あり、陣痛開始時に投与を始めれば、有効とされる「児娩出の4時間以上前」からの投与を多くの症例で確保できる。陣痛開始時の投与であれば再定着の問題もない。陣痛より先に破水した場合は破水時に開始する。
- ×d. 子宮口全開大時
遅すぎるため不適切である。子宮口全開大から児娩出までの分娩第2期は、初産婦で1〜2時間、経産婦で30分〜1時間程度が目安であり、ここから投与を開始しても多くの場合4時間を確保できない。母体血・羊水・児の血中で十分な抗菌薬濃度に達する前に児が産道を通過することになり、予防効果が不十分となる。
- ×e. 児頭排臨時
遅すぎるため不適切である。児頭排臨とは、陣痛発作時に児頭が陰裂間に見え、間欠時には後退して見えなくなる状態で、分娩第2期の終盤にあたる。この後まもなく発露・娩出となるため、ここから投与を開始しても児が娩出されるまでに十分な抗菌薬濃度は得られず、予防効果はほとんど期待できない。
GBSスクリーニング
・妊娠末期(妊娠35〜37週頃)に、腟入口部と肛門内の両方から検体を採取して培養する。腟入口部のみより検出率が高まる。 ・培養結果にかかわらずIAPを行う対象:前児がGBS感染症であった妊婦、今回の妊娠中にGBS細菌尿を認めた妊婦。 ・GBS保菌状況が不明な場合は、早産、破水後長時間経過(18時間以上)、分娩時の母体発熱(38℃以上)などのリスク因子があればIAPを考慮する。
IAPの薬剤
・第一選択はペニシリン系(アンピシリン、ペニシリンG)。 ・ペニシリンアレルギーがあり、アナフィラキシーの危険が低い場合はセファゾリンを用いる。アナフィラキシーの危険が高い場合は感受性を確認したうえでクリンダマイシンなどを用いる。 ・帝王切開予定で陣痛・破水がない場合は、IAPは原則不要である(産道を通過しないため)。
新生児GBS感染症
・早発型:生後7日未満(多くは生後24時間以内)に発症し、敗血症、肺炎、髄膜炎を呈する。産道での垂直感染が主因で、IAPで発症を大きく減らせる。 ・遅発型:生後7日以降〜3か月頃に発症し、髄膜炎が多い。水平感染なども関与し、IAPでは予防できない。
分娩所要時間の目安
・分娩第1期(陣痛開始〜子宮口全開大):初産婦で10〜12時間程度、経産婦で4〜6時間程度。 ・分娩第2期(子宮口全開大〜児娩出):初産婦で1〜2時間、経産婦で30分〜1時間程度。 ・分娩全体の所要時間は初産婦で12〜16時間程度、経産婦で5〜8時間程度とされる。
POINT
・GBS陽性妊婦へのIAPは陣痛開始時(または破水時)からペニシリン系を静注する。 ・児娩出の4時間以上前からの投与で早発型新生児GBS感染症の予防効果が高い。 ・妊娠中の投与は再定着するため無意味(早すぎる)、子宮口全開大や排臨からでは遅すぎる。 ・IAPで防げるのは早発型であり、遅発型は防げない。
